日本×デザインの力で世界のエンパワーを目指す!サービスデザイナー 前田瑞歩の原動力

新卒でパナソニックに入社。新規事業の立ち上げも経験

ー新卒ではパナソニックに入社されたと伺いました。どのような理由から選びましたか?

理由は2つあります。一つ目は、「全世界」に価値を提供しているグローバルな会社だからです。

私は人生の目標に「日本の力とデザインの力で、世界中の人々をエンパワーするものをつくりたい」「次世代の日本の信頼を築きたい」ということを掲げています。

イギリスの語学研修や「世界青年の船」の経験を通じて、今掲げている目標に繋がることをやりたいと思うようになりました。目標に向かうために、どのような条件でキャリアを歩んでいけばいいか考えた時、「全地球におけるグローバル性」を重視していました。

例えば、「世界青年の船」ではモザンビークやペルー、オマーンなど、日本の中では普段関わりの少ない国の人々と出会えました。普段関わりが少ない国も含めて、どんな国・どんな人もかけがえのない存在であると思っています。そのため、特定の国だけではなくグローバルに価値提供している会社に行きたいと考えていました。

二つ目は、私の目標である「世界中の人々をエンパワーするものをつくる」ことができるような、企画に携わるチャンスが多い会社だということです。パナソニックだと、若い年次から商品企画や新規事業への挑戦に手を挙げられたり、もし企画に関わらない部門に配属されても、社内転職制度で企画系の部門に異動できたりする特徴があります。

私の場合も、希望する企画系の業務を任せてもらえることが多くありました。最初は海外マーケティング部門に配属され、冷蔵庫や洗濯機のデジタルマーケティングに携わりました。

当時は「大型の冷蔵庫や洗濯機はネットで買わないだろう」と言われていましたが、新型コロナウイルスの流行でライフスタイルがかわり、若者以外にもインターネットで購入する人が増えました。

そのためデジタルマーケティングの強化に挑戦してみないか?とお声がけをいただきました。その他にもIOTアプリの企画で、「お客様に、届けたい体験を届けられるか?」を考えることにも携わることができました。

元々家電については「家事の労働を減らし、その人らしい生活を送ってもらうために必要なツール」だと考えていました。インドに行った時、女性が3時間ほどかけて手洗いで洗濯をしている姿を見かけて、家事から解放されれば、勉強や仕事などもっと彼女たちの人生のために時間を使えるのにと課題を感じていました。

パナソニックでの仕事は、自分のビジョンや目指したいことに合っていたと思います。

ー新規事業にも挑戦されたと伺いました。どのような取り組みだったか、詳しく教えてください!

外に出かけた時に、嫌な声がけをされるとか、体を触られてしまうといった広い意味での性被害に対して、映像で記録できることによって被害にあったことを証明できる権利を守れるプロダクトを考えていました。

イメージとしては、歩行者用のドライブレコーダーのようなデバイスです。小さなキーホルダー型のカメラで360度撮影ができ、外出時には鞄につけて使います。何かあった時は、あとからスマホアプリで映像を見られる仕組みです。

入社2年目のときに、経済産業省・JETRO主催の起業家育成プログラムと、ONE JAPAN主催の社内起業家育成プログラムに2つ同時に参加して、業務外の時間を使って1人で企画を始めました。3年目からはパナソニックの社内起業プログラムでこのアイデアが採択されて、技術・デザインの社内メンバーとともに、正式に業務として活動を始めました。

ー企画のきっかけは何でしたか?

私自身もそのような被害にあった原体験があるからです。中高生の頃、帰り道につけられて身体を触られるという経験が2年ほど続いたことがあります。

それがトラウマとして残っており「何で、こういう目に遭わなきゃいけないんだろう」と思いましたし、それに対して何もできなかったことが心残りでした。このような被害は私だけではなく他の人から聞くこともあり、「社会で手立てがあるべきなのに、ないのはどうしてだろう」「私がやらないと、永遠に解決されない」という思いから、性被害をテーマにとりあげようと思いました。

企画を作り上げるにあたり、人の心の底の課題を突き詰めて解決する・新しい価値を作る、というデザイン的な思想に基づいて、何十人にもヒアリングしました。被害を受けたことがある女性や男性、トランスジェンダーの方、時には加害者の方にも……。

ヒアリングをしていると、「証拠がない」のがネックになっていることが浮かび上がってきました。被害を受けてしまった後に証拠がないと相談に踏み切れないということはあると思います。「あなたの気のせいじゃないの」と軽く扱われたり、「あなたの服装のせいだよ」という風に責められてしまい、周囲に相談できない場合もあります。

仮に、警察や専門機関に相談することになると、証拠がないことが大きなハードルになり、被害が否定されてしまうことや、加害者に罪を問えず泣き寝入りする結果になることも。そうして被害が「なかったこと」にされると、加害者は野放しになり、また新たな被害が生まれてしまいます。加害者が被害を繰り返す連鎖を断ち切るため、また、被害を相談・証明するハードルを解消するためのソリューションがあるべきだという考えにいたり、歩行者用ドライブレコーダーを開発しました。

販売直前で事業が白紙に。企画力を鍛えることを決意

ー販売には至りましたか?

販売直前のところで、所属部門の方針が変わり新規事業が続けられない結果となりました。その判断が出る直前まで、フェムテック系の展示会に出して応援の言葉をもらったり、メディアにも出させていただいていたので、非常に残念でした。

3ヶ月くらいかけて社内外で実現の道を模索しましたがうまくいかず、販売を心待ちにしてくれているユーザーに対して申し訳ない気持ちが大きかったです。

ー新規事業がとりやめになったあと、どうされましたか?

改めて、人生の目標を達成するために、今後のキャリアををどうしていくべきか考えるきっかけになりました。

新規事業が達成できなかった反省の一つに、「ユーザーの心の底の想いを捉えた事業を考える力」がまだまだ不足していると感じました。仮に部門の方針が変わったとしても、本当に魅力的な事業ができていたら、発売前でも「買いたい」と言ってくれる多くのお客さんが得られていて、投資家や意思決定者も「方針が変わってもこの事業はやろう!」とか「うちが投資するよ!」と言ってくれる状況になっていたかもしれない。

そこまで至らなかったのは自分の力不足が大きいと思いました。ユーザーが心から喜ぶサービスやプロダクトを企画する力・形にする力を鍛えたいと思い、一度パナソニックを飛び出して、キャリアチェンジをする決意をしました。そこで、サンフランシスコと東京に拠点を置くデザインとマーケティングの会社btraxで、人々の心を捉えたグローバルなサービスの創出に挑戦することにしました。

ー今後の展望について教えてください。

まずはbtraxでのクライアントワークや、新たな事業作りの挑戦の中で、最終的に形になったサービスを世に出すことを実現したいです。また先ほどもお話した、日本の力とデザインで世界中の人々をエンパワーするものをつくり、サービスやプロダクトをグローバルに広げていければいいなと思います。

個人的な野望としては、人生の目標を達成するためにいつか自分の事業を持ったり、海外の大学院でデザインを極めたりすることも視野に入れています。まずは今の会社で修行して、世に良いものを出していければと思います!