様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第417回目となる今回は、株式会社FINBEST 代表取締役COO(最高執行責任者)の花本夏輝(はなもとなつき)さんです。
COOとしてFinTechサービスで日本の金融リテラシーを上げるべく、さまざまな業務に取り組んでいる花本さん。その一方で、SF(サイエンス・フィクション)を現実社会に実装するために、シリアルアントレプレナー(連続起業家)を目指しています。SFを世界に実装するとはどういうことなのでしょうか?夢に向かって未来志向を持ちながら突き進む花本さんにお話を伺いました。
学生起業を志すも、就職後に機が熟して起業家になった
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、花本さんのお仕事を詳しく教えてください。
半年ほど前に2人でFinTechの新規事業で起業し、最高執行責任者(COO)に就任しました。FinTechとはファイナンス(金融)×ITのことで、PFM(パーソナルファイナンシャルマネージャー)という資産管理をするためのアプリケーションを開発中です。
COOは実働的な業務をおこなうポジションではありますが、代表取締役であるCEOと実質的には同じ業務内容といえますね。起業したばかりで人数も少ないチームなので携わる業務量が多く、開発からデザイン、バックオフィスのタスクまで分担しながら幅広く進めております。
ー起業されたきっかけはなんだったのでしょうか?
実は大学院時代から起業に興味をもち、学生起業を目指していたんです。でもまずは一度社会人経験をしたうえで、仲間や資金の準備が整ってきた段階で新規事業に取り組むことにしました。現在のメンバーはみんな金融に詳しく、投資をおこなっているという共通点があります。投資家目線でこういうサービスがあったらいいよね、とブレストを通して現在の事業が誕生しました。
ー機が熟して起業されたのですね。仲間はどのように集まったのですか?
将来一緒にビジネスを始めたいと話していた、大学時代からの友人や古くからの友人が加入しています。また、社会人になってから共通の友人の紹介で、意気投合した知人もジョインしました。現在は4人で進めており、CEOと僕の2人が会社に在籍し、あとの2人は副業として週末に関わってもらっています。
ー現在の事業で一番力を入れて取り組まれていることを教えてください。
現在一番注力しているのはアプリ開発です。エンジニアのメンバーがメインで開発を進めてくれている一方で、UIやデザイン部分を調整し、顧客になりうるターゲットにインタビューして、実際にニーズが満たされるのかをヒアリングすることで新規事業開発を進めております。
物事に絶対はなく、多様な世界があることを学んだ経験
ーここからは、起業するに至った花本さんの生い立ちや背景をお伺いします。まずは幼少期をどのように過ごされましたか?
広島市出身で、幼少期は昆虫や岩石を集めることが好きでした。自宅で山ほどの虫を飼いたい願望が強かったのは覚えています。小学二年生の途中、親の仕事の関係で中国の天津へ引っ越しました。通常は日本人学校に通うと思いますが、僕は親の意向で現地の小学校に入ったんです。中国人の同級生と一緒に二年間勉強しました。
ーそうだったのですね!そうなると、言語や文化の障壁といった大変なことはありませんでしたか?
もちろんありました。最初は同級生が何を話しているのか理解できなかったですね。毎日中国語の環境に身を置くことで言語の障壁はクリアできましたが、どちらかというと文化の違いのほうが辛かったですね。例えば、中国は日本以上に超学歴社会です。特に子どもに対する親の勉強熱がすごくて。教師も僕たちに、「勉強していい大学に入らないと稼げないよ」と当たり前に言う環境でした。僕の場合は日本人なので受験競争に入っていくわけではないですが、教育方針が厳しい学校で勉強をしていたので、日本とのギャップを感じました。
ーその環境をどのように乗り越えたのでしょうか?
乗り越えた、というよりは耐えていた感覚ですね。現地での勉強についていくために、親が家庭教師を雇って休日も勉強していたので、個人的には苦しかったです。でもそのおかげで数学が得意になりました。あと、中国語は今でも日常会話レベルで話せますね。
ー当時は辛かったけれど、そのときに頑張ったことが現在に活きているのですね。二年間の中国生活を通して、何か学んだり感じたりしたことはありますか?
子どもの頃は自分を中心に世界がまわっている感覚がありましたが、中国での生活を通して「今まで存在していた世界とは全然ちがう世界が存在する」感覚を体感しました。小学二年生のときには、物事に絶対といえるものはなく、多様性について身をもって学びましたね。
ー二年後、日本に戻ってきてからの心境はいかがでしたか?
やはり同じ日本人なので、感覚的にも近くて楽しく過ごせましたね。実は日本に戻った理由は、僕が中国の生活に耐えられなくなったからなんです。親と話して、祖父母の家で生活することになりました。小学四年生の夏休みに日本に戻り、祖父母と一緒にしばらく暮らしました。
ー戻ってからは日本でずっと生活されていたのですね。中学生活はどうでしたか?
地元の公立中学校に進学しました。やんちゃな生徒が多い学校だったので環境は決して良かったとはいえませんでしたが、個人的には友達も増えて楽しく過ごせました。ただ一方で、小学校のときに比べると勉強量は増えるので、受験を意識しながら日々勉強にも励んでいましたね。
ー受験を意識されていたとのことですが、進学先の高校はどのように選択しましたか?
進学した高校は県内でトップクラスの進学校でしたが、当時は進学校を理由に選んだわけではなく、その高校の校舎がとても綺麗だったのが進学を決めた理由です。市立の高校なんですけどエスカレーターがあり、校舎にお金をかけている高校でした。中学生のときのオープンスクールで、この学校に入学したいという気持ちが芽生えて受験勉強に励みました。
ー第一志望の高校に無事合格されたのですね。入学後、高校生活はいかがでしたか?
友達にも恵まれ、楽しい高校生活を過ごしました。ただ、中学時代に一生懸命頑張っていた勉強を全くやらなくなったんですよね。当時、やりたいことが山ほどあったんです。でもあまり自由がない環境だったので、部活にも入らず無気力のまま過ごしていました。入学当初は旧帝大を目指していましたが、少しずつ勉強意欲が薄れてしまい、結局浪人することになりました。
大学の単位を落として生き方が大きく変わった
ー浪人を経て大学に進学された花本さんですが、大学選びはどのようにおこないましたか?
現役時代は親から国立大学に行きなさいと言われていたので、当時は国立一本で受験しましたが、真剣に勉強しなかったので落ちました。浪人してから、自分の興味が何かを振り返ったときに、幼少期に集めていた岩石や鉱石がずっと好きだと気づいたんです。地質学や地球化学、惑星や地球の成り立ちに興味があったので、学問として学びたいと思い、地質学を専攻できる大学に進学することにしました。
ー子どもの頃から好きだった興味がずっと続いていたのですね。大学生活はいかがでしたか?
実家を出て一人暮らしを始めて、まさに自由な生活になったので開放感がありましたね。大学一年生の頃はサークルをいくつも掛け持ちして、たくさん遊び、効率よく授業を受けていました。
転機となったのは、大学二年生の前期です。きっかけは、地質学の専門授業の単位を落としてしまったことでした。今までは親や外圧の要因で仕方なく取り組み、結果が出ないと周りに責任転嫁ができる状況でしたが、今回は自分の意志で選んだ大学と専攻であるにもかかわらず単位を落としたため言い訳ができない状況だと気づきました。自分の生き方や選択に対して責任を持たないといけないと真剣に思いましたね。そこから真面目に生きようと意識が変わり、生活スタイルも今までと大きく変化しました。
ーマインドセットが大きく変わったのですね。具体的にどういう行動が変化したのですか?
これまでは「なんとなく授業を受けて単位が取れればいいや」と思ってましたが、意識が変化してからは授業にコミットメントして、真剣に吸収するスタイルで授業に臨みました。加えて遊ぶ時間も減りましたね。周りに誘われるから遊びに行くのではなく、自分が何をしたいのかを追求していきたい感情が芽生えたんです。そこから本を読んだり、リサーチをしたり、さまざまな人の意見を聞いたりしました。
ー行動や意識の変化によって、追求したい興味関心はなにか見つかりましたか?
現実世界でSF(サイエンス・フィクション)の世界をつくることですね。実は岩石や地質のほかに、昔からSFが好きだったんです。特に中国生活では、父と一緒に観るSF映画が楽しみでした。当時は映画だけではなく、自分の脳内でこういう未来がくるんじゃないかと自由に妄想していましたね。日本に帰ってきてからも、インスピレーションを得るためにSFの世界に触れ続け、いつかはSFの世界に携われたらいいなと思っていました。
ただSFというと、その文字通りフィクションの世界です。果たしてフィクションのままでいいのかと自分に問うたときに、フィクションではなくて現実世界で、SFのような世界を見たいという想いに辿り着きました。SFを物語として楽しむのではなく、実社会に実装されていくことに興味関心が広がりましたね。
ービジョンとしてやりたいことが見えてきたのですね。そのあとの進路選択はどのように決定しましたか?
これまで受動的な人生を送っていましたが、単位を落としたことで生き方が変わりました。自分はなんのために生まれてきたのだろうかと考え始めたんです。自分が生まれてきたからには、生まれていなかった世界線とは異なった地球にしたいという気持ちが芽生えました。けれども一人のパワーは限られるので、地球を変えていく力を持つ生き方を模索していましたね。その結果、研究職で実績を残せば多くの人を巻き込めるのではないかと考え、大学院に進学しました。でも実際に研究職の世界に入ってみると、茨の道だと思うようになったんです。
そこで実際に自分と似たような考え方や、文明をアップグレードする生き方をしている人がいないのか調べると、シリコンバレーのアントレプレナー(起業家)たちが同じような考え方をしていたことを知りました。例えば、イーロン・マスクやジェフ・ベゾスのような人たちは、「文明のアップグレード」をするためにビジネスをしていると明言していたんです。そのときに、起業家という選択肢が初めて生まれましたね。
ー大学院在学中に、起業家という選択肢ができたのですね。
はい。大学院は学部時代と異なる大学に進学し、研究の傍アントレプレナーの道を模索し始めました。その大学には学生起業家を支援するプログラムがあったので、日々参加する学生生活を送りました。そして、そのプログラムで出会った友人とバイオ領域で新規事業を立ち上げようという話になり、学生起業を目指す形になったんです。さまざまなピッチコンテストや資金調達の活動もしましたが、友人がアカデミックの世界に残って研究し続けたいと希望したこともあり、バイオ領域での企業は諦めました。当時は自分一人で起業できるネタもなかったため、一度は社会人経験をしようと就職しました。
文明をアップグレードして良い未来を実現したい
ー就職されてからは、どのようなお仕事に従事していましたか?
約2年ほど半導体系のメーカーに在籍しました。今まで勉強してきた専門とはまったく違うプラズマを扱うエンジニアとして入社し、途中で人事に異動しました。1年半ほどは採用活動をしたり、インターンシップを組んだりと楽しく仕事をしていました。
ー楽しく仕事をされていたとのことですが、会社を辞める選択をしたきっかけはなんだったのでしょうか?
働いている現場との意識の違いですね。入社当時は会社のビジョンに共感し、もしかしたら文明のアップグレードに貢献できる会社かもしれないと思って入社しました。最初から会社を辞めてやるという精神があったわけではありません。半導体は未来に関わる産業であり、経営陣もとてもビジョナリーな発言をして本気で取り組んでいると感じていました。
しかし、実際に働き始めてみると、現場の人たちは経営陣と同じようなビジョンを考えていませんでした。生活のほうが大切な人たちが多かったんです。それが悪いわけではありませんが、自分たちの生活を優先する人たちに囲まれて仕事をしていると、自分も少しずつ影響されてしまって「生活のために働く、これこそが人生だ」という思考に偏ってしまうのは違うと思いました。会社の雰囲気や人間関係には恵まれていましたが、この場所で道を切り拓くことは難しいと感じたんです。
それに、学生時代から壮大な規模の事業をすると周囲の人たちに話していたので、このままだとビッグマウスになってしまうかもしれないと思いましたね。さらに、もっと挑戦したいという気持ちが高まったこともあり、条件が整った段階で会社を辞める決断をしました。
ーちなみに、先ほどから「文明のアップグレード」という言葉が出てきますが、具体的にどのようなことを意味するのか教えていただけますか?
文明がアップグレードすると、ゆくゆくは先に述べた「SFを実装した世界」になると思っています。例えば、人類が火星に移り住んだり、銀河系中を旅できたり。テクノロジーが発展し、人類の精神性もさらに進化して、人間の活動領域が拡大する未来が想像されます。そのような未来に焦点を当てることで、文明がアップグレードした世界をつくることに自分の人生を捧げたいと思うようになったんです。
少し専門的な話になりますが、ニコライ・カルダシェフというソ連の天文学者が、「カルダシェフ・スケール」という文明をレベル分けする枠組みを定義しました。カルダシェフ・スケールが基準としているのは、文明が扱えるエネルギーの総量です。文明を3段階に使用できるエネルギー量で分けていることが特徴です。
タイプ1は、文明が生まれた惑星のエネルギーを余すことなく使えるレベルの文明です。タイプ2文明は、恒星のエネルギーを丸々使えるほどのエネルギーを確保できているレベル文明。太陽系に住む私たちにとって、太陽のエネルギーを全て使える状態の文明といえます。タイプ3になると、銀河のエネルギーをすべて使えるまで大幅にスケールアップします。
ーレベルによって大きく変わるとのことですが、どうすればレベルがアップグレードできますか?
エネルギーの総量が関係するので、単純に定義されているエネルギー量を扱えるようにすればいいんです。カルダシェフスケールに照らし合わせると、この5千年で地球人が築き上げた文明は、文明のレベルで大体0.73といわれています。実は1未満の未熟な文明なんですね。
ー残りの0.27は何が足りないのでしょうか?
足りない、という表現が適切かは難しいですね。なぜなら、すべての総量を使い果たしてしまうと地球の資源がなくなってしまうからです。ではどうすればいいのか。核融合発電という名称を聞いたことはありますか?
ーそれは原子力発電とは違うものですか?
核融合発電は原子力発電とよく比較されます。原子力発電は、核崩壊のエネルギーを使用しているんですね。核融合は原子が融合するときに発生した力を使って発電する方法です。核崩壊だと放射能が出てしまいますが、核融合は放射能がほとんど出ず、半永久的にエネルギーを取り出せる発電方法なんです。また、宇宙に太陽光パネルを打ち上げて、そのパネルに太陽のエネルギーを直接吸収して発電した電気を地上に送る宇宙太陽光発電などで、徐々にエネルギーの総量をタイプ1文明の水準に近づけていく手法があると考えます。ただ、まだ研究段階なので、これからさらに発展する分野ですね。
ーなるほど。核を融合するときのエネルギーを使うことは現実的だと考えられているんですね。
そうですね。太陽がまさに核融合反応をしている星なので、机上の空論ではなく現実的な理論だといえます。確かに核融合は存在していますが、人間が制御できるまで技術的なハードルが存在します。要するに技術レベルを上げると、人類が扱えるエネルギーも上昇させることができると考えています。
それに近年、SFプロトタイピングという考え方が出てきています。SFプロトタイピングとは、まさにSFのような世界を現実世界に実装するためにプロダクト開発する、究極のプロダクトアウトの手法です。今後はSFを世界に実装するためのプロダクトを開発したい願望がありますね。
ーとても興味深いです。いわゆる「〇〇テック」がそれに寄与すると思ったのですが、何を実現するとSFが現実世界に実装可能なのでしょうか?
「〇〇テック」は近年すごく増えていますが、どちらかというとSFよりも確実性の高い直近の未来の話なんです。数年で実現できる領域なので、もう少し先を見越して未来を見据えたときにどういう世界になっているのか、どういった世界になっていてほしいのかを考えて実現していくべきだと思っています。
例えば人間のパートナーとして人型ロボットがいるというのもそうだし、エレベーターで宇宙へ上がっていける軌道エレベーターができると、安価に宇宙にアクセスできるようになるんですよ。そうすると新しい経済圏も少しずつ生まれてくるのではないかと思います。僕もそういったことに取り組んでいきたいですね。
シリアルアントレプレナーとしてSFを実装した社会をつくる
ー先ほども今後やってみたいことをお話ししてくださいましたが、改めて「文明のアップグレード」や今取り組まれている事業も含め、どのようなことをしていきたいのかを教えてください。
「文明のアップグレード」という抽象度が高い大きな目標を掲げており、そのために何をやるべきかを考えているところです。現状はシリコンバレーの起業家をモデリングして参考にしている部分がありますが、まずは目先の目標として需要が高いFinTech分野での上場を目指しております。会社を8年後までには上場させて資金をつくり、次にシリアルアントレプレナー(連続起業家)としてSFプロトタイピングの事業をスタートさせたいですね。
ーシリアルアントレプレナーとして、今後は自分がやりたいSF世界の実装をする方向に移っていきたいのでしょうか?
そうですね。もちろん今取り組んでいる事業にも愛着はあります。私自身も高校生のときから今まで10年ほど投資家として活動しており、日本の金融リテラシーが低いことも認識しています。そういった社会問題を解消し、日本人の金融リテラシーを上げることは今の事業に取り組むなかで達成していきたいですね。現在の事業で目標を達成したあと、バイオロボティクスでSFプロトタイピングを進めたいです。SFの世界では人型ロボットが当たり前の存在なので、人型ロボットにも取り組んでいきたいですね。現在は必要な技術論文を集め、休日に読んでいます。
ーさまざまな時間軸で取り組まれているのですね。最後に、U-29世代に向けてエールやアドバイスをお願いいたします。
子どものときに夢を持っていた方は多かったのではないでしょうか。大人になったらこういう自分になりたいと思っていたのに、少しずつ大人になるにつれて諦めてしまう傾向が少なからずあります。でも冷静に考えてみると、子どものときは無理なことも、大人になる過程で実現可能性は上がっていくはずなんです。知識が増え、財力も上がり、仲間も増えているはずです。できる可能性が上がっているにもかかわらず、周りに「現実を見ろ、大人になれ」と言われて夢に蓋をしてしまう。でもやりたいことには確実に近づいているはずです。だから、冷静に今の自分はできるんだと気づき、もう一度実現可能性を洗い出してみると意外とできるかもしれないとわかるはずです。決して無茶をしろと言っているわけではありません。U-29世代のみなさんには、自分の人生を生きてほしいと願っています。
取材:高尾 有沙(Facebook/Twitter/note)
執筆:スナミ アキナ(Twitter/note)
デザイン:高橋りえ(Twitter)