様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第381回目となる今回は、書道アーティストとして世界で活躍するJunpei Hagiharaさんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。
大学在学中から活動を開始したHagiharaさんですが、書道は全くの未経験。なぜ書道という表現方法にたどり着いたのか。そして作品を通して実現したいことは何か深堀りしていきます。
未経験だけど無縁じゃないーー書道を始めるきっかけと続けられたモチベーション
ーまずは自己紹介を含め、どのような活動をされているか簡単に伺えますでしょうか?
現在29歳。書道アーティストとして活動しています。書道を始めたのは20歳になってからで、特に誰かに師事することなく我流で自分のスタイルを探していきました。21歳の時から個展を開催して、ありがたいことに様々なエキシビションにもお招きいただいています。
2019年にはパリで作品を展示する機会に恵まれ、多くのクリエイターとコラボするきっかけとなりました。
2022年には、シンガポールの国立博物館にも作品を出展することが決まっていますね。
ーまったくの未経験から書道アーティストとしてのキャリアをスタートされたことに驚きました。きっかけは何だったのでしょうか?
そもそもは大学受験に失敗したという挫折経験が影響しているんです。第1志望の大学に行くことが出来ず、それまで支えてくれた両親や塾の先生を落胆させてしまった後悔から、「これまでの失敗経験をバネに、何かしらの成果を残して卒業してやる」と入学式の日、校門をくぐる時に決意したんです。
暇を持て余すことが嫌いという性格もあって、最初の1年は学業に専念しながらアルバイトを6つも掛け持ちしていました。2年生になったとき少し時間の余裕が生まれてきて、今まで挑戦できていないことで自分の時間を充実させようと思ったんです。
ーそこで出会ったのが書道だったんですね。
はい。何か自分を表現できることに取り組みたいと思っていたんです。当時はカメラを趣味とする人も大勢いましたが、「人口が多い分野に飛び込んでも、突き抜けることは難しい…競合が少なく突き抜けやすい分野にしよう」と考えました。
そんなとき、小学生の頃から好きだったEXILEの元ヴォーカル・清木場俊介さんの書道の作品を思い出したんです。清木場さんは、ご自身の価値観や思いを筆に託し、我流の書道作品として発信されていました。
私は小学校から中学校まで剣道をやっていたのですが、試合に望むために自分のギアを上げるような時に清木場さんが書いた言葉に励まされていたことを思い出したんです。
また、私自身も小さい時から字をほめられることが多かったんです。両親が達筆だった影響もあり、幼稚園の頃からひたすら両親の字をまねてきたからだと思います。
書道は自分に影響を与えてくれたものでもあり、自分が人に褒められるとい原体験に紐づくもの。だからこそ、自分も書道で人に影響を与えるような存在になれるんじゃないかと思い至ったんです。すぐに最初の筆を買いに行きました。
ーそれまで書道は未経験だったんですよね。二の足を踏むようなことはなかったのでしょうか?
基本的にやらない後悔よりやる後悔を優先して生きてきました。失敗という経験は財産でもあります。書道を始める時も、やってみないとわからないというシンプルな動機だったのではないでしょうか。少なくとも、売れなかったらどうしようとか悩むことはあまりなかった。やってみたいのにグダグダ踏み出せずにいることの方がダサいと思っていましたね。
今でもそうで、ネガティブに物事を考える時間ってめちゃくちゃもったいないと思っているんです。もちろんリスクヘッジして行動することは大事ですが、それとネガティブに考えることは違います。
むしろ、良いことが起こると想像したり成功している自分をイメージしたりしていれば、自然と良いことが引き寄せられる気がするんです。
スポーツ選手にも、そのようにポジティブな思考でプレーの品質を高めようとする人が多いと聞いたことがあります。私も人に喜んでもらうことをイメージすることがモチベーションになっていると思います。
ーなるほど、やってみたいというシンプルな想いに素直になることで、現在へ至るキャリアが拓かれていったんですね。一方で、それを続けることは決して簡単なことではないと思います。書道を続ける原動力になったような体験はあるのでしょうか?
書道を始めて間もないころ、携帯の待ち受け画像用に書を書いていたんです。「あなたが好きな文字や言葉を書にして待ち受けサイズにしますよ」って。結構口コミで広がって、たくさんの人の待ち受けに僕の書が飾られました。
当時はスマホがまだ普及していなくて、ほとんどの人がガラケーを使っていました。ガラケー時代の待ち受け画像って、今では考えられないぐらい皆こだわりを持っていたんです。
そんな時代にあって、大学の後輩が「僕は飽き性でしょっちゅう待ち受けを変えてきました。こんなに長く僕の待ち受けをジャックしたのは、Junpeiさんの書が初めてです」って言ってくれたんです。
人の日常に僕の書が入りこんでいること。そして、その人の日常にわずかでも影響をあ与えているんだという実感を得たことが大きな手応えになったんです。
目標を口に出してこそ叶えられることがある
ーHagiharaさんの、実行力ともいえるエネルギーはどのように身についたと思いますか?
まずは、小学校から中学校まで続けた剣道の経験が生きていると思います。全国優勝を本気で目指すような強豪道場に所属していて、とにかく目標に向かってひたすら努力するという体育会系気質が自然と身に付きました。おかげで大阪府代表として全国大会入賞の成績を残すことができました。
もう一つは昔から好きだったEXILEの影響ですね。影響を受けすぎて、彼らのドキュメンタリー番組もVHSが擦り切れるほど見ていました。パフォーマンスだけでなく、彼らの普段の姿を通して学んだのは、お客様のために普段から何をするべきなのか考え、議論し、すべきことや夢を口にして、それを叶えるために必死に努力しているのだということ。一流とも言える彼らがそのようにストイックなら、私もそうでなければいけないと思ったんです。
私も目標を口にするようにしています。宣言したことに対して努力をするという経験をしているかどうかは、人生に大きな差を生むものでしょう。もちろん成果を残すべきですが、万が一実現できなかったとしても約束を守ろうとする努力をすることが人として大事なんです。
ー目標を口に出して実行するってとても大変ですよね。
ハードルが高いとは思っています。宣言したことで、嘘になってしまうことだってありますからね。
ただ、意外と自分が宣言したことなんて周りは覚えていないものなんです。よっぽどの有名人でワイドショーに取り上げられるような人物ではない限り。だから、ある意味ドライに考えるといい。自分自身に宣言したことが実現できなくても、叩かれたり縁を切られるようなことはないんです。失敗した時を考えず、とりあえず宣言してみることも大切でしょう。ただし成果を出すための努力は絶対に怠ってはいけません。
ー宣言することで周りからどう見られるかを気にするのではなく、宣言することで得られるエネルギー、モチベーションを大事にされているんですね。
特に日本人は周囲の目を気にしすぎていると思いますね。人とは違うことをせず、足並みをそろえることを美徳とする文化で育った人が未だに多い。自分がいいなと思ったことでさえも、周囲の目を気にして実行できないでいる。一度吹っ切れてしまえば、気持ちは楽になると思うのですが…。
ー出る杭は打たれる風潮は確かにあるかもしれません。萩原さん自身そういう経験はないのでしょうか?
むしろ、人と違うことをポジティブな個性と捉えられる感覚を両親に育んでもらったと思っています。特に両親は協調性を持ちながらも人と差別化をはかることが得意でした。
小学生に入学する時、私のランドセルに緑色を勧めてきたのですが、「ちょっと人とは違うランドセルを背負うだけで注目されるし、違う見られ方をするからいいんじゃない?」と言うんですね。
だから僕はランドセルを他の男の子と同じ黒色にしたいと思ったことは一度もないし、人と違う色が自分のアイデンティティだと思っていたんです。
書道だけど書道じゃない。自分だけの作品で人を救いたい。
ー近年の活動についても伺いたいと思います。最近ではどのような作品を発表されているのでしょうか?
現在の活動で軸としているのは、書道をベースとした新しい現代アート作品を発信することです。書道にも見えるし、アートにも見えると捉えてもらえるような作品を目指しています。
インスタを中心に作品を発表しているのですが、最近特に反響があったのは誰もが良く知っているひらがなをすべて反転させて作品に落とす「ひらがなリフレクション」という取り組みです。
例えば、ひらがなの「あ」って誰でも書けますよね。ただそこには書き順など一定のルールが存在します。なぜ書き順を逆にしてはいけないのでしょう。横棒を書くとき右から左へ筆を走らせたっていいじゃないですか。
つまり「ひらがなリフレクション」は、常識を疑うことを裏テーマに、ひらがなをアート作品とする試みなんです。大事なのはグラフィックとしてかっこよかったり、可愛かったりすること。そういう軸で文字を見ると新鮮な体験を得られると思いました。
とある彫師の方からは「タトゥーとして彫ったらかっこいい」と評価していただきましたね。自分の作品がタトゥーのデザインとして見られるなんて思ってもいなかったのですが、それは書道の枠を超えたグラフィック作品として捉えていただけているということでもあります。手応えを感じましたね。
ー既存の書道の概念にとらわれない作品を目指すことで、萩原さんのフィールドも広がっていくんですね。
作品そのものを好きと言っていただけることも嬉しいのですが、「あなたのスタンスに惚れている」といって応援してくれる人もいるんです。アーティスト冥利に尽きますね。
自分が良いと思ったものを大事にしてくれる、共感してくれる人がどれだけいるかがアーティストとしては重要と思っています。
ー自分が何を大切にするのか、どんなスタンスを取るのか悩む人もいます。Hagiharaさんはそのような軸をどう見つけたのでしょうか。アドバイスはありませんか?
振り返れば自分がワクワクできるかどうかを判断基準にしてきたのではないかと思います。昔から無心になってできたこと、没頭できたことが何かを振り返れば自然と軸は見えてくる。個人的には軸を探さなきゃと焦るほど、大切なものに気付けないと思うんです。
あるいは、親に聞いてみるのも良いのではないでしょうか?自分の一番の理解者は絶対家族
だと思います。気恥ずかしさから聞けない人は多いでしょうが、親は子供のことをしっかり見てくれているものです。案外、自分の軸となるような意外な一面が見つかるかもしれません。
ーありがとうございます。最後に今後の展望を伺っても良いでしょうか?
実は最近、自分のビジョンを見直すようなきっかけに恵まれたんです。最近流行っている音声SNSの「Clubhouse」で、ありがたいことに大勢のアーティストやクリエイターとの面識を得ました。中には特定のジャンルで一流と評価されるような方も少なくなく、彼らと対話することである気づきを得たんです。
それは、一流の人はビジョンがとてつもなく大きいということ。聞く人によっては笑ってしまいそうなほど大きな夢を平然と語れるんです。そしてそれを本気で実現しようとしている。
私も長年、自分の作品で人を喜ばせたいと考えてきましたが、もっと大きな夢を持ちたいと思うようになりました。
折しも世の中はコロナショックによって大勢の方の命が危険にさらされている時でもあります。医療従事者の苦悩や、無くなった感染者の話を聞くたびに何かできることはないかと考えていたんです。
大きな夢を持ちたいという想いと、苦しむ人の助けになりたいという想いを抱え込んだとき、やはり思い出したのは僕に書道を始めるきっかけをくれたEXILEでした。
EXILEのメインヴォーカルだったATSUSHIさんが、「自分の歌で誰かを救いたい」と言っていたことを思い出したんです。これだと思いました。私も作品を通して人を救いたいと思ったんです。
突拍子もなく、因果も説明つかないような夢かもしれません。ただ、これまでもそうだったように、臆さず口に出し続けることできっと叶うと信じています。そういう気持ちで発信する作品には、例えば病気の人の何かを変えるような、生きることに悩んでいる人の支えになるような力が宿ると思うんです。
そんな作品を今後も作り続けたいと思います。
ー本日はありがとうございました!Hagiharaさんのさらなる挑戦を応援しています!