違うなと思ったら、逃げて別の居場所を探してもいい。おむすび小娘、筧玲奈はワクワクするほうへ

武者修行プログラムに参加し、ビジネスにのめり込む

ーその後は、大学の観光学科に進まれたのですよね?

はい。元々は、国立大学の社会学部を志望していました。社会学部に行けば、幅広く学べるのではないかと思っていたからです。特別に学びたい学問がなく、幅広く学びたかったんです。

それから、観光学科にも興味がありました。大学の在学期間が、東京オリンピックと重なっていたこともあり、社会の一員として関われたら、すごくいい経験になるだろうなと思っていたからです。

結果的には、観光学部に入学することにしました。友人にも恵まれ、入学してよかったと思っています。

実際に入学して学んでみると、学問的な面では意欲的になれませんでした。私は観光を楽しむ、需要側なんだなと感じましたね。

そこからは観光学ではなく、興味がわいた経営やビジネスを中心に学んでいきました。

ー筧さんがビジネスに興味を持ったきっかけを教えてください。

大学の必須授業の中で、経営学総論の授業を受けたことがきっかけです。講義内容は、HERMESについてでした。

馬具屋だったHERMESが業績低迷の打開策として、ターゲットを変えずに、事業だけを転換させた講義がすごく興味深くて。ビジネスのおもしろさに気付いたきっかけです。

授業で学ぶだけではなく実践するために、大学2年次に全国の大学生が集まる『海外ビジネス武者修行プログラム』に参加しました。

実際にベトナムに2週間滞在して、全国の大学生と数人のチームを組んで、新規ビジネスをするプログラムです。自分でビジネスを作って実践した、初めての経験になりました。

ビジネスを実践したいとかっこつけていますが、実は当時お付き合いしていた方と別れた直後で(笑)。失恋を忘れて、何か夢中になれることをしたいとも考えていました。

ー実際にプログラムに参加されてみていかがでしたか?

すごくいい経験になりました。必ずしも結果が出るわけではないけれど、泥臭くても進んでいれば、何かしらのヒントが見えてくる。 コツコツやっていれば、少しだけ光が見えてくる瞬間がある。

そこで経験した、小さな成功体験の積み重ねが自信となって、ビジネスや経営のおもしろさに、よりのめり込んでいく理由になりました。

それからプログラムに参加したことで、さらにビジネスの実践経験を積みたいと思うきっかけにもなりました。日本に帰ってからも、事業作りを学べるスクールに入って、実践経験を積み、廃品回収事業や就活支援事業にも取り組みました。

スクール後もさらに経験を積むために、企業のインターン生として、企画を形にする仕事に取り組むことになります。

これだけビジネスにのめり込むようになったのも、武者修行プログラムへ参加したからこそだと思っています。

重圧で身体を壊してしまう

ーライフログの満足度でいうと、21歳に1番低い点数をつけられていますが、どのような転機だったのでしょうか?

大学4年次にインターンをしていたときに、身体を壊してしまいました。食欲がなくなり、体重は−15kg、睡眠時間も30分以上継続してとれなくなりました。インターンでの重圧や、家族とうまくコミュニケーションが取れなくなったことが原因です。

インターン当初は、企画が通る楽しさでワクワクしていました。だんだんと企画への投資金額が上がるにつれて、期待や重圧に耐えられなくなっていきました。

誰かに相談できていれば、少しでも負担が軽くなったのかもしれません。私が唯一のインターン生だったことで、同世代に相談できる相手がいませんでした。

始業時間も就業時間も自分で決める環境で、「早く出社して始業すること」「長い時間働くこと」が美徳であると思い込み、ずっと働き続けていました。「がんばらなくちゃ」「1人でもやらなくちゃ」と自分を追い込み、1人で抱え込んでしまっていたんですよね。

さらに、家族とうまくコミュニケーションが取れなかったことも、影響しています。コロナ禍は、家族のほとんどが自宅に集まっていて、プライベートと仕事の境界がない中、多少なりともみんながストレスを感じながら過ごしていたと思います。

なんとなく家にも居づらい中で、インターンの悩みや相談事を、家族にも打ち明けられませんでした。

1人で抱えていた重圧から、抜け出すきっかけを作ってくれたのは母でした。痩せ細った私を見かねた母に、「一緒に病院に行こう」と強く言われて。

医師に身長と体重を言ったときに「その体重は働いてはいけない体重だよ」「もう散歩すらしないでね」と念を押されました。

そのときぼんやりとした頭で、 私は極限状態なのかもと思い、インターンを辞めることになりました。

インターンを辞めた当初は、それまで持っていた働くことが美徳という価値観から、休むことに焦りもありました。ただ、働き方がよくわかっていなかったことと、心の底には休みたい気持ちもあったので、大学卒業までの半年近くは休んでいたと思います。

本当にやりたいことだけをやっていました。

つらい時間でしたが、体を壊したことで食への興味や探究心が湧き、間違いなく自分の根幹を形成している大切な分岐点です。

ー当時の筧さんに声をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?

「逃げなさい」と声をかけると思います。

山岳部での学びとは真逆の考え方ですが、目の前のことに集中する視点から1歩引いてみて、視野を広げて俯瞰で物事を捉える視点も大切だと知りました。目の前の環境が全てではない。もっと広い視点で自分の居場所を見つけてもいい

鳥瞰的な視点を持ち、狭くなりがちな視野を広げることも大切だと、当時の私に声をかけてあげたいです。