「EVERY DENIMとしての5年間をブランド名に」――株式会社ITONAMI・山脇耀平がリニューアルに抱く想い

色々なキャリアの人たちが集まって、これまでのキャリアや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。今回は、ゲストとして以前お話を伺った方のその後に迫るべく、第32回のゲスト・山脇耀平さんに追跡インタビュー

2015年に山脇さん兄弟が立ち上げたデニムブランド「EVERY DENIM(エブリデニム)」は、2020年10月26日に「ITONAMI(イトナミ)」として名前もロゴも一新。5年間の活動を経てリニューアルに至った経緯や想い、今後の展望について語っていただきました。

▼山脇さんとEVERY DENIMのこれまでの歩みは、前回のインタビュー記事で。
EVERY DENIM・山脇耀平が抱く、デニムの街への想いと実現させたい願い

 

ブランド名としての「EVERY DENIM」に違和感を覚え、リニューアルを決意

――2020年で設立から6年目を迎えた「EVERY DENIM」を、10月26日(=デニムの日)に「ITONAMI」としてリニューアルされました。どのような背景があって、今回のリニューアルに至ったのでしょうか?

少し前からぼんやりと、ブランドというものについて考えていたんです。そうして、大きく二つの違和感を抱いていることに気付きました。

一つ目は、ブランド名に対する違和感です。私たちにとってブランドとは、大切にしている想いや活動の方向性を形にしたものであり、立ち戻れる原点のようなもの。判断に迷ったとき、未来を指し示してくれるものであってほしい……ブランドに対してそういう想いを抱いているのだと気付いたとき、「EVERY DENIM」という名前に微かな違和感を覚えたんです。

この名前はゼロの状態から生まれ、「こうありたい」という未来への願望を言葉にしたものでした。はじめのうちはそれで良かったのですが、活動を続けていくうちに「EVERY DENIM」という名前に立ち戻っても、何も感じなくなってしまった。純度100%で納得感を持って活動していきたい私たち兄弟にとって、ブランド名が原点でなくなってしまった感覚は、徐々に無視できなくなったんです。

もうひとつの違和感は、「EVERY DENIM」より「デニム兄弟」という認知が先行していること。この2〜3年で「デニム兄弟」というキーワードが知名度を持つようになり、「EVERY DENIMはデニム兄弟のブランド」と認識してくれる人も増えてきました。

認知が広まるのはありがたいことですし、私たち兄弟が立ち上げたブランドであることに間違いはありません。しかし、デニムブランドとしてより多くの人と価値観を共有したいと思ったとき、私たちの存在が先行しているのは何か違うなと思ったんです。

「EVERY DENIM」という名前が未来を指し示すものではなくなったこと、そして私たち兄弟が前に立って「EVERY DENIM」の知名度を上げる状態になってしまっていること。この二つの違和感がはっきり浮かび上がったことで、「このままではいけない」とリニューアルを決めました

――その違和感には、2019年にオープンした「DENIM HOSTEL float」の存在も関係あるのでしょうか?

それも大きいと思います。岡山県倉敷市児島の土地に根差した活動をするべく、私たちに「EVERY DENIM」以外の名前ができた。それによって、私たちの中のぼんやりとした違和感がさらに明確になりました。「DENIM HOSTEL float」が2020年9月で1周年を迎えるにあたって、「EVERY DENIM」はこのままでいいのかと改めて考えさせられたんです。

 

「EVERY DENIM」の5年間を「ITONAMI」に込めた

――リニューアルはどのようなプロセスで進められたんでしょうか?

リニューアルすると決めたときに浮かんだのが、私たち兄弟以外の人と一緒に考えていくという手段でした。5年間の活動をベースに新しいブランドを作りたかったので、思考を整理する上でもデザインを作る上でも客観的かつ専門的な意見が欲しいな、と。

そうして、株式会社CIALというデザイン会社のメンバーと一緒にリニューアル作業を進めていくことにしました。

具体的なステップとしては、まず5年間を振り返って、ターニングポイントやアイデンティティを手に入れることとなった出来事をスプレッドシートに書き込んでいきます。それを元に、これから変えていきたいことや今後も貫きたいことをCIALの方々と共有。その後、いくつかの案を出してもらって絞っていきました。

その際、「ブランドを人に例えるとどんなイメージか」を考えたんです。

そのブランドパーソナリティに基づき、最終的に選んだのが「ITONAMI」でした。

――「ITONAMI」を選んだ決め手は何だったんですか?

何かが決め手になって選んだというより、CIALのメンバーとディスカッションしながらしっくりくる言葉を見つけていったという感じなんです。

私たちにとって、岡山県倉敷市児島の地にいるということは一番大事なアイデンティティなので、ブランドに瀬戸内海のイメージは絶対に取り入れたかった。その海を大切にしつつ、品のあるブランド名で……と考えた結果、生まれたのが「ITONAMI」でした。

名前には、三つの由来があります。一つ目は、デニムを作る繊維産業としての「糸」と瀬戸内海の穏やかな「波」を合わせたもの。二つ目は、暮らしを営む中に私たちのブランドがあってほしいという「営み」。そして三つ目が、「意(i)から(to)波(nami)が起きる」というイメージです。

私たちはひとりの人が持つ強い想いをすごく大切にしています。ものづくりにしても、「ニーズがあるから作る」という在り方より、職人さんの「これが作りたいんだ」という想いを尊重したい。服を選ぶ場合も、「自分がいいと思ってこれを着る」という主観性が大事な時代だと思うので、その「意」が伝播していくイメージを名前に反映させました。

写真の奥(香川県)から手前(児島)に架かっているのが瀬戸大橋。floatから見える景色です。

私たちが大切にしている想いをブランド名やロゴに上手く取り入れたいと思っていたので、「ITONAMI」という名前やこのロゴは、想像以上の出来栄えだと自負しています。

――ブランド名に「DENIM」という言葉を入れなかったのは、思い切った決断のように思うのですが。

「ITONAMI」とするか「ITONAMI DENIM」とするかは、最後まで悩んだところでした。もちろん今後もデニム産業やデニム職人さんを中心に、デニムの持つ魅力として経年変化や変色の楽しさを届けたいと思っています。これからリリースする製品も、デニム素材のものがメインです。

しかし、私たちが大切にしている想いやビジョンは「ITONAMI」の一言に集約されている。そこに「DENIM」は必要はないと感じたんです。ブランドの説明をする際にデニムブランドであることは伝わりますので、「DENIM」という言葉にこだわらず、「ITONAMI」の一言が表すものを大切にしたい。

そう思って、新しいブランド名に「DENIM」は入れませんでした。

 

岡山県・児島にとって大切な存在になりたい

――リニューアル2日前には、渋谷ヒカリエでトークイベントをされていましたよね。そこでの新ブランド発表の反響はどうでした?

満員御礼で熱気に包まれていて、とても喜ばしいひとときでした。参加してくださった方の8〜9割は知人や友人で、報告会のような和やかな雰囲気で話をすることができました。私たちのことを心から応援し見守ってくれている人たちが一同に会する場となり、改めて「身近な人たちに応援してもらいながら成長しているブランドだな」と実感。

そして驚いたのが、50人強ほどいた会場の方々のうち「DENIM HOSTEL float」に行ったことがある方が半数以上いたこと。デニムの産地・児島に触れてもらうことが私たちの目的のひとつなので、それだけ首都圏の方々が岡山に来てくれていると分かって嬉しかったです。私たちの活動が価値を生み出している、と感じることができた瞬間でした。

――EVERY DENIM改めITONAMIの活動や製品を通じて、全国の人たちに岡山を届けることができている、と。

児島に根差した活動を続けながらも、いろんな地域から人が集まってくれる開かれた場所にしていきたいと思いっているんです。私が東京と岡山の二拠点で活動している意味も、そこにあります。全国の人たちが岡山に来てくれることで、デニム職人の方々にもいい刺激を与えられたら最高ですね。

――今回のトークイベントはD&DEPARTMENT主催でしたが、どのような関係があったのでしょうか?

D&DEPARTMENTさんは『d design travel』という地域のトラベル誌を作られていて、28県目である岡山号がちょうど発売されたばかりだったんです。ありがたいことに、誌面で私たち兄弟のことを紹介していただいていて、その関係でトークイベントをさせていただくことに。

『d design travel』は、その土地で長く続いているものや、これからも長く残ってほしいものにスポットライトを当てています。私たちが取り上げてもらったのは、その中の「キーマン」という切り口。岡山というくくりで大切な存在だと思ってもらえたことは、とても意義のあることだと感じます。

岡山号の発売とリニューアルのタイミングが重なったのは偶然でしたが、他にもさまざまな偶然が重なって今回の場が生まれました。そこには意味があると思えたんです。これからも、岡山にとってさらに大切な存在になりたいと思わせてもらえる機会になりました。

 

「誇り」から「縁り」を生み出せるブランドへ

――ITONAMIとしての今後の抱負やチャレンジしたいことを教えてください。

ITONAMIのブランドビジョンは “「誇り」から「縁り」が伸びゆく世の中へ” 。兵庫県出身の私たち兄弟にとって、デニム職人さんとの出会いをきっかけとして岡山に縁りができた。同じように、私たちの活動を通じて、職人さんの「誇り」から誰かに「縁り」が伸びていくような世の中になってほしい。その想いを込めて、このビジョンを掲げています。

そのため、作り手の声や誇りをもっともっと掘り起こして文章や映像で表し、ダイレクトに伝わるよう発信を強化したいと思っています。ブランド名が示す「意から波へ」を実現させたいんです。

作り手の声が着用者に伝わるようにするためには、服を作る過程から関われるような仕組みが必要だと考えています。既製品を身に付けるより、職人さんたちの想いや技術に触れながら服作りを進めていくほうが、着ていて楽しいと思うんです。その楽しさを私たちから提案していきたい。

そこで2021年1月11日、「服と、ヨリを戻そう。」をテーマに、新サービス「fukuen」をリリースしました。かつてはお気に入りだったけれど最近は着ていない、でももう一度大切にしたい……そんな服をデニムのインディゴ染料で染め直すサービスです。

私たちは、ものが生まれて誰かの手に渡り、それを手放すまでのすべての段階において「楽しかった」「意義があった」と思えるような活動を進めていきたい。「fukuen」はそのための提案のひとつです。

――前回のインタビューで「今後は岡山に来てくれる人を増やしたい」とおっしゃっていましたが、ITONAMIとしてどのようなことを考えているのでしょうか?

「DENIM HOSTEL float」の施設を拡張し、そこで働く人を増やしたり、人を迎え入れることのできる体制作りをしていきます。これはもう具体的に進めていることです。

また、今はコロナ禍でストップしてしまっているデニム工場の見学も再開させたいと思っています。職人さんと服飾の専門学校生がディスカッションする場を設け、職人さんの誇りに触れる機会を作っていきたいです。

ブランド名は変わりましたが、私たちの活動が大きく変わるというわけではありません。これまでやってきたことも継続しつつ、「ITONAMI」として斬新な企画を発表していきたいと思っています。これからもあたたかく見守ってもらえると嬉しいです。

――これからITONAMIがリリースするサービスも、今後の「ITONAMI」としてのお二人の活動も楽しみです!本日はありがとうございました!

 

取材:西村 創一朗(Twitter
文:矢野 由起
写真:ご本人提供
デザイン:藤井 蓮