様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第539回目となる今回は、大学生クリエイティブディレクターの西村海都さんをゲストにお迎えします。
社会課題をクリエイティブで楽しく解決する活動をしている西村さん。企業人事と組んで「Twitter就活」のムーブメントを世の中に広めたり、社会課題について学生が気軽に話せる場である「Do u know me」の運営などをされています。
Twitterのフォロワーは約7,000人に上り、影響力を持つ大学生として注目を集めている西村さんですが、「パッションがあれば道は切り開かれる」と語ります。西村さんは、どのようにして人生を切り開いてきたのか? そのストーリーをお聞きしました。
社会課題を、クリエイティブで楽しいものに変える
ー自己紹介をお願いします。
西村海都(にしむらかいと)です。「社会課題×クリエイティブ=エンターテイメント」という独自の方程式を掲げ、社会課題をポップに楽しく世の中に届ける活動をしています。
具体的には、誰もが気軽に社会課題を口にすることができる場を提供する「Do u know me」というコミュニティを運営しています。週1回、ZOOMで話すことができる場を作っているほか、オンライン上でいつでもどこにいても、社会に対する疑問や意見を投稿したりリアクションができる仕組みを作っています。
社会問題は、LGBTQの方への偏見、環境の汚染、選挙への参加率など、様々な問題を扱っています。1つの問題を深めることも大切ですが、相互に影響しあっていることもあるので、幅広く知ることも重視しています。
ーDo u Know me は、Z世代が社会課題について意見を発信できる場を提供しているのですね。
社会課題は、興味を持っていても自分の考えを発信するのが難しいテーマであるように思います。例えば、友達に話すと「意識高いね」と茶化されてしまったり、TwitterなどのSNSで発信すると心ない言葉が届くこともあります。
私自身がTwitterで発信した時に、誹謗中傷を受けた経験があり、問題意識を持っていました。だからこそ、Do u know meでは、どれだけ自分の意見と食い違っても相手を否定しないことを大事にしています。
異なる意見を持っていても、まずは相手の意見を受け止める。それをルールをにすることで、健全な意見交換ができるようにしています。心理的安全性の保たれたクローズドなコミュニティであることが大切です。
ーそのような温かい場であれば、意見を言ってみる勇気が湧きますね!
参加者の方からも「社会問題について、こんなにも笑顔で、同世代と話すなんて初めて」「とても楽しかった!」と言ってもらうことができています。
「工夫やクリエイティブを施すことによって、社会課題に関わることが楽しくなる」という狙いが達成されたことが分かり、とても嬉しい気持ちになりました。
「本当は意見を言ってみたい。でも怖い」という人がいる時、「そこを乗り越えるのは自分次第」という大人の意見もよく聞きます。しかし私は、多くの人が一歩踏み出せるきっかけを作る方が意味があるではないかと、参加者の方の声を聞いて感じています。
ーきっかけがあれば、今まで社会問題に関わりのなかった人でも、議論に参加することができますね。
その通りです。Do u know meは、社会課題に対して全く知識がない人も参加可能で、歓迎しています。知識がある人の意見も価値になりますが、知識が全くないからこそ見える視点も私たちにとっては大切だと考えているからです。
ーDo u know meは、「社会課題×クリエティブ=エンターテイメント」で、多くの方にきっかけを作っているのですね。この素敵なコンセプトは、どのようにして作られたのでしょうか?
ある日、原宿のタピオカドリンク店に行列が出来ているのを見ました。なんだろう? と思って見て見ると「選挙に行った証明書を見せると、ドリンクが半額になる」というキャンペーンを行っていました。
女子高生がこんなにも選挙に行っていることに衝撃を受けました。選挙という敬遠されがちなテーマであっても、クリエイティブで楽しさを付加することによって、こんなにも人の行動が変わるのかと気づきました。あの時の興奮は忘れられません。
その仕掛けは、クリエイティブ・ディレクターの辻愛沙子(つじあさこ)さんという方の取り組みでした。私はそれ以来、辻さんを尊敬していて辻さんが出ている番組やオンラインイベントを見たり、Twitterの発信から学び続けています。
ー楽しさを付け加えることにより、人のアクションを促すことができるのですね! Do u know me のホームページも「楽しさ」を感じるポップなデザインが印象的ですが、それも関係があるのでしょうか?
入り口の魅力という意味では、デザインもとても重要です。タピオカのキャペーンの事例も、タピオカ店の内装や、ドリンクのパッケージまでこだわり抜かれていました。
Do u know meのホームページも親やすさや、ポップな印象を意識して「難しさ」を感じさせないように努めました。デザインのスキルはもともとはありませんでしたが、独学で学び、現在も勉強を続けています。
パッションで道を切り開いた「Twitter就活」の仕掛け
ー西村さんは「Twitter就活」のムーブメントの仕掛けもされたとお聞きしました。これは、どのような取組でしょうか?
Twitter就活とは、その名の通りTwitterを活用した就職・採用活動のことです。これも社会の課題をクリエイティブで解決した事例の1つです。
具体的には、就活生が繋がり情報交換をしたり、企業が採用情報をTwitterで発信したり、就活生と企業がTwitterで繋がって選考に進んだりする仕組みのことを指しています。Twitterで発信している学生と、その発信内容を「いいな」と思った企業人事のマッチングを促す文化となりました。
2021年現在、就職・採用の新しい手法として浸透してきたことを感じ、就職活動におけるイノベーションを起こせたことを嬉しく思っています。
ー採用・就活に新しい選択肢を作ることができたのですね。なぜ、Twitter就活を広めようと考えたのでしょうか?
2020年5月頃、コロナ禍で会社説明会も軒並み中止、選考も延期になり「就活どうしたらいいの?」と困る人たちが続出しているのを近くで見ていました。
私は「社会問題をクリエイティブで解決する」という手法をいつも考えていました。うっすらと「Twitterで就活できるようにすれば、解決できるのではないか」というアイディアはあったのですが、何もアクションを起こせていませんでした。
しかしある日、就活に関するWEB番組を視聴していて番組コメント欄に感想を投稿した時のことです。私のTwitterのプロフィールに書いてあった「社会課題をクリエイティブで解決したい」という文章を読んだ方から「その取組を実現してほしい」というコメントをいただくということがあり、心が動きました。
ー応援のメッセージをもらうことができたのですね!
そこで一歩踏み出す決心がつきました。「Twitterで就活する」というアイディアを広めるには、学生側からの発信だけでは難しいと考え、企業人事の方にTwitteのDMでプレゼンを行い協力を仰ぎました。
元々繋がりのあった人事の方もいましたが、面識のなかった人事の方にもメッセージを送ります。もちろん断られてしまったケースもありましたが、最終的に7社の企業人事の方の協力を取り付けることができました。
具体的なアクションとしては「Twitter就活会議」や「Twitter就活weeeeeeek」というイベントを企画して、新しいコンセプトを広める活動を行いました。企業人事の皆さんには、人事のネットワークを活かしてTwitterでの採用を始める企業を増やしてもらい、ムーブメントを大きくしていきました。
ー素晴らしい行動力ですね! まったく面識のない人事の方にDMを送るのは、勇気がいることではありませでしたか?
少しの緊張はありましたが、過去の経験から「パッションがあれば、道は切り開ける」と信じていました。今回も同様に、メッセージに情熱を込めてお送りしました。結果として、人事の方に協力してもらえて就職活動に新たな選択肢を増やせたので、行動して良かったと心から思っています。
これは私の意見ですが、匿名の就活アカウントではなく実名顔出しで発信する方が良いと考えています。その方が信頼度が高まりますので、誰かにDMを送って繋がりを構築する際にも返信をもらえる可能性が高まります。
さらに、実名で活動した方が影響力も高まりますし、Twitter就活で築いたコネクションは社会人になったあとも継続する財産になると思っています。
大人しい性格から、はっきり意見を言うタイプに変化
ー「パッションがあれば道は切り拓ける」という価値観が、西村さんの道を切り開いたのですね! どのようにしてその価値観を身につけていったのか、ルーツをお聞きしていきたいと思います。
幼稚園の頃は、今とは真逆で引っ込み思案な性格でした。母のことが大好きで家から出たがらず、幼稚園に行った回数は両手で数えられるくらいです。1人だけ砂場で一緒に遊んでくれる子がいたのですが、その子がいなかったら友達もいなかったと思います。
ー今の西村さんのオープンな印象からは考えられないですね、
変わったのは小学校3年生のクラス替えのタイミングです。やんちゃな子と同じクラスになりました。彼の様子を見て、「あんなに自分の主張をオープンにして楽しんでいいのか」と衝撃を受けたことを覚えています。この時から、自分の意見をはっきりと発信するスタイルへと変化していきました。
ーそれが変化のきっかけだったのですね。中学・高校も性格は変わりませんでしたか?
キャラクターに磨きがかかり、より大きな主張をするようになりました。
学力は高校のテストで240人中238位になってしまうくらいだったので、開き直ってサッカーに打ち込みました。サッカーの本田圭佑選手がメディアに取り上げられることが多かった時期だったので、私もそれを真似して高校1年生の頃から「絶対に全国に行く」とビッグマウスな発言をしていました。
最初は冷ややかな目で見られていました。ただ不思議なもので、ビッグな目標を立てると、自然と自分の実力が上がり、その様子を見たチームメイトとの信頼関係も上がっていきました。
ー「まずは発信してみて、そのレベルに自分を持っていくスタイル」は、西村さんの今にも通じるものがありますね!
目標を立てて、それを宣言してから「どうすればそこに到達できるか」を考えるようにしています。そのスタンスのおかげで、目標にしたサッカー部のキャプテンや、文化祭の実行委員長などの大役も任せてもらうことができ、高校生活を謳歌することができました。
悔しさやパッション。心の熱量で道は開かれると知る
ー充実した高校生活を送られたのですね。大学へは順調に進学されたのでしょうか?
実は大学受験には失敗してしまい、浪人を決めました。サッカーや文化活動に力を入れすぎた結果、学力は3年間ずっと低いままだったのです。「名前を書いたら受かる」と言われるような大学にも落ちてしまい、ひどく落胆したのを覚えています。
友達がインスタのストーリーに楽しそうな大学生活の投稿をしているのを見て、18年間の人生で味わったことのない気持ちになりました。当時は「電車に轢かれて死んだらどれだけ楽だろうか」と考えてしまうほどに落ち込みました。
そこから脱するために勉強しなくてはいけない状況でしたが、どうしても遊び癖が抜けず本気になることができない日々が1ヶ月ほど続きました。しかしある時、転機となる出来事があったのです。
ーどんな転機があったのでしょうか?
予備校の先生に言われたのです。「お前、そんなんでいいのか? 浪人したことには何かの意味がある。この1年間は自分と向き合って今までの考え方や態度をすべて改めるべきだ」
言い返すことができない自分が恥ずかしく悔しくて、そこでスイッチが入りました。それからは覚悟を決めて「寝る時以外勉強」と決めました。LINEも返さないので友達に心配されることもあるくらい、生活を一変して勉強に打ち込みました。
苦手なことをし続ける日々は地獄のようでしたが、偏差値が底辺のところから逆転していく「ビリギャル」の映画を繰り返し見ては、自分を鼓舞し続けたことを覚えています。
ー悔しさを原動力に、苦手なことにも打ち込まれたのですね。
悔しさや反骨精神は自分のモチベーションの原点になることが多いように思います。その後、大学に受かることができて進学しましたが、第一志望ではなかったので自分としては100点の結果ではありませんでした。
「悔しい」「まだ自分は何も成し遂げられていない」そのような気持ちが、入学後も渦巻いていて、チャレンジできるものを探していました。予備校の先生と交わした「毎年、何でもいいから自分の記録を塗り替えていくこと」という約束も、自分を後押ししてくれたように思います。
入学当初は誘惑も多く、受験勉強漬けの反動もあって遊んでしまいそうになる自分もいました。でも悔しさや先生との約束があったので、自分は違う選択肢を取ることにしました。
ー大学1年生はどのように過ごす選択をされたのでしょうか?
教育系の事業を行う大企業でインターンをしました。「意識の高い学生がしていること=インターン」というイメージがあったので、挑戦してみることにしたのです。
まずは企業との接点を持とうと考え、その企業が開催していた座談会に参加しました。するとそこで、「この事業をもっと多くの人に届けるためにはどうすればいいか」という課題を解決するワークショップを行うことになったのです。
分からないながらに真剣に考えて、これだと思う企画を情熱をもってプレゼンしました。結果として、自分たちの企画は上位には食い込めませんでしたが「プレゼンに強い意志や、パッションを感じた。すごく良かった!」と評価していただけました。
このイベントをきっかけにご縁をいただき、その企業でインターンをすることになりました。この経験を通じて、情熱を持って意見を発信することが社会でも求められていることを肌で感じることができたように思います。
SNSで発信をスタート。行動がチャンスを引き寄せる
ー大企業でのインターン選考の経験を通じて「情熱をもって意見を発信すること」の価値を、再確認されたのですね。
社会にもっと意見を発信していきたい。そう思って大学2年生の時にTwitterの発信を本格的に始めました。何から発信するか考えた時、浪人時代の経験や大企業でのインターン経験談はきっと誰かの役に立つと思いました。
高校の友達などからそのテーマで相談を受けることもあり、ニーズがあると思ったのでそこから少しずつ発信を始めていきました。
ー最初はご自身の経験についての発信から始めたのですね。ジェンダーなどの社会問題について発信を始めたのは、いつ頃でしょうか?
社会課題との出会いも大学2年生の時です。ゲイの友達が就活で最終面接に行き、ゲイであることをカミングアウトしたら「理解できないから不採用です」と落とされたことを聞きました。その事実に驚き、悲しそうな友達の姿を見てこんな社会はダメだと感じました。
それからジェンダーの問題に関心を持つようになります。日本より海外の方がダイバーシティやインクルージョンの考え方は浸透していることを知り、積極的に海外のジェンダー観を学ぶことにしました。
それからTwitterでも発信するようになりました。辻愛沙子さんの取り組みを見て「社会課題をクリエイティブで解決する」ということができるのを知ったのもこの時期です。
ーゲイの友達の理不尽な経験を知って、社会課題の発信を行うようになったのですね。西村さんのTwitterフォロワーは約7,000人にも上っていますが、どのようにして大きな影響力を持つようになったのでしょうか?
実体験に基づくエピソードや共感を生む発信内容にしていること、社会への課題感などを発信していることが1つの理由かもしれません。
また、Twitterを始めて2ヶ月経った頃、ハフポスト日本版とTwitter社が作っている生配信番組「ハフライブ」に出演するチャンスを頂けたことも大きかったように思います。メディア出演の実績ができて、注目してもらえることが増えました。
ーハフライブに出演! 一体何があったのでしょうか?
当時、ハフライブに辻愛沙子さんが出演するということを聞きつけました。どうしても辻さんに会いたい! と思った私は、ハフライブの番組担当の方を見つけてDMを送り収録見学をさせてもらえないか頼み込んだのです。
すると……驚いたことにOKのご返信を頂きました。私は歓喜しながら収録に向かったのですが、そこでさらにビックリすることが起きました。なんと「番組に出てみる?」と誘っていただいたのです。
ー勇気を出して行動してみたら、思いも寄らないチャンスが舞い降りたのですね!
番組に出演したことで度胸もつきましたし、メディア出演の実績を得て影響力を強めることができました。断られるかもしれないという恥を捨てて行動して良かったなと心から思っています。
その後、Twitter就活の仕掛けやDo u know meの活動、そのほかにもたくさんの活動を行い、それを発信して影響力を増してきました。そして現在に至ります。
ーパッションで行動してみることで、これまでの道を切り開かれてきたのですね! 西村さんの物語からは勇気をもらえます。西村さんの今後の展望についても教えてください。
企業に就職するか新卒フリーランスで活動するかは検討中ですが、今後も「社会課題×クリエイティブ=エンターテイメント」という方程式を大事にしながら色々な企画を打ち出していきたいと思っています。
社会問題は「よく分からない」「難しい」といった印象もあると思います。だからこそ、エンタメの要素をいれることでポップで楽しいものに昇華していきたい。そうすることで、社会課題について興味を持ちアクションを起こす人が増えていくと信じています。
「見つけてもらうのではなく、見つかりにいく」「興味を持たれづらいなら、持ってもらうためにどうすれば良いか考える」そのスタンスを大切にして行動していきます。
ー西村さんが、これから仕掛けられるクリエイティブが楽しみで仕方がありません! 最後にU−29世代の皆さんへ、メッセージをお願いします。
意見を発信することは、怖さもあると思います。
例えば「生意気だと思われるんじゃないか」と思ったり。そんな時は、「いいやつさ」が解決してくれると考えています。結局は人と人とのコミュニケーションなので「この人を助けてあげたい」「支持したい」と思われるような、オーラを纏うことが大切だと考えています。
また「若い自分の意見は、経験値の多い人から見ると浅かったり間違っているのではないか」と思うこともあるかもしれません。確かに技術やスキルは自分よりも上の世代の方の方が勝っているかもしれません。しかし「視点」ついては年齢に関わらないものだと思っています。
大学生だからこそ観えること、U-29世代だからこそ観えるものに自信を持って、意見を発信していくことに価値があるのだと信じています。
ー若い世代であっても、臆することなく、発信することが大事なのですね!
若い世代の「視点」と年上世代の「技術」が混ざりあえば、きっと世界はもっと良くなると信じています。若者の方が良いとか、年上世代の方が良いという二項対立で考えるのではなく、お互いの良さを活かしながら協力していくスタンスがこれからの時代は大切になるのではないでしょうか。
社会課題は若者だけで取り組むものではないし、人生経験が長い人たちだけで取り組むものではありません。みんなで連帯感を持って取り組まなければいけない課題です。だからこそ世代を超えてコラボレーションしていく必要があると考えています。
社会を今よりもっと豊かにしていくために、これからも社会への発信とアクションを続けていきます!
ーU-29世代、それより上の世代が協力しあって、新たな時代を築いていくのですね。西村さん、本日は素敵なお話をありがとうございました!
取材・執筆:武田 健人(Facebook / Instagram / Twitter)
デザイン:高橋りえ(Twitter)
関連リンク Do u Know me / 西村さんの個人ページ