「育児を理由に諦める」を払拭する。ママ&創業者である諏訪実奈未の起業の経緯

今回は、株式会社Simpleeを創業し、代表取締役CEOを務める諏訪実奈未さんをお招きしました。

これまでのキャリアの歩みと起業の経緯について伺います。

 

国内外の保護者をエンパワーメント!IT×育児の新しいカタチ

–自己紹介をお願いします。

当社には2つの事業があります。1つ目が、日本旅行中の訪日旅行者の子どもを一時的に預かるというものです。場所、言語、ユーザーニーズを元にした弊社独自のアルゴリズムでユーザーとサポートナニーをマッチングします。予約はスマートフォンのタップのみで完了。

2つ目が、学会・イベント・勉強会・パーティとあらゆるシーンへの出張託児を実施しています。預からせていただいた子どもには、習い事・知育コンテンツを提供します。

–利用事例を教えてください。

例えば、バリバリ仕事をしているご夫婦のケースです。0歳の子どもを抱えているため、いつもは保護者のどちらかが常に家にいなければいけない状況だったといいます。当社が提供する出張託児所を使ってくださった際、それぞれから嬉しい感想を伺うことができました。

男性保護者「いつも子育てを妻に押し付けていて申し訳ないと思っていた」

女性保護者 「自分もこうしてイベントに来れて嬉しい」

また、女性起業家のシングルマザーの方のケースでは、「ご自身の成長のためにイベントや講座に出向いて学習したいと考えているものの、子どもを家に放っておくことはできない」と葛藤する声を耳にします。こうした場合も、イベント会場に出張託児所があれば、思い切りご自身に集中することができます。

訪日旅行者の方に向けて提供しているものに関しても、旅行中に子どもを預けられることを喜んでくださり、感謝の声を頂きます。

–現在の体制を教えてください。

創業当初は開発側・ビジネス側を全て自分が担当していましたが、次第にメンバーが増え、役割分担するようになりました。

私は組織づくり、仕組みづくり、創業者としての想いが熱意が必要とされるシーンに集中して動いています。例えば、さまざまなステークホルダーの方々が最初に当社を知るHP。これは創業者の想いや高い解像度が必要とされるため、私が自ら制作しました。

一方、心強い仲間がPdMとエンジニアとしてジョインしてくれてからは、開発側は開発チームに任せています。

–どんなところにやりがいを感じますか。

1つ目は、CEOとしての自己成長です。組織成長のためにCEOに求められることは多岐にわたるため、常に目的を持ってインプット・アウトプットをし続けています。以前はできなかったことができるようになっていく過程で嬉しさ、達成感を感じます。

2つ目は、組織の成長です。1人ずつメンバーが増え、ゼロから組織が出来上がっていく過程を見ていると感慨深いものがあります。

3つ目は、ユーザーの方と接するたびに自身も悩んでいたペインが解消されていく実感を得られることです。最も大きな喜びであり、苦境に立たされた際には大きな支えにもなります。

 

あらゆる活動を通じて「外」と繋がり、学ぶ

–幼少期〜学生時代のことで印象に残っていることはありますか。

子どもの頃はさまざまな習い事を経験しました。ピアノ、バレエ、書道、水泳などなど。小学生の頃は好奇心が旺盛で、なりたいものがたくさんありました。当時の日誌を見返すと「経営者」「歯医者」などと書いていました。子どもなのに「経営者」なんて書いているのは、父親が経営者だったことが関係していると思います。

当時父は、自分の会社のことを考える際には海外を含めて相対的に考えて決断するようにしていました。それを見ていて、海外にも興味を持つようになりました。

中学生になると、1年生の時にイギリスへ留学し、ケンブリッジ大学の寮で生活しました。その後、中学3年生の時にも再度イギリスへ。高校生時代には成長期の雰囲気を味わいたいと考え、中国にも留学しました。その後、アメリカにも留学しています。

–高校時代について教えてください。

高校時代は勉強に打ち込み、1日16時間は勉強にあてていました。

モチベーションの源は「1位」を取ること。

自信のある科目は、どうやって1位の座を守れるか。苦手科目は、どうやって上の順位の人を追い抜くか。そればかり考えていました。

進路については「(後から)後悔したくない」と思うほど進路を決めきれず、悩みました。

複数の大学の合格を得られたなかで、文理融合で、転科も柔軟に出来て、卒業生に経営者も多かった慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)に入学しました。

–大学時代について教えてください。

1年生の頃はミスコン出場に加え、社会貢献と自己成長の意欲を持つ女子大生が主体的に社会課題に取り組むプロジェクトチーム「キャンパスラボ」を立ち上げていて、忙しなく活動していました。

2年生の頃は「キャンパスラボ」で省庁、地方自治体の方々と活動する機会が増えました。また、教授の推薦枠でスタートアップイベントなどでスタッフとして関わることができるようになり、上場企業の経営者の方々ともお話しさせていただく機会を得られました。

4年生では就活に励み、大手コンサルティング会社に内定を頂きました。

こうして振り返ると、学校の外に出て社会とのつながりを多く得られたことはいい経験になりました。会話の中で知らない単語が出たらすぐに調べて…と繰り返しているうちに、新しい知識や情報をたくさん吸収できました。

–就職後実際に働いてみて、社会人生活はいかがでしたか。

入社前は「企業の組織運営」に興味を持ち、その中で実際に働きながら学びたいと考えていました。次に、学生のうちにさまざまなカンファレンスに出向いてみて「ITが主流になる」と気づき、開発・ビジネスの両サイドの目線を学びたいと考えていました。

入社してみて、会社が掲げるビジョンのもとで大きな組織が動く様子、大企業の組織体制を体感することができました。

 

「育児を理由に諦める」を払拭したい

–起業の経緯を教えてください。

当初、起業しようとは思っていませんでした。出産後、仕事との両立が難しいと感じた時、「同じ悩みを抱えた人の力になりたい」と思ったことが原点です。

それからアプリ開発言語を学び、制作を開始。エンジニアコンテストに出場して発表したところ出資を受けられることになり、創業に至りました。ビジョン、ミッション、事業計画…はじめは何もなくて、後から必死に学んで作り上げました。

–起業後、ご自身の変化を感じる点はありますか。

会社員として働いてた時と比べると、「責任感」の面で自分の変化を感じます。手に取る本も変わりました。

今はさまざまなステークホルダーの方々を意識して全体最適視点を持ち、「みんなで、遠くへ」という考え方で仕事を進めています。

–仕事と家庭の両立を図る上で工夫している点はありますか。

「育児してると自分の時間が取れない」とよく聞きますが、私も同じでした。あらゆることを試行錯誤してみて、最終的には時間の使い方を変えることでバランスを取れるようになりました。

▼一時期のスケジュール例

以前は隙間時間や夜に仕事をすることが多かったのですが、朝早く起きて仕事をするようにしました。静かな時間にクリアな脳の状態で臨むことができ、とても捗ります。タスクはカレンダーに直接入力し、できるだけシンプルに管理できるようにしています。

–今後どのようなことに挑戦していきたいと考えていますか。

時計の針はただ時間を刻んでいるように見えますが、いずれ終える人生の命を刻んでいるものだと考えています。”時は命なり”とも言えます。

以前の私は自分の時間を犠牲にして、育児や仕事に取り組んでいました。「母親なのだから仕方ない…」と思っていました。周りの方々も同じような環境にいることがわかり、この状況を変えたいと思ったことが創業の原点です。

私自身の時間も、子どもの時間も、両親の時間も…全ては命。私たちは、その命の質を向上させていくために事業を行っています。

「育児を理由に諦める」を払拭するために、今後も私自身や会社を通じて挑戦し続けたいと思っています。

 

取材・執筆=山崎 貴大