様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第658回目となる今回のゲストは、ベンチャーキャピタルの広報として働く下平 江莉(しもだいら・えり)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。
下平さんがベンチャーキャピタルの広報担当者としての道を歩む決意をした経緯や、選択をするときに大事にしてきた言葉について伺いました。
海外で東日本大震災を経験し、 “今” という瞬間の大切さに気づく
ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。
現在、スタートアップに投資をするベンチャーキャピタルで広報の仕事をしています。自社の広報に加えて、投資先スタートアップの広報支援なども行っています。
ー本日は、下平さんがVC広報のお仕事をするようになるまでの経緯やこれまでの活動などを、幼少期からさかのぼってお伺いできればと思います。学生時代はどのように過ごしていましたか?
小学生の頃から、毎日何かしらの習いごとがあるような過ごし方をしていたので、様々なことを同時に学んだり取り組んだりすることが日常でした。
中学生になってからの部活は、友達に誘われて茶道部に入りました。茶道の世界はとても奥深く、今思えば、日本の ”侘び寂び” 文化の素晴らしさに触れるきっかけになったと思います。
実は、私の通った学校には、表千家茶道部と裏千家茶道部の両方があり、他にも華道部や薙刀部などがあり、どの科目も部活だけでなく、授業が存在し全生徒が学ぶという、かなり日本文化に触れる機会の多い学校でした。その甲斐あってなのか、1年生から10名をも超えるクラスメイトが、私も所属することになった表千家茶道部に入部をしました。
私もはじめは運動部などと迷っていたのですが、茶道への興味と、友人に誘われたこと、そしてあまりの茶道部の人気ぶりに対しての好奇心もあり、最終的には茶道部への入部を決めました。
ただ、茶道の本当の面白さに気づいたのは高校生になってからで、中学生時代はクラスメイトと集まって楽しく過ごしたいというスタンスの方が大きかったので、運動部などに所属して大会に向けて本気で頑張っている学生たちなど、自分の強みを活かして、なにかに本気で熱中して活動している子たちを見ると、私もなにか夢中になれることや、自分の強みがほしいなあ……と思うこともありました。
そんなとき、大きな転機となったのが中学生の頃の修学旅行でした。
私にとって、この修学旅行で行ったオーストラリアは人生初の海外で、言語やカルチャー、食べものが違えば、着ている洋服も、価値観も違ったりと、見るものすべてを新しく感じたのを今でも覚えています。
このような違いは、日本にいるときから “知識” としては知っていても、実際にその場に行ってみて初めて、改めて現実味をもって気づくことや感じることが沢山あり、とても感銘を受けました。
なぜ、言語が違うと世界がこんなにも変わって見えるのか。なぜ、同じ人間なのに生まれた場所や話す言語が違うだけで、こんなにも価値観やカルチャーが違うのか。そこには、その国や地域ならではの歴史や地形、気候や宗教など、多様な背景の影響で形作られた新しい世界がありました。
そんな世界に実際に訪れてみて、自分の目で見て触れてみたことをきっかけに、海外や海外の文化にとても興味をもち始めました。
ー特に印象的だった出来事はありますか?
実際に訪れてみたからこそ知りたいと思ったことや聞きたいと思ったこと、話したいと思った人が毎日たくさん増えていくことにワクワクする一方で、その考えや想いを上手に話せない自分に対して、とてももどかしく感じたことを鮮明に覚えています。
幼少の頃から英会話を習っていたので比較的耳は良い方だったのですが、何を言っているのかはわかっても自分の言いたいことが上手く伝えられない状況を前にして、初めて「英語」という言語を学ぶことに対して当事者意識をもてるようになった機会でした。
また、「勉強やテストの点のために英語を学ぶ」のでなく、「話されている内容やカルチャー、価値観などを理解するために学びたい」という、自分なりの経験に基づいた「学ぶ目的」を見つけるきっかけにもなりました。
そしてもうひとつ、この修学旅行では忘れられない出来事がありました。私が修学旅行に行ったのは2011年3月で、その日は11日。日本で東日本大震災が起こったまさにその日でした。語学学校からホームステイ先へ帰ると、ホストファミリーが深刻な顔で「TSUNAMI!TSUNAMI!」と話しかけてきたのを今でも覚えています。
何ごとだろう?と思って一緒にテレビを見てみると、大きな津波が家や町を飲み込んでいる映像が映っていました。最初は、まさか現実と思わず「一体何の映像だろう?」と思って見ていましたが、どのニュースでも「Japan!Japan!」と言っているのを見て、次第に現実が追いつき、実際に日本で起きている出来事なのだとやっと理解しました。
日本の被災状況がわからず家族が無事かどうか不安な中で、「人生は一度しかないんだ」と痛感しましたし、一瞬一瞬を大事に生きようと強く思いました。
ー修学旅行を終えてからは、どのように過ごしていたのでしょうか。
中高一貫校に通っていたので、帰国後はそのまま系列の高校へ進学しました。その後、大学受験の時期が近くなるにつれ、自分は今後何がしたくて、大学へ行って何を学びたいのか……という大きな問いの壁にぶち当たりました。そのときにふと頭に浮かんだのが、修学旅行での経験でした。
まだ自分の周りのことしか知らない「井の中の蛙」であることを痛感するきっかけになった海外渡航での出来事を思い出し、世界共通言語の英語をもっと流暢に使って学べるようになることで、もっと自分の知らない新しい世界が開けるのではないかと思い、まずは、語学力を伸ばすために英語の勉強に力を入れようと思いました。
ーどのように勉強を進めていましたか?
まずは、基礎の文法から復習し直しながら、わからないところがわかるようになるまで徹底的に調べました。また、洋画や海外ドラマ、TED Talksやペーパーブックなど、ネイティブな英語を普段の生活の中に取り入れるようにして、少しずつ英語の感覚が身につくように工夫していました。
こうすることで、語学の勉強として始めていたことが、段々と趣味と一体化していき、いつの間にか海外の文化にどっぷりとハマっていきました。自分が熱中できることを見つけ、学びたいと思えた瞬間であり、実際に行動することで初めて見えてくる新たな景色があることを知った瞬間でもありました。
また、この経験の中で、教育の大切さや学ぶことの大切さも痛切に感じました。