帰国後、自分のために生きようと決心。好きだった「デザイナー」を仕事に
ー中国では、つらい経験をされたのですね……。
そうですね。ですが、他人の意見を鵜呑みにして中国に行き、貴重な時間を浪費してしまった経験から誰かに描かれたロードマップを歩むのではなく、自分の意志で選択して人生を歩んでいこうと心に決めることができました。
とはいえ、中国から帰国後は貯金なし、スキルなし、コネクションなしの無職の崖っぷちの状態。リセットしてゼロからスタートしたいと思い、まずは日本に帰国することにしました。
ー帰国後は何をしましたか?
今度は自分の心に正直に生きようと心に決めていたので、死ぬときに何をしていなかったら後悔するか、何だったら寝食忘れて熱中できるかを考えました。
そこで、幼少期からずっと絵を描いて過ごしていたことを思い出したのです。絵を描くことのように、クリエイティブな仕事であればずっと続けられるなと感じ、デザイナーに興味を持つようになりました。
ーそこから、どうしてフリーランスになったのでしょうか。
どうやったら絵でお金を稼げるようになるかを考えたとき、方法は3つありました。1つめは、転職すること。2つめは学校に通うこと。3つめはフリーランスになること。
転職は、未経験からのスタートでスキルやポートフォリオが無いため無理でした。学校は、お金が無いので通えません。結果的にフリーランスになるしかありませんでした(笑)。
ー未経験でフリーランスになってからは、どのように仕事を受注しましたか?
2パターンあります。
1つめは、知人から仕事を発注してもらうパターンです。帰国したタイミングで日本でお世話になった方たちに挨拶に行き、「絵を描きたい」「デザイナーになりたい」と伝えてみました。
すると、Adobe製品の使い方すらよく知らない未経験なのにもかかわらず、仕事を任せてくれたのです。そこから必死でPhotoshopやIllustratorの使い方を学びましたね。
2つめは、ポートフォリオを作って仕事を発注してもらうパターンです。
デザイナーとして活動していくにはポートフォリオが必要だと感じましたが、当時の私には実績がまったくなく……。そこで、実績作りも兼ねてSNS上で「無料でデザインします。その代わりに、私のデザインを御社のSNSで宣伝してください」と呼びかけました。
そうすることで、未経験ながらロゴやバナーなどのお仕事を発注してくださる方が何人かいらっしゃって、少しずつ実績を作ることができました。また、実際にクライアントとやりとりをすることで、デザイナーとして仕事をするにあたって必要なコミュニケーション能力や技術なども学べましたね。
ある程度実績が溜まったタイミングでポートフォリオを作り、それを企業に持ち込んで営業をした結果、仕事を受注できるようになったのです。
ーフリーランスのデザイナーとしてさまざまな経験を積んでいく中で、inxRのメインであるXR領域にはどのような流れで着手するようになったのでしょうか?
お客さまからの3Dのモデリング(3Dグラフィックスで、立体物を形成すること)の依頼がきっかけです。
「キャラクターデザインからモデリングまで1人のデザイナーにやってほしい」と頼まれ、未経験でしたがやってみることにしました。未経験でも依頼を受けたらまずは受注し、勉強しながら作業する。この方法で経験を積み、VRやARも手掛けるようになりました。
XR領域に限らず、目の前にチャンスがあるなら、経験がなくてもチャレンジするようにしています。そうすると、できることがどんどん増えていって、自分が「好き」、「やりたい」と思うことの幅も広がっていくんです。
誰もが自分のやりたいことに挑戦できる世界を目指したい
ー小磯さんは、やりたいことを見つけ、それに向かって全力で進んでいる印象です。そもそも、やりたいことを見つける秘訣はありますか?
「今日が人生最後の日だとしたら、あなたはどう過ごすか?」と日々自分に問いかけています。この言葉はApple創業者のスティーブ・ジョブズの言葉らしいのですが、初めて聞いたときからすごく印象に残っていて。人生最後の日に「やりたい」と思ったことが、まさに今自分がやりたいことだと思うのです。
バングラデシュでの起業が志半ばにして倒れ、どん底だった私が自分自身にその問いを投げかけた結果「絵」が一番やりたいことでした。今は絵を描くこと以外にもスキルを身につけ、その分選択肢も広がったので、やりたいことも増えています。
やりたいことを見つけるには、「何がしたいのか」を自分に問いかけてみる時間が必要だと思います。
ーこれから小磯さんがやってみたいことはありますか?
誰もが、自分の人生を自分のために生きていけるような世界を実現したいと思っています。私にとって、どこの国で何をするかは手段でしかありません。自分の挑戦したいことを追求していきたいですね。
5年後は今の自分とは違う生き方をしているかもしれません。「この経験があるからこれを続けなきゃもったいない」という考え方ではなくて、「明日死ぬとしたらその前に何をするか」を常に考えて、その時にやりたいことを具現化していきたいです。
ーありがとうございました。小磯さんの今後のご活躍を応援しています。
取材:大庭 周(Facebook/note/Twitter)
執筆:きどみ(Twitter)
編集:仲奈々(Twitter)
デザイン:高橋りえ(Twitter)