レールのない令和時代に、僕らを導く「個人理念」の作り方

U-29ドットコムが運営するコミュニティ「ユニーク大学」メンバー限定の勉強会「ユニゼミ」にて、株式会社サインコサイン代表の加来幸樹さんに、「新時代を迷いなく生きるために必要なこと」をテーマに講義していただきました。タイトルは、「覚悟はシンクロしているか?」。

加来幸樹さんは、九州大学芸術工学部卒業後、2006年にインターネット広告事業を展開する株式会社セプテーニに入社。クリエイティブディレクターとして幅広い領域でご活躍された後に、2018年、株式会社サインコサインを設立され、代表取締役 CEO / Co-Creatorに就任されました。サインコサインは、『自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。』を理念に掲げ、ネーミングやステートメントなどの共創を通じて、人やブランドの覚悟のシンクロを支援しています。

「令和になり、僕たちは新時代にいます。迷いなく生きて働くために、必要なことはこれなんじゃないか。」
加来さんはそう前置きしてから講義をスタート。多くの企業の理念作りに尽力してきた加来さんだからこその、理念を軸としたこれからの働き方や企業とのマッチングに関する視点には、わたしたちがより心地よく働くためのヒントがつまっていました。

令和は、正解のレールがない時代

僕は、今の時代の課題を以下の3つのキーワードで表現しています。

  • コモディティ
  • ダイバーシティ
  • ボラティリティ

コモディティは「技術革新に伴い、あらゆる差別化が困難に 」ということです。広告の仕事をしていたときにも、差がなくなってモノを売るのが困難になっていると感じていました。これは商品だけでなく、会社と会社、ヒトとヒト、様々な場面で言えることです。

ふたつめのダイバーシティは、文化や価値観の多様化 です。価値観、人種、性別、いろんな主義などに関して、「これはみんながある程度もっている価値観だよね」、「これが正しいから従っておこう」というような考え方が薄れてきました。それは同時に、「こういう人に向けてコミュニケーションすれば大丈夫」というやり方も通用しなくなってきているということです。

さらに、ボラティリティは、予測不可能な出来事が次々起こるということで、2020年も早速実感しています。「100年に1回あるかないか」という出来事が、自然災害、政治、金融…いろんな面で頻繁に起こっていますよね。かつ、これが起こることで、これまでのルールがガラッと変わってしまうことになります。

今までは、キャリアや人生やライフプランニングにおいて、正解と思われるレールがざっくりとではありますが見えていました。それが見えなくなり、いい意味でも悪い意味でも、それに従わないといけないというルールもなくなった、と感じています。

会社と社員の関係性の変化

このレールのない時代において、大きな変化がふたつあります。

ひとつめが、会社から社員、このベクトルの変化です。
会社が社員に期待する働き方のハードルが高くなっていると感じています。

昨今、多くの企業が「終身雇用ができない」という話をしています。技術革新によって、人に代わる労働力の確保が可能になり、いままでほどの社員数が必要ではなくなるという事態になっています。だからこそ、給料も年功序列で、昇給していくということが難しい。その代わり、新卒の給料を高くして、若い人を奪い合ったり、AIやディープラーニングなどの稼げるスキルを持った人にはいくらでも払ったり…新時代においても稼げる、そんなスキルにはどんどんお金を回そうという傾向が高まっています。

これは、働き方のハードルが高く、複雑になっていることのあらわれです。今までのように、入社できればずっと雇ってもらえる・どんどん給料は上がっていく、というシンプルな形ではなくなっています。

一方で、社員から会社、このベクトルにも変化があります。

社員側が会社に求めるものも、終身雇用や安定した給料だけに限らなくなり、形態や報酬の金額も多種多様になっています。副業や兼業が一般的になりつつあることが背景にあります。これまでは、会社からの給料と個人の収入がイコールだったと思うのですが、そうじゃなくなってきている。会社に依存しなくてもよくなってきました。

優秀な学生が転職を前提として、稼げる能力で会社選びをする。ワークライフバランスを思い通りにしたい。出世よりもプライベートを充実させたい。いろんな価値観があって、それぞれが会社に求めることが違う。よって、会社が社員に期待する部分がより行動に・複雑に、社員が会社に求める部分が多種多様に、という変化が起きています。

これまでの、お金と労働力による「価値と資源の交換関係」に会社と社員があったときは、お金を渡す方がイニシアチブを握りやすく、どうしても上下関係が生まれがちでした。

それが、ようやく会社と社員が対等な関係に位置づけるようになってきています。それぞれが求める価値、それぞれが求める資源を交換する、真のパートナー関係といえます。

ここで交換されるのは、お金・労働力だけではなく、会社からは機会や場所、社員からはスキルやアイディア、というように多様化していくでしょう。なので、今まで以上に、どの会社でもいい・誰でもいい、というわけにはいかなくなります。では、どのように選べばいいのか?

パートナーシップの鍵は「理念」

どういう基準で選べばいいのか、つまり、よいパートナー関係を築くためにまずは必要なことのお話をしていきたいと思います。

ジム・ステンゲルとトム・ポストの共著書『会社は何度でも蘇る ビジネス・エコシステムを循環させた大企業たち』という本があります。この本の中で、P&Gの元グローバル・マーケティング責任者であるジムは、このように書いています。

成功しているパートナーシップの 88%は、パーパス(理念)の明確な一致がある場合である。

僕自身、この言葉を実感しています。これからの時代は、会社と会社・会社と個人・個人と個人…あらゆるパートナーシップにおいて、対等 にそれぞれが求める 「価値」 や 「リソース」 を交換するには、それぞれの 「理念(なぜ?)」 に明確な一致があることが必要になります。これができているパートナーシップの上で、会社も個人も成長し続けることが可能です。

企業やブランドの理念と、そこに属する個人それぞれの理念の 親和性が明らかとなり、認識・動機化・実行されている状態が理想的であると考えます。

個人理念が活動・選択の軸になる

企業理念とは、その企業の全ての活動や選択の動機・基準と僕は表現しています。企業理念はよく耳にするワードだと思いますが、個人理念はあまり聞きませんよね。でも、良いパートナーシップを築くためには個人理念も重要です。個人理念は、企業理念と同じく、個人の全ての活動や選択の動機・基準です。

個人も、自分という器を経営する経営者に変わりありません。今後は、副業という言葉すらなくなって、自分を主語にして様々な仕事や活動をすることが当たり前になっていくと思います。そのときの軸になるのが、個人理念です。

僕の場合は、以下のように掲げています。

・個人ビジョン
一人からも全員からも、 注目される存在であり続ける。
・個人ミッション
それって本当?を問い続け、 みんなの人生をもっと面白くする。

僕の中では、ビジョンは「ありたい姿」、ミッションは「使命」や「存在意義」と定義づけしています。ミッションは自分の命をなんのために使うか、社会のためにどう価値を発揮するか、というところを反映しています。つまり、いつかは成し遂げたいことですね。ビジョンは、そのミッションの先にどうありたいのか、あるいはそのミッションを成す過程でどのような姿でありたいのかを表わします。

そして、この個人理念が、サインコサインの企業理念と親和性が高いからこそ、お互いにハッピーな状態でいることができています。みなさんにも、「個人理念はなんだろう?」、「いまいる会社(コミュニティ)との親和性はあるかな?」と確認し続けてほしいです。いろいろな選択肢がある中で、「あえて」そこを選ぶ理由になるのが、この親和性になると思います。

また、個人の成長のためにも、この個人理念が重要であると感じます。理念を掲げると、ありたい理想の自分と現実のギャップに悩むこともあるでしょう。理想に近づくためには、仕事の価値を高めるサイクルを回していくしかありません。

まずは仕事を選び、その質を高めて、そうすると仕事の価値が高まり、仕事が集まるようになり、また選んで…。そうすると段々と、理想に近づいていけると思います。選ぶときに取捨選択をする、そこで必要になるのが個人理念なので。個人理念をもつことは、なりたい自分に自力で近づく唯一にして最大の手段と言えます。

個人理念の作り方

僕が個人理念の作りを手伝うときに、どのような流れでしているかも紹介しておきたいと思います。

ちなみに、この個人理念は、変わることを前提としていて構いません。出会いや経験やライフステージによって、価値観は変化するものですから。僕自身も、多くの人の理念作りに伴走する過程で、自分の中の変化を実感して変更することがあります。

規模感にかかわらず、企業理念においても、5段階を経て作られていきます。僕はこれを、覚悟がデザインされていくプロセスととらえています。

理念の作り方 ステップ①自分の言葉で 「自由」 に自分を語る

具体的な質問に答えてもらったり、ヒアリングシートを基にしたり、ということはなく、とてもオープンに語ってもらいます。語りのはじまりになる質問だけ用意しておきますが、ポイントは、なるべく答えがない質問であることです。

「あなたは何者ですか?」、「長所と短所はどこですか?」、「大切にしていることって何なんでしょう?」…このような質問を相手にし、なるべくめちゃくちゃ共感していくことで、よりいろんなことを引き出していきます。

理念の作り方 ステップ②いい声で話せる自分の 「本質(コア)」 を探る

ステップ①で返ってきた答えを、具体化していくのがこの段階です。「どうしてこれ選んだんですか?」、「この行動にタイトルつけるとしたら何でしょう」というような質問を重ねていきます。さきに抽象的な質問をし、つぎにより具体的な質問で本質を探るという流れですね。ここでは質問攻めにしていきます。「さきほど面白いという言葉を使いましたが、面白いってどういう意味ですか?」というくらい、深く聞いていきます。

その人の大事なことや、本質の話をする瞬間って、本当にいい声で話すところがあるんです。それが聞こえてきたら、再び深い共感を示して、そこに関してもっとしゃべってもらう。これを繰り返していきます。

理念の作り方 ステップ③考えすぎずに 「試作品」 をつくる

その人の言葉から「いい声」が聞こえてきたら、あまり考えすぎずに試作品を作ります。そこに対して、どのような感想が返ってくるか、を大事にするからです。

自分で作る場合は、試作品を前にして、自分がどう感じるかを大事にしてください。そこに向き合って、工夫を加えて作り直して、また向き合って…このサイクルを納得いくまで繰り返していく。何度も何度も繰り返す中で、覚悟が醸成され、迷いがなくなっていくと感じます。

理念の作り方 ステップ④イメージの湧く 「具体例」 を想像する

ある程度、正解が見えてきたら、その言葉の先にある未来を想像します。

会社の理念と並べて親和性を確かめてみる、Twitterのプロフィールに活用するならこんな肩書に言い換えられそう、こういう活動に展開しそうだな…そんな未来をイメージし、その言葉を掲げる覚悟をかためていきます。

理念の作り方 ステップ⑤自分が 「覚悟」 を持って決める

ここまでの過程で、いくつか候補が挙がっていると思いますが、最後は良いところも悪いところも整理、検討して、自分でひとつに決めます。「自分で」というのが大事で、それでこそちゃんと覚悟になると思っています。

理念を交換する時代に

サインコサインでは、現在、「自分の理念で、自己紹介しよう」という目的の「理念書」というフォーマットを作成しているところです。

今後、会社や人生のパートナー探しの場面で、履歴ではなく理念を交換する方が、よりふさわしい相手と出会えたり、よりよいパートナーシップを発揮できるだろうと考えています。

執筆・編集:野里のどか(ブログ/Twitter
撮影:山崎貴大