次世代への医療応用を目指してゲルの研究に挑戦|東京理科大学大学院・手島涼太

大学でもゲルの研究を続け、国際学術誌に論文が掲載される

ー中高は部活と研究を両立して過ごした後、大学でも実験を続けたのですか。

高校を卒業して、大学に入学する前は、もっと研究を突き詰められる!とワクワクしていました。しかし、大学に入学してからその期待は打ち砕かれました。入学直後は、実験の授業も少なくほとんど座学でした。

そこで所属学科の研究室の先生に研究をさせてもらうためお願いしに行ったのですが、やはり断られてしまいました。

ー期待と現実のギャップが大きかったと思います。当時の心境はどうでしたか。

まあ仕方ないか、という気持ちが正直大きかったですね。

大学でも、吹奏楽サークルに入りサックスは続けていて、大学生活自体はとても充実していました。ただ、やはり研究を続けたいという思いが消えず、大学1年生の冬に行動に移しました。

ーどんな行動をしたのですか?

私の通っていた東京理科大には、理系の学部が多くあったため、大学全体で私の研究に近い研究をしている先生がいないかと考えました。

薬学部で医療用ゲルの研究をしている先生を見つけ、これまでの私の研究をまとめたメールを送りました。するとその先生が「大学の近くでちょうど学会発表するから聞きに来ませんか」とお誘いしてくださって。大学の授業終わりに急いで会場に向かい、研究発表を聞き、先生とお話ししました。その先生に「本気でやる気があるなら研究室でやってみないか」と言っていただき、研究する機会をいただいたのです。

ー先生との出会いを機に本格的な研究が始まったのですね。

薬学部の先生で、長く医療現場で研究をされていました。そういう意味で、私の知らない本物の医療現場を知り尽くされている先生です。私は化学系の学生だったので、そういう意味でも、自分の考えや結果についてディスカッションをしたり、意見をいただいたりするのが面白かったです。これが大学1年生の冬の出来事です。

ー先生との出会いというのも研究のひとつの分岐点になりえますね。

とても大きいと思います。私の場合も、このような先生との出会いがなかったら、研究をやめてしまっていたかもしれません。

ーその後、研究はどのように発展しましたか。

研究は順調に進んでいきましたが、大学3年生の頃に新型コロナウイルスが流行し、大学が閉鎖されてしまいました。

ただこれもひとつの転機で、これまでの成果を英文の論文にまとめる良い機会になったんです。半年かけて執筆した論文を海外の学術誌に投稿し、査読者の審査の後、無事掲載されました。

この研究成果については、大学がプレスリリースを出してくださり、国内外のメディアが取り上げてくれました。実際に掲載された雑誌を見たときの喜びは大きかったですね。

次世代への医療応用を目指して孫正義育英財団の支援を受ける

ー孫正義育英財団に応募したきっかけは何ですか。

私が財団に応募した理由は、自分の研究をもっと進めたいと考えたからです。研究論文が国際学術誌に無事掲載され、世界に成果を発表することができました。そこで医療応用を目指して、さらに研究を加速させる必要があると思いました。より研究を大規模に、加速して進めるには必然的に「資金」が必要になります。

大学をはじめ多くの研究者は、基本的に自身の研究を申請書にまとめ、国の予算や民間の財団から助成金を獲得して研究に取り組んでいます。

当時、お世話になっていた先生からも、より高度な実験や今後の医療応用を目指すのであればお金を取ってきてしっかりやる必要があると言われていました。そこで、サポートしてくれる団体がないか探していた時に孫正義育英財団を見つけ、応募しました。

意外なことに、当時は財団の選考を受けることが楽しかったです。自分の考えを整理し、どんな世界を作りたいのかを言語化する良いきっかけになりました。

ー手島さんはどのような世界を作りたいと話したのですか?

私は、昨今の複雑化された科学技術に対して、これまで見落とされてきたシンプルな発想で技術革新を起こし、次世代の医療を創造したいと話しました。

ー手島さんが信念としているシンプルさは研究を続けるうちに洗練されたのですか。

私自身、シンプルで誰にでもわかりやすい反応や着想が好きなんです。最近は、1つの分野だけでは解決できない課題も多く、医療分野も例外ではありません。

このような場合は、分野の異なる研究者との協力が必要になりますが、このときにも誰にでも伝わるシンプルな発想・技術が大切だと思っています。この考えも、大学に入って様々な人と会って話すうちに見出しました。

ー財団に入って変化したことはありますか。

財団に入ったことで2つの大きな変化がありました。1つは価値観です。私が財団で出会った人たちは、みんな特異なスキルと自分の作り上げたい世界観を持っています。財団に入るまでは、自分を突き詰めてこういう世界を作りたいと思っている人や、とことん夢を追いかけている人と出会う機会はありませんでした。

財団に入って今年で3年目ですが、色々な人と知り合えたのは一番価値のあることだと思います。

もう一つは支援面です。現在の大学院の学費に加えて、私の研究に対しても財団から支援をいただいています。財団からいただいた研究費のおかげで、動物実験をしたり、論文を書いたり、不自由なく研究をすることができています。

ー今後の展望についてお聞きしたいです。

現在取り組んでいるゲルの研究も含めて、何か1つでも実際の医療現場で臨床応用されるモノを人生を通して開発したいと思っています。

今後も自分にしかできない発想で研究を行い、次世代の医療に応用できる材料を作っていきたいです。

ーありがとうございました!手島さんの今後のご活躍を応援しております!

取材:和田晶雄(Twitter
執筆:Kumi(Twitter
編集:松村彪吾(Twitter
デザイン:安田遥(Twitter