挑戦しやすい環境を作る。鹿児島のスタートアップを支援する村上将太郎が描く未来

起業を後押ししたイギリス留学

ーお父様が高専のご出身とのことですが、村上さんが高専に入学されたのもお父様の影響でしょうか?

父から直接高専を勧められたわけではありませんでしたが、若干幼い頃から刷り込みはあったと思います(笑)。そのひとつのキッカケが高専ロボコンかなと。

また、中学生のときには「起業しよう」と決めていたんですよね。ただ、エンジニアの方と話ながらモノ作りをするにはエンジニアリングの知識が必要だと思ったため高専に行きました。

ーまた、高専の5年生を休学してイギリスへ留学されたそうですが、その決断の背景が気になります。

前提として、高専は母校の小学校のようにイギリスに姉妹校があったわけではなく、行くならどうぞという感じでした。

そしてイギリス留学を決めた理由は3つあります。1つ目は、いろいろな方とお話をしていると、「10代のうちに様々な文化や人種であふれているヨーロッパには行った方がいいよ」と言われていたからです。

2つ目は、当時モータースポーツが好きでその世界にも興味があったため、「現地で聞き込みしたい」と思ったからでした。

最後の3つ目は、イギリスに多くのスタートアップが存在することと、モータースポーツシーンでも上位に入る国だからです。イギリス以外にもドイツが上位に入っているのですが、ドイツ語は話せなかったためイギリスにしました(笑)。

ーそうだったんですね!実際に留学してみていかがでしたか?

モータースポーツに関しては、最初の2ヵ月で多くの方々にお話を伺えて、自分のなかで諦めがついたというか、「これじゃないな」と思ったため気持ちに整理がつきました。

F1チームに入るまでの競争がかなり激しいため、それを勝ち抜いてチームにいる方は技術・精神力・パワー・情熱・賢さすべてを合わせ持った超人のような方が多かったんですよね……。

そこから他の分野の人たちとも会おうと思い、スタートアップやベンチャーの人たちとの交流も増やしていきました。スタートアップの方は、モータースポーツの方と違って完璧じゃない人間らしい方がすごく多かったです。

とにかくすごい方々が集まっていると思っていたため、その一面を見て「同じ人間なんだな」と感じました(笑)。ただ、みなさん尖っているところは尖っていました。

ー帰国の際はどのような心境でしたか?

調子に乗って自分でもできるだろうと考えていました(笑)。イギリスの名門大学出身でベンチャーやスタートアップをされている方々から「地方でもできるよ!」と背中を押してもらったのが大きいですね。日本に帰ったら、とりあえず学生でスタートアップするぞと思っていました。

また、当時はどの分野で取り組むかは正直あまり考えていませんでした。しかし、地元が鹿児島ということもあり、鹿児島のポテンシャルをうまく活かしきれていないことが気がかりだったんです。

そして「鹿児島をドラスティックに変えるにはどんなアプローチがいいか」を考えたところ、鹿児島を支える「第一次産業」を変えれば、雇用もお金も人材の流れも変わるのではと思ったため、第一次産業にフォーカスしたビジネスを構想することにしました。

鹿児島で生まれたたくさんの出会い

ー起業を考えてからは順調だったのでしょうか?

高専にいる頃から事業を始めていたため、事業でお金を稼げるようになるまではあまり問題がないのですが、スタートアップをしようと調べるうちに、知識も経験も全然ないと気づいてしまいました。

特に僕は農業分野のなかでも、既存の技術同士を組み合わせて現場で使えるものにしたかったため、様々な大学の先生や農業スタートアップをされている方々にお話を伺っていて。ただそのときに、自分の確固たる強みを言えなくて悩んでいたんですよね。

そこで、トビタテ!留学JAPANの制度を利用してオランダのワーゲニンゲン大学(農業でいうと世界1の大学)に研究留学することに決めました。もともと、そこで研究したシーズや経歴を持って起業しようと考えていたのですが、結局新型コロナウイルスの影響で行けず……。

そして最初に想定していた農業機械も含めたサービスというよりは、農業経営のサービスを考えてみたり、まったく畑が違うカーシェアリングのサービスを考えたり。とにかくいろいろなアイデアを考えては、起業家や投資家の方々に向けての壁打ちをしていきました。

ー鹿児島にいながらも起業家や投資家の方々と繋がる方法が気になります……!

鹿児島県内での出会いに限ると、鹿児島大学周辺でお酒を飲んだりご飯を食べたりしているときに、僕の話し声が大きいからか近くの方が話しかけてくれて繋がるパターンが多いです(笑)。それこそ今応援してくださっている社長さんや企業さんと出会ったのは飲みの場が多いですね。

それ以外だとイベントに参加しているのを見てくださって連絡をいただくこともあります。オンラインだとTwitterやFacebookなどからSNSで繋がることが多いです。

また、不謹慎かもしれませんがコロナ禍になってからオンラインで繋がれる機会が増えました。以前は直接お会いするために鹿児島から東京のような大都市に通うのが普通だったため、家からでもお話できるようになったのは地方勢からするとありがたいです。

ーこれまでで転機のような出会いはありましたか?

福岡にあるドーガン・ベータという「地方に根ざした投資」をポリシーに掲げるVCさんに所属する方との出会いが大きかったです。

彼との出会いが、現在の自分の周りに起業家を増やしていく支援者的な活動を始めるきっかけになりました。それが2020年末に彼を誘い一緒に開催したイベントです。3040人の定員で実際の申し込みは4050人くらいで、意外と興味のある人がいて驚きましたね。

そして、ドーガン・ベータさんとイベントの開催を決めてすぐにその旨をツイートすると、たまたま鹿児島市でインキュベーションに取り組まれている方がそれを見て、「市の取り組みにご協力いただけませんか」と声をかけてくださって。それから現在に至るまで鹿児島市さんと一緒にスタートアップ支援の取り組みをさせていただいています。