困難をパワーに。ヘアメイク&アイデザイナーの笹野めぐみが語る、美容が秘める力とは

障害の有無に関わらず美容を楽しんでもらう活動を始める

外部講師として授業をする笹野さん。
外部講師として授業をする笹野さん。

ーフリーランスを選択してからは、どのように活動していましたか?

資金が一切なく、いちから何かを始める方法もわからなかったので、追い詰められていました。

私は大家族で育ち、父母はお金で苦労したかもしれないですが、それを一切感じさせないくらい愛情いっぱい育ててもらい、心豊かに暮らしてこれました。そんな中で、大阪から京都へひとりで出て、初めて「生きるのってこんなに大変なんだ」と現実に向き合ったのです。

フリーランスになりたての頃は、どんなお仕事でも引き受けて無我夢中で働き、何度か過労で倒れました。忙殺される日々に虚無感でいっぱいになっていたとき、ふと「そうだ。私にはやりたいことがあったんだ」と思いました。

ー笹野さんがやりたいと思っていたことを教えてください。

障害福祉施設や特別支援学校などの福祉施設の方とつながり、障害者向けの美容福祉の活動に関わることです。そう思ったのは、私の兄に幼い頃から知的障害があるということが影響しています。

知的障害は、自分の体の成長に頭が追いつかなくなると、自分で気がつけない部分も増えていくのです。例えば、髭を剃ったほうがいいと言われないと剃らなかったり、美容室に行きなさいと言われないと行けなかったり、用意してもらった洋服しか着れなかったり……。

身だしなみや自立活動に関して教わる機会はなかなかないですが、障害の有無に関わらず、生きていくうえで知っておいたほうがいいですよね。近い立場から言いづらいことを、美容専門家という立場からお伝えできればと思ったのです。

ー福祉施設の方とつながることはできたのでしょうか。

自分がやりたいことをアウトプットしていると、知り合いの方から福祉施設の方を紹介してもらい、障害福祉施設で1年間外部講師として授業をさせていただけることになりました。

利用者さんの就職活動を応援するため、身だしなみの講座をさせていただいている中で生きがいを感じましたし、人に寄り添って自分が今できることをやるようになってから、いい人にしか出会わなくなりました。

ー美容福祉の活動は、現在も続けていますよね。

そうですね。コロナ禍でもできることとして、障害がある方のアート支援もしています。特別支援学校の生徒さんの絵をお店に飾っていただいたり、障害の有無に関わらず楽しめるアートのワークショップを企画したりしています。

実は小学生のときの体験も活動に起因しています。兄はよく絵を描いていたのですが、その絵は本当に素晴らしくて。友達から兄のことでからかわれたとき、「お兄ちゃんが描く絵はこんなにも才能にあふれているのにどうしてわかってもらえないんだろう」とくやしくなりました。当時のくやしい気持ちをバネにして、今活動できています。

一人ひとりに与えられたギフトを活かせる機会を作っていく

ー美容福祉での活動以外でも、マツエクサロンの運営もしている笹野さん。サロンにはどのような特徴がありますか?

私自身、8年ほど前にマツエクサロンで勤めていたときに、グルーが原因で重度のアレルギーを発症した経験から、アレルギーに対応した身体に優しいマツエクを使用しています。

100人中100人に効果があるわけではないと思うのですが、悩んでいる方10人のうち1人でも助けられたらという想いで運営しています。

ーサロンはおひとりで運営されているのでしょうか。

そうですね。お悩みを抱えている方が多いので、あえて1対1の空間で、身も心も委ねてお話できる環境を意識しています。

ー美容というと表層的なイメージがありますが、内面からサポートするのですね。

おっしゃる通りで、美容は外的アプローチのように思えますが、健康にも直結しているのです。他者ではなかなか届かないような、内面的な深い部分までアプローチできるのが美容の魅力だと思います。

ー笹野さんの今後の展望について聞かせていただきたいです。

私もそうですが、みんな生まれたときからそれぞれギフトをもらっていると思うので、そのギフトが活かされる機会をどんどん作っていきたいです。

また、自分だけで機会を作っていくには限界があるので、私の想いに共感してくれる仲間と一緒に協力して増やしていけたらうれしいですね。

私の活動を発信する機会を増やして、美容にはこんな素敵なアプローチ方法もあるんだと知っていただき選択肢を増やしていければ、仲間も増えていくのかなと思っています。

ー最後に、このメディアの読者へ向けてアドバイスをお願いします。

目の前に選択肢があるときは、自分に期待してあげてほしいです。私も自信をなくした経験があるからこそわかるのですが、自分に対して自信がなくても諦めない選択をすると、自分のギフトが活かされる環境に触れるチャンスにつながると思います。

選択をするには勇気が必要ですが、自分で決めないと意味がないので、自分に誠実に、責任がもてる選択をしていってください。

ー責任をもって選択をしたほうが、何かあったときでも立ち直れたりしますよね。本日はありがとうございました。笹野さんの今後のご活躍を応援しています!

取材:黒澤朝海(Twitter
執筆:もりはる(Twitter
デザイン:高橋りえ(Twitter