一度諦めた「起業」へのリベンジ。取締役COO 松本 悟志が共同創業者と出会うまで

今回は、株式会社アウトラウドを共同創業し、取締役COOを務めている松本 悟志さんをお招きしました。

これまでのキャリアの歩みと共同創業の裏側について伺います。

 

カオスな創業期にしか感じられないやりがい

–自己紹介をお願いします。

 BtoB営業支援AIサービス「Pocta」を提供する株式会社アウトラウドを共同創業し、取締役COOを務めています。営業、マーケティング、オペレーションマネジメント等、広い範囲を管掌し、推進しています。

–サービスについて教えてください。

「Pocta」とは、BtoB営業の資料検索、共有、人材育成を効率化するAIサービスです。

営業パーソンは全体の36%を商談に費やし、それ以外の時間は非商談の業務に費やしています。「Pocta」によって、商談以外の時間に行っている商談準備を効率化することで、労働生産性の向上と受注率や成約単価の向上を実現します。   

最終的には、人とAIの協業を常識にしたいと考えています。例えば、人間の表情や会話のトーンから察知し、柔軟に対応することは人間にしかできません。そうした対応を重ねていくと、やがて信頼関係が構築されていきます。一方、反復作業や商談準備における情報収集、骨子作成のような業務はAIの得意領域。それぞれが役割をまっとうし、 協業できれば、 より働きやすくなることに加え、皆が挑戦しやすい 社会を作ることができます。

–どんな時にやりがいを感じますか。

ビジネスの立ち上げ期はカオスな状況です。複雑な状況に身を置きながら、現状把握や言語化を適切に行うことができ、人に価値を提供できた時にやりがいを感じます。

誰の、何の課題を解決するのか。なぜ、その課題が発生してるのか。最初は根本的なところから問いを立て、整理し続けました。ビジョンに向けて一つひとつ形にしていく道のりが刺激的で、時間があっという間に過ぎてしまう感覚です。

最近はお客様の声を取り入れたプロダクトの開発が進み、アーリーアクセス版を提供し始めました。お客様から前向きな声を聞けると貢献できている実感が湧き、嬉しいです。

 

「好き」「得意」を突き詰めた学生時代

–どんな子ども時代を過ごしましたか。

生まれは青森で、幼い頃は山梨で過ごしました。幼稚園生の頃に引っ越してから高校卒業までは栃木で暮らしていました。

栃木で過ごしていた時期は、自宅や会社に飾られる正月飾りの販売を年末の数日手伝っていました。お客様のご要望を聞いたり、 直接お店に足を運んで来れないお客様には自宅まで届けたりしていました。直接「ありがとう」と言われて感謝されると嬉しかったですね。

簡単な値段交渉の会話もそばで聞きながら、商売の場と空気を感じられ、いい経験になっていたと思います。

–学生時代に打ち込んだもの、好きだったものはありますか。

高校に入学した頃は生物学が得意で、全国模試では上位成績を取ることができました。そのため、進路は農学系を目指すようになりました。

高校3年生になると、「iPS細胞」で有名な山中教授が登壇するイベントに参加する機会がありました。日本で有名な科学者が集まるフォーラムでした。ネットで調べられる情報は人んど目を通し、本を読み、「iPS細胞」についてもリサーチした上で、当日会えたら聞きたいリストを事前に作成して参加しました。

会の最中に直接話を伺えるチャンスがあり、進路に迷っていると話すと、「学部では広く学び、専門性を深めたらいい。好きなものを突き詰めるといい」というアドバイスを頂きました。自分にとってはその言葉が後押しとなり、好きな領域の学びを深めようと決意しました。

–大学時代はいかがでしたか。

大学3年生の頃にはタイの大学に留学して、環境工学の学びを深めました。現地の養殖方法に関する研究に参加してみて自分の未熟さを痛感し、専門性をより深める必要があると考えました。帰国後、世間的には就活の時期だったのですが大学院進学を決意します。

大学4年生の頃には起業も選択肢に入れ、筑波大学の起業家育成プログラムにも参加していました。紆余曲折があり、そのまま起業には至らず…。

大学院へ進んだ後、技術を使った社会課題解決に取り組んでいる会社に入り、人と技術の架け橋になりたいと考え、縁があった会社へ入社しました。

 

アクセラプログラムで共同創業者と偶然の出会い

–入社後のお仕事はいかがでしたか。

1社目ではアメリカのスタートアップ企業製品のアカウントセールス、パートナーセールス、プロダクトマーケティングなど、国内市場拡大に向けた取り組みの全般を経験しました。

2社目では、外資系SaaS企業で勤務しました。ワークマネジメント領域のサービスの販売、活用支援を経験しました。セールスとして提案活動を行いつつ、カスタマーサクセス担当と一緒に支援業務も担当していました。自社のサービスを利用した企業の業務の効率化されていくところを目の当たりにして、そのインパクトの大きさを実感しました。

2社目に入社して驚いたのは、日系企業の営業パーソンと外資系企業の営業パーソンが使っているシステムが全然違ったという点です。後者の方がクラウドサービスの高度な連携、AIの活用などによって効率化、仕組み化が進んでいました。

生成AIが台頭し、「人は人がやるべきことにクリエイティブなことに時間を使おう」という声が高まり始めた時期でもあります。

–最先端の職場環境ですね。

転職直後は、新しい製品知識を取り入れたり日常会話が英語だったり…と大変でした。

もう一つ、新しい環境で驚いたことがありました。それは、ターゲット、数字へのコミットメントが強く、高いレベルで統一されていたことです。常に達成を目指し、どうしたら達成できるのかを考え続け、必要であれば周囲の協力やアドバイスを仰ぐ…という姿勢が日々当たり前の環境でした。

基礎的な営業スキル、話し方、提案方法なども一層鍛えられ、以前よりもパフォーマンスに再現性を持たせられるようになりました。

–共同創業者と知り合った経緯を教えてください。

お互いに参加していたアクセラレーションプログラムで出会いました。

私はプログラムを進める中で当初抱いていたアイデアを断念することになり、新たにセールス領域でアイデアを考えることになりました。後の共同創業者になる朝澤さんが同じプログラムに参加していて、一度カジュアルに話をしようということになりました。

話してみると盛り上がり、ホワイトボードも使いながら具体的に話していくと、お互いの経験が補い合えるものであり、一緒に取り組むことで解決できる課題があると感じました。

 

より良い社会づくりに必要な「人とAIの協業」

–今後実現したいこと、目標はありますか。

「人とAIの協業を常識にする」というビジョンを実現したいと思っています。人とAIの協業が実現すると、人がそれぞれに本来持つ能力を最大限発揮でき、一層誇りを持って仕事をできるようになります。その結果、人と人がよりリスペクトしあえるようになり、個人的自立と周りに与えようという調和の気持ちが育まれやすくなると思います。そうなれば、今よりも多くのギバーやヒーローが生まれ、いい社会が作られていくと思うんです。

–ヒーロー、素敵な表現ですね。

「僕のヒーローアカデミア」という漫画、アニメが好きで、その影響が少しあるかもしれません(笑)

(このアニメでは)人が体を変形させたり火や水を扱えたりできる「個性」という武器を持って生まれてくる設定で、その個性を使うヒーローと悪役の物語です。主人公はその個性を持たずに生まれてきてしまい、そのマイノリティな立場とヒーローへの憧れとの間で深く葛藤するところからストーリーは始まります。

個性を持たずに生まれてきたことに一度は絶望した主人公でしたが、ヒーローへの気持ちと希望を持ち続け、努力を続けます。

主人公の友人が悪役に捕まってしまった時のシーンが印象的で…。そういう時は、強い個性を持つヒーローが助けに来る流れですが、助けを求める友人の顔を見て、主人公は咄嗟に悪役に飛びかかっていくんです。個性を持たない主人公では悪役と戦えるはずはないのに。

できるかできないかではなく、目の前に助けを求める人がいれば駆けつける…という姿にグッとくるものがありました。その後のストーリーの中でも目先の利益や自分の損得ではなく、強い意志を持って決断、行動し続ける姿に心打たれました。

自分自身も、その主人公のような軸を持ち、日々挑戦し続けていきたいと思っています。

株式会社アウトラウド
https://out-loud.net/

取材・執筆=山崎 貴大