様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第949回目となる今回は、キャリア教育NPO法人Grow&Leapの理事を務める石原直弥さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。
6歳からストリートダンスをはじめ、数々の全国大会に出場。振付師の日本最高峰の大会で自身が手掛けた振り付けで準優勝した経験を持つ石原さん。ダンス一筋の人生を振り返る中で教育分野への課題に気づきNPO法人を起ち上げた経緯や今後の展望について伺いました。
ダンス一筋が一転、ダンスを辞め受験勉強に打ち込む
ーまずはじめに、自己紹介をお願いします。
はじめまして、石原直弥です。愛知県を中心に活動するNPO法人「Grow&Leap」で中学生・高校生に向けたキャリア支援をしています。
一般的な職業教育やキャリアの斡旋とは異なり、過去幼いころに経験した現体験を言語化して振り返りながら、自分自身のやりたいことを見出していく取り組みをおこなっています。
ーなぜ中高生に向けたキャリア支援をはじめようと思ったのですか?
僕自身が大学生の頃に進路に悩んだことが影響しています。受験勉強を頑張って大学に入学したものの、いざ入学してみるとやりたいことがわからない。その原因を考えたときに、中高校生のキャリア教育がその後の人生に大きな影響を与えるのではないかと感じたんです。
小学校で学んだ教育は中学校だけでなく、高校や大学へつながっていく。教育はひと続きであると考え、中高生向けのキャリア教育に関心を持つようになりました。
ーGrow&Leapのミッションや活動内容、法人の想いを教えてください。
Grow&Leapのミッションは「個性を活かす、世界が輝く。」です。誰かとのコミュニケーションやコミュニティなどいろいろな場において、お互いの個性を活かしあいお互いを尊重できる社会を目指しています。
「個性」というと何か秀でているとか、他の人と比べてできるとか得意なことがイメージされやすいですが、Grow&Leapでは、過去に歩んできた人生の中でいろいろなものを見て触れて感じたことそのものがその人の個性になると考えています。
主力事業は、中高生を対象にした長期的なキャリアデザインプログラム「My Story Project」。メンターと呼ばれる学生や社会人が、受講生たちに寄り添いながらやりたいことを引き出していくマンツーマンの対話形式が特長です。
6か月間のプログラムを通して、やりたいことがわからなかった状態からやりたいことを見つけて個性を磨いていきます。
ーここからは石原さんの幼少期を振り返ってお話を伺います。子どもの頃にダンスを始めたそうですね?
6歳から兄の影響でダンスを始めました。自分でやりたいと言って始めたものの最初はそこまでやる気がなくて。レッスン中に寝てしまい外に出されたこともありました(笑)。
6年間はグループレッスンを受けていたのですが、中学生に上がるタイミングで、僕が主体的にダンスに取り込まなかった姿を見かねた親からダンスを続けるかやめるかの選択を迫られたんです。
ダンスは、続けるのにお金も時間もかかるもの。もしここでダンスを辞めたら今までの6年間が無駄になるし何かに負けるような気もして、厳しい個別指導の先生につくことを決めました。
ー個別のダンスレッスンではどのようなことをしていましたか?
地方の大会やテストでの優勝を目指して練習に励みました。間違えたら何回もやり直し続けるスパルタな指導だったので、体力的にもメンタル的にもしんどかったですね。
現在も続けているロックダンスというジャンルを本格的に始めたのもこの頃です。ロックダンスはテンポが速くスタイリッシュでパワフルで、ジャズのようなしなやかさとは異なる力強さが魅力。2021年から運営している塾でもロックダンスを教えています。
ー高校でもダンスを続けたのですか?
中学時代にダンスの基礎ができて大会でも結果が残せるようになり、高校に進学してからは「ダンスを通じて全国の方と交流したい、外の世界を見たい」と考えるようになりました。
その想いを恩師に伝えたところ、「なぜ自分のもとを離れるのか」と反対されたんです。自分が慕っていた人からの予想外の反応に言葉を失いました。年の離れた先生でしたのでダンスへの考え方や価値観に相違があったのかもしれません。
そこから恩師との関係性が徐々に悪化し、高校2年生になると早めの受験勉強に取り掛かるようになりました。多分、ダンスの替わりに打ち込めるものがほしかったのだと思います。高校2年の冬からの1年間はダンスをまったくせず、勉強に没頭しました。
振付師の大会での準優勝が、人生の目的を見直す転機に
ー大学生になってからはどのように過ごしていましたか?
愛知県の南山大学に進学してしばらく経ち、やっぱりまたダンスをやりたいという思いが芽生えてきたんです。ダンスチームに所属していた兄が「一緒に踊らないか」と誘ってくれたこともあり、ダンスを再開することにしました。
ー大学ではダンスの振り付けにも挑戦されたそうですね。
ダンスの振り付けを始めてみて、ダンスのさまざまな過程の中で作品作りが一番好きだと気づきました。
振り付けは、僕にとってはゲーム感覚なんです。自分の頭の中に20~30人の演者がいて、その人たちがどう動いたらどう見えるかを考えるのがすごく好きで。頭の中で描いたものを実際の振り付けとして伝えてリアルになっていく感覚がすごく面白くて楽しいんです。
ー2019年に日本一の振付師を決める大会に出場したきっかけは?
もともと出場する気はなかったのですが、知人から勧められた縁で予選大会に出場したんです。まだ振り付けの技術がない状態での挑戦でしたので、いろいろな人の作品を見ながら作っては崩してを繰り返して作品を作りあげました。
予選を突破して決勝に進出しましたが「バブリーダンス」で有名な富岡高校の振付師の方に負けて準優勝となりました。
準優勝できたうれしさよりも僅差で負けたことが本当に悔しくて。僕のダンス人生でこれ以上ないくらい努力して身体も作りこんでましたし、メンバーを優勝させてあげたかったという気持ちも大きかったです。
ー振り付けの大会で準優勝した後、生活に変化はありましたか?
大会で準優勝しても大きな変化はなかったです。ダンスに多くの時間とお金を投資して準優勝したうれしさはある一方で、みんな普通の生活に戻っている。自分はメンバーの人生に何の影響を与えられたのだろうかと、無力さを感じました。
この経験から自分が本当にやりたいことを見つめなおし、もっと人に根本的に影響を与えられることをしたいと思い、教育というグラウンドで人の人生に大きな影響を与えられるキャリア教育をやりたいと考えるようになりました。
ー石原さんとGrow&Leapとの出会いは?
大学入学時に何をしようか悩んでいたタイミングで、Grow&Leapが関わるイベントに参加したんです。
シビアに結果を追い求めるダンスの世界で生きてきた僕にとって、Grow&Leapメンバーと出会い「ありのままの自分でいい」と初めて認めてもらえた気持ちになりました。
肩書や能力ではなく、ひとりの人間として接してもらえることで、肩の荷が下りたり、何者かにならなければいけないプレッシャーがなくなったりすることがあると思うんです。そういう感覚をGrow&Leapの事業でも大切にしています。