“食べる瞑想”を通して、Zen Eatingももえが伝えたい「自分の手の中にある幸せ」とは

今は第一線で活躍しているビジネスリーダーの方に、10~20代の頃のまだ何者でもなかった頃から、現在に至るまでのストーリーをお聞きする連載企画「#何者でもなかった頃」。今回は、Zen Eating代表のももえさんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。星野リゾートのウェルネス担当、インド移住、クックパッドへの入社を経て、Zen Eating代表として独立したももえさん。忙しい現代社会を生きるU-29読者にこそ届けたい「頑張らなくていい、手の内にある幸せに目を向けよう」というメッセージの真意を伺いました。

食べる瞑想とは「心と体の休息」

ーはじめに、今のお仕事内容を教えていただけますか。

Zen Eatingを創業し、運営をしています。Zen Eatingとは「食べる瞑想」――マインドフルネスを食べながら体験する時間をご提供しています。

個人向けにZoomでセッションをしたり、サブスクリプションとして音声やお便りをご用意したりして、Zen Eatingがある豊かな毎日をお届けしています。法人向けには企業研修として、マインドフルネスやウェルビーイング、チームビルディングを目的にZen Eatingの食べる瞑想のワークをご提供しています。

ーZen Eatingの前と後では、皆様どのような感じ方の変化があるのでしょうか。

Zen Eatingは食べながら瞑想を行うので、例えば、舌の上に食べ物を乗せてしばらく噛まずに置いてみましょう、目を閉じて香りや食感を感じてみましょうなどと提案します。そうすると、食べ物が味わえている自分の体――例えば唾液が出たり、飲み込んでくれたり、胃が消化してくれたりするのを感じながら食べることができます。

ただリラックスするだけではなく、今自分がここに生きている喜びや幸せを感じられる体になっていきます。Zen Eatingの後も「物事に対して感謝の眼鏡で見られるようになった」「食べ物があるだけでありがたい」といった心境の変化があったとの声をいただきます。

ー食べるというシチュエーションにおいて瞑想を行なって、そこで得られたものは他のシチュエーションでも活きてくるということですね。

そうですね。私が元々「毎日必ず30分瞑想する」など、パッケージのような方法が苦手でした。その分、1日1回でも1週間に1回でも、食べる前に深呼吸をしたり、お箸を置いて「いただきます」とゆっくり言ってみたりすることなら日常に取り入れやすいと思って始めました。

食べる時間を自分の心と体の休息の時間、余白の時間と位置づけると、食卓を離れたところでも落ち着いて自分の心が見えている状態で生きられるようになります。

衝撃だった禅との出会い

ーこれまでのお話の中にも通ずる「足るを知る」感覚に気づいたきっかけがあったのでしょうか。

一番のきっかけは、父が14歳のときに事故で突然他界したことです。とてもショックでしたが、当時は落ち込むのが恥ずかしいと思う自分もいました。母があまりにも悲しんでいるのも見ていたので、自分が元気でなくてはいけないとも思っていて、そのギャップに苦しんでいました。

1年ほど経ってから、修学旅行の事前学習で「吾唯足知(われただたるをしる)」という禅の教えに出会いました。私はその言葉を見たときに、雷に打たれたような美しいものに出会ったような気持ちになりました。

何もかも欲しがるのではなく、今持っているものの美しさに目を向けるという意味の言葉です。当時の私は、周りに友達がいっぱいいて色々な新しいことや楽しいことに日々出会っていました。勉強や部活などの習いたいことや頑張りたいことが目の前にあって、やりがいや目標に迎える幸せがあることに、この言葉から気づかされました。

ーなるほど。当時学校が大好きだったとのことで、どのような学生時代を過ごしましたか。

友達と校庭で遊んだり、地域のパーティーに積極的に参加したりと明るい子供でした。一方で、本音を言えない、いじめられたくない気持ちが常にありました。友達と摩擦が起きないように、テストで満点を取ってもあえて点数を隠したこともあります(笑)。

昔から心の中に陰と陽のどちらも同じくらい持っていましたが、陰を隠して、陽を前面に出していました。精神探求や「吾唯足知」を美しいと思っていても、友達に共有できなかったので、内に秘めて一人で探求していました。

母の病気をきっかけに、食と健康に目覚める

ーその後、17歳で食と健康への興味が湧いたとのことですが、何かきっかけがあったのでしょうか。

一番大きかったのは、私の母が10年以上リウマチを患い、日常生活を痛みのためにほとんど横になっている状態で過ごしていたことです。私が17歳の頃に、薬の量が増えていくことを危惧した母が自分で何かできないかと思い、シンプルな食事に変えて散歩に行くようになりました。すると見る見るうちに元気になったんです。そこで食べ物と健康の関係の深さを感じました。

ー14歳で出会った「吾唯足知」の時から、精神探求は続いていたのでしょうか。

そうですね。高校時代のイギリス留学で、ジャマイカ移民三世のお宅にホームステイした際に、現地の葬式に立ち会った経験も大きいです。そのお宅では故人と涙でお別れするのではなく、クラブミュージックを一晩中流して歌って踊りながら、楽しそうにお別れしていました。

父が亡くなった際に日本の仏教の粛々とした葬式も経験していたため、地域や文化による死生観の違いには衝撃を受けましたね。大学へ進学後は、興味のあった比較宗教や比較思想を学んだり禅の研究をしながら、食事の勉強としてマクロビオティックの料理教室にも通っていました。

好きな仕事と自身の健康との間のギャップ

ー大学卒業後、就職をされた際のお話をお聞かせください。

新卒で株式会社星野リゾートに入り、ウェルネス担当として働きました。日本の精神性や文化をマーケティングに乗せて世に出し、日本や海外の方にその価値を伝える仕事内容です。

ーウェルネス担当という役職名がとても印象的ですね。

当時は満月ヨガや温泉瞑想を開発して、現場でお客様に提供していました。現在ではなじみのあるデジタルデトックスも、星野リゾートはいち早くサービスに取り入れて、滞在中はお客様の携帯電話やパソコンをお預かりして施設の中で日常から離れられる空間を作っていました。

ーご自身も健康面には気を遣っていたのでしょうか。

実は長時間労働だったため、体調には不安を抱えながら働いていました。当時の仕事内容がやりたいことだったので仕事中は楽しかったのですが、休みの日は疲れ切ってしまい何もできず、自分のことを落ち着いて考える余裕がなくて……。

「ゆとりの時間を持ちましょう」とお客様に伝えていましたが、自分自身にゆとりの時間がないことも自覚していました。

移住先のインドで出会った新たな価値観と修行

ー一生懸命働いていた中で、インドに出向こうと思ったきっかけや経緯をお聞きしたいです。

旅行でインドを数回訪れており、いつかインドに住みたいと常々思っていました。日本では自分の人生をどうにかコントロールして少しでも良くしよう、1円でも多く稼ごう、1分でも短縮して効率よく生活しようと、常に焦る自分がいたと思います。

そんな自分と比較して、小さなことに一喜一憂せずゆっくりと生きるインドの方々を見て「実際にその土地に住まないと彼らのメンタリティを深く理解できない」と思い移住を決断しました。

ーインドでは薬膳やヨガを学び、「修行が趣味」と自覚し始めたそうですが、そう思った理由を聞いてもよろしいでしょうか。

インドでは携帯も持たず、水道やガスも通っていないココナッツ畑の中で生活したこともありました。今まではなくてはならなかったものからあえて離れて不便な中で生活することで、自分が怖い、不快だと思っていた環境を受け入れられるようになりました。修行とは自己変容だと気づき、自分の限界が広がっていくのが面白くなったからです。

たとえ日本にいてチャレンジしにくい環境にいたとしても、無理だと思うことをやってみよう、怖いと思うこともやってみようと思えるようになりました。私はインドに行った前と後で、修行を通じて世界が鮮やかに見えるようになりました。

Zen Eatingの始動と感謝の循環

ー帰国後はすぐにZen Eatingの開発を始めたのですか。

帰ってきてしばらくはクックパッド株式会社で1年ほど働きながら、パラレルワーカーとして外国の方に「ヘルシーな和食を教えて丁寧に食べる」料理教室をしていました。学生時代の留学やインドでの滞在で感じた、育った背景が異なる方と接することの面白さを日常的に味わいたかったからです。それがZen Eatingのルーツになっています。

その後、ご自宅でのいつもの食事を丁寧に食べられるように、オンラインで英語でのプログラム提供から始まり、続けて日本語で同じ内容のものを提供しました。

ー始めたばかりのころに受けた外国の方はどのようなリアクションをされましたか。

最初のお客様は、手術後でこれから健康に気を付けたいというメキシコの方でした。外国の方は日本に対して、神秘性・ミステリアスという印象を持っています。また、スティーブ・ジョブスが禅を行なっていたので「かっこいい、穏やかそう、平和的」とのイメージも抱かれるようです。丁寧に食べることにも興味を持って取り組んでおられました。

ー食べる瞑想を行うなかで、重要な点はあるのでしょうか。

ゆっくりと食に向き合うことが、体の燃料になり、心もリフレッシュしてエネルギーをもらえると思います。例えば仕事や生活の中で感じる疑問や焦りが積み重なっていくと、大きな疲労になりますよね。食事のひとときに一時停止の時間をとって自分自身と向き合う余白の時間を作ると、自分一人で頑張らなくていいと気付くきっかけになります。

さらに、余白を持つと自分を支えてくれる存在へ感謝する余裕が持てるんです。人に優しく自分にも優しくできると、自分の身の回りにある幸せや豊かさが増していく良い循環となると思います。

ー日常にあるものに対して自分がどう捉えて、どう心に栄養を届けるかということでしょうか。

そうですね。今の時代は情報や食べ物など、何もかもがあふれています。余白があれば、感度が鈍って自分の体の声が聞こえなくなっていたことに気が付き、もっと自分のために時間を取れると思います。

ーもし20代に戻れるとしたら、ウェルネス担当のときのご自身にどのような言葉をかけてあげますか。

当時の焦りと悩みに囚われていた私には、「そのままでいいよ」と伝えたいですね。禅には「大安心」という言葉があります。自分の全てが不安で苦しい状態ではなく、安心している前提があって苦しみの一部分を持っているという意味です。全部が苦しみだった時代があったからこそ、大安心の意味に気が付けました。

ー忙しい日常を過ごす中で、自分のやりたいことや目標を見つけることに悩む方へメッセージをお願いします。

禅を通じて、私は物事をとらえる視点が大きくなりました。人は何かの循環の中の一つだから、肩の力を抜いて頑張りすぎなくて良いのです。「目の前や手の中にある幸せに目を向けようね」と、皆さんにお伝えしたいです。

ーありがとうございました!Zen Eatingの取り組みは、普段の生活では忘れがちな余白の大事さや自分を知るきっかけとなるものだと思います。ももえさんの今後のご活躍を応援しております!

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インタビュー:山崎貴大(Twitter
執筆:伊藤沙織
デザイン:高橋りえ(Twitter