ご縁に生かされながら働く。「JAPAN MADE」編集長・河野涼が語る幸せのあり方

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第335回目となる今回は、河野涼さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

河野さんは広告代理店への勤務を経て、現在はクリエイティブプロダクションを立ち上げて制作事業を行われています。工芸品や職人さんへの愛があふれたクリエイティブを多数生み出す河野さん。その背景には「人とのご縁に生かされている」という、ご自身の思いがありました。

日本のかっこよさを伝えたい。Webメディア「JAPAN MADE」に対する思い

ー本日はよろしくお願いします!改めまして、自己紹介をお願いします。

はじめまして、河野と申します。カメラマンやディレクターの他に、日本の伝統工芸を世界に発信するWebメディア「JAPAN MADE」の編集長をやっています。よろしくお願いします。

ーJAPAN MADEは伝統工芸への真摯なまなざしが感じられる、とても素敵なメディアですね。JAPAN MADEについて、詳しく伺っても良いですか?

JAPAN MADEは、「共息」をコンセプトに、「日本のモノづくりを持続可能にすべく活動するプロジェクト」です。僕はこれまで、日本各地の職人さんのもとに取材で伺いました。その中で、日本の伝統工芸・モノづくりの現場が「販路」「後継ぎ」「道具」の3つの大きな課題をはらんでいると気づきました。

こうした課題を解決するためには、まずは職人さんたちや、彼ら彼女らによって生み出されるモノの認知度を上げる必要があります。僕はそんな職人さんたちのストーリーを語る「語り手」になりたいと思い、JAPAN MADEを立ち上げました。

日本はもちろん、世界中の人々にも日本のモノづくりを届け、多くの人々の生活を少しでも豊かにできればと思っています。

ー河野さんは昔から、日本の伝統工芸に対して興味があったんですか?

実は伝統工芸そのものに対する関心はあまりなかったんです。一方で「物事の背景を知る」ことへの関心は人一倍ありました。そこで、伝統工芸を題材にして、モノができるまでの流れを伝えるためのメディアを作ろうと決めたんです。

 

「自分の作ったものがそのまま価値になる働き方」に憧れ、独立を決意

ー現在河野さんはフリーで活動されていますが、独立については、小さい頃から意識していたのでしょうか。

初めて独立を考えたのは、高校生の頃です。僕の両親は主に経済的な理由で、高校に入るくらいのときに離婚しています。その頃から、自分が稼がなきゃいけないという思いが強くなりました。当時の自分なりにたくさん稼げそうな職種を考えて「社長になる」と決め、将来的に独立することを周囲に宣言していました。

ただ大学に入って就活をするうちに、独立に対する思いは薄れていきました。社長にならなくても豊かになれると知ったからです。そうした理由もあり、大学卒業後は広告代理店に就職しました。

ー薄れた独立への思い。それが再燃したきっかけは、何だったのでしょうか?

一番のきっかけは、会社の中の新規事業として、2016年にJAPAN MADEを立ち上げたことでした。当時は社会人3年目で、初めて自分でクリエイティブを作ったんです。

僕が勤めていた広告代理店は、手数料ビジネスの世界でした。GoogleやYahooに広告を出して、原価と売上のマージンを得るやり方です。でもこの方法だと、自分の仕事の本質的な価値は見えづらいんですよね。一方でクリエイティブならば、作ったものをそのまま評価してもらうことができます。ここで僕は初めて、今までと違う「価値を生み出す仕事のやり方」を知ったんです。

ー自分が作ったものが、そのまま価値になる。そんな働き方を知ったあと、河野さんのなかにどのような変化が芽生えたのでしょうか。

クリエイティブが価値になると知ってからは、働き方をアップデートしたいという思いが強まりました。自分が生み出したものをそのまま評価してもらえるシンプルな仕組みが、僕に合っていたんだと思います。

その後、一緒に仕事をしたいと思える仲間とのご縁もあって、2018年の4月に独立しました。僕には「絶対に独立して上り詰めたい」というような明確なビジョンがあったわけではありません。でも失敗しても死なないなら、やりたいことをせずに終わる人生よりも、自ら選び取る人生のほうが良いと思い、独立の決断をしました。

 

大切なのは「自分の幸せ」。実現するための、3つの極意とは

ー河野さんは独立をして、「価値を生み出すための仕組み」を大きく変えることができたんですね。

仕組みだけでなく、「何を価値とするか」という考え方も大きく変化したと思います。高校生の頃は、独立=お金という価値を得る手段と解釈していました。ところが今となっては「資本主義的な価値観の人とは、うまくいかないかもしれない」と思っています。

稼ぐことは生きるために必要です。でももしお金が一番大事なら、僕はキャリアにおいて別の選択をしていると思うんですよね。例えば会社勤めをしながら、もっとお金を稼ぐ方法だってあります。それでも自分が独立したのは、お金以外の「大切にしたいもの」があったからだと思うんです。

ー広告代理店での会社員時代を経て独立した河野さんにとって、お金以外の大切にしたいものとは何でしょうか?

ありきたりかもしれませんが、自分の幸せです。「周囲の人たちを幸せにするために、まずは自分が満たされている必要がある」と思っています。

実は社会人2年目の多忙な時期に、昇進や夢など自分が仕事で目指していたものがどうでもよくなってしまったことがありました。忙しさから疲弊して満たされない状態が続くと、周囲の人たちを心配させてしまいます。その結果として、周りを不幸にしてしまうこともあると気づいたのです。

自分の幸せを追い求めることに対して、利己的に感じる方もいるかもしれません。でも、僕自身が幸せでないと、他の誰かを幸せにすることはできないと思うんです。自分の「こうありたい」を満たすことで、心に余裕が生まれ、初めて他の誰かに価値を提供できるんだと考えています。

自分を満たし、その上でやりたいと思うことをどんどん実行することで、僕の周りにいる人たちと笑って楽しく過ごせていたら十分幸せですね。

ー自分を満たしながら生きること。簡単そうに見えて、難しいのではないかと思います。ご自身の幸せを実現するために、心がけていることはありますか?

意識していることが3つあります。「比較しない」「無理しない」そして「期待しない」ことです。

まず、誰かと比較することは、自分の幸せに何の意味も持たないと思っています。他人に目を向けることをやめれば、自分だけの幸せの軸を見つけられるのではないでしょうか。

また、無理をせず心身の余裕を持つことで、自分の幸せについて考えることもできます。無理をしないと仕事で成果を出せない、という方もいるかもしれません。けれど無理しないことは、頑張らないことではなく「自分のペースでやること」だと伝えたいです。

そして、一番最後の「期待しない」。なんだか冷たく感じる方もいるかもしれません。けれど期待は、自分の価値観の強要になってしまうかもしれないんですよね。もちろん仕事において相手のことを尊敬するあまり、つい期待しそうになることもあります。それほど見込める人に出会えることは幸せですが、一方で僕の価値観を相手に押し付けたりしないように気をつけています。

 

ご縁によって、生かされている。「人が先、仕事は後」という働き方

ー河野さんご自身がメディアを育ててきた過程と、そのなかで生まれた思いについて、教えていただけますでしょうか。

実はメディア立ち上げた当初、伝統工芸に関するツテも職人さんの工房に出張するための予算も、何もない状態でした。そこで浅草のお店を練り歩き、一件一件撮影の交渉をさせてもらったんです。

数年間、地道なことを積みかさねた結果、取材先の職人さんが別の工房を紹介してくれたり、以前一緒にお仕事をした方がもう一度映像作成の依頼をくださったり、嬉しいことが起こりはじめました。人とのつながりが、広がり、そして深くなっていったんですよね。

JAPAN MADEをやっていて気づけたことのなかに、「人とのご縁の素晴らしさ」があります。大げさに思われてしまうかもしれませんが、自分が今生きていることも、仕事がうまくいっていることも、すべて誰かとのご縁のおかげだと思うんです。実は、僕が率いているクリエイティブチーム“hyogen”のロゴは、5つの円(=ご縁)が重なった様子を表しているんです。それほど、僕はご縁に生かされていると思っています。

ー河野さんがお仕事でご縁を育む際に、心がけていることはありますか?

目の前の方の人間性や、精神的な芯に魅力を感じる瞬間を大切にしています。その人の核となる部分を見ないまま、スキルや仕事ありきで打算的に人と繋がることは、本質的なあり方ではないと思うからです。ご縁は、人となりや考え方を知り、友達になりたいと思った方との間に自然に生まれるものではないでしょうか。

極端な話ですが、仲良くなった職人さんと飲みに行って、そのまま一緒に仕事をせずに終わっても良いと考えています(笑)日本中旅しながら職人さんとお会いし、熱い思いを語り合う。職人さんのお時間をいただく代わりに、出来上がったクリエイティブを差し上げる。そうして、目の前にいる人との関係性そのものを大切にすることが、巡り巡って一番良い結果を生むと感じています。

これまでおよそ150人の職人さんのところに伺いましたが、実際のところ僕の仕事の多くは、誰かの紹介やつながりから生まれています。職人さんとの仕事にかかわらずですが、人が先、仕事が後です。逆になることはありません。相手の方とのご縁があるからこそ「一緒に仕事をしたい」という思いが湧いてくるんです。

 

自分と相手の「重なる部分」から、表現は生まれる

ーここまで、他の社会人の方からは滅多に伺えないような、貴重なお話をしていただきました。150人もの職人さんのもとを訪れた河野さんが、今思うことを聞かせてもらえますでしょうか。

「職人さんって頑固なんでしょ?」などと話をされます。それはあくまでイメージや偏見でしかありません。

結局のところ、僕も職人さんも、みんな人間なんです。人間には色んな人がいますよね。特定の職種に限った性格なんてありません。相手が職人さんでもそうでなくても、生まれるのは人と人の付き合いなんです。偏見を持つことなく「この人となら末永くやっていきたい」という思いを大切にしていきたいですね。

しいて職人さんの特徴を挙げるとすれば、彼ら彼女らは伝統工芸のプロなので、モノ作りに対する思いやスペシャリスト感が強いんです。一方で僕はゼネラリストであり、器用貧乏な人間です。自分と真逆の位置にいる職人さんたちは、羨ましくもあり、刺激的でもあり、尊敬の対象でもあります。彼らに対して抱く感情に一番近いのは「愛」かもしれません。

ーそんな職人さんたちと一緒にお仕事をされる際の、河野さんのスタンスを教えていただけますか?

僕は相手の哲学や意思を、僕らの思いと合わせることで様々な表現をしたいと思っています。そのためには、僕らの思いと相手の思いの「重なる部分」を見つけることが大切になってくるんです。相手の希望を鵜呑みにすることも、僕らの希望を押しつけることも、表現者のやり方とは少し違うと思うんですよね。両方の熱量を尊重していきたいです。

相手の方の熱い思いが自分の思いと共鳴したとき、感動で胸が震えることもあります。こうした瞬間もまた、自分の仕事に大きなやりがいを感じる大切な時間です。

ー最後になりますが、河野さんが今後やっていきたいことを伺っても良いでしょうか。

僕は今年30歳になったのですが、2021年が一つの節目だと思っています。JAPAN MADEは去年「株式会社ひゃくはち」という企業と一緒に運営していくことが決まりました。またサイト自体も、映像やアイデンティティのテコ入れを行い、大幅なリニューアルを予定していました。JAPAN MADEが大きくアップデートしつつある今、僕ももっとスキルを磨いていきたいですね。

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とは言っても、自分のスタンスを大きく変えるつもりはありません。引き続き僕自身の思いを大切にしながら、幸せに生きていきたいと思っています。

ーJAPAN MADEのリニューアル後も含めて、今後の河野さんから目が離せなさそうです。ステキなお話をありがとうございました!

取材:山崎貴大(Twitter
執筆:はちこ(Twitter
デザイナー:五十嵐 有沙 (Twitter