様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第500回目となる今回はSoft. Guest Houseオーナーの大塚誠也さんをゲストにお迎えします。
Soft. Guest Houseは、建物(ハード)がないゲストハウス。新卒で建物を持つ資金がなかった時、それでもゲストハウスの価値を届けたいと思った大塚さん。今までになかった事業モデルを作りだし、新しい時代の「働き方」「暮らし方」「コミュニティづくり」を考えるイベントを年間100本以上企画・運営しています。
その原点は、世界を巡る旅で気づいた「生きる意味」にありました。大塚さんは何に気づき、そして新卒フリーランスの道を選んだのか。そしてどう苦難を乗り越えたのか、そのストーリーをお聞きしました。
冒険と創造をテーマに年間100本以上のイベントを企画
ー自己紹介をお願いします。
大塚誠也です。ハード(建物)を持たないソフトだけのゲストハウス「Soft. Guest House」のオーナーをしています。
事業には2つの柱があり、1つ目が「場づくり」です。具体的には、年間100本以上のイベントの企画・実施・ファシリテーションを行っています。自主企画に加えて、他のプロジェクト主催のイベントのコンテンツ作りの支援も行います。
もう1つの柱が「世界観づくり」です。デザインのスキルを活かして、ロゴ作成やバナーデザインにとどまらず、クライアントの方が実現したい世界観をビジュアル化するサポートをしています。
ー年間100本以上!3日に1本という高頻度でイベントを運営されているのですね。どんなイベントをされているのでしょうか。
「冒険と創造」をテーマに、新しい時代の「働き方」「暮らし方」「コミュニティづくり」を考えるワークショップを開催しています。
例えば、多様な働き方を知る「ぶっとびキャリア」や、コミュニティ作りをしたい人が気づきを得られるイベント「つながり方改革」、「コリンビング」「地方移住」のような新しい暮らし方について考えるワークショップなどを開いています。
ぶっとびキャリアでは「うどんアーティスト」のような「どうやってお金稼いでるの?」と聴きたくなってしまう面白いキャリアの人に話を聞いたり。他のイベントでは大学の教授に出演いただいて議論を交わしたり、参加者の方も多岐に渡っています。
ーテーマも出演者もユニークで、気づきの多そうなイベントばかりですね。「色々な人が集まる」という点が、ゲストハウスに近いと感じました。
まさにその通りです。
私は、未知なるものとの出会いを「旅」だと思っています。旅の途中でゲストハウスに立ち寄り、色々な人と情報を交換しながら気づきを得て、旅を続けていく。人生も同じです。Soft. Guest Houseで、新しい生き方に触れて欲しいと思っています。
私は、世界一周をしたときにゲストハウスの価値を感じました。それを体現したいと思って、この事業を行っています。
ーゲストハウスは建物(ハード)があるのが一般的ですが、ソフトのみという形態を選ばれたのはなぜでしょうか。
最初は建物を所有したいと思い、実際にゲストハウスで働きながら、情報を集めてていきました。しかし初期費用は小さな額ではありませんし、オリンピック需要で安い宿がたくさんできて競争も激しい状況で、すぐにハードを持つのは得策ではありませんでした。
しかし、「何もやらないより、できることから始めよう」と考えました。そこで、周りの人に相談しながらアイディアを練り、行き着いた構想がSoft. Guest Houseです。
ーすぐに諦めずに、自分の想いを実現する新しい方法を考えられたのですね。
「冒険と創造」をテーマに事業を行っていますので、私自身も、未知のやり方に挑戦し続けたいと思っています。
暮らしの中でも常に「冒険と創造」をしていたいと思っていて、家を持たずに日本各地のゲストハウスや、シェアハウスを転々とする、旅暮らしのようなことをしています。
人生1回ですし、それが未知のことでも、やりたいことに素直にチャレンジしたいと思っています。
初めての海外で知った、ゲストハウスの価値
ーまさに、大塚さんの人生が「冒険と創造」ですね。そんな大塚さんに、そのような人生のテーマを持つようになったルーツをお聞きしていきたいと思います。
原体験は、13歳の中学1年のとき、父が他界したことにあると思っています。その経験によって私は死というものを近くに感じて「人はなぜ生きているのか?」という問いを持つようになりました。
中高とそれをずっと考えていたのですが見つからず、虚無感を感じていたように思います。部活も退部してしまい、漫画を読んだり、ゲームをする日々でした。
ー生きる意味が見出せなかった時期だったのですね。
はい。でも高校生になって少し状況が変わります。スマホを持つようになり、自分で色々と検索できるようになって「大学生が世界一周する」といったブログを見つけたのです。今まで感じたことのないワクワクを感じました。
私はゲームでも異世界を冒険するRPGが好きでした。それまではバーチャルの世界で満足していたのですが、それをリアルの世界でやっている人がいるのか……と思って衝撃を受けたのです。そこで、大学生になったら世界を見にいくことを決めました。
ー「世界一周」というキーワードに惹かれたのですね。大学生になって最初はどこの国に行かれたのですか?
バックパッカーの定番から始めようと思い、大学の冬休みにタイとカンボジアに行きました。それが、私とゲストハウスの初めての出会いです。初海外の私にとって、ゲストハウスでの経験は衝撃的でした。
ーどのようなことが、あったのでしょうか?
ゲストハウスには、ラウンジがあることが多く、そこにバックパッカーが集まり交流をします。私が泊まった宿も楽しそうに宿泊者が会話をしていました。でも、その輪にはいる勇気がなくて、私はそれを遠目に見ながら部屋に入りました。
でも、そこで幸運なことが起こります。「君、日本人?」2段ベッドの上に寝ていたブラジル人が日本語で声をかけてくれたのです。その人は、日本の農大に留学したこともある人で、世界一周を終えて最後にタイに戻ってきているタイミングでした。
自分が海外初経験であることを告げると、親身になってタイの街を案内してくれました。そして、ゲストハウスのラウンジの輪に入れてくれたのです。
ーフレンドリーな方ですね。ラウンジで各国の旅人と会話していかがでしたか。
その場には、イギリス、フランス、中国など色々な国の人がいました。どの国の人も優しくて、サッカー選手の「HONDA」の話題を振ったりしてくれます。ただ、英語ができなかった私は、会話し続けるのが辛くて早々に部屋に退散してしまいました。
ちょっと後悔しながら、ベッドの中で眠りにつこうとしていた時。中国の方に叩き起こされました。何事かと思って聞くと「明日、タイの遺跡にいくけど一緒にくる?という誘いでした。
翌日、彼らと一緒にタイを巡って本当に楽しかったことを覚えています。日本では感じたことのなかった、温かいおせっかいに触れて、私は感動していました。
ー海外ならではの優しいコミュニケーションを体験されたのですね。
そうです。そして、もう1つ気づいたことがありました。のんびり話す太ったおじさんも100カ国以上を旅してきた。中国の若者もアメリカ留学をして、その後世界一周をしている。世界を旅しながら自由に生きることが、その人たちにとっての「当たり前」でした。
そんな生き方をしたいと言ったら、日本ではまだ生きづらさを感じると思います。日本は、まだ「これって、こうあるべきだよね」が多い。でも、ゲストハウスにいる人たちは違いました。
多様な価値観に対して否定せずに「いいね」と言ってくれる。それが私にとって新鮮で、心動かされる経験だったのです。
ーゲストハウスならではの、異なる文化を受け入れる姿勢に惹かれたのですね。その後、日本に戻られてから、どのように過ごされましたか。
もっと海外の人とコミュニケーションしたいと考え、親にお金を借りて9ヶ月、アメリカとカナダに留学に行きました。自転車を3日で盗まれたり、日本ではあまり経験しないような治安の悪さを経験しながら、英語力を身につけることができました。
世界を巡る旅で気づいた「人はなぜ生きるのか」の答え
ー自分のやりたいことに向かって行動するようになったのですね。
はい。留学から帰ってきて、その傾向はさらに強まりました。いよいよ自分も世界を巡る旅をしようと決意したのです。そして、その旅のテーマは「人類の起源を辿る旅」です。
ー「人類の起源を辿る旅」なんて、壮大なテーマでワクワクしますね。そのようなテーマ設定をされたのはなぜでしょうか。
元々「人はなぜ生きているのか?」という問いがあったので、それを旅の中で見つけたいと思ったこと。そして、関野吉晴さんの影響があります。
関野さんは人類のルーツを探りたいという想いから、まさに人類の起源を辿る旅「Great Journey(グレート・ジャーニー)」をされていました。南米から人類の起源があると言われる東アフリカまで、飛行機・船・車を使わず、自転車やカヌーだけで10年かけて旅をした人でした。
その冒険心に憧れて、私も東アフリカを目指すことにしました。
ー自分と同じ想いを持つ人の存在に勇気をもらったのですね。東アフリカまで、どのようなルートで行かれたのでしょうか。
約20カ国を旅しました。ルートは、韓国→中国→東チベット→ベトナム→ラオス→タイ→マレーシア→ミャンマー→インド→イラン→トルコ→ギリシャ→エジプト→スーダン→エチオピア→タンザニアです。
ー国の名前を聞くだけでワクワクします!特に記憶に残っているエピソードはありますか?
アフリカのエチオピアで大きな気づきがありました。私たちには食欲・睡眠欲・性欲という3大欲求があります。しかし、それがあっても、私たちはまだ満たされない。「それ以外に何を私たちは満たしたいのだろうか?」その答えが、エチオピアにあったのです。
エチオピアは、多数の民族が、今もなお草原に暮らしています。私は現地のガイドのおかげで、その民族を訪問することができました。
ーそこで、何に気づかれたのでしょうか。
その民族は、原始的な暮らしをしていましたが、誰もが楽しそうな顔をしていました。自分たちで楽器や、歌、ダンスを作って陽気に踊ったり、銃剣を加工してアクセサリーにしたり、クリエイティビティ溢れる生活をしていたのです。
彼らの幸せそうなエネルギーを感じて、ハッと気づきました。「つくること」すなわち「創造」が人間の幸せなのだと。
そして、その時に同時に思ったのです。あえて危険を冒して、自分はなぜ旅をしているのだろう。それは、このような未知の創造性に出会って感動したいからだ。未知と出会う旅、つまり「冒険」が自分の幸せなのだと。
ー大塚さんの人生のテーマが降りてきた瞬間だったのですね。
人間は元々、誰もがクリエイティブなのだと思います。でも、誰かと比較されるうちに、自信を失って何かを創ることをやめてしまう。そのことに気づきました。
エチオピアで旅の収穫を得た私は、旅の目的地であるタンザニアの最高峰キリマンジェロ山に登頂にも成功し、充実した気持ちで日本に帰国しました。
新卒フリーランス。苦難を解決したのは、人との出会い
ー日本に帰られたタイミングは就活の時期ですね。就活はどうされたのでしょうか。
最初は、個人事業主になるのではなく、企業に勤めようと思いました。インターンをした経験もあったので、デザイン系の職種を探しました。
人類の起源を辿る旅を経て「ゲストハウスを創る」という夢ができていました。そのためには資金が必要です。30歳まで仕事をしてお金を貯めようと考えたのです。
そんなことを考えながら就活をしていましたが、東京のあるゲストハウスを訪問した時に、私の方向性を変える、ある出会いがありました。
ーどのような出来事があったのでしょうか。
就職せずにゲストハウスを26歳で立てた人に出会ったのです。当時の私は23歳。たった3歳の違いで、私の夢を叶えている人がいました。
「就職しなくても道はあるよ」というその人の言葉が頭に残ります。それから、どんな企業の説明会に行っても、内容が頭に入らなくなってしまいました。私は就活をやめて、個人で働くことを決めました。
ー今の日本ですと、大胆な選択と言われそうな決断ですね。周りの反応はどうだったのでしょうか。
その選択を「逃げ」と表現する人もいましたが、幸い、あまり大きな反対はありませんでした。母も放任主義の人で「人生1回なのだから挑戦してみたら」と。彼女も「やってみたら」と背中を押してくれました。とても感謝しています。
ー晴れて新卒フリーランスになってみて、どのようなことがありましたか。
最初は仕事がなかったり、自分の求めている仕事の形が定まっておらず苦労しました。個人で働くには、スキルと、人的ネットワークと、深い自己理解が必要だと言われますが、私にはどれも足りていませんでした。
仕事がもらえず、自己嫌悪に陥った時期もありました。生計を立てるために何でも屋のようになったこともあります。この時期は、本当に辛かったです。
ーどのように、その状況を乗り越えていかれたのでしょうか。
「ゲストハウスサミット」というイベントを始めとして、facebookやpeatixを駆使して、興味のあるイベントに参加して、同じ意志を持つ人に出会い続けました。
そして、参加者のゲストハウスのオーナーたちに、ひたすら相談したのです。そこで意見をもらいながらアイディアを膨らませていきました。その末に、Soft. Guest Houseの構想を辿り着くことができました。
個人で働き、壁にぶつかった時は、同じ意志を持つ仲間を探すこと。これが、苦しい時を乗り越えていくポイントだと思います。
ーこれから一歩踏み出そうとされる方にとって、とても価値のある学びですね。最後に、大塚さんのこれからの展望を教えてください。
Soft. Guest Houseの活動を続けながら、今後はハード(建物)を持ったゲストハウスにもチャレンジしていきたいと思います。
豊かな暮らしができるにも関わらず、幸福度があまり高くないと言われる日本。それは、誰かの作ったモノサシで順位をつけてしまうから。そうではなくて、個々の人生が「冒険と創造」で輝くような、きっかけをこれからも届けていきたいと思います。
ー1人ひとりが自分の「冒険と創造」をすることができたら、今よりもきっと素敵な世界になりますね。大塚さんの活動を、これからも応援させてください。本日は、ありがとうございました!
取材者・執筆者 武田 健人(Facebook / Instagram / Twitter)
デザイン:高橋りえ(Twitter)
写真提供:山内コーヘイ 様 (Twitter)