様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第255回目となる今回のゲストは、株式会社コークッキング取締役の篠田沙織(しのださおり)さんです。
7歳で急性リンパ性白血病を患い、それを機に「食」分野へ興味を持ち始めた篠田さん。数多の経験を経て『TABETE』というサービスの運営にたどり着いた過程、そしてフードロス問題を通じて発信したいことについて伺いました。
フードロス問題をビジネスの力で解決へ
ーまずは簡単に自己紹介をお願いいたします。
株式会社コークッキングで取締役を務める篠田沙織と申します。日本女子大学英文学科を卒業し、飲食店検索サービスを運営するRetty株式会社に新卒入社しました。その後、10か月で退職してコークッキングに入社し、現在に至ります。
ーありがとうございます。コークッキングの事業についても簡単に教えていただけますか?
軸となる事業が、2018年4月にリリースした『TABETE』です。飲食店さんや小売店で売れ残ってしまった食べ物を『TABETE』で出品すると、消費者がお得な価格で買うことができます。2020年12月時点で利用者数が34万人を突破し、関心が高まっていることを肌で感じています。
ー新型コロナウイルスの影響で、テイクアウト需要が高まっていますよね。
おっしゃるとおりです。コロナ禍で外食店さんからの利用申込が10倍以上増えています。また、消費者側も「飲食店の力になりたい」という支援消費の気運が高まってきており、『TABETE』で作りたい世界観が徐々に形になってきています。
ー今の時代に求められているサービスですね。その中で、篠田さんはどんな役割を担っていますか?
マーケティングや営業、広報などいわゆるビジネスサイドを担当しています。Retty時代には飛び込み営業やSEOライティング、開発ディレクションも経験しました。
ーかなり幅広いですね!その中で自分に合っているものは何だと思われますか?
マーケティングかな、と自分では思っています。「納得してくれるお客様にしか売りたくない」という考えであるため、「どう流入してどう買ってもらうか」から設計できるマーケティングが合っている気がします。これも、色々なことをやってみてわかったことですね。
「いつからでも立ち上がれる」と学んだ2つの挫折
ーここから過去について伺っていきますが、若くして2つの大きな挫折を経験されたんですよね。一つずつ聞かせていただけますか?
はい。一つ目は7歳のとき、急性リンパ性白血病にかかってしまい、1年半の入院生活を余儀なくされました。スポーツ一家で、私自身もスポーツ少女だったのですが、体を動かしたいのにずっとベッドの上にいる生活は辛かったですね。
ーいきなり辛い出来事ですね…。どのような症状が出る病なのですか?
最初の異変は、鼻血が止まらなくなることでした。それを飲み込んでしまい、おなかの具合が悪くなって入院することになりました。入院後、幸い骨髄移植の必要はなく薬の投与だけで済んだのですが、その副作用で髪の毛が全部抜けたり。さらに、薬の副作用で食欲が抑えられなくなって、暴食を続けてしまうこともありました。
ー想像を絶しています…。その時、どんなことを考えていましたか?
やはり、焦りは大きかったですね。体力もどんどん落ちていきましたし、勉強においても同級生に置いてけぼりにされている気がして。また、親の配慮からか症状を詳しく聞かされていなかったのですが、重い病気であることは薄々気付いてはいました。
ーそんな闘病生活をきっかけに、篠田さんの軸となる「食」への興味が湧いたんですよね。
はい。ずっとベッドの上にいると、楽しいことが食べることしかないんですよね。たまに外泊許可が出て、その時に母の手料理を食べたら以前よりもおいしく感じたり。とはいえ、病院では食事において制限されることが多く、「食べたいのに食べれない」が原体験になっていると思います。
ーその原体験から、当時どんな道を進もうと考えたのですか?
自分自身の闘病経験、そして親が糖尿病を患っていたこともあり、「食の分野で人の助けになる仕事がしたい」と考えはじめていたんですね。そこで思い浮かんだのが、管理栄養士という仕事。資格取得のために志望大学も決め、「さあ受験だ」という時に2つ目の挫折が訪れました。
ー大事な時期に再び挫折が…。
センター試験の数学Ⅰ・Aで、13/100点という今までになく低い点を取ってしまいました。試験中、何も頭に浮かばなくなって、かつ周囲の受験生はカリカリ解いていて、ずっと焦っていたのを鮮明に覚えています。
ーその13点という数字は、進路にも影響を及ぼしたのですか?
管理栄養士の資格取得のために理系大学を志望していたものの、点数が足りずに断念せざるを得ませんでした。結果文系大学に進学したのですが、今振り返るとこれで良かったのかも、と思っています。
「フードロス問題を仕組みから変える」と決めた瞬間
ー大学ではどんなことをされていたのですか?
飲食関係のアルバイトやインターンシップなど、計7つ活動をしていました。英文学科という「食」とは離れた環境だったので、「少しでも食関係の近づくために」と考えたためです。
ー行動に出ましたね!その時は、「こういう形で食に関わりたい」という軸はあったのですか?
いえ、その時は特にありませんでした。「どんなことに関心があるんだろう?」と自分も探りたかったので、飲食店やジムのインストラクター、カフェなど色んなことを経験しましたよ。実は、そのうちの一つが、新卒で入社したRettyでのインターンシップでした。
ーその中で、現在生業としている「フードロス問題」に関わるきっかけはありましたか?
ありました。色んなアルバイト先で、かなりの量の廃棄を見てきたんですね。私は、白血病にかかった時に「食べたくても食べれない」を経験していたので、当然のように廃棄される光景を見て悲しくなってしまったんです。職場の方は廃棄することに慣れていたようですが、私はどうしても慣れなくて…。
ー「食べたくても食べれない」経験があったからこそ、敏感に反応してしまったのですね…。
ただ、このフードロス問題は、お店が悪い、消費者が悪い、というものではないんですよ。提供するより多めに発注するのは、飲食店の仕組み上やむを得ないことだし、「発注量を減らしてください」と言っても意味がない。だから、「業界の仕組みから変えていかないといけない」と強く思いました。
ーそこで”ビジネス”を強く意識するようになったのですか?
そうですね。たとえば、自分の勤める店舗だけロスを減らしても他の店舗では減らない、なんてことになっては意味がない。そこで、「全体解決を目指したい」と考えるようになり、「ビジネスを通じてフードロス問題を仕組みから変えていきたい」という気持ちが芽生えましたね。
ーその時期から「フードロス問題」という軸は固まっていたのですか?
いえ、就活で約50社を受けたのですが、その中で固まっていきましたね。また、大手からベンチャーまで幅広く話を聞きに行ったのですが、自分がベンチャー志向であることも就活中に気付けました。
ーこの記事を読むU-29世代にとって参考になるかもしれないので、少し詳しく聞かせてください。
大手企業の方は「自分が関わっている領域のこと」を、ベンチャー企業の方は「事業全体のこと」を話されることに気付いたんです。どっちも素敵であるという前提で話しますが、私の場合は「事業全体に関わり、業界の仕組みを変えていきたい」という想いがあったため、そこでベンチャーの方が合っているなと思えました。
さらに、Rettyの他にコンサルティング会社さんから内定をいただき、最終的にRettyに入社しました。これは、Rettyを退職して起業する方の話を聞いたときに、「他社の事業を支援するのと、事業に当事者として関わるのとどっちを選ぶか」という考え方を教えていただき、「私は後者だ」と思ったためです。
フードロス問題の解決は、自分が今できることから一つずつ
ーそんな、納得して入社したRettyを10か月で退職されたんですよね。その経緯について聞かせていただけますか?
はい。Rettyの皆さんには本当によくしていただいて、感謝しています。入社前から「新規事業、特にフードロス問題に関することをやりたい」と伝えていて、私のキャリアについても本気で考えてくださりました。ただ、私が新規事業に携われるタイミングが中々無く、フードロス問題に関われる会社に転職or合う会社がなければ起業、という2択でキャリアチェンジを模索し始めました。
ータイミングが合わなかった、ということなのですかね。篠田さんが希望するような会社はすぐに見つかりましたか?
予想はしていましたが、やはりありませんでした。なので、起業する方向にシフトして、起業準備をしていたのですが、自分一人で起業するのも正直怖くて。そんなタイミングで、運よくコークッキング代表の川越一磨と出会ったんです。
ーすごいタイミング!色々お話しされたと思いますが、どんなことを思いましたか?
二つの感情がありました。一つは、念願のフードロス事業に関われるワクワクです。白血病を患ったときの「食べたくても食べれない」に、いよいよ自分も事業者として関われるわけですから。そしてもう一つが不安でした。当時新卒10か月だった自分に何ができるのだろうか、という気持ちは強かったですね。
ーその不安をどのように乗り越えたのですか?
過去の経験ですね。2度の挫折で、自分では「人生終わった」と思ったのですが、現在こうしてフードロス事業に関われているので、「ゼロからでも行動すれば人生は変わる」と自分に言い聞かせて乗り越えました。この考えは、今もずっと大切にしています。
ーありがとうございます。この記事を読んでいるU-29世代に対して、フードロスに関してどんなことを伝えたいですか?
あまり大きく捉えすぎないようにしていただきたいですね。「社会問題」と聞くとどうしても大きく考えてしまいますが、結局は個々人の行動の積み重ねです。なので、自分が今できることを、一つずつやっていただけると嬉しいなと思います。
ー日常生活の中で、たとえばどんなことから始めればいいですか?
「自分が何に対してお金を使っているのか」を考えることをオススメします。今自分が手にしている商品は、どんな人が作ってどういう流通経路で手元に届いているのか。普段の購買行動の裏で起こっていることを想像してみるだけで、それまでとは視座がかなり変わると思います。
ー最後に、篠田さんが今後実現していきたいことなどをお聞かせください。
「消費者が、社会課題に対して前向きに取り組める社会にしたい」と考えています。なぜなら、消費者が変わることで産業が変わり、事業者の意識も変わるためです。そうすることで、事業者も「消費者に選ばれるお店を目指そう」と考えてもらえるはずで、フードロスがその要素の一つになればいいなと思います。そのためにも、消費者が楽しんで社会課題に関われる仕組みを作っていきたいですね。
篠田さんのSNSはこちら
Twitter https://twitter.com/0815sama
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取材者:吉永里美(Twitter/note)
執筆者:角田尭史(Twitter/note/Instagram)
デザイナー:五十嵐有沙 (Twitter)