「食×描く」を切り口に、無理なく続けられる居場所へ
ーそこから現在の活動につながっていく過程を教えてください。
現在の生き方を語る上で、身体を壊してから大学卒業までの半年の休憩期間に行っていた、2つのことが大きく関係しています。
1つは八百屋や精米店を巡って、おいしい食材探し。もう1つは書籍作りです。
うまく食事がとれないけれど、食べないと人間は生きていけない。「どうせならおいしいものを食べたい」と考え、八百屋や精米店を巡って、私が食べられそうなおいしい食材を探していました。
このとき見つけた「おいしいじゃがいも(インカの目覚め)」に感動して、大将に「ここで働かせてください!」と映画のように直談判をして、八百屋さんでアルバイトを始めました。
そして現在、マルシェでおむすびを販売しているのも、おいしい食材巡りがきっかけになっています。精米店で購入したおむすびの味に感動し、ここでも大将へ直談判をしてお手伝いを始めました。
精米店の大将から、お米の炊き方やおむすびの握り方を学び、今度は学びを実践してみたくなり、母校の模擬店からおむすびの販売を始めました。
マルシェを通して、私が作り上げたおむすびを、お客さんに渡すときがすごくうれしいです。それに対して「おいしかったよ」と、わざわざダイレクトメッセージで送ってくださる方がいるのを見ると、やりがいを感じます。
これまでの経験にも何か意味があったんだなと、改めて思っています。
もう1つは屋号にちなんで、『れいちゃんのぼっち飯』という本を自費制作していました。書籍では、自炊した料理やお気に入りの飲食店を紹介しています。
振り返ってみると、描く(※筧さんは文章を書くことを「描く」と表現します。以下同じ。)ことは大切な時間だったと思います。あの本がなくては、「描く」を仕事にする生き方は語れないと思います。
身体を休めてゆっくり過ごす時間の中で、好きなことを続けた結果が、現在の「食×描く」活動につながっているのだと思います。
ー筧さんのこれまでを振り返ってきましたが、現在も大切にされている価値観を教えてください。
タイトルにもあるように、違うなと思ったら逃げること。別の居場所を探すことです。
違うなと思ったときに、今後も継続するのか迷ったときは、「無理なく続けられるかどうか」を判断基準にしています。
おむすびのマルシェ出店などを通して、私より上の世代の方と交流する機会が多くあります。これまでの私はかなり生き急いでいて、焦ることも多かったのですが、彼らと交流するなかで、「人生は意外に長いのかも」と思うことが増えました。
この先何十年もある人生、無理なく続けられることをしていきたいと思います。
今取り組んでいることに、少しでも無理や違和感があれば、一旦立ち止まります。立ち止まって考えても違和感がなくならなかったら、「逃げる」選択肢を選んで、ストレスなく続けられることをするようにしています。
必ずしも継続が美徳ではないし、ときには逃げることも大切、という価値観をこれからも大切に持ち続けていきたいです。
ー今後挑戦してみたいことはありますか?
実は、明確に言えることはないのが現状です。なぜかというと、ライティングを仕事にする夢が叶ったのが最近だからです。
「描く」ことを生業にしたいと思い、アルバイトをしていた八百屋さんを4月末で辞めました。その翌日に、選考を受けていた会社からライティングの合格通知をいただきました。
夢が叶った瞬間が最近だったので、その先はまだイメージしきれていません。
それでも、ライティングの幅をもう少し広げたいと考えています。「食」の中でも、私の好きな日本酒とか、農家の方の生活とか、食に関するあらゆる角度のライティングに挑戦したいなと思っています。
ー筧さんが実現したい「食の未来」とはどんなものでしょうか?
「食」の選択肢を増やしていきたいです。衣・食・住とある中で、多くの方は好きな服を着るし、住みたい街に住みます。それでも「食」は、家族で同じものを食べているし、給食でも同じものを、同じタイミングで食べることが多い。
もちろんそれも素敵なことですが、どんな服を着てもいいように、何を食べてもいい。自分のタイミングで食べてもいい。食べられる食材と食べられない食材があっても当たり前に肯定される。
そういうふうに、食に対する選択肢がどんどん増えていけばいいなと考えています。
ー最後に、やりたいことや好きなことに挑戦したいU−29読者の方に、メッセージをお願いします。
受け売りになってしまいますが、もっと周囲の大人に甘えてもいい。実際にそう思っているし、少なくとも20代のうちは思い続けたいです。
高校や大学を卒業して社会に出ると、急に責任や一人前になることを求められます。そのなかで、おそらく多くの方が「もっとがんばらなくちゃ」「自分の足で立たなくちゃ」と、どうしても思い込んでしまうんです。
それでも、80代のおじいちゃんから見た10代・20代は、まだぴよぴよの社会人。「赤ちゃんみたいなものだから、もっと甘えていいんだよ」「もっと周りに頼っていいんだよ」と教えていただきました。
その言葉を聞いて、確かにそうだなと思いました(笑)。自分はまだまだ若い。もっと周りに頼って生きていいんだよと伝えたいし、私も意識して生きていきたいと思います。
ー素敵なお話をありがとうございました!筧玲奈さんの今後のご活躍も応援しております!