親しかったAさんに裏切られるがBさんとの友情が深まる
ーそれでは次に移ります。親友だと思っていた方とのエピソードを教えてください。
大学の寮生活で知り合い、仲良くなった6人グループのうちの2人が些細なことから互いを非難、罵倒するほどの喧嘩がラインで起きました。そのできごとを聞いて、私は片方(以降Aさん)に不信感を抱きました。
その後Aさんは留学に行ったため自然と物理的・心理的な距離が置かれることに。またもう片方(以降Bさん)の相談や話を聞くうちにBさんに共感し、寄り添うようになりました。
ーその後はどうされたのですか?
喧嘩が起きた2年後に留学していたAさんが帰国し、再会することに。AさんとBさんとの喧嘩について、私とAさんの2人で振り返りました。
当時のAさんの心理状態(追い込まれていたこと、些細なことで怒りのスイッチが入ってしまったこと)を知り、非難、罵倒したことを反省しているのを理解しました。
またBさんと仲直りしたいという話を直接聞けた私は、Aさんにも同情するように。後日AさんとBさんは和解して再び仲良くなりました。私がAさんに対して抱いていた不信感は取り除かれ、以前のような仲のよい関係に戻れると確信しました。
ーAさんとはよい信頼関係が築けたのですね。
当時はそう思っていたのですが…
Aさんのことは出会ったときから尊敬していましたが、留学での経験談を聞いてさらに尊敬する気持ちが増しました。
その後は頻繁に会って将来のことや目標、悩み、互いのよいところなどを本音で語り合いました。そうした積み重ねによって、Aさんを本当の親友だと思うようになったのです。
ーその後のことを教えてください。
Aさんは私に隠していたことがありました。それは週に1回会うほどの時間の余裕がなかったにもかかわらず、無理して私と会っていたことです。そうして、やるべきことがどんどん溜まっていき、彼は少しずつ自分のことで手いっぱいに。
その結果、ある日を境に彼と一切連絡がとれなくなりました。状況が飲み込めなかった私は、とにかくAさんと話をしようとラインをしましたが返事はありませんでした。
ーその後は連絡がとれなくなったのですか?
数週間後に返信が来ましたが、それは「ごめん」の3文字のみでした。私の彼に対する不信感は徐々に増していきました。また数週間後、カフェで話をする予定が決まりましたが、Aさんは2時間ほど遅れてカフェの前に到着。
外に出て彼を迎えに行こうとした瞬間、彼は私に背を向けて全力で逃げました。その後は彼と一切連絡が取れなくなり、音信不通の状態が4年続きました。
ー当時の気持ちを教えてください。
心の底から親友だと思っていたAさんに裏切られ、本当につらかったです。紆余曲折をへて仲良くなれたと思ったのも束の間、蓋を開けてみればその友情はウソだったのです。
ー当時の出来事を受けて何か変化はありましたか?
約8ヵ月間はAさんに対する怒りがこみ上げました。毎日寝る前に当時のできごと(私に背を向けて全力で逃げたこと)がフラッシュバックして、まともに眠れなかったのを覚えています。
「Aさんに復讐しよう」とばかり考え「こんな目にあうんだったら友情や親友なんていらないのではないか」と思うようになりました。
ーそのときのBさんとのエピソードを教えてください。
一連のできごとをBさんに相談することが多くなりました。BさんはAさんにされた仕打ち(ラインで喧嘩をしたこと)を私よりも前に経験していたので、私のつらさを誰よりも理解してくれたのです。
Bさんへの信頼は日に日に増し、zoomの回数や会う機会が増えました。何回もコミュニケーションをするうち、お互いに「唯一無二の親友」だと思えるように。
Bさんとの関係が友達から親友に変わったことで、Aさんとのできごとは「自分の考え方を見つめ直し、友情とはどういうものか」を学ぶよい機会となりました。
ーAさんへの怒りがなくなったのはどうしてですか?
Bさんからアルフレッド・アドラーの『嫌われる勇気』を読むよう勧められたのがきっかけです。本を読んでから考え方に変化が現れ、怒りがなくなり、一連の出来事を前向きに捉えられるようになりました。本の内容が今の自分を形作っていますし、今でも行動規範にしています。
ー本を読んでからどのように心情が変化したのですか?
本を読み「やられてもそのことを受け入れて、許す心を持ったほうが気持ちが楽になる」ことを学びました。そこからAさんにできることは何かを考えた結果「Aさんと次に再会したときに再会を喜び、大いに歓迎する」のがベストだと思いました。
ーBさんとどのような話をして関係を深めたのですか?
Aさんに関する話が多かったです。「なぜAさんは当時あのような行動を取ったのか」「当時Aさんはどんな心情だったのか」「今の僕たちにできることはあるのか」など、正解のない話を心理学や哲学的な側面からずっとしていました。
そうやってお互いの当時の考えや価値観を共有し続けた結果、お互いに学べることが多くなり自然と関係が深まりました。