「4年後に廃業する酒屋」を立ち上げた吉野 良瑛さん。酒業界・若手の思いを伝え続ける理由

ユニークなキャリアを歩むU-29世代をお呼びし、これまでの人生の転機についてお話を伺うユニークキャリアラウンジ。今回は、株式会社SAKE BASEの吉野 良瑛さんをお招きしました。

同社は酒の輸出や販売を行う会社で、台湾へ酒の輸出を行ったりメキシコで酒販売の市場調査を進めていたりします。吉野さんは、酒の輸出に関する仕事やInstagramアカウント「4年後に廃業する酒屋」の運営などに携わっています。これまでのキャリアにおける転機と今後の展望を伺いました。

 

生き物や微生物に興味を持ち、醸造科学科へ進学

–ご出身はどちらですか。

大阪で生まれ、3歳から神奈川に引っ越しました。就職してからは長野で過ごしていた時期もあります。

–学生時代はどのようなことに興味を持っていましたか。

小学生から中学生くらいまでは、飼育員になることが夢でした。もともと動物園に行ったり図鑑見たりするのが好きだったのと、友人の家のペットに不思議と懐かれることもあり、自然と(飼育員という仕事にも)興味が深まっていったのかなと思います。

高校生になると、「生物」に興味を持ちました。他の科目が苦手だったということもありますが、生き物のことは身近に感じられるような気がして、学んだことも記憶に残りやすかったんです。微生物を顕微鏡で覗いていてもおもしろかったですね。「こんな生物がいるんだ」と。

–生き物から微生物に関心を持ち始めたんですね。

調べ学習でミドリムシを調べたことがありました。(ミドリムシは)食べれば栄養があるし、水質浄化にも役立って、バイオ燃料にもなると知った時は、おもしろいと感じました。

また、微生物に興味があるという話をしていたら、友人から「もやしもん」という漫画を勧められました。発酵に関わる微生物を取り上げている漫画です。読んでいるうちに知識が増えて興味が深まりました。「身近ないろんなところに微生物がいるんだな」と身の回りを見渡して考えるようにもなりました。

–高校卒業後の進路について教えてください。

発酵・バイオテクノロジーに関する微生物を学べるところを探して、 醸造科学科へ進学しました。進学してみると、学科の名前の通り、お酒好きな人が周りに多い環境でした。もともとは環境側に関心を持っていましたが、良い意味で周りに影響され、お酒への関心も深まりました。

在学中は「ビール学」「清酒学」などの授業を通して、歴史や製法を学びました。自分でお酒を作る実験授業もありました。日本酒が自分の口に合うと感じて、4年生からは日本酒の研究室に入りました

 

葛藤を乗り越え、転職。酒業界の20代 作り手に着目

–大学卒業後の進路について教えてください。

就活が始まる頃に自分のやりたいことを考えていた際、「自分でお酒を作り、商品として世に出してみたい」と思っていました。大学3年生の頃に実習でお手伝いに伺っていた酒蔵に連絡したところ、ちょうど採用をしていると聞き、そのまま就職。(就職した酒蔵では)冬にはお酒作り、それ以外の季節には掃除や農業を手伝って過ごしました。

–転職の経緯を教えてください。

2〜3年が経った頃、「これだけをずっと繰り返していくのかな」と思う一方で、やりたいことを考えていくとそれもまたわからなくなり…悩んでしまいました。

「こんな漠然とした状態でいいのか」
「周りの影響を受けて決断していて、自分の意志はあるのか」
「自分の今の思いは、本当なのか」
「今の環境から逃げ出したいだけじゃないのか」

同世代の人や対等に話しやすい人が少ない環境だったこともあり、1人で悶々と考えていました。

悩みを打ち明けたり話を聞いたりした結果、「今やっていることや思いついたことが本当にやりたいことかどうかはわからない。一旦それは置いておいて、自分自身が楽しいと感じていればいいじゃないか」という結論に至りました。

その後、もともと学生時代に知り合っていた当社の社長に連絡をしたところ、誘っていただき転職することになりました。それまではお酒を作る仕事をしていたわけですが、お酒を広める仕事に興味が湧いたことが理由です。

–「4年後に廃業する酒屋」を立ち上げた経緯を教えてください。

長野の酒蔵で働いていた頃、業界の同世代に会う機会はほとんどありませんでした。周りの人は自分よりも上の年代の人ばかりで、対等に話せる人がいない環境でした。一方で、大学時代に在籍していた醸造科学科にはお酒好きな同世代がたくさんいました。当時の友人たちに連絡をして話し合っていたところ、(自分自身が)20代の間だけ開く酒屋があったらどうかというアイデアが出たんです。それがきっかけとなり、20代の作り手の方に話を伺うインタビューを始め、その内容をSNSでもアップするようになりました。

▼Instagramアカウント
https://www.instagram.com/sakenomirai1/

–20代でお酒の作り手として携わっている方々と話してみて、気づいたことはありましたか。

一般的には、20代からお酒業界で働いている人はレアなケースに見えますよね。業界内の20代の割合も、実際少ないと思います。

話を聞くと(20代から業界で働いている人は)意志が強く、将来は自分でお酒を作りたいという目標を持っている人が多いです。キャリアのことを考えて…というより、シンプルにお酒が好きだという人ばかり。お酒にハマっていく気持ちはよくわかります。

僕自身はお酒を「微生物」という切り口で考えます。例えば、日本酒は水、米、麹、酵母菌を原料として作られます。原料はたった4つなのに、日本酒の味わい、香りなどは無限に広がり、種類もたくさんあります。原料の配合や種類、製法によって、甘くジューシーなお酒になったり、スッキリと辛口な味わいになったり…。それって、すごくないですか。

 

お酒の作り手が持つ思いやキャラに目を向けてほしい

–今後実現したいこと、挑戦したいことはありますか。

今後は日本酒以外を作っている方々や業界外の方々と知り合える機会を増やしたいと思っています。イベントを開催したり出店したりして、自分の口でお客様にお酒の魅力を伝えながら販売する機会も増やしたいです。

–お酒の魅力をまだ知らない同世代の方に知ってほしいこと、伝えたいことはありますか。

体質が合わない人以外は、多面的にあるお酒の魅力のどれかにはハマる可能性があると思います。例えば、地元が好きな方がいれば地元で作られているお酒を飲んでみる、フルーツが好きな方がいれば果物を使ったお酒を飲んでみる、など。

最近はクラフトが流行り、作り手の思いもピックアップされることが増えました。僕自身は、「作り手」「人」に注目していただきたいと考えています。ぜひ、作り手の思いやキャラクターにも目を向けてお酒をみてみてください。

取材・執筆=山崎 貴大