様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第336回目となる今回のゲストは、土井 美亜さんです。幼少期から経営者を目指していた土井さんが、女性の違和感や悩みを形にするI_for MEの活動や自然から生まれた伝統工芸を紹介するKASASAGIでの活動に辿り着くまでには人生の転機がいくつもありました。土井さんが描く「人と自然に優しい社会」とはどういった社会なのか、ぜひ最後までご覧ください!
人との出会いが自分を変えた
ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。
「人と自然に優しい社会を作る」をモットーに、合同会社KASASAGIとI_for MEの2つで主に活動しています。KASASAGIでは、全国の伝統工芸を集めたECサイトの運営を平均年齢24歳という若いメンバーと一緒に取り組んでいます。経年美化を大切にしながら、自然から生まれた伝統工芸を職人さんのストーリーや思いにフォーカスして製品の紹介を行っています。
I_for MEは、女性の違和感を形にするがテーマとなっています。タブー視されている女性の悩みや日々の違和感をより多くの人に届けようと活動しています。
ーここから幼少期の土井さんのお話をお聞きできればと思うのですが、小さい頃から経営者になることが夢だったそうですね。
はい、6歳のときの将来の夢が経営者になることでした。
父と母がともに自営業だったこともあり、幼少期から父や母が会社でいろんなお客さんと交流しながら仕事をしている様子を見ていたので、「わたしも経営者になって、いろんな人といろんな仕事をしてみたい!」と思っていました。
ー小学校で印象に残っている出来事はありますか。
集団に馴染むのが苦手で、一人で行動しているタイプでした。
当時携帯を持っておらず、歴史好きということもあったのか、一人で行動して楽しんでいることが多く、あまり馴染めなかった記憶があります。
ーそんな土井さんの小学校生活の中で、11歳の時に大きな出来事があったそうですね。
クラスが学級崩壊していましたね。
大人と話すのが好きで楽しいと前々から思っていたこともあり、クラスメイトと意見対立する場面があり、その結果いじめや集団から阻害される経験を受けていました。
自分の言いたいことや伝えたいことを、他の友人たちに表現できていたわけでもなかったので、モヤモヤや辛さを持ちながら生きていました。
ーその後、中学生活はどうだったのでしょうか。
小学校での学級崩壊、いじめの経験があったので、中学生活がスタートしたときは集団から外れることに怖さを感じながら生活していました。
中学2年生の時、わたしと同じ、経営者を目指している親友と出会いました。
わたしの興味のある分野や社会問題について話を聞いてくれて、わたしと同じくらい熱量の高く話をしてくれる子でした。その子と出会ったことで、人と何かをする時は自分の意見を伝えながら、協力することの大切さに気づけたため、人との付き合い方が変わりました。
ーその後は、どのような進路選択をしたのでしょうか。
新宿が身近だったことや勉強がしたい欲求が高かったこともあり、東京都立新宿高校に通うことになりました。学問に励むことで将来、経営者に生かされるのではないかと考えていましたし、高いレベルで学べる環境を求めていました。
直感に従って起業を決意
ー高校生活を過ごす中で、土井さんの人生に影響を与えた出来事があったそうですね。
高校に入学してすぐに、地域の伝統野菜「内藤とうがらし」を栽培するプロジェクトに参加することになりました。その活動を進める最中、高校2年生のときに起業することになったんです。
ープロジェクトに参加しようと思ったのは、何故だったのでしょうか。
直感に従って生きるタイプなこともあり、
校内に掲示されたチラシを見た時に、面白そうと思い参加しようと思いました。
ー3年間プロジェクトを続けられたそうですが、具体的にどんなことを経験されましたか。
内藤とうがらしの栽培や成分分析、さらには他の唐辛子などとの比較をしていました。すると、活動に積極的に関わってくださる先生が次第に増え、ついには学校の園庭を内藤とうがらしの畑にすることになりました。
『先生』は、ただ一つの学問を極めているのかと思い込んでいましたが、プロジェクトに関わってくれた先生方はいろんなことに興味がある方で、わたしのやりたいことに乗っかってくれる先生の存在はとても大きかったです。
ープロジェクトを進めていく中で起業されたということですが、なぜ起業を選んだのでしょうか。
地域活動していく中で、いろいろなメンバーが辞めてしまいました。
その分、意地になって自分が頑張ろうと一人で活動していると、内藤とうがらしを活性化させようと動いている方にお声がけいただき、地域の活動を見せてもらったり、直接お話しをするうちに、もっとこの地域に貢献したいと思うようになりました。そして、自分で内藤とうがらしを使った商品開発をすることに決めました。
私自身は大学や就職してから起業するかと思っていましたが、先生から「土井が起業しちゃえばいいじゃん」と言われたことで両親に相談しました。
起業はそれほど手続きが煩雑でないことが両親の話から分かっていたので、ある日の授業中に起業しようと決めたときに、母にLINEで起業すると連絡をし、先生にも起業することを直接伝えたところ、「頑張ろう」と言ってくれました。
ー起業してみて、いかがでしたか。
イメージとはだいぶ違いました。税金などわからないことも多く、最初は事務作業が多かったです。
起業ってキラキラしたものだと思っていたので、商品をどう売り出すかやマーケティングなどわからない部分があり苦労しました。
また、高校が勉学を重視していたこともあり、わたしの活動に関わってくれた先生以外は起業に反対の先生が多くいました。そのことで、学校に通うことや仕事をすることが精神的に辛くなりました。
#MeToo運動に衝撃を受け、ジェンダーについて学ぼうと決意
ーなるほど。そんな土井さんは、もう一つ高校時代に大きな出来事があったそうですね。
はい、#MeToo運動に参加したことですね。
当時、高校二年生の時はジェンダーや性差別に対する知識がなく、よくわかっていませんでした。しかし、#MeToo運動が起きた時に、ジェンダーについて勉強していた姉からイベントに参加してみないかと誘われ、東京駅の近くで座り込みの運動に参加しました。
姉が来れず一人で行ったのですが、これまでに自身が受けた性差別の体験を涙ながらに話している人が多くいた光景に衝撃を受けました。
ー若い世代が多かったのでしょうか。
いえ、10代は私以外にほとんどいなかったと思います。
驚いたこととして、性差別を受けたと話している方はわたしよりも上の世代が多く、10代の時に受けた経験を涙ながらに話している人が多かったことがショックでした。
性差別されていることに自分自身が気付いていなかったと教えてもらったことで、自分の考え方が180度変わりました。
ーそれらの経験を経たのち、大学はどんな軸で選んだのでしょうか。
高校生の時に起業したことで視野が広がり、いろんな人と関わるようになりました。
そのため、社会に出て働こうという思いが強く、大学進学は頭の中にありませんでした。
ただ、#MeToo運動が忘れられず、このまま今の会社を続けても、知識がなくて苦労するかもしれないと思うようになりました。それと同時に、知識が少ない中でジェンダーについて語ってはいけないと感じていたので、「変革を担う女性」の育成を掲げる津田塾大学に進学してジェンダーについて学ぼうと決めました。
ー経営者という元からあった軸に、ジェンダーの軸も加わったのですね。
その中で、合同会社KASASAGIではどんなポジションで活動しているのでしょうか。
プロジェクトマネージャーとして、ECサイトづくりや新規の職人さんへのヒアリング、さらには職人さんの思いをより多くの人に伝えるためのイベント企画を行っています。
ーちなみに、KASASAGIの名前の由来を教えてください。
カササギを「想いを運ぶ象徴」として捉え、
わたしたちが伝えたい何かを社会に届けていこうということでこの名前がつきました。
ーもう一つの活動、I_for MEについても教えてください。
大学に入学したタイミングが新型コロナウイルスの感染が広がっていた時期で、学校がオンライン体制となったことでやりたい勉強ができなかったり、先生に話を聞きたくても聞けなかったり、先輩と繋がりたくても繋がれないなど、もどかしさを感じていました。
そんなときに、I_for MEのプロジェクトマネージャーが、わたしの大学の1つ上の先輩で。その先輩をTwitterで拝見していたこともあり、お話がしたいと伝えたところ、一緒に話すことができました。その先輩に#MeToo運動について感じていた想いを共有する中で、I_for MEに入らないかと誘われ、即ジョインすることになりました。
現在は、SNS運用や私たちの商品にいろんな人からアドバイスをいただけるようにしたり、関係性づくりにフォーカスしています。
ーコロナの影響もあり、学校に通うことが難しかったと思います。
その中で、ジェンダーに興味のある仲間をどのようにして見つけたのでしょうか。
どう連絡を取ればいいのかという状況だったので、4〜5ヶ月くらいはLINEで連絡を取り合うしかありませんでした。
そんなとき、元厚生労働省 事務次官の村木厚子さんの授業を聴く中で、村木先生に女性が活躍することの大切さを教えてもらい、その考えに共感する生徒がわたしに声をかけてくれて、友人になりました。オンライン授業下でありながら、社会問題について語れる友達と出会えたことで改めてわたしは友達に恵まれていると感じました。
ー大学生活でも人に恵まれていると感じたのですね。
I_for MEのプロジェクトメンバーとしても活動を加速させたと思いますが、その中で新たに気づいたことや感じたことがあれば教えてください。
自分がジェンダーロールに縛られていることを再認識しました。
性的な話を女性はあまりしないというイメージを多くの人が持っているかと思いますが、I_for MEのメンバーはタブーと思わずに普通に話すんです。そのため、わたしが入った当初は、自分が一番硬いのだと実感しましたし、自分自身を大切にしながら仕事をすることをここで学びました。
女性の悩みを解消したプロダクトを販売
ー最近、同性婚やジェンダーに関するニュースが多くなっていますが、それらの問題について土井さんはどう考えていますか。
同性婚、LGBTQ、オリンピックの森前会長の発言などを受けたSNSの盛り上がりに驚いています。また、そういった発言が非難されたり、メディアもその事実を報道するようになってきました。
ジェンダー問題について発言できなかった多くの女性が発言できる環境、そして「その発言・考えはダメでしょ」と気づける社会が整い始めたと感じています。ただ、ジェンダー問題に興味のない同世代がまだまだ多いと思うので、最近のニュースについて自分が感じたことを積極的に外部へ発信するように意識しています。
ー違和感を声に出すことって大事ですよね。
そんなI_for MEで、新しいプロダクトが販売開始となったそうですね。
デリケートゾーンに優しい”おかえりショーツ”を販売し始めました。
女性のショーツはシンプルで体に密着したものが一般的ですが、女性の生理における悩みとして、鼠蹊部の締め付けが苦しかったり蒸れてしまうなどの悩みがあります。
生理中にお腹を押さえつけるのが逆効果ということを踏まえ、短パンのようなゆったりした開放感のあるショーツを開発し、販売することにしました。
ー女性の生理について男性も考えられたら良いと思うのですが、男性側はどういったことができるのでしょうか。
薬を買ってあげたり、ご飯を作ってあげたりという行動も女性にとっては嬉しいと思います。
下着に関してですが、実はおかえりショーツの購入者のうち20%が男性なんです。
男性が女性の下着について考えるのは入りにくいかと思いますが、女性の下着や女性の体のことを男性は知っておいた方が良いと思っています。大事な人を守ることを考えたときに、話しにくいという理由で壁ができてしまうのは辛いので、おかえりショーツを通して女性の悩みを知って欲しい、性について話すきっかけになればと考えています。
声を上げられない人の代弁者として
ー「人と自然に優しい社会を作る」が土井さんの活動のモットーになっているとお聞きしました。そこに込められた思いを教えてください。
仕事や様々な活動で大事なことって、その人自身を大事にすることだと思っています。
社会の中で生きていく上で人を大事にすることは、多様性を大事にすることにつながると思いますし、わたしの活動は男性・女性どちらも含まれているため、男女で差があるのは悲しい。そのため、お互いがお互いのために協力し合える社会を作りたいです。
ただ、新しいプロダクトやサービスが環境に悪いものだったら、自分勝手な気持ちがあります。地域活動で伝統野菜を育てていた経験から、自然とうまく共存してこそ良い社会ができていくと学んだので、わたしは「人にも自然にも優しい社会」を実願したいと考えています。
ー最後に、これからの土井さんのビジョンを教えてください。
悩みや相談したいことを人は抱えながら生きています。
ただ、今の社会は誰もが発言しやすい環境ではないので、声を上げられない人の声を代弁者として、社会に発信していきたいです。
そして、身の回りのものや近しい存在を大切にするように、声なき声を大切にする。そのためにも、くじけることなく社会に対する発信をこれからも続けていこうと思います。
ー土井さん、今回は素敵なお話をありがとうございました!
I_for MEやKASASAGIの活動、そして土井さん個人の活動をこれからも応援しています!