歌舞伎町の社会学を研究する現役女子大生ライター・佐々木チワワに学ぶ、文章に秘められた無限の可能性

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第373回目となる今回のゲストは、現役女子大生ライターとして『週刊SPA!』や『実話ナックルズ』、『PRESIDENT Online』などで夜の街に関する記事を執筆している佐々木チワワさんです。

高校1年生からライターとして活動し、同時に歌舞伎町に通い始めた佐々木さん。そんな佐々木さんが、歌舞伎町とライティングを掛け合わせて世の中に発信し続けたことで見えてきた、「文章の可能性」についてお伺いしました。

オタクが開花しコミュ力が上がった中学時代

ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。

現在、大学で歌舞伎町の社会学について研究しつつ、ライターとして『週刊SPA!』や『PRESIDENT Online』などで記事を執筆しています、佐々木チワワと申します。

ライター活動は高校1年から始めていて、同時期に歌舞伎町に足を踏み入れてから、自分自身も歌舞伎町で仕事をしたりホストへ通ったり……紆余曲折あって現在に至ります。

ー今日はぜひ、佐々木さんの幼少期から振り返りながら、紆余曲折の部分も詳しくお伺いできればと思います!高1で歌舞伎町に足を運ぶようになったということですが、それ以前の中学時代はどんな子供でしたか?

中学生ではエヴァンゲリオンにハマってオタクが開花しました。中学時代の先生に今会うと「変わったね」と言われるのですが、幼稚園・小学生のときの先生に会うと「全然変わってないね」と言われるので、中学生のときだけ突出してオタクというアイデンティティを持っていたのだと思います。

ー周りとはコミュニケーションを取るタイプでしたか?

小中高一貫校に通っていて、周りは知ってる子ばかりだったのでコミュニケーションは問題なく取っていたのですが、新しい友達の作り方がわからなくて……。中学から塾に通い始めたときに、話しかけ方がわからずウェブで「友達 作り方」とよく検索してましたね。

高1でコミュ力を身につけるために居酒屋で1か月間バイトを始めて、とりあえず初対面の人にガンガン話しかけて仲良くなる技術を身につけたことで、塾ではほとんどの人と知り合いになれました。

ー今の話しぶりからは想像できないですね。小中高一貫校はなかなか珍しいと思うのですが、一貫校での生活はいかがでしたか?

「将来のことを考えると、学校の授業は必要ないじゃん」といつも思ってました。高校生の頃は芸能人への取材をたくさんしていたので、頻繁に学校を休んでましたね。

ただ、今になって振り返ると、生徒の個性を尊重してくれる稀有な学校でしたし、もし子供ができたら通わせたいくらい好きになりました。

ー小中高一貫校の同級生は、どのような子が多かったか教えてください。

みんな真面目で、東大とか、国立大学へ行きたい子ばかりでした。なぜいい大学に行きたいのかと聞くと、親に行けと言われるからと答えるのです。けれど私は、 “何となく保証されている未来” のために、今の貴重な時間を費やすことはどうしてもできなかったのです。

高1のときにAO入試を知り、「私はやりたいことをやって、AO入試で大学に行こう」と思い、一切受験勉強をしないと宣言してライター活動を含め好きなことに打ち込みました。

 “佐々木チワワの” 記事として文章にアイデンティティを持たせる

ーライター活動を始めた背景について教えてください。

高1のときに、学校の枠を超えた高校生が集まるプログラムに参加したときに出会った人が、たまたま同じ学校の卒業生で。その人に、「学生だとしても意外と大人は話を聞いてくれるよ。あなたは何をしたいの?何ができるの?」と聞かれました。

「漫画は画力ないし、映像は興味あるけど1人ではできないし……。まずは文章から始めてみよう!」と思い、ウェブで「女子高生 ライター」と調べて応募したのが始まりです。

最初は1社でお仕事を受けて、そこからは「ライティングは趣味ではなく、お金をもらっている以上はクオリティを担保します」と自分で営業して、契約者数を増やしていきました。執筆料が発生しているということは信頼の担保になり、次の仕事につながるということを実感しましたね。

ー高校入学後、すぐに活動されたのですね。ライティングを始めたばかりの頃は、どのような文章を書かれていたのでしょうか。

高校生向けのキュレーションサイトで、「予算3,000円以内で行ける、高校生の都内デートスポット3選!」のようなコラム記事を書いたり、マーケティング系のメディアで女子高生の社会現象を大人向けに解説する記事を書いたり、芸能人の方に映画のPR取材をして記事を書いたりしていました。

ー当時、ご自身の中で「書くことが好き」という感覚はありましたか?

書くことも表現することも好きでしたし、私の文章を好きと言ってくれる人は絶対にいると自負していましたね。「メディアの記事が好き」ではなく、「佐々木チワワの記事が好き」と言われるように、書き方に癖をつけたり、毎回同じ挨拶文を入れたりして、私の記事だと認識してもらえるよう徹底的に工夫していました。

ー高校時代、佐々木さんが目指していたライター像があればお聞かせください。

自分自身をコンテンツにしたいと思っていました。そう考えると、自分の人生をエッセイとして届けられている今の環境はとてもありがたいですね。

「お金がないと価値がない」という呪縛にかかったホストガチ恋時代

ー高1から歌舞伎町に通い始めたということでしたが、歌舞伎町に興味を持ち始めたのは何がきっかけだったのでしょうか。

転機となったのは、2018年の10月に歌舞伎町で飛び降り自殺を止めたことですね。歌舞伎町には自殺名所のビルがたくさんあって、その1つである「第六トーア」ビルへ友達と一緒にノリで行ったときに、今まさに自殺しようとしてる女の子がいたのです。

自殺を止めようとしていたホスト・私・友達の3人でその子の話を聞くと、「お金を使わない私は生きてる価値ないじゃないですか」と号泣されて。

女の子の話を聞いていたときは、「歌舞伎町にいる子たちってこんな感じなんだ~」と、どこか俯瞰して見ていたのですが、その後、私もガッツリホストにハマっちゃいまして(笑)モラハラ男にひっかかって、その子と同じように「私はお金を使わないと価値がないんだ」と感じていました。自己肯定感を極限まで下げられましたし、人生であれほど情緒不安定だった時期はないですね。

ー最も心が不安定な時期だったのですね。

そうだと思います。ただ、実は当時からホストにどっぷりハマっている「ホス狂い」の子に憧れていて。当時私は将来が不安でやりたいこともなかったので、誰かに人生を託して全力で何かにハマっている状態が羨ましかったのです。そう考えると、ホストにガチで恋して熱中してた時期は、ある意味青春でしたね。

ーホストにハマると、お金を使うことに対する執着心が強くなるのでしょうか。

何でもお金で解決する癖がついていましたね。お金が介在した人間関係の楽さを知ったからこそ、今は損得感情抜きで付き合える友達の大切さが身に染みてわかります。

ー確かに、お金で成り立つ関係性が中心の世界でお金を払えないとなると、「私には価値がない」と思ってしまいますね。

今この瞬間、お金がないと意味がないというところが、歌舞伎町の刹那的なところですね。担当ホストに対して、過去どれだけお金を使っていようが、今使ってないと意味がないんです。その月のナンバーワンを争っているホストに対して、「昔たくさんお金使ったじゃん」と言うのはナンセンスですよね。

ただ、「こんなにお金を使ったのに何で……?!」とわがまま言いたくなっちゃう気持ちもわかります。私も昔よくホストとケンカしてたので。そういうときは、ホストのことを「お金で動く存在」として見てるんですよね。

私は今指名しているホストのことを人として好きで、負担を負わせたくないと思うので、わがままも言えなくなりました。

「ただのお姉さん」になれるまち・歌舞伎町に心酔する

ー歌舞伎町に一度訪れた後に離れてしまう人もいる中で、佐々木さんが通い続けたのはなぜですか?

居心地が良かったからですね。

当時ライターとして活動していて、「◯◯さん!」と呼ばれたときに、求められている姿で対応することに疲れちゃうときがあって。そんなときに歌舞伎町へ行くと、「お姉さん!お姉さん!」と声をかけられ、ただのお姉さんとして生きられる居心地の良さがありました。

名前を誰も知らないからこそ、何にでもなれる状況が心地よかったのです。継続しない関係なので、一からプロフィールを作っておしゃべりできるし、言いたいことが言える楽さに魅了されました。

ー「居心地の良さ」がキーワードなのですね。

あと、歌舞伎町にいる人たちは、みんな裏切られてきたからこその優しさを持っているので、誰かが酔いつぶれていたら必ず誰かが声をかけて助けてくれます。すれ違う人の中に、「あのときの私だ」と思う人がたくさんいるんですよね。

そういう、持ちつ持たれつの関係性がとても美しいなと思います。

ー佐々木さんが、まだ歌舞伎町という街を知らない人に向けて届けたい情報があれば教えてください。

逃げたくなったり、疲れちゃったりしたときにはぜひ歌舞伎町に来てみてほしいです。そこには必死で生きている人たちがいるので、その人たちに混ざって飲んだり、人生を垣間見たりしたときに感じたことを大切にしてほしいですね。

もし怖ければ街を少し歩くだけでもいいですし、それでも怖い人は私のエッセイを読んで思いを馳せていただければと思います。

文章には目の前の世界をガラリと変える無限の可能性がある

ー歌舞伎町とライティングを掛け合わせて、世の中に発信している佐々木さん。発信し続けたことで見えてきたものはありますか?

文章の可能性をひしひしと感じています。文章にして発信してきたことで、会いたいと思っていたほとんどの人と実際にお話することができましたし、文章は確実に私の交友関係を豊かにしてくれましたね。

言語化することって、ものすごく大きな力だと思っていて。「こういうことやりたい」とツイートすると、意外と見ている人から反応が来てつながることができたりするんですよね。

少なくとも私は文章を書くことでたくさんの面白い人と出会えたので、まずは発信してみることから始めると、世界は変わるんじゃないかと思います。

ー文章を書くことが苦手な方はどうすれば良いでしょうか。

文章を書かなくても、Twitterでつぶやいたり、何かをシェアしたりするだけでも良いと思います。自分の感情を説明できるのは自分の言葉だけなので、言語力や語彙力を高めておくことをおすすめします。

ー佐々木さんが文章を書くときに意識してることはありますか?

何も考えずひたすら書くことを意識しています。文章には感情の整理と浄化の作用があるので、文章を読み返して「私はあのとき、こうだったから悲しかったのか」と再認識することで、何度も泣くことができるのです。

歌舞伎町のエッセイで意識しているのは、夜のお仕事に関わっている子たちが休憩時間にエッセイを読むことで、そのときだけでも働いていること忘れてくれたらいいなと思って書いています。

ーご自身のためだけでなく、人のためにも文章を書いているのですね。最後に、佐々木さんが今後やっていきたいことをお聞かせください。

今年中に書籍を出したいです!女子大生のうちに出さないと価値がないと思っているので、頑張らなきゃですね。

ー年内に佐々木さんの本が読めることを、楽しみにしています!本日はありがとうございました。

取材者:あおきくみこ(Twitter/note
執筆・編集者:もりはる(Twitter
デザイン:五十嵐有沙(Twitter