自分の感性に驚こう。建築デザイナー・イケガミアキラが好奇心を大切にする理由

外の世界に飛び出し、建築を軸に学んだ多様な価値観

ー次の転機は、24歳に海外に行かれたことだそうですね。詳しく教えてください。

大学卒業後は大学院に進学し、引き続き建築設計や都市のことを学んでいましたが、実はずっと海外にいきたい気持ちが強かったんです。そこで大学院生のときに一年間休学し、文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN」という奨学金制度を活用して、ロンドンの建築事務所に半年間インターンをしました。

その後、現在働いているTERRAIN architectsでもインターンをすることになりました。実際にウガンダにも行かせてもらったり、その帰り道に数ヵ国一人旅をしたりと、海外を転々と渡り歩いたのはとてもいい経験です。

ー海外でのインターンや旅を経て、心情の変化はありましたか?

ありましたね。僕自身が同じ大学の学部から大学院に進み、その大学の活動や教授の指導にものすごくフォーカスしてきたため、外の世界を全く知らなかったんですよね。でも実際に海外に出てみると、建築や設計の仕事でも考え方や論理が大学で習ったことと全然違ったんです。

それに文化的な違いもたくさん感じました。仕事に対する価値観やこだわりも日本と異なり、とても衝撃的でしたね。外の世界をたくさん見ることができ、こういう考えもあるのかと学びや価値観の変化がありました。

ー多様な価値観を知る経験をされたあと、帰国してから挑戦されたことがあるそうですね。

帰国後は大学院に復学したのですが、学内で海外インターンの経験を後輩にレクチャーする報告会を頼まれました。でも単なる報告会だと面白くないなと。正直特殊な状況もたくさんありましたし、自分の経験を伝えたところで後輩は面白いのだろうかと思ったんです。

同じタイミングで海外インターンをしていた同期とも2人で話し合った結果、学内だけではなく別の大学の仲間も巻き込み、一般のお客さんも動員したトークイベントを主催することにしました。自分たちでも企画できるんだと思えて楽しかったですね。

これまでは学内で言われたことのみに集中していたタイプでしたが、海外経験を通じて、学内に閉じこもらないで外に出ようと思うようになったのは大きな変化でした。同じ業界の人と内向きな話をしないと心がけるようになったのも、企画・主催した経験があったからですね。

好奇心を持ちながら、自分の感性に驚き続けよう

ーそこから就職されたそうですが、やはり迷わず建築設計の道を選んだのですね。

そうですね。僕はもともと建築家になって後世まで残る建築をつくりたいという想いが強くありました。そのために大学・大学院とインターンで建築の意匠設計を学び、迷うことなく建築設計事務所に就職しました。

一方で、海外やトークイベントの経験から考え方も変わってきて。社会の現場で建築設計をしながら、建築とは一見関係ないサイドワークとしてのプロジェクト活動を始めました。

ー具体的にどういった活動をされているのですか?

「ethnodiving(エスノダイビング)」というZINE共創プログラムの企画・運営をしています。毎回異なる地域をテーマに参加者を集め、地域でフィールドワークをして、ZINE(自主出版雑誌)を編集・出版する体験プログラムです。

建築設計の実務もかなりのハードワークです。ただ、分野を横断してできることがあるはずなので、建築とサイドワークとの両輪を大事に取り組んでいます。

ーこれからのイケガミさんのご活躍を応援しています。最後に、U-29世代にメッセージをお願いします。

自分の中に芽生える好奇心を大切にしてほしいですね。

年を重ねるにつれ、新しい物事に対してあまり好奇心が湧かなくなったり、「面白い」と感じる感度が少しずつ落ちてきたりしがちです。でも、この先何十年と常に付き合っていくのは自分のみです。

自分自身の感性に正直に、「自分ってこんなことにも面白いと思えるんだ」という驚きや好奇心を持ちながら生きていってほしいなと思います。

取材:岩津立樹(Twitter
執筆:スナミアキナ(Twitter / note
デザイン:高橋りえ(Twitter