様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第622回目となる今回は峯川大(みねがわひろし)さんをゲストにお迎えしました。
NPO法人の職員として働く傍ら、地域活性化の団体「のろし」の共同代表としても活動している峯川さん。
「お金を稼ぐだけでは、幸せにはなれない」と感じた経験から、「個人のやりたいコト」と「地域の困りゴト」を掛け合わせた、”福業”と称した地域活動を展開しています。
そんな峯川さんに、NPO法人や「のろし」での活動内容、”福業”を通した自分にあった幸せの見つけ方をお聞きしました。
(この取材は2022年1月に行われました。)
「聞き書き甲子園」を通して、生きる道筋を見つける
↑「聞き書き甲子園」に参加した高校時代の峯川さんの様子
ーまずは自己紹介をお願いします。
峯川大です。普段はNPO法人「共存の森ネットワーク」のスタッフで、高校生が職人に取材をする「聞き書き甲子園」の事務局などとして働いています。また仕事とは別に、20代・30代による地域活性化団体「のろし」の共同代表としても活動中です。
ー「聞き書き甲子園」とは、どのようなものでしょうか?
「聞き書き甲子園」は、高校生が日本のさまざまな地域で暮らす職人のもとを訪ね、一対一で取材をするプロジェクトです。「甲子園」といっても、学生同士で競い合うのではなく、地域や事前に関わる仕事を知り、人生の先輩から生きていくヒントを教えていただく主旨が大きいですね。
参加者の募集は毎年5月から始まります。その後8月に3泊4日の合宿を実施。参加者は作家の先生や「聞き書き甲子園」OBOGの大学生から取材の方法を学びます。9月、11月に2回取材を行って、3月に成果を発表する、というのが活動の流れです。
ーどのようなきっかけで「聞き書き甲子園」の活動に携わろうと思いましたか?
自分も高校生のときに「聞き書き甲子園」に参加したのがきっかけです。ちょうど高校を中退、編入した直後で、全国から選抜された高校生が集まるイベントは楽しそうだと感じたのと、取材に行くまでの旅費は主催者が負担してくれると知り「無料で地方に行けるなんてラッキー」と、気軽な気持ちで申し込みました。
「聞き書き甲子園」では、林業を営むおじいさんへの取材を担当します。その方は、木の伐採や、木の根元に植えた山わさびを出荷して生計を立てていました。「俺は、綺麗な山を整備しながら死にたい」と話していたのが印象的でしたね。これまで「山は存在して当たり前だ」と思っていたので、山を作っている人の存在や、山作りに相当な熱意が込められていると知ったときは新鮮で、驚きました。
そして、おじいさんから2回目の取材の別れ際に「初対面のあなたにこれだけ話したのは、将来日本の林業を変える人になってほしいからだ」と言われたのです。20年、50年先の林業を託された気がして、今もその言葉が忘れられません。
NPO法人の仕事や「のろし」の活動で地域とのつながりを重視しているのは、この言葉が原体験だと思います。自分の生きる道筋が見つかり、「聞き書き甲子園」に参加してよかったと思いますね。
ー新卒でNPO法人の職員を選んだのでしょうか?
いいえ。新卒では、フードデリバリーサービスを展開する大手企業に入社しました。ですが働きはじめてすぐに違和感を感じて……。
大学時代の自分が接してきた大人たちは、地域や人のつながりを大切にし、生き生きと見えました。その一方で入社した会社はとても忙しく、仕事の日は朝早くから夜遅くまで働いて、休日は疲れて寝て過ごすような状況でした。忙しい分お金は入ってくるけれど、「何のために生きているのだろう」「もっと別の生き方をしたい」と感じるようになり、その結果3ヶ月で退職することにしたのです。
こうした価値観が、お金のための本業とは別に、自分のやりたいことを”福業”にする、「のろし」のコンセプトにつながっていきます。
“福業”を通して人生の生き甲斐を見つける人を増やしたい
↑「のろし」設立の様子
ー新卒で入社した会社を退職後、「のろし」を設立したのでしょうか?
「のろし」はフードデリバリーサービスの会社を退職してから1年後、2社目の印刷の商社で働きながら設立しました。
1社目を退職した後は、「自分の時間をある程度持ちたい」という思いもあり、土日をしっかり休めて残業も少ない印刷の商社の会社を紹介していただき、働くことに決めました。
土日に時間が作れたからこそ、働きながら「のろし」を設立できたのだと思います。
ー「のろし」は、どういった団体なのでしょうか?
「のろし」は、20代から30代による地域活性化団体です。地域の「いと・惜しい(=もったいない)」資源を発掘・活用し、アート作品制作やイベント運営などに取り組んでいます。
30人ほどいるメンバーは、平日は会社員として企業で働き、土日に集まって「のろし」の活動を行います。仕事だけでは実現が難しい「個人のやりたいコト」と「地域の困りゴト」を掛け合わせたプロジェクトを”福業” と名付け、参加者自身の自己実現と地域の課題解決の両立を目指した活動を展開しているのです。
さまざまな地域と関わることも素敵だと思いますが、のろしではひとつの地域に密着して関わり「のろしの〇〇さん」と地元の人から覚えてもらえるような、濃い関係の構築を大事にしています。
現在は「聞き書き甲子園」がきっかけで、学生時代から関わりを持っている千葉県市原市を主な拠点として活動中です。
「のろし」は、仕事として活動するのではなく、自分の自己実現として活動することを大事にしています。本当はやってみたいけど、会社ではなかなかできないことへの挑戦を通して、生き甲斐を見つけられる人を増やしていきたいですね。
ー先ほど、「個人のやりたいコト」と「地域の困りゴト」を掛け合わせて活動しているとおっしゃっていましたね。「地域の困りゴト」はどのように発見するのでしょうか?
地元の方からお話を伺う中で、地域が抱えている悩みや課題をお聞きします。そのうえで、メンバーそれぞれが「自分だったらどう解決できるか」と考え、”福業”を作っていくのです。そもそも「地域の人と話をして、つながる」という発想は、「聞き書き甲子園」が原体験となっています。
例えば千葉県市原市では、竹林を放置した結果、景観が悪くなったという問題を抱えていました。竹が悪者だと言ってしまえばそれまでですが、なんとか竹を利活用できないかと地域の方と話をしていました。
そこで美大出身のメンバーが「竹を元にしたアート作品の制作」を思いつきます。このアイディアを元に地域と小学生が連携し、四つ割りした竹に小学生が絵を描く新しいアート作品を生み出しました。