止まらないクリエイター経済圏。元TBS社員がYouTube60万人に。ーpamxy 西江健司

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第391回目のゲストは株式会社pamxy CEO 西江健司さんです。

 「自分に自信がなかった」と語る西江さん。最初の成功体験は早稲田大学に合格したことでした。在学中にサークルの立ち上げ、早稲田王二連覇、フジテレビのインターンなどを経て「ゼロイチで企画を作る楽しさ」に魅了されます。TBS社員として番組制作に携わる傍ら、通らなかった企画書をもとにYouTubeを開始。さらに退職して、エンターテックを軸にした株式会社pamxyを設立。現在運営しているYouTubeチャンネルには「あるごめとりい」(登録者60万人)、アニミックスチャンネル『ミッドナイトムーン』(登録者3万人)等があります。また、SNSマーケティング事業や、ギフトを中心とした新規事業も行っています。

YouTubeが台頭する現代に、エンターテックを軸にクリエイティブと向き合っている西江さんの姿勢を探りました。

 

憧れを現実に、大学受験が成功体験 

ー本日はよろしくお願いします。西江さんの現在のお仕事について教えてください。

西江健司です。株式会社pamxy CEO、そしてYouTubeチャンネル『あるごめとりい』(登録者60万人)、『ミッドナイトムーン』(登録者3万人)を運営をしています。

2019年6月に在籍していたTBSを退職し、同年9月に株式会社pamxyを創業しました。IP事業、SNSマーケティング事業、ギフト事業などを展開しています。SNSマーケ事業では法人向けYouTube運営も担っており、2ヶ月で3000人から20万人になった『腰痛・肩こり駆け込み寺』、お笑い芸人のナイツ塙さんのYouTubeチャンネル『ナイツ塙の自由時間』も弊社が手掛けています。

僕も出演している自社チャンネル「あるごめとりい」は、2021年5月でチャンネル登録者数が60万人を突破しました。未解決事件やミステリー・ゾッとする怖い話・サイコパス事件・常人離れした超人など、非日常を味わえる動画で人気集めています。

 

ー活動の幅が広いですね。学生時代から精力的だったのでしょうか?

昔はとにかく自分に自信がありませんでした。何かを頑張った経験がなかったんです。なので、成功体験もありませんでした。早稲田大学を卒業しているのですが、高校3年生の頃は、自分が早稲田に入学できるとも思っていませんでしたね。僕が通っていた高校の偏差値は50くらい。そんな場所で僕は全く勉強してなかったので、偏差値28しかなかったんです。ちなみに漢字はNARUTOで学んでいました。人生ハードモードです。 

 

ーそこからどうして早稲田大学を受験することにしたんでしょうか?

大学受験で志望していたところ、全て落ちてしまったんです。お金がある家ではなかったので、自宅で勉強する宅浪で、翌年の合格を目指すことにしました。姉のパートナーが早稲田大学を卒業していて、早稲田への憧れはあったんです。それで、平日に早稲田の雰囲気を見に行ってみました。キャンパスにいた学生たちは、みんな思い思いに過ごしていて、なんでもない日だったのにまるで文化祭のような活気があったんです。「ここなら、僕も受け入れてもらえるかも…」そんなふうに感じました。

それと、当時付き合っていた彼女に、二股されていて…(笑)「早稲田に入学して見返してやる!」という気持ちもありましたね。ええ、こっちの方が動機としては強いかもしれません。人間って単純ですね…。ちなみに受かった後は復縁できませんでした。大学合格で見返せると思考する程度の男には当然の帰結だったわけです。人生そんな上手く行くわけないし、言い訳せずに手持ちのカードで進み続けるしかないんですよね。

 

ーそこから猛勉強が始まるわけですね。

朝は早稲田大学第一応援歌「紺碧の空」で起床して、勉強し、トイレや洗面所で漢文の暗記ぺーパーを眺め、息抜きには早稲田の文化祭の企画「早稲田王」の動画を見てモチベーションを上げて(笑)就寝前には「都の西北」を聞いて…。それを見た両親が、「息子は”早稲田”という名の新興宗教にハマったのではないか」と疑いと心配の眼差しをしていました。

しかし、一浪して挑んだ大学受験、早稲田に受かることができなかったんです。ほかのMARCHレベルの大学からは合格をいただきましたが、どうしても早稲田が良かったので、もう1年、浪人をすることに決めました。もはや、大学に行きたいのではなく早稲田に行きたかった。なので、二浪しての受験は、もう早稲田だけしか受けませんでしたね。「こうなったら、実家を追い出されて新聞配達員の住み込みしてでも、何年かかっても、絶対早稲田に入る!」という気持ちで、頭の中のスペースをほかのことに邪魔されたくなかったんです。そうしてやっと合格し、早稲田大学商学部に進学しました。

 

「自分に自信がなかった」人が早稲田王二連覇

ー憧れの大学に入学してからは、どのようなことに注力されていたのでしょうか?

高校時代にブレイクダンスをしていたので、ダンスサークルに入部。しかし、ブレイクダンスって、ひとりでもできるんですよね。わざわざサークルに所属してやる意味が見出せなくて…。それで、1年生の夏にフラッシュモブをやるサークル「フラッシュモ部」を設立したんです。

当時はフラッシュモブでサプライズプロポーズをやるのが流行っていて、一般の方から申し込みをいただき、僕らが企画・演出を行っていました。東京スカイツリータウンにあるソラマチから依頼を受けて、企画を行う機会もありました。

立ち上げから卒業まで幹事長を務め、3年時には300人ほどのメンバーが所属するほど成長したんです。100~150人ほどの人数でプロジェクトを組み、複数の企画を同時進行していました。この頃サークルでは珍しく、学外の社会人の方ともお話する機会も多かった事、300人のメンバーのマネジメントがあり、この経験が起業して役に立っているとも思います。

 

ーさらに、西江さんは早稲田王二連覇という称号にも輝いていらっしゃいますね。

はい。早稲田王というのは、毎年11月に開催される早稲田の文化祭「早稲田祭」の恒例企画です。受験のときのモチベーションとなっていたので、入学前から「四連覇するぞ!」と意気込んでいました。文化祭で行われる本選に出場するのは4人なんですけど、それを選考するために書類審査と面接があるんですよね。毎年50人弱は応募するので、倍率が高く、1年時には、本選出場も叶いませんでした…。

2年生のときに優勝、3年生のときにも優勝し二連覇、4年時もエントリーしたかったのですが、運営に「しつこい」と言われて断念しました(笑)

ーそもそも早稲田王とは、なんなのでしょうか…?

「早稲田を一番愛する人間を決める」大会です。「早稲田を愛しているのであれば、こんなこともできるでしょう?」と、無理難題を押し付けられるんです(笑)たとえば、ゲテモノの早食いだったり、十字架に貼り付けられた状態から氷のなかの南京錠のカギを掘り出したり…。クレイジーな人たちが集まるような大会でした(笑)

早稲田のことが大好きだったし、副賞としてスポンサーのラーメン屋さんのラーメンが年内食べ放題となるのも魅力でしたね。僕、学生時代、お金がなかったので…優勝して食べ放題になり、5キロは太りました(笑)

 

自分の見せ方に気付いた就活

ー学生時代から面白いことに挑戦する姿勢がうかがえます。そこから就職活動をしてTBS入社を選ばれたのはどうしてですか?

「自分はなにが好きなのか」って、就活前によく考えると思うんですけど、これといったものが正直なかったんです。ただ、サークルを立ち上げた経験から「ゼロからなにかを作る」「企画を考える」ということに面白みを感じていました。そうすると、広告代理店かテレビ局が自分に合っているのではないか、と思ったんですね。

ちょうどフジテレビのインターン募集が行われていて、そこに赤ふんどしをつけた写真を貼った履歴書を送ったら通ったんです(笑)それで、企画を考えるインターンをしていました。そして、卒業後はTBSに入社します。

 

ーすごいアピールの仕方ですね(笑)

就活生って、みんなスキルの差はないと思うんです。そのなかで、どうやって自分の過去を見せるか。そこに差が生まれると思います。見せ方の要は、マーケティング力、プロデュース力、そしてコミュニケーション力ですね。「書類審査の時点で面接ははじまっている」と意識して、写真は最大限ふざける・でも企画書は緻密に練り込まれている、このギャップを演出しました。

 

サラリーマンとしての企画に限界を感じる

ーTBSに入社してからはどのようなお仕事をされていらっしゃったのでしょうか?

最初にドラマの制作部に所属しました。宮藤官九郎さん脚本「監獄のお姫さま」、松本潤さん主演「99.9」などのドラマに携わりました。そのあとに、特番の「レコード大賞」や「カウントダウンTV」に関り、入社2年目からは爆笑問題さんがMCを務める「爆報!THEフライデー」を担当していました。

その間も、自分の企画を通そうと、企画書をたくさん提出していましたね。

 

ーどのような企画を考えられていたのでしょうか?

そもそも企画というのは、自分の原体験・やりたいことを基にした「プロダクトアウト」の企画と、これが求められているだろうとユーザーニーズを意識した「マーケットイン」の企画、このふたつに分けられると思います。それぞれのテレビ局によって、どちらの企画が通りやすいかは異なるのではないでしょうか。

僕は、通らなかった企画書を、YouTube動画の企画として採用することにしました。渋谷の駅前でスマブラ大会をしたり、女の子を集めて主催の僕に選ばれないように振舞ってもらう「パチェラー」をしたり…YouTubeでも再生回数は伸びませんでしたね。「ああ、そりゃあ企画書も落とされるわ」と納得しました(笑)

 

ーその中でも、通った企画はありましたか?

入社2年目でついに「借金、チャラにします。」という企画が通り、総合演出として番組制作をしました。「借りていたお金を返しに行く」というバラエティ番組です。

テレビの制作現場は、企画書を書いた人が一番偉いんですよね。その人が総合演出の肩書きを持ちます。その下にプロデューサーとチーフディレクターがいて、その下にディレクターがいて、さらにその下にアシスタントディレクターがいて…とピラミッド型のチームが組まれて制作しているんです。それぞれの人に役割があり、上から課された条件のもとで調整をしていきます。その過程を経て、当初の企画書の内容が、段々と違うものになってしまうこともあるんです。

もともと、借金をチャラにする人は、一般人から募ろうと考えていました。しかし、視聴率のことを考えると、芸能人が借金を返済しにいくほうがいいんですよね。実際に、出演するのは芸能人になりました。

テレビ局の制作において僕らはあくまで、サラリーマン。芸術家というよりも、プロジェクトマネージャーとしての動きのほうが大きくなります。テレビ局だと、どうしても自分のスタンスを貫くことが難しいな、と感じました。

 

ーやはりYouTubeと大きな違いがあるのでしょうか。

テレビにはいわゆる「干される」という現象があって、テレビ局側が演者の出演権を握っています。そうなると、どうしてもスポンサーやテレビ局に配慮した発言やコンテンツしか作ることができません。

YouTubeであれば、総合演出も、出演権の決定も、自分の意のままです。なにかに忖度する必要がないので、企画としてのエッジが効きます。コンプライアンスはもちろん守りますが、テレビだとグレーゾーンとされる企画も出せるので、視聴者にとってはより面白いと感じられるのでしょう。もちろんその上で、コンテンツを発信する正義も意識しています。

 

コンテキストからうまれるコンテンツの魅力

ーTBSを退社して、起業しようと思ったのはどうしてでしょうか?

テレビ局でサラリーマンを経験したことで、大人数で企画を作るとどうなるのかなどさまざまなことを学べました。ただ、この先の数十年で同じことをするよりも、ネットの世界に飛び込んでみたかったんです。

最初は、プログラミングスクールに通っていました。そのときに、起業家やエンジニアが集まるシェアハウスを創って暮らしました。そこで出会った人たちのおかげで、起業へのハードルが低くなっていました。それで「エンジニアとして生きていくよりも、会社としてエンジニアを採用してプロダクトを作ったほうが僕には向いている」と思い、起業に至りました。起業をゴールとして考えていたわけではなく、あくまで手段として選びましたね。

僕は、とにかく「創る」という行為が好きなんです。フラッシュモブもそうだし、企画書を書くときもそうだし、ゼロをイチにしていくときに胸が躍ります。創り、世の中に価値を提供するときにアドレナリンが出ていると感じるんです。 

 

ー会社を設立した当初は、自社チャンネルだけしか事業がなかったんですよね。どうやってチャンネルは伸びていったのでしょうか?

一緒にチャンネルを運営している相方の闇病み子もTBS社員でした。ふたりで退職し、プログラミングスクールに通いながら、近所のカフェでひたすら動画の編集をしていました。起業したときの僕たちにはなにもありませんでしたね。

いろんな企画をやったなかで、「ある手順を踏まないとアクセスできないネットの世界で、犯罪者集団の情報を買う」という動画がハネたんです。もともと僕がホラー系のコンテンツが好きだったので、そこに一本化しました。好きじゃないと続かないし、特化して頑張ろう、と。

コンテキスト(その人自身の背景)からうまれるコンテンツにこそ、権威性や本物が宿ると思います。僕がいまから整体のチャンネルを開設したって、説得力がないですよね(笑)

 

ー現在は、法人チャンネルの運営も会社の事業としてされていらっしゃいます。どうやって仕事につながったのでしょうか?

当初から、「せっかくやるならテレビのクオリティを超えるレベルを目指そう」と編集に力を入れていました。エフェクトやCG、まとめ方にとにかくこだわっています。そういった編集力など、あるごめとりいをコンテンツとして評価していただき、法人チャンネルから運営の依頼をいただけるようになりました。

最近のあるごめとりいの動画は、テレビと同等か、それ以上のクオリティを発揮できていると自信を持っていますね。

 

CEO自ら、目標に向ってひた走る

ーチャンネルの口コミでも編集と、それによる見やすさへの言及が多いですよね。会社としては、設立2年目ですが、どのくらいの規模なのでしょうか?

正社員は6名、来社してくれる業務委託メンバーも含めると16名。それ以外にも完全オンラインでの業務委託のメンバーが150名ほどが所属しています。Slackが200人を超えそうな勢いで素敵な仲間が増えています!ちなみに弊社は業務委託と呼ぶのは嫌なので、バディさんと呼んでいます。 

 

ー過去にはサークル、現在は会社で、大人数のまとめ役を担っているわけですが、意識していることはありますか?

サークルの幹事長をしていたときは、プロジェクトによる達成感と、その過程での成長を意識していました。サークルは金銭が発生しないので、メンバーを賃金関係でしばることはできません。設立したばかりのときは、なかなか練習に来てもらえず、困ったこともありましたね。

そのため、役割を与えて、目標を達成していく充実感を得られるようにしました。また、「ここにいるメンバーが好き」などの感覚的なメリットを大事にしていましたね。

会社の運営では、より結果を意識しています。良くも悪くも、関わっているメンバーとの間にもお金が発生します。そのため、メンバーからよりシビアに会社が評価されるので、結果を出す必要があるんです。

また、組織として向かう方向性はよく口にしていますね。ミッション、ビジョン、バリューの共有を欠かしません。そして、そこに向ってトップ自らが動き、頑張る。さらにトップだけが頑張ると全体のアウトプットが下がるので、しっかりと役割分担をする。まだまだCEOとして未熟ではありますが、誠実さを大切にして働いています。

 

クリエイターが飯が食えると、さらに面白いコンテンツが生まれる

ー起業家でありながら、クリエイターでもあり続ける西江さん。今後、クリエイターはどのように活躍していくことを予想していますか?

pamxyは「エンターテックで世界中、ココロ躍らす。」をミッションに掲げています。エンターテインメントはテクノロジーと相互に発展を遂げてきました。今後も、それは続いていくと思います。

テクノロジーの進化により、人間による作業の差異は均一化していくのではないでしょうか。たとえば、広告運用の細かな調整など、もっと自動化が進むと思います。そうなると、本質的な差がうまれるのはクリエイティブの部分です。SNS広告でも、コンテンツマーケティングでも、コンテンツの比重が大きくなるでしょう。クリエイティブによって差がつく時代、クリエイター経済圏がさらに拡大していくと思います。

会社員ではない個人クリエイターが、一番大事なのは飯が食えることです。あまりお金の話しはしたくありませんが、稼げないと生活ができませんし、お金がないとコンテンツは作れません。技術の進歩により、NFTやコミュニティサービス、ライブ配信での投げ銭などのクリエイターが稼げる仕組みが増えてきました。個人クリエイターの活躍により、思いがけない連携が増え、面白いコンテンツがどんどんうまれています。いま、とてもいい流れができていると感じるんです。

今後も、僕たちはエンターテックに挑戦していきます。

ー本日はありがとうございました。

西江健司さん(Twitter/YouTubeチャンネル「あるごめとりい」/株式会社pamxy

取材:山崎貴大(Twitter
執筆:野里のどか(Twitter/ブログ
デザイン:五十嵐有沙(Twitter