「豊かさ」を求めて。NPO法人サニーサイド のキタバが考える、人生の生き方とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第917回目となる今回は、キタバさんをゲストにお迎えし、現在にいたるまでの経緯を伺いました。

キタバさんは、大学在学中に教員免許を取得し、小学校の先生に就職しました。先生として生徒との接し方や学びの仕方に悩み、教育についての新しい考え方にふれるべく、オランダに留学。オランダで触れた学びや子どもへの関わり方に感化され、障がい福祉の会社に転職しました。

日本社会の中で福祉に関心を寄せ、「豊かな社会」を目指し、「人と人との繋がり」を大切するきっかけなどを伺いました。

人生に悩んだら、立ち止まり「豊かさ」を求めて尼崎へ

ーそれではキタバさん、自己紹介をお願いいたします。

今は「つくるあそぶつながるがすごく盛んな兵庫県の尼崎で福祉や教育事業を展開しているNPO法人サニーサイドという会社で学童保育に関する仕事を行っています。

現在の目標は「ほんとうの”豊かさ”ってなんだろう?」そんな問いを持ちながら学童保育を行なっています。

ー大学時代に免許を取得したと伺いました。教師になりたいという目標があったということでしょうか。

教員免許を取得した理由は、高校生の時、当時は貧困家庭だったため、私立大学のようなお金のかかる大学に進学できず、国立大学しか選択肢がなかったからです。そして1番いける可能性のある大学が、教育大学でした。

国公立の教育大学へは当時の偏差値を20ほど、上げなければならなかったために、受験に失敗すれば高卒の可能性もありました。

そこへ入るために「自分は先生に向いているのだ!」とずっと自分に言い聞かせ、逆算して教育大学へ行くことをずっと計画していました。

ー疑問なのですが、教育大学は、普通の大学とはなにがちがうのでしょうか。

普通の大学では、教員免許を取得しようとすると、小学校、高校とそれぞれ限定した免許になってしまいますよね。兵庫の教育大学は、小学校から高校までの免許を取得できるんです。

僕は最終的に小学校の教員になろうと決めました。

「頑張ってやってよかった」と感じた、教育実習期間

ー免許を取得する際、教育実習へ必ず行くと思います。実習先で印象に残った出来事はありましたか?

大学の3年生の時に教育実習に行きました。その教育実習は、本当に思い出に残る時間でしたね。実習期間にどんなことをやったのかというと、『アクティブラーニング』という、受け身ではなく、みずから能動的に学びに向かうよう、子どもたちが立ち上がり、みんなで教えあう授業を行いました。

当時は一斉授業といい、先生が黒板に書いていることを書き写し、問題を解くというスタイルが基本でした。

僕が行った授業形式は、別の言い方をすると、「子どもたちが立ち歩いている」というイメージになってしまい、一部からは「たち歩いていて、学級崩壊している」と思われることがあります。

そんな噂を聞いた校長先生は、教育実習期間に何度も、僕の授業を覗いていたことがありました。通常なら、他のクラスの授業を見にいくはずですが、1日中、僕の授業の様子を見るほど、心配だったのだと思います。

ー結局アクティブラーニングを実践して、どのような結果に?

今までだと、授業中に上の空で、内容を理解していない児童が数人いたのですが、アクティブラーニングの授業を行ってみて、自分から立ち上がり、近くの生徒に「教えて」と進んで行動したのです。それが本当に嬉しかった。だからこそ続けられた。

もしかしたら、ノートを書き写していただけかもしれません。しかし「授業に興味がなさそうにしていた児童が、僕の授業を通して自分から行動するなんて!」と感動した記憶が残っています。

ーそれはやってよかったですね。いい経験と自信につながりましたか?

そうですね。一般的な一斉授業のスタイルも大切だと思います。しかし、「アクティブラーニングという授業形式に挑戦してみて本当によかった」と思いました。自分から考えて行動してもらう重要性を、教育実習期間に改めて気づくことができたのです。

念願の教師に。しかし自分が進むべき道に迷い、挫折を経験

ー教育実習後、実際に小学校の先生になられたと伺いました。最初はどうだったのでしょうか?

実際に先生となり、小学校に勤め始めて、大きな充実感や、プレッシャーを感じながら仕事をしていました。

例えば入学式の際、新しいクラスの児童や保護者の方に、最初はいろいろな手順を説明しますよね。

保護者からは、「うちの子どもをよろしくお願いいたしますね!」というまなざしを受け、「目の前の児童が、キラキラした目で僕を見ている。子どものために大切な1年間を責任を持っていかなくては!」と気を引き締めて頑張ろうと思いました。

ー実際に働かれてどんな大変さがありましたか?

児童にプリント学習を行う機会をたくさん与えて、学力の向上を測ろうとしたんですが……。

結果的に、子どもはテストの点数が上がるんですが、次第に勉強が苦手な児童は、置いていかれる。解いても解いても、問題が出てくる。自然と解かなけれならないという意識になってしまい、本来の問題を解く楽しさを失っていきます。

生徒のために取った行動が、結果的に学力の差や、勉強の楽しさを喪失させてしまい「こういう教育をしたかったのか」と悩んでしまいました。

ー勉強をする上で、本当に大切なことを見失っていく気がしたのですか?

そうですね。先生として授業中に児童が立ち歩ければ、注意しなければならない。それは決して自分の本意ではない。

小学校の教育方針と、自分が理想とする考えにとても苦しみました。最終的に教師として、自分の進むべき方向がわからなくなりました。

新たな価値観を学びにオランダへ

ー先生になり、大きな挫折を経験したのですね。その悩みはどう解決しましたか?

先生時代にとても悩んでいた時、オランダにイエナプランという教育のあり方があることを知人から聞きました。

ーオランダへ?イエナプラン教育とは一体どんなことをするのですか?

オランダの子どもは幸福度ランキング一位でもあります。その要素が詰まったのがイエナプラン教育です。

イエナプラン教育の一部の要素として、2つあります。1つ目は、子どもと接する際に、まずありのままの自分を持ちながら接していこう。「先生」という肩書にとらわれず、一人一人が自分のスタイルを持って教育をスタートしよう。

2つ目は「自然な学びとは、なんだろうか」本や紙からの学びは、たくさんのことを吸収できる。しかし本当に大切なことは、ホンモノに触れて、自分で体験してみること。そうすれば、学びの本当の大切さに気づくことができる。

「このイエナプラン教育を勉強したい!」と思い、教師を辞めてオランダへ留学しました。

ーオランダへはどれくらいの期間勉強しに行ったのですか?

3ヶ月程度です。日本人は20人ほど。現地で翻訳家に添乗してもらい、2週間ワークショップを受ける研修所に行き、その後現地の学校で2週間学びます。その後同じ研修所で勉強した後、違う学校で2週間、イエナプラン教育を学びます。

ーちなみにオランダでは、どのような生活をしたのですか?

学校から帰宅すると、ホームステイ先の子ども達と川で魚釣りをして過ごしました。「あれ?時間がゆっくり流れている気がする。今日は休日かな?」と勘違いしてしまうほど、心に余裕を持って生活ができる。それがオランダでの暮らしでした。

ーたくさんのことを学んだ研修は、いかがだったのでしょうか。

オランダでイエナプラン教育を学び、日本へ帰ってきた時は、「仕事オンリーの生き方ではなく、自分の時間をつくれるような社会にしたい」と思いました。

例えばオランダでは、子どもの学校が14時〜15時頃に終了し、両親が迎えに行きます。両親はその時間に仕事が終わるよう、調整します。そもそも日本では、15時に仕事は終わっていないですよね(笑)。

ーたしかに、日本では15時に、仕事が終わるわけがありません……。

そうなんです。私も教師時代は、20時まで仕事をするのが普通だと思っていたので、仕事よりも、家族との時間を大切にする、オランダの働き方に驚きました。