U-29世代のトップリーダーに何でも聴けるラジオ型のライブ配信企画「U-29 AMA(Ask Me Anything)」。第2回は精神科医✕マジシャンとして多方面で活躍されている志村祥瑚さんをゲストにお迎えしました。精神科医とマジシャン、というと一見バラバラのことのように感じられるかもしれませんが、「メンタル」を対象としている点で実は大きな共通点があるのだとか。新体操日本代表「フェアリージャパン」のメンタルコーチを務められている他、9月には新著「人生のタネ明かし 成果を出す人に共通する心の秘密」を講談社から出版されるなど、メンタルトレーニングのプロフェッショナルとして圧倒的な支持を集めている志村さんにたっぷりとお話を伺ったイベントレポートをお届けします。
対談:ミスディレクションに気づくのが大きな一歩
イベント前半部分では志村さんの現在のお仕事と精神科医とマジシャンという2つのお仕事の共通点について対談形式でお話いただきました。
志村祥瑚
慶應義塾大学 医学部卒、日本認知科学研究所 代表理事。幼少期よりマジックを始め、マジックの持つ錯覚や思い込みのメカニズムに興味を持つ。2012年ラスベガスジュニアマジック世界大会優勝。 「思い込み」の研究をしていくために精神医学を専攻し、精神科医としてマジックを融合させたメンタルトレーニングライブを全国で行っている。カヌースラロームオリンピック日本代表選手、新体操日本代表「フェアリージャパン」等、トップアスリート、企業経営者のメンタルコーチを務める。近著に9月に新著「人生のタネ明かし 成果を出す人に共通する心の秘密」を講談社から出版。
ーまずは精神科医とマジシャンがメンタルという共通点を持っているという点について詳しく教えていただけますか。
精神科に来られる患者さんの多くは何らかの思い込みによって心の病気にかかってしまっています。一方でマジックは思い込みを使ったエンターテイメントです。精神医学とマジックには「思い込み」という共通のキーワードを持っているんです。
そんな中でも私はマジックを通して思い込みで前に進めない方の心の治療をしています。外来患者の方にも実際にマジックをみせ、種明かしをすることで思い込みに楽しく気付いてもらいます。そこから視野を広げて見え方を変えることで、心の病気を治すという取り組みです。
ーマジックを通して思い込みに気づくことが、心の治療になるんですね。
はい。人間は自分の頭で解釈したことは疑わず真実だと思ってしまう習性があります。例えば自分には実力がないと一度思ってしまうと、そう脳が解釈した瞬間にそれが真実だと思いそれ以外のことに意識が向かなくなります。
新体操日本代表フェアリージャパンがメンタルトレーニングを行う理由もそこにあります。失敗するかもしれないと思うとどうしてもそこに意識がいってしまい、普段通りの実力を発揮することができません。思い込みに気づき、うまく意識をコントロールすることでパフォーマンスアップを実現させるためにメンタルトレーニングを行います。
ーなるほど、そういうことですね。
この注意を違う方向に向けることをマジックの世界ではミスディレクションといいます。右手で何かをしている間に左手で消すなど、マジックは注意をそらすことで成り立っているんです。
そのミスディレクションに気づくことが、実力を発揮する一番の鍵となっています。人はミスディレクションされる生き物なのですが、それに気づくことができれば変えることができます。マジックという視覚的な方法を通すことでより効果的にメンタルトレーニングを行い、注意を間違った方法にそらされないように訓練することが結果的には心の健康や本来の実力発揮に繋がるんです。
Q&Aセッション:サイレントスクリプトでメンタルトレーニング
イベントの後半部分では事前に視聴者の方からいただいていたご質問をQ&A形式でお答えいただきました。
ーなぜ精神科医になろうと思ったのですか?マジシャンとの二刀流を続けている理由も気になります!
なるようになったというのが答えになるかと思います。あくまでも精神科医でありマジシャンであるのは結果で、その結果は運や神様が支配していると私は考えています。マジックが好きで、精神について勉強するのが好きだったからこのような結果になったのかと。
将来設計において結果にフォーカスしてしまうと、そのことに振り回されてしまいパフォーマンスが下がってしまいます。結果はあくまでもボーナスだと考え行動にフォーカスするのが1番です。同様に他人の感情や反応もコントロールできないということを覚えておくといいと思います。未来の結果と他人の感情はコントロール不可です。
ー志村さん自身がミスディレクションにハマった経験、それをフォーカスで乗り越えた経験があれば教えてください!
今でもミスディレクションにハマることはよくあります。代表的なことでいうと、気づいたら目的なくスマホを手にとってTwitterをみていることです。また、医学部へ受験する時は合格できなかったらどうしようと思っていたり、はじめてテレビの生放送でマジックを披露した時も失敗したらどうしようと思っていたりしました。これらの経験があるからこそ、日々よりよいアドバイスができていると感じます。
大事なのは注意を間違った方向に持っていかれた時に、そこから切り替えるかです。切り替える方法の1つとしておすすめなのは注意を持っていかれません宣言、コミットメントをすること。周囲にタバコを吸わないと宣言することなどが例になります。コミットメントは可能な限り、結果ではなく、自分のコントロールできる行動の宣言にしてみてください。
ー会社員を辞めてフリーランスとして独立したのですが3年後や5年後に仕事がなくなったらどうしよう…と不安で眠れないことがあります。不安にどう打ち勝てばいいですか?
その気持ちはとてもわかります。独立と不安、孤独と創造は共存です。その不安はチャレンジしている証なので問題ないと思いますが、ミスディレクションされてしまっているのは問題ですね。不安に勝とうとするのではなく、今できることを考えてみるのはいかがでしょうか。数年後に仕事があるかないかという結果をコントロールすることはできませんが、仕事が数年後なくなった時のことを考えて計画を練ることはできると思います。ネガティブな感情は決して悪い感情ではありません。うまく注意を切り替えてみてください。
ーメンタルを鍛える良い方法はありますか?
注意を切り替える力を鍛える方法として代表的なのは瞑想やヨガなどになります。これらは呼吸に注意を戻すことにフォーカスした、いわゆる注意力の筋トレです。ただし、これらは自力で日々行うのは正直難しいと思います。
簡単にできるメンタルの鍛え方としては、注意を持っていかれていると気づくことの練習をするになります。メンタルを崩すパターンは必ずあるので、それに気づくことができれば対策もたてることができます。
具体的な方法としては、サイレントスクリプトという方法を私はおすすめしています。これは前日の夜に翌日の行動予定表をつくるというものなのですが、ポイントは時間で区切らないことです。「9時から◯◯をする」といった行動予定表やToDoリストではなく、朝から起きて寝るまでの1日の流れを書き起こすのです。そうすることで、ミスディレクションが起きる隙間時間が発生することなく、常に次の行動に注意を向けることができます。もちろん、やらないといけないことばかりを流れで書いても結局ミスディレクションされてしまうので注意してください。
ー就活で志望していた企業にことごとく落ちてしまい、心が折れてしまいました。どうしたらいいでしょうか?
すでにお話しした通り、面接で受かるかどうかは結果、即ちコントロールできない物事になります。自分ではコントロールできないことだということに気づき諦めましょう。
その上で、まずは折れた心が元気になるよう、心が安定する過ごし方を気にかけてください。旅に出るでも、休むでも大丈夫です。ただ、この時も心が安定するかは結果だということを念頭に、そのための行動を意識するようにしてみてくださいね。
ーコロナ禍で部下のマネジメントに悩んでいます。リモートでもモチベーションを高める方法を教えてください。
この場合、部下のモチベーションアップについてなので結果かつ他人のことです。先程の質問同様、コントロールできないことになるので諦める必要があります。モチベーションが上がるかは部下次第です。ただ、モチベーションが上がるようにサポートすることはあるかもしれません。
今回の場合、リモートだからこその問題だと考えると、仕事をするために作られた環境ではない家で働いていることが1つモチベーションダウンの原因として考えられます。家はオフィスと比べて誘惑だらけなので決して部下だけの責任ではありませんよね。
人は環境の奴隷と言われる程、環境次第で変わります。雨というだけで出掛けたくなくなるのが良い例です。それだけ私たちは環境に支配されています。だからこそ、部下の環境をヒアリングし、誘惑を減らす提案をするなど生活習慣の指導を行うことがモチベーションアップに繋がってくるかもしれません。ポイントはモチベーションをあげようとするのではなく、ミスディレクションされずらくすることでパフォーマンスをあげること。例えばスマホを業務中についついみてしまうのであれば、通知はオフにすることや充電はできるだけ遠い場所でやるなどを提案するのもいいですね。
クロージング:本来の力を発揮するために
ー本日は興味深いお話、ありがとうございました。最後に、本を書こう思われた理由と読書に伝えたいことがあれば教えてください。
「人生のタネ明かし 成果を出す人に共通する心の秘密」の帯にも書かれていますが、多くの人はまだ本来の5%の力を発揮していないと思っています。そしてその大部分が、気づかないうちに違う方向に注意を持っていかれているからです。この本はそれぞれのミスディレクションに気づいていただくことで生産性を上げていただき、豊かに生きていただければという思いで書きました。
ぜひ一度手に取っていただければ嬉しいです。本日はありがとうございました!
イベントモデレーター:西村創一朗(Twitter)
執筆:松本佳恋(ブログ/Twitter)