CSO ー チーフ・ストーリーテリング・オフィサー。この役職名、聞いたことがありますか?株式会社FromTo(以下、FromTo)でこのCSOを務めているのが、角田 尭史(すみだたかし)さんです。
色々なキャリアの人たちが集まって、これまでのキャリアや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ第35回目は、「地方の複業家」として東京と静岡県下田市で計4社にコミットする角田さんにインタビュー。
CSOとはどんな仕事なのか、またなぜそのような役職を名乗ろうと思ったのか。そして東京と下田との二拠点生活に至ったきっかけは何だったのか。周囲を巻き込んで活動する彼の、これまでとこれからのストーリーを紐解いていきます。
仕事で苦しんだからこそ「伝える」仕事を選んだ
― まず「CSO」、チーフ・ストーリーテリング・オフィサーについて教えてください。どのような役職なんでしょうか?
会社の「伝える」という部分を全て統括しているようなイメージですね。具体的な業務で言うと、投資家へのピッチの資料作りやイベントの内容の構成、広報などもやっています。
― それで「ストーリーテリング」なんですね。そう名乗るようになったのきっかけは何だったんですか?
その経緯としては、新卒で入った会社まで遡ります。
実は、新卒2年目のときに職場でハラスメントを受けたんです。仕事としてはすごく意義のあることをやっているのに、そのストレスによって仕事のモチベーションを失ってしまったんです。それをきっかけに、働き方に対する違和感を持ち始めました。
さらに、地元の同窓会に行ったときに、「仕事を辞めたい」と話している友達が少なくなかったことがショックで。仕事って、人を幸せにするもののはずじゃないですか。なのに、僕も含めて仕事に苦しめられている人が多すぎる。だから、「働く」ということに関して何か伝え、幸せな方向に導きたいと思うようになりました。
― その手段として考えたのが、メディアだったんですね。
そうです。伝える側になるため転職しようと考え始めたのが、2018年の4月でした。編集の仕事は未経験でしたが、リスナーズ株式会社(以下、リスナーズ)から内定をいただけたので、「機会をもらえるのならそこに決めよう」と思い、入社を即決しました。
取材する中で気付いた、ストーリーの持つ力強さ
― 前職は土木系企業の技術者だった角田さん。そこから大きく違う業界へ飛び込んでみていかがでしたか?
最初はもちろん大変でした。だけどそれ以上に、編集の仕事がめちゃくちゃ面白かったんです。誰かの話を聞いて、それを伝えて世間の人に知ってもらうこと。そして世間の人に影響を与えるということ。それが嬉しかったんです。僕の中で何かが始まった感じがしました。
でも、編集の仕事を始めて一番大きかったのは、安心感を得られたことかもしれません。
― 安心感というのは?
インタビュー取材をする中で、仕事に対して前向きな話を聞くことが多かったんです。だから僕自身も明るい気持ちになれましたし、安心できたというか。そういう感情になれて、初めて仕事が好きになりました。
― なるほど。何か具体的なエピソードや印象に残った取材があったんでしょうか?
リスナーズへ入社したばかりの頃に同席した、とある会社の代表へのインタビューが一番印象に残っています。その方、創業当初は社員への接し方がかなり厳しかったらしく、途中でメンバーが多く離れてしまったそうなんです。そこから「なぜみんなが離れてしまったんだろう」と考えた結果、性格を真逆に変えることにした、と。そしたら再びメンバーも増え、こっちのほうが幸せだったと話されていて。
離れていったメンバーの気持ちもわかるし、「メンバーの幸せを願える会社って素敵だな」とも思いました。そして、なんだか自分と重なる部分があるように感じて、すごく印象に残っています。
― インタビューは、相手の人生観を知って影響を受けることができるいい機会ですよね。
この取材で僕は、ストーリーが持つ力強さに気付きました。たとえネガティブな話だったとしても、ストーリーとして昇華させることができる。僕自身も、ネガティブな感情が原因で転職したので、そのストーリーが持つ力強さに対して安心感を得たんです。
― ストーリーの力強さを感じたことが、その後のCSOに繋がるんですね。
そうですね。でも、ストーリーを一本の軸として語るのはけっこう難しいとも思っているんです。特に会社という組織だと、歪みが生まれやすいから尚更難しい。
― 歪み、ですか。
例えば、同じ事実でも人によって話している内容が違っていたら、組織の中に分断が生まれることがありますよね。その分断を放置していると、取り返しのつかない歪みになって、会社や組織の雰囲気が悪くなってしまう。
そうならないためにも、会社の設立ストーリーも含めて、一本の筋が通った組織を作っていきたい。それを、リスナーズで学んできたストーリーテリングを用いて実現したくて、僕はCSOと名乗ることにしたんです。
初めて感じた仕事への熱量がステップアップを導いた
― 未経験で編集の仕事に転職し、半年後にはリスナーズのメディア『LISTEN』の編集長に抜擢されていますよね。要因は何だったと思いますか?
「編集長になりたい」というのは入社当時から常に言っていました。一社目は大手企業だったので、出世までのステップが長かったんですが、リスナーズでは編集長という役職は1つ先にあったので、「上がりたい」という熱量を持って伝え続けることができましたね。
その甲斐あって、前編集長が退任されるタイミングで、次の編集長として選んでいただけたんです。
― 熱意が編集長への道を繋いだんですね。その後、FromToにCSOとしてジョインされるわけですが、FromToとはどういう出会いだったんでしょう?
あるイベントで代表の宮城と偶然会ったのがきっかけですね。そのとき、二人の目指したい世界観が似ていて意気投合。二人とも、仕事や「働く」ということに対して何とかしたいと思っていたんです。また、お互いに地方出身ということもあって、都会と地方の格差に対する課題感を持っていました。
それで仲良くなったんですけど、僕はリスナーズに入社したばかりの時期だったので、FromToでは副業という形でライティングの仕事をさせてもらっていました。
― そこから副業で1年関わってきて、FromToに役員として入社。複業から本業へとシフトさせたのには、何か理由があったんですか?
リスナーズでの仕事はすごく楽しかったんですけど、編集長のその先の姿を描きづらくなってしまったんです。
それと同時に、FromToでは代表の壁打ち役をしたり経営戦略の話をしたりと、少しずつ僕の役割が増えていきました。次第に、副業という形では収まらないほどになってきたタイミングで、役員として誘っていただいたんです。
自分の将来を考えたとき、20代で役員を経験する機会は貴重だなと思ったので、その場で「ぜひ」と。迷いはありませんでした。
下田に住む決め手は、人の熱量と自由に動ける環境
― FromToに転職すると同時に、東京と静岡県・下田での二拠点生活を始められましたよね。そのきっかけは何だったんですか?
FromToにジョインする前に、知り合いに誘われて下田に遊びに行ったことがあったんです。そこで、完全に下田にハマって。一度住んでみたいなと思ったのがきっかけです。
― 「もう一度行きたい」と思うことはあっても、「住んでみたい」という感情はなかなか湧きませんよね。下田のどこに惹かれたんでしょう?
下田の人の熱量ですね。人としても熱い人が多かったし、下田市としても色々仕掛けているんです。素直に、その活動に関わりたいと思ったのが大きかったですね。
下田って「日本で一番もったいない街」と言われることがあるんですよ。海もあるし、特産品もある。魅力は山ほどあるのに、それが伝わり切っていない。だからこそ、伝えようと活動している人の意志は人一倍強い。その熱さと、まだまだやれることが山積みという状態を感じて、僕のスキルを使って何かやれないかなと思ったんです。
― とは言え、行くのと住むのとは全然違うと思うんです。二拠点生活を始めて、何かご自身の中で変化はありましたか?
僕の中のしがらみが減った感覚はありますね。いろんな人との付き合いに少し疲れていたのもありましたし、東京だと編集者はたくさんいて競争を強いられますが、下田でなら僕のスキルを活かせる余白があるので。
「もっと自由でいいのかも」と思えるようになりました。下田に来てみて、興味や意欲の赴くままに色々やってみたくなって。しかも、担い手が少ないから、やりたいと思ったら僕がやるしかないんです。縁もゆかりもない場所だからこそ、あまり人目を気にせず好き勝手することができました。
最初は3ヶ月間のお試し滞在で終わる予定でしたが、いざ住んでみたらやりたいことがいっぱい出てきて、滞在期間を延長したんですよ。意志に突き動かされての活動は本当に楽しいですね。
繋がりに支えられ、仲間と紡ぐ自分だけのストーリー
― 東京と下田の計4社で活躍されている「地方の複業家」として、これからチャレンジしたいことはありますか?
都会と地方の情報格差を埋めていきたいと思っています。下田を含めて、地方だとまだまだ余白が大きすぎるんです。でも手段を知ることで、一気に解決へ動き出す余地があるとも言える。まずは、どちらにも住んでいる僕が発端となって、東京と地方で情報をなめらかに伝達していきたいですね。
― こうして多くの場所で活躍する角田さんを支えているものとは何なのでしょう?
「仲間」という感覚を持てていることかもしれません。下田に限らずだと思うんですけど、地方で仕事するときって、まず人と人との付き合いがあるんです。深く知り合ってから、その上に仕事の話が乗っかるイメージ。
なので、その人とは深い関係性を築いた上で仕事が始まっていく。また、その繋がりが次の人にも広がっていく。こんな風に色んな人との繋がりができていって、一人じゃなくなったという感覚があります。
そして、この繋がりが、下田だけじゃなくて東京の人にも広がっていく。
今考えると、2年前の苦い経験があったからこそだと思うんです。あの経験がなかったら、ストーリーの持つ力を感じることもなかったし、下田に来て人が持つ熱量の力強さも知ることはなかったかもしれない。
そう考えると、今こうして仲間と思える人達と一緒に活動できているのが本当に楽しいなって。この繋がりが、僕を支えてくれているんだと思います。
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取材:西村創一朗
写真:山崎貴大
文:安久都智史
編集:ユキガオ
デザイン:矢野拓実