自分の素直な意思に自信を持つ。ファミリーツリー代表・安藤仁希が心がける”決断”とは

自然や農に興味をもち、起業を志すまでに経験した転機とは

ーその後、ワーキングホリデーでオーストラリアに滞在されたそうですね。

就職して1年が経ったときに、この会社にずっと勤めているイメージがわきませんでした。どうしようか悩んでいるときに、長期休みで海外に行く機会がありました。そこで、文化の違いや面白さに気づき、海外生活を通して新しい自分の世界を広げたいと思ったんです。3年半勤めた会社を退職して、オーストラリアのパースに行くことを決意しました。

ーパースではどういう生活をされていましたか?

7ヶ月間滞在したのですが、最初の3ヶ月はホームステイをしながら語学学校で勉強しました。残りの4ヶ月間は働きながら、人生の夏休みを過ごしている感覚でオーストラリアを満喫できてよかったです。自然や農業に興味を持ち始めたのもこの頃ですね。

ーいいですね。オーストラリアでは異文化を通して何か学んだのでしょうか?

僕ら日本人の当たり前がオーストラリアでは通じないので、多様性の理解が深まりました。例えば、語学学校の授業中に分からないことがあると、他国の友人達は授業を止めてまでもわからないと主張し始めるんです。そして、自分がわかるまで聞き続けていました。

そのときに、世界にはいろんな考え方を持っている人がいて、自分の考えだけがすべてではないことに気づきました。当たり前と思っていたことが実は当たり前ではない。そうなると、逆に自分自身の意見を持つことがとても大事なのではと思ったんです。

自分のやりたいことはなんだろう、と自分に向き合い続けた7ヶ月間でした。

ー多様性の理解が深まったからこそ、自分の考えを大事にするきっかけになったのですね。帰国後はどうされたのでしょうか?

帰国後は地元静岡県浜松市にある、みかんと柿農家さんで働くことになりました。静岡県内でもトップクラスの規模で運営している農園で、見習いとして働きつつ、販売面もお手伝いする形で一緒に模索しながら1年半ほど農業に関わっていました。

ー実際に働いてみていかがでしたか?

農家の仕事はきついイメージがあるかもしれません。実際に働いてみるとそのとおりで、みかんは重たいし、一つひとつを手で収穫するのは本当に大変です。

けれども、農家の仕事にもやりがいはあります。それは収穫もそうですし、月毎にみかんの木が変化する様子を観察できることも嬉しくて。「今年は例年のこの時期よりも育ちがいい」「綺麗な花が咲いた」「いつもより元気がない」などの職人要素があることも奥深いですね。

ーやりがいや大変さと同時に、農家の課題も実感したそうですね。印象に残っていることはありますか?

フルーツの農家さんは年に一度しか収穫がないので、売上も年に一度になってしまうんです。それだと経営上不安定になるので、どのように収入を安定化できるかが課題のひとつです。

また、日本にいる農業従事者の平均年齢は約67歳で、60%以上は後継者がいない状況だと言われています。僕自身も、独立してみかん農家になろうとした経験がありますが、新規就農はかなり大変でした。だからこそ、新しく農業を始める人を増やし、さらに農業をやりたい人が受け継げられるような仕組みをつくりたいと当時は考えていました。

ー農業のご経験や課題意識を持っていた安藤さんが、次に選んだのはスタートアップ企業への就職だと伺いました。きっかけはなんだったのでしょうか?

新規就農の難しさを感じていたため、一度そこで農業を断念してしまったんです。ただし、販売面で何かしらの貢献ができそうだと思っていました。そこで、自分のスキルを身につけることを考え、友人がスタートアップ企業を立ち上げたタイミングでジョインしました。

ーその会社では、どういうお仕事をされていたのですか?

最初はオウンドメディアの運営を任されていました。少人数体制のなか約10ヶ月で事業を伸ばして事業売却できたことが、僕の経験値や成功体験につながっています。その後はD2Cなどの通販事業に関わり、25歳のときに起業しました。

ー25歳で起業されたのですね。ファミリーツリーを創業するきっかけをお伺いしたいです。

スタートアップ企業で働いているときも、農家さんの販売面に関わる課題を解決する仕事をしたいと思っていました。農業はWebマーケティングなどの知識が行き届いていない業界なので、うまく組み合わせるといい市場ができるのではないかと考えました。

当時働いていたスタートアップ企業で人脈や情報を得られ、経験値を積んで自信になったことで自分でもやれる実感があったのも大きいですね。

ー立ち上げのエピソードや、現在に至るまでの心境などを教えてください。

資金調達やサービス開発など大変なことばかりでしたね。2020年1月に起業したのですが、新型コロナウイルスの影響でサービスのリリースが半年ほど遅れました。

それでも次の調達ができたり、少しずついいメンバーが集まってきたりしたので、ファミリーツリーのカルチャーが形成されています。それに、自分たちが農業を変えていくぞという雰囲気もあるし、組織・文化づくりが少しずつできているところにやりがいを感じています。