辛い過去も力に変える。実験室の夏実先生から学ぶレジリエントな生き方

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第556回目となる今回は、YouTubeチャンネル「おまもり女子」で発信活動している夏実さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

人には言えない悩みやトラウマを持つ人を救いたいという思いで、「おまもり女子」での発信活動や防犯グッズ「omamolink(次世代型おまもりガジェット)」のPR活動など、さまざまな取り組みに挑戦している夏実さん。

過去に壮絶な事件に遭い、心に傷を負った夏実さんが、そこから立ち直り、同じように悩む人を救うための活動を始めるようになった経緯についてお伺いしました。

弱いものいじめは許さない!男女どちらからも頼られる小学生時代

ーまずは簡単に自己紹介をお願いいたします。

女性が自分らしく生きられる社会を作るため、「おまもり女子」というYouTubeチャンネルで活動しているなつみと申します。出身は埼玉県の熊谷市で、実家は農家です。大学卒業後は薬剤師として就職しましたが、先日退職しました。

今は「おまもり女子」という“女性が自分らしく生きるための「まもり力」アップを目指すチャンネル“で、人には相談しにくい性の事やディープな話題、防犯の知識などについて発信をしています。

ー幼少期のなつみさんは、どんな子だったと言われることが多いですか?ー

男勝りだったと言われますね。当時は子分がいました(笑)。

幼稚園児の時は、友達のおもちゃを取っている男の子がいたら、「なにしてんだ。おもちゃ返せよ。」と言って、取り返しにいってましたね。

そのうち男の子たちが「夏実ちゃん助けて!」と頼ってくるようになって、子分がたくさんできていました。

ー姉御肌ですね(笑)。物心ついたときから思ったことをしっかり言うタイプだったんですね。

そうですね。弱いものいじめが昔から嫌いで、か弱い動物やいじめられている人を放っておけないタイプでした。

立場の弱い人の耳になるためになった薬剤師

ー薬剤師を目指されたきっかけについて教えてもらってよろしいでしょうか。

薬剤師を目指したきっかけとして1番大きいものは、夜職の経験だと思います。大学生の頃、夜職をしていたのですが、お客さんからひどい扱いを受ける経験を何度もしました。

もちろん優しいお客さんもたくさんいるのですが、お金払っているんだから何をしてもいいと思っている方もいて。

同じ人間で、同じように働いてお金をもらって生活をしているのに、自分たちだけがなぜそのような扱いをうけないといけないのかと悔しく感じました。自分だけでなく、仲間も同じような扱いを受けていることに耐えられなくて。

一緒に働いてる人たちの境遇は本当にさまざまで、どうしようもなくなって夜職をしている人がたくさんいました。ただ、そういった人たちの声を、世の中はなかなか聞き入れてくれないんだと思う場面もたくさんあって。

それならば私が薬剤師という信頼性の高い職業について、1人の人間として話を聞いてもらえる立場になろう、彼女たちの話を聞いて代弁者になろうと考えました。

ー夜職の方が、人として対等な扱いを受けていないことに課題を感じて、それに対するアプローチのひとつが薬剤師だったのですね。

立場の弱い人であるほど、声がつぶされてしまう場合も多いですし、顔を出してオープンに話せる人はなかなかいないと思います。

私も声を上げることや、人前に顔を出すことは本当はとても怖いです。それでも誰かが変えようと動かないと、苦しんでいる人はどんどん増えてしまうと思うので活動を続けています。

ようやく見つけた自分を救う道は、他人を救うことだった

ー事件後、前向きになれたタイミングはいつぐらいだったのでしょうか

変わろうと思い始めたのは25歳のときです。小学生のときに精神的に厳しい体験をし、それ以来苦しんでいました。

そんな中で、本当に小さな欠片でも手がかりが見つかるかもしれないと思って、占いに行きました。スピリチュアルな力があれば、見つけられるかもしれないと思って。

しかし、事件の捜査には協力できないと断られてしまい。ただ同時に「自分と同じような人を救うことが、自分が救われることになる」と言われました。

そうした考えは自分の中にもずっとあったのですが、行動には移せていなくて。やはり、自分の使命は、自分と同じように苦しんでいる人を助けることだと思いました。自分にしかできないことをやろうと。

薬剤師という職業は、社会的な地位もありますし、波乱万丈というより、堅実な生き方をしてる方が多いと思っていました。

だからこそ、トラウマを抱えている自分にしか言えない、できないことをやりたい、同じような人を救いたいという思いが強くなって。薬剤師ではなく、今の活動を頑張っていきたいなと思うようになりました。

その中で、事件から15年後の25歳の時、辛い過去を作品として昇華しようと決断し、オリジナルの振り付けで踊った動画をYouTubeにアップしました。

辛い経験やトラウマがあるからこそできることがある

ーこれから成し遂げたい目標は何かありますか?

これからは性教育や防犯についてなど、自分だからこそ伝えられることを、講演やYouTubeの活動を通して発信していきたいと思っています。

日本に住んでいると、身を守るという意識をあまり持つ機会がないと思っていて。もちろん、身を守ることを忘れられる程に平和な国というのは良いことだと思います。だからこそ、いつも緊張して身を守るようにしようということではなく。身を守ることに関して、YouTubeなどを通して気軽に取り入れられるコンテンツを作っていきたいと考えています。

他にも、人には相談しにくい悩みを抱える人たちが繋がれるようなプラットフォーム作りを進めたいと考えています。PMSに悩んでいる人、性被害に遭って苦しんでいる人、いろんな人の話を聞いていると、「もっと人とつながりたかった」という声が圧倒的に多いです。

悩みがあってインターネットなどで調べても、公共機関の窓口の案内は出てきますが、同じような悩みを抱えている人やそれを克服した人に出会えるようなことはなかなかありません。「同じ辛い気持ちがわかる人に出会いたかった」「その人たちがどうやって生きているのか知りたかった」という声を聞いて、悩みを抱える人たちがつながれるコミュニティを作りたいと考えました。

風俗や中絶、性被害といった人には言いにくい過去を隠して生きていくのは本当に辛いことです。そうした悩みを持っている人も誰かの役に立てるんだと思えるきっかけを与えられる場所を作りたいと思っています。

ーU29世代が苦しくて辛い状況にある時、どうやってその感情をパワーに変えていったらいいと思いますか。

私のパワーは負けず嫌いです。これは性格というのもありますが、多分みなさんもこの人だけには負けたくないという相手がいると思います。その相手は元カレでも嫌いな先生でも、漫画のキャラクターでも、想像の人物でも誰でもいいんです。とにかく「お前だけには絶対負けない」という相手を思い浮かべてください(笑)。

ー最後に、U29世代にメッセージをお願いします。

私は、社会のため、世界のために行動しようとすぐに考えてしまうタイプなのですが、「社会のため、世界のためとあまり思えない」といろんな人に言われます。確かに、大きすぎる問題だと意識しにくいですよね。

でも、それが身近な人だったらどうでしょう?自分の大好きな彼女や家族、友人をイメージして「自分ごと」として捉えることが大切だと思います。

例えば、性犯罪も自分には関係ないことだと思っていると意識できません。パワハラや環境問題など世の中のあらゆる問題に対してもそうだと思います。全部「自分ごと」として捉えたら、きっと「こうしたい」という思いが生まれるはずです。

大きなアクションをしなかったとしても、インターネットで検索したり、YouTubeで見てみたり、まずは問題を意識することが大切だと思います。たまたまSNSで見て気になったからDMしてみよう、コメントしてみよう、署名してみよう、そういった小さな積み重ねが世界を変えていけると信じています。

ーありがとうございました!なつみさんの今後のご活躍を応援しております!

※夏実さんの活動はこちらからチェックできます

取材:増田稜(Twitter
編集:町田大地(Twitter
執筆:櫻井眞帆(Twitter/note
デザイン:安田遥(Twitter