日本人の父・タイ人の母を持つ渡辺ありさが経験した試練と成長。逆風に負けないマインドを聞く

ユニークなキャリアを歩むU-29世代をお呼びし、これまでの人生の転機についてお話を伺うユニークキャリアラウンジ。今回は、ユー・アンド・アース株式会社の渡辺ありささんをお招きしました。

同社は2005年にタイで設立され、2006年に東京拠点を立ち上げました。主な事業内容は、オリジナルグッズの企画・設計・製造・販売、オリジナルネックストラップの販売です。現在は、日本以外に中国とタイに拠点を持っています。渡辺さんは事業開発室に所属し、タイでアニメグッズの企画・製作に従事しています。これまでのキャリアにおける転機と今後の展望を伺いました。

コーポレートサイト
https://youandearth.com/

アルテミス
https://artemis-official.jp/

※取材対象者の所属先等の情報は、2023年12月取材時時点のものです。

周りとの違いに苦しんだ。救いとなった父の言葉

–ご出身はどちらですか。

日本に生まれ、渋谷区にある家で日本人の父、タイ人の母と過ごし、育ちました。6年間ミッションスクールに通い、キリスト教に根ざした教育理念を掲げた教育を受けていました。そばに教会があり、日本語が話せないイタリア人の神父さんがいるような環境でした。

卒業後は区立の小学校に進学。ミッションスクールとは全く違う環境で、周囲との感覚の違いに少し戸惑いました。最近では日本でも多様な価値観や生き方が受け入れられるようになってきていると感じますが、当時は街中で働いている外国人の方の数は今よりも少なく、外国人であることを理由にバイト先で母親がいじめを受けるような空気でした。私自身も、いじめを経験しています。

–当時のことを教えていただけますか。

渋谷の区立中学校に通い始め、2年生になった頃のことです。外国人の親を持つハーフの女子はみんなクラスの中の居場所に困るような雰囲気でした。例えば、すごく絵の上手い韓国人の女の子がいて、外部でも活動していました。活動があると学校に来れない日もありました。普通と違う彼女に対して、クラスの男子は悪口を言っていたんです。私は気になって、男子に向かって止めるように言いました。それを機に、彼女への悪口や嫌がらせはなくなりました。

–勇気ある行動ですね。

彼女への行為を止めることができたのはよかったんですが、その後対象が私に移ってしまいました。

最初は茶化されている程度だと感じていて、あまり深刻に考えてはいませんでした。ある日、先生に呼び出されて向かうと、「お前、いじめられてるぞ。大丈夫か。信用できる友達はいるのか」と言われました。その時、初めて自分を押し殺して耐えていたことに気づき、感情を失いかけていたことにハッとしました。その日泣いて家に帰ったことを覚えています。

その頃は、(私個人に対するものだけではなく)アジア出身の外国人に対する風当たりも今より強かったと思います。事実とかけ離れた先入観から「素手でご飯食べてるんでしょ」と言われたことがありました。周りには日本以外のアジアの国出身であることを知られたくなくて、できるだけ出生を隠すようにしている人もいました。

私自身が経験したことに加え、こうした周囲の空気があり、次第に「私は周りよりも劣っているのだ」と思いはじめました。

–ご家族とはどんな話をされたんですか。

父親がかけてくれた言葉が印象的でした。

「周りは普通じゃないと言うかもしれないけど、普通だ。何も他の人と違うことなんてない。普通の子だったら、何かあっても中退はしない。3年間通うだろう」

周りからの扱いや態度によって傷つき、「自分は普通じゃないんだ。周りよりも劣っているんだ」と思っていた私にとって、父がくれた「普通だ」という言葉は救いでした。

初めて「友人」「居場所」を見つけた大学時代

–中学校卒業後の進路について教えてください。

高校は 関東国際高校に進学しました。国際色豊かな学校で、タイ語が学べる授業もありました。

高校卒業時はやりたいことがまだ無くて、 幅広い教養を学べる哲学科を軸に進学先を探しました。受験後、学習院大学文学部哲学科に進学しました。

–大学ではどんな学生生活を送っていましたか。

演劇部に所属していました。幽霊部員だったんですけどね。演劇部の部員の1人がミスターコンテストに出ることになり、私が宣材写真を撮ってあげることがありました。父が写真家だったことがあり、カメラや写真には少し馴染みがあったんです。

私が撮影してあげた子がコンテストで準グランプリを受賞すると、写真にも評判が集まりました。やがて他の出場者からも撮影依頼やサポート依頼がくるようになりました。「周りに集まってきたミスターたちをコミュニティにしていったらいいじゃないか」と思い、人気のミスターを集めて写真集を制作したりファンミーティングを開催したりもしました。

「普通」という言葉に救われ、「普通」でいたかった私にとって、具体的な目標や夢を持って「特別」になろうとするミスターたちといることはとても面白いと感じていました。

–ミスターたちと深い関係を築いておられたんですね。

もともと彼らとの関係はビジネスライクなものだと思っていました。「お互いの間には(演者と裏方を分ける)線があるんだよ」と言ったこともありました。それに対して、彼らは「僕たちは、人として好きだから一緒にいるんだよ」と言ってくれました。

最初はその言葉を信じられずにいました。ミスターコンテストが終わっても一緒にいるようになり、次第に「私、友達ができたんだ」と思えるようになりました。最終的には、コンテストを終えたミスターたちが私の活動の裏方に周り、マネジャーをしてくれるようにもなりました。

その時に築けた信頼関係は強く、今でも仲が良いんですよ。

–卒業後の進路について、当時どんな選択をしたんですか。

ミスターコンテストに関わる活動を終えた後、世間ではタイドラマが流行りはじめていました。コロナ禍でおうち時間が増え、自宅でドラマコンテンツを見る人が増えるなか、タイで制作されたドラマ「 2gether」と一部のツイートがバズっていました。はじめはあまり興味を持たなかったんですが、たまたま免許合宿で訪れた滞在先で見始めたら私もハマってしまいました(笑)

合宿から帰ってきてから、大使館を会場として事前抽選制で開催されていたタイドラマのイベントがあることを知り、行ってみることにしました。後日その大使館から配信されたインタビューを受けていたタイ人俳優の言葉が印象的で、今でも覚えています。

「私たちはずっと日本の背中を追いかけてきました。日本と対等になることは難しく、振り向いてもらえることもありませんでした。タイドラマをきっかけに、日本が私たちを見てくれるようになったと感じています。これからも日本に振り向いてほしいという想いで、ドラマを撮り続けます」

その言葉を聞いて、驚きました。「同年代のタイ人がこんなことを考えているのか。こんなに日本のことを想ってくれていたのに、自分はその間何もせず、殻にこもって、何をしていたんだろう」と。「このプロジェクトに関わりたい」と思い、関わり方を探した末にゲーム会社に就職しました。

決死の飛び込み営業で掴んだ大型受注と奇跡

–どのような経緯で1社目に就職したんですか。

当時、その会社がタイで登記しようとしていて、現地で立ち上げプロジェクトに参画してくれる人材を探していました。面接を担当してくれた元・社長は(私が)タイにルーツを持っていることを知り、採用条件やプロジェクトの詳細を話してくれました。「現地でのプロジェクトに失敗したら即クビ」というものでしたが、私は「やります」と答えてタイに向かいました。

–現地での仕事はいかがでしたか。

英語を話せるとは言えないレベルで現地に飛び込み、営業活動をしていました。出会った会社の中で1社、鮮明に記憶に残っている会社があります。それが、私がまだ学生の頃にショックを受けた、あのインタビューを受けていた俳優が所属する会社です。

拙い英語で書いた企画書を持って、その会社に飛び込んでいって、受付に書類を提出したらCMO(Chief Marketing Officer=最高マーケティング責任者)から返信がきたんです!「日本でタイ人俳優のファンミーティングを開催したい。日本ではどんなグッズ、衣装がウケるのかなど教えてほしい」という内容でした。すぐに打ち合わせをして、受注し、一緒に仕事を進めることになりました。会社にとって現地での大きな一歩となったと同時に、私にとっても大きな意味を感じる仕事を作ることができました。

その仕事を役員に引き継いだ後、 タイでの営業活動には多額の資金がかかることが市場調査によって判明します。業績悪化のタイミングであったことが重なり、進めていた内容が実現出来ないとわかったため、私は退職しました。その後、現在勤める会社に入社しています。

–現在の職場における働きがい、やりがいを教えてください。

何度も触れていますが、私にとってタイで働けていること自体がモチベーションのひとつになっています。私の活躍を通して、タイにも優秀な人がいて、日本に引けを取らない価値を生み出せるんだということを知ってほしいと思っています。ゆくゆくはタイのイメージをよくすることに繋がり、日本とタイが尊重しあえる関係性になっていってもらえたら嬉しいです。

最後に

–この記事を読んでいる10代、20代の方に向けてメッセージをいただけますか。

今、理不尽だと感じる環境にいる人がいても、私は「仕方ないよね」とは言いたくない。どのような環境でも、やりたいことがあるなら一歩踏み出してみてほしいと伝えたいです。

周りの目や評価が気になるのだとしたら、そんなものは関係ないですよ。自分のこと、自分の意志、自分のアイデアは自分自身しか守れないし、活かせないんですから。

企画・取材・執筆=株式会社ユニーク 山崎 貴大