目指すのは明るい未来。画家・大嶋玄が繋ぐアートの可能性

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第463回目となる今回は、画家の大嶋玄さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

「明るい未来」をテーマにアート街プロジェクトや個展、アート授業特別講師など、幅広い活動を行っている大嶋玄さん。自分自身の“アート”を確立するまでの苦悩や挫折、出逢いについて語っていただきました。

「将来はTシャツ屋さんになる!」落書き少年だった中高時代

ーまずは自己紹介をお願いします。

画家の大嶋玄です。『アートは世界を救う』を信念に活動しています。

メインの活動は貧困地域の道や壁にアートを施して、観光地化を目指すという「アート街プロジェクト」です。他にも、海外でアート授業特別講師をしたり、個展を開催したり、キャラクターデザインやロゴ制作などの活動も行っています。

ー現在、幅広いフィールドで画家として活躍されている大嶋さんですが、どんな子供・学生時代を過ごされましたか?

調子乗りでした(笑)。

中学生や高校生の頃って、クラスに一人は絵を描くのが上手な人がいますよね。それが僕でした。黒板や机に落書きをしていると、「玄ちゃん絵うまいな!すごいな!」ってみんなが褒めてくれて……。

そこで、自分の絵でお金が稼げるんじゃないかと思い、Tシャツを作ることにしたんです。

今でこそ自分のデザインのTシャツを簡単に作れる時代になりましたが、当時は製作サービスもそれほど普及していませんでした。それに加えて、自分の画力やデザイン力に絶対的な自信があったので「絶対売れる!これは稼げる!」と確信していたんです。

実際に地元の工場を訪ねてTシャツを作り、結果的に約300枚の売り上げがありました。「将来はTシャツ屋さんで生きていく!」と意気込んでいましたね。

ー300枚も!それはすごいですね。

自分でも「すごい!」って天狗になっていました(笑)

でも、よく見ると2枚目を買ってくれる人がいなかったんです。そこで初めて、僕のデザインが好きだからTシャツを買ってくれたんじゃなく、「友人の玄ちゃんがつくったから」「後輩の玄が作ったから」「先輩の玄さんが作ったから」という信頼の元で買ってくれたのだと気づきました。

特に学校がは1つの社会みたいなものなので、信頼関係が築きやすいです。その社会から一歩外へ出たときに、自分のTシャツは売れないんじゃないかってことに気づかされた経験でしたね。

自分には才能がない。ただの自己満足だったアートへの挫折

ーその後、大嶋さんは一般の大学に入学されましたが、芸術系の大学を選択しなかったのはなぜですか?

Tシャツ屋さんになる夢が崩れ落ちたとき、正直どうしようかと迷いました。

友人からは「玄ちゃん芸大いかんの?」と言われましたが、才能がある人間はどこにいても花開く、と思っていたので……(笑)。

もともと、勝負をする気質じゃなかったこともあり、当時の実力で入れる大学を選択しました。それでも、「アートが好き」「アートを続けたい」という熱い気持ちは消えなかったんです。

そこで、本場のアートがどんなもんか見てやろう!と思い、2年間のアルバイトで80万円を貯めて、イギリスやフランスに行くことにしました。

ーアートの本場であるヨーロッパに!本場のアートを見ていかがでしたか?

作品がすごかったのはもちろんですが、僕の描く絵と決定的に違ったのは鑑賞者の反応でした。ピカソやモネの絵を見た鑑賞者の方たちが、涙を流したり、吐息を漏らしていたり、叫んだりしているのを見て、「アートは鑑賞者がいることで初めて成り立つものなんだ」「これが本当のアートなんだ」と感じました。

今まで僕はどうやったら上手に描けるのか、どうやったらみんなに褒めてもらえるかというスタンスで絵を描いていたのですが、これは完全に自分軸です。その瞬間、人間としてアートを生み出す才能がないんだ、終わった、と思いました。

これが僕の人生での大きな挫折体験です。

さまざまなご縁が繋がり、自分のアートが評価される

ー挫折を経験したあとは、どのように過ごされていましたか?

気持ちを切り替えて就職活動の準備をしていました。アートからも少し距離をおいて、銀行員を目指すためのお堅いゼミに入りました。先ほども言った通り、勝負をする気質ではなかったので、才能がないのにアートを続けるという選択肢はなくて……。

でも、ゼミの教授が「最近アートしてないらしいやん。好きなことは続けておけよ」って言ってくださって、デザインのお仕事を持ってきてくださったんです。

ー教授がお仕事を紹介してくださったんですね!

はい。お仕事をさせていただいた会社の部長が、大丸心斎橋店で開催される“ART stream(アートストリーム)”というアートの大会に出てみないか、と誘ってくださいました。

ART streamは選考に通過したアーティストだけが出展できる大会で、プロのアーティストも多数参加します。誘われたので挑戦したところ、選考に通過。そこで、触ったり、音がしたり、匂いをつけたりした、五感から体感できる“五感アート”を出展し、鑑賞者の投票で決まるオーディエンス賞を受賞しました。

ーそこからアート街プロジェクトに繋がったきっかけはなんでしょうか?

ART streamでオーディエンス賞を受賞したことで、僕の名前がネパールを支援している団体の耳に入ったようで、「力を貸してくれ」と頼まれました。ロゴやTシャツのデザインをしてほしいとのことでしたが、そんなことでネパールの貧困問題は何も解決しないだろう、と感じたんです。

そこで、アート街プロジェクトを提案し、ぜひやろう!ということになりました。しかし、就活も控えているため、じゃあ今から行きます!というわけにはいかず……。色々と悩みました。

新たな出会いから「アート街プロジェクト」の実現へ

ー就活をやめてネパールに行こうと思ったきっかけについて教えてください。

これもご縁あっての話になるのですが……(笑)。

ある休日、僕は友人と遊ぶ約束をしていました。でも、その友人が別の友人と予定をブッキングしてしまったんです。結局、僕と友人とブッキングしたもう一人の友人で遊ぶことになりました。

実はそのブッキングしたもう一人の友人が、今、僕のマネージャーをしてくれているんです(笑)。当時、初対面でしたが、アート街プロジェクトに興味を持ってくれて、一緒にやりたいと言ってくれました。

すぐにその友人とネパールへ視察に行きましたが、現地は僕らが想像していた以上に過酷な現状で……。ネパールの貧困問題を自分の目で見たときに、僕の絵が誰かの希望になるのではないか、書くだけで救われる方がいるんじゃないか、と思いました。

現地の人と話をする中で、将来的な問題解決のために力になれることがあると感じ、1年後にアート街プロジェクトを開始することになったんです。

ーご縁が繋がった結果、実現できたプロジェクトなんですね。アート街プロジェクトについて詳しく教えてください。

貧困問題を抱えた地域の壁や道にアートを施して、アート街にすることで観光地化しようというプロジェクトです。

偶発的ではありますが、他国での成功事例もあります。例えば、台湾の彩虹眷村やインドネシアのカンポンペランギ村はアートによって村が観光地化し、貧困問題を解決できました。

街を観光地化することで、観光客が訪れて、地域の経済を活性化させてくれますよね。多くの人が注目することでSNSなどでも話題になり→それが広まって→経済が回るというサイクルを、偶発的ではなく意図的に、より効果的に行おうというのがアート街プロジェクトです。

ー効果的に、というと?

発展途上国は先進国の重圧から苦しんでいると言われています。それは間違いなく存在する問題です。しかし、発展途上国にいる当事者たちも、自分たちで発展を目指す姿勢は失われつつあると感じていて……。

先進国から支援を受けるだけの受動的な姿勢は、貧困問題を悪化させる一つの問題なんじゃないかと思います。アート街プロジェクトで多くの観光客が訪れれば、自分たちの街に観光客が来るイメージができるじゃないですか。

どうやったらたくさんの観光客がきてくれるだろう、どうやったらお客さんに満足してもらえるだろう、どうすれば経済が回っていくだろうって現地の人たちが工夫をするようになります。

僕たちがアート街を作り上げるのではなく、一緒に作り上げていくイメージですね。

もし僕たちがいなくなっても続いていくような文化を作りたい。そうすることで、貧困問題を根底から解決できるんじゃないかなって思っています。

目指すのは明るい未来。そのために輪を広げていきたい

ーアート街プロジェクトにゴールはあるのでしょうか?

僕たちが“アート街を作らなくてよくなった世界”がゴールだと思います。

台湾の虹絵村だったり、インドネシアの村だったり、僕たちが作ってきたアート街だったり……。アートで貧困問題が解決された事例を世界中の人に知ってほしい。ペンキ一つで明日にでも貧困が解決されるかもしれないという可能性を知って、自分たちで筆とペンキをとってほしい。現地の人たちが現地の人たちだけでアート街を作ってほしい。

そうすれば、唯一無二のアート街が世界中に広がって、僕たちがアート街を作るところがなくなりますよね。そして、僕たちが観光客として色々なアート街を回ることがゴールなのかなって思います。

ー大嶋さん自身の今後の展望を教えてください。

今、気づいたら仲間が集まって、色んなご縁からここまで歩いてこれました。

明るい未来に向かって、アートで世界を作り上げ、輪をどんどん広げ、気づいたときにはみんなで同じ未来を目指していける世界になればいいなと思います。

僕はその活動の頂点になりたいわけではなく、そういう世界が実現できるようみんなと走り続けたいです。

今後、アート街プロジェクト以外のプロジェクトも企んでいこうと思います!

ーありがとうございました!大嶋さんの今後のご活躍を応援しております!

インタビュー:大庭 周(Facebook / note / Twitter
執筆:ともだ(Twitter
デザイン:高橋りえ(Twitter