ビールを日本酒のように根付かせたい
ーその後人材会社に就職されていますが、ビールに関係する進路を選ばなかったのはなぜでしょうか?
ビール会社に挑戦しましたが、就職できなかったんです。お酒業界に入るのは挫折したんですけど、うまくいかなかった経験があるからこそ、だったら今できることを自分のフィールドでやってみようと思うようになりました。
新卒で就職した人材会社の配属先が、東京じゃなかったというところも今に繋がっていますね。
ーそこから独立しようと思ったきっかけを教えてください。
最初は静岡市内だけのビールマップを作成していましたが、社会人3年目のときに静岡県内全域のビールのお店と作っている会社を紹介するようになりました。
フリーペーパーの他にも、ビールのイベントもやっていたんですけど、コロナ禍になり、開催できなくなってしまいました。
あとはお酒業界の課題なのですが、お酒のECサイトって簡単には作れないんですよ。酒販免許がないと許可が下りないんです。そういう複雑さもありました。
酒販免許を持っている事業所が少ないですし、買えるお店も少ないです。コロナのときに、飲食店も営業できず、ビールの販売数が急に落ちてしまったときに、 何ができるだろうと考えました。
ビールは、地元産のものを使って地元のことをPRできる面白いお酒なのに、まだまだ理想の環境が生まれていなかったので、だったら今やろうと思いました。
静岡のビールを静岡の人が「やっぱり美味しいよね」と誇れるお酒にならないと、日本酒のようには根付かないと思っています。もっと地元で面白いお酒を伝えたいから、コロナ禍で独立しました。
ー実際にどういう活動をされているんですか?
築70年の母の実家を改装して、すごせる酒屋「MUGI」を運営しています。地域の人たちにお酒の多様性や異なる味わいを紹介しています。
独立前に、静岡県の異業種が集まるアクセラレータプログラムがありました。企業経営者の方たちが応援してくれる「静岡創生プログラム」の事業に採択されました。
そのときに見てくれていた静岡のある会社さんが、社会貢献の一つとして、 地元でホップをもっと栽培していこうという活動に一緒に着手してくれました。今は掛川市でホップの栽培にも挑戦しています。
今まではビールを広げるとか、おすすめするだけの活動だったんですが、より地域に根付いて生産から関われるようになってきたのは、独立してよかったことです。
ビールは原料がわかりづらいので、地域のお酒感が弱いんです。 本当は地元にあって身近に感じられるはずなのに、感じられていないというか。日本人の身近なお酒のひとつなので、僕はそれを見つめていきたいと思っています。
ビールを作る会社を静岡に立ち上げて店頭で接客をしてから、小さな疑問からより探究心が増えていって、いろいろ深掘りをしていきました。
ヨーロッパでも、ドイツやイギリス、チェコとか、国によってビールの歴史や文化も違うんですよね。歴史をさかのぼって、ビールってどんなものなのかというのを見るようになりました。
僕は、唯一無二のジャパニーズオリジナルが増やせたらいいなと思っています。今後海外で材料が高騰したり、海外生産ができなくなったら、国産のものに頼らざるを得なくなります。
そういった未来を徐々に描いていかないと、日本のビール、静岡のビールになっていきにくいと思います。日本独自のものをもっと突き詰めていきたいですね。
ビールは懐の深いお酒、ビールを知るきっかけを作り続けたい
ー若者のアルコール離れ、飲み会離れについてはどう思われますか?
大きな課題ですね。個人的な感覚ではあるんですけれど、飲み会に行かないことによって、自分でお酒を選択するという可能性は増えたのではないかなと思っています。
いいお酒や地元で作られているものを「少し高くても一杯だけ飲みたい」という人は、数年前より増えていると思っています。そのぶん深く入り込みやすくなっている。もう少し知ってもらえる機会を増やしたいです。
本来お酒を飲める環境ではないところで、お酒を提供するというのもやりたいです。もしくは、お酒を扱っていないお店とのコラボもやっていきたいと思っています。
実際に今年のバレンタインデーのときに、バレンタインデー×ビールという企画販売をして、注目してもらえました。
贈り物やお祝いって、いつもよりいいお酒をあげたいし飲みたい。ビールに触れる接点は意外にたくさんあります。お酒に合うチョコやお酒に合うナッツなど、掛け合わせることで選択肢を広げる活動ができると思います。
お酒って映画や音楽のように、生活必需品ではないから、選ばれないことってあると思うんです。でも選べばそれに触れる接点になり、日常生活が少しおもしろくなるものだと思っています。
人生を豊かにするエンターテイメントの一部として、お酒やビールを手にとってもらえるようになればなと思います。
ー伏見さんは今後、挑戦したいことや目指したいことはありますか?
はい。他のお酒とコラボするきっかけをもっと増やしたいと思っています。ワインとか日本酒とか、ウイスキーに近い味わいのビールって作れるんです。例えばビールを作って、ウイスキーの樽に入れることで樽香がつけられたりするんですよね。
他にもワインで使っていたブドウをビールに使うとか、お酒のカテゴリーを越えたコラボができるんです。ビールって懐が深いんですよね。
ビールだけを作っていると知らない技術や原料があるので、掛け合わせることによってできる面白さとかユニークさを生かしていきたいなと思っています。
それから絶対に実現したいのは、ビールのツアーです。運転手付きの大きな車を借りて、ビールの醸造所を何カ所も巡るんです。工場の中に入ってビールを学んで、飲んで解散。1日でビール漬けになれます。
僕がビールに夢中になったきっかけは、近くにビールの醸造所があったからなので、現地に行って違いを感じて欲しいです。飲むお酒としてだけではなく、知って体感するという点で、これからもビールを知るきっかけを作り続けたいと思っています。
ーステキなお話をありがとうございました!伏見さんのこれからのご活躍も応援しております!
取材:丸山泰史
執筆:後藤ちあき(Twitter)
編集:杉山大樹(Facebook / note)
デザイン:安田遥(Twitter)