様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第156回目となる今回のゲストは、bills本店での修業後に、現在都内に4店舗展開する「forucafe(フォルカフェ)」をオープンした平井幸奈さんです。
大学時代のアルバイトをきっかけに料理の世界に魅了され、単身でオーストラリアのシドニーへ渡り料理修業をした平井さん。そんな平井さんが店舗経営をするまでに至った経緯についてお話いただきました。
アフターコロナを見据えてメニュー開発
ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。
株式会社フォルスタイル代表の平井と申します。会社として大きく3つの事業を展開していて、メインはforucafeというカフェの運営です。早稲田に本店があり、渋谷と原宿、東京ワールドゲートにも店舗があります。東京ワールドゲートにある店舗は、2020年9月にオープンしたばかりです。それぞれの店舗によって提供している商品やサービスは異なりますが、利用していただくお客様のペースメーカーになるようなお店を目指しています。
2つ目の事業はFORU GRANOLA(フォルグラノーラ)というグラノーラのブランドです。保存料を使わず1つ1つ手作りしたグラノーラを、オンラインショップで販売しています。
3つ目はケータリング事業です。企業様のイベントやホームパーティー、撮影現場など様々なシーンでご利用いただいています。
ー平井さんご自身が店舗に立つことはありますか?
最近はほとんどないですね。業務に関してほとんど任せられる状況になっているので、新商品の開発や特別な指導があるときだけ顔を出しています。優秀な店長をはじめスタッフがたくさん育ってくれてとても頼もしいです。
ーコロナ禍で、9月に店舗を増やすことにした経緯を教えてください。
本当は1か月前にオープンする予定だったのですが、コロナの影響でどんどん延期になり、やっと9月にオープンすることができたんです。
周りではコロナの影響で閉店してしまうお店が多かったですし、弊社もコロナ禍で売上が半分以下になったので、このタイミングでの店舗出店はかなり勇気がいりました。
ただ中長期的に見れば、この挑戦は間違いではないと思い、出店を決めたんです。コロナ以前は、目の前の仕事をこなすことに精いっぱいでしたが、今回立ち止まって改めてブランドについて考え直す、良い機会になりました。外部の方にもアドバイスをいただきながら、これから10年先のことも考えてスタッフの技術面の向上や、メニューのクオリティを上げる取り組みを進めています。
ーメニュー開発は頻繁に行っているのですか?
各店舗ごとに、1ヶ月半~3ヶ月のスパンで定期的に行っています。
forucafeのforuは”for u”=”for you”つまり、「あなたのための」という思いを込めていて、みなさまの忙しい毎日のリズムを整える、ペースメーカーになるようなお店を目指しています。このコンセプトを実現するために、forucafeの店舗ごとのメニューは大きく異なります。
早稲田にあるforucafe本店のオープン当初からの名物はブリュレフレンチトーストです。表面にカソナードというお砂糖をまぶして、バーナーで焦がしてパリッとさせています。早稲田という場所柄、学生やファミリー層が多いので、気軽にテイクアウトできるお弁当やローストビーフ丼などのランチメニューも充実させています。
原宿店はWeWorkのオフィスに併設されていて、明治通りに面している特殊な立地です。毎日通われるオフィスのメンバーさんとのコラボメニューを定期的に打ち出す一方で、インスタ映えするような期間限定のブリュレフレンチトーストにも力を入れています。最近は世界大会にも出場したラテアーティストが活躍していて、定期的にコーヒーワークショップなども行う、ラテに力を入れている店舗でもあります。
渋谷店と東京ワールドゲート店は、完全にWeWorkのオフィスのメンバーさん向けの店舗です。渋谷店は新進気鋭の企業で働かれているオフィスワーカー向けに、週替わりのデリやおにぎり、お味噌汁など、気軽にサクッと使っていただけるメニューを展開しています。
ワーホリを活用し、bills本店へ飛び込み
ー大学時代はどのように過ごされたか教えてください。
国立大学に行きたかったのですが、高校2年生のときに勉強面で挫折して、私立大学を目指し始めました。上京したかったこともあり、早稲田大学に進学しました。
大学2年生のときに留学を考え、両親に相談すると「お金は自分で用意しなさい」と言われて。「じゃあ働けばいいんだ」と思いました。当時billsの表参道店でアルバイトをしていて、billsはオーストラリアのシドニーに本店があるので、ダメもとで料理長に「現地で働かせてください」と頼んでみたんです。
すると「ワーキングホリデーのビザを取ったら行っていいよ」と言っていただいて。すぐに自分でワーホリのビザを取得し、飛行機や宿泊先も予約してシドニーへと飛び立ちました。
ー当時英語は話せましたか?
大学で習う日常会話レベルの英語しか話せなかったですね。キッチンで使う専門用語などはまったくわからなかったです。
ーbillsでアルバイトされていた頃のやりがいが「本店でも働いてみたい」という気持ちにつながったのですか?
そうですね。大学1年生のときに、なんとなく大学には行っているけどこれといった目標もなくて、何者でもない自分にもやもやしていて。サークルは楽しかったですが飲み会があまり好きじゃなくて、アルバイトで料理を作っているときが1番楽しかったんです。
料理を作って、それをお客さんに食べてもらって「美味しい」と言ってもらえると嬉しくて。これを仕事にしてお金ももらえるなんて幸せだなあ、と思っていました。
実はbills以外にフレンチレストランでも働いていて。フレンチはうさぎやエスカルゴなど、日常とはかけ離れた料理ですが、billsは日常に密着した料理ばかりでした。ビル・グレンジャーというシェフが、「お家にお客さんを招き入れるような」というコンセプトで、内装はお家をイメージして作り、レシピもすごくシンプルでお家でもできるようなメニューにしたんです。日常的な空間と料理に、惹かれました。
ー本店で働いてみて感じたことはありますか?
夏休みの丸々2か月間、シドニーの本店で働いたのですが、日本とシドニーの現場はまったく違いました。当時日本ではキッチンを6~7人で回していましたが、本店では基本2〜3人体制。長年経験のあるプロしかいなかったです。
私は最初はまったく仕事ができなくて、「何しに来たんだ」「日本からお荷物が来た」という目で見られていたと思います。いつもキッチンの端っこで、パクチーをピッキングする作業ばかりしていました。
ーつらい状況をどのように乗り越えましたか?
仕事がまったくできなかった初めの頃は、午前9時から午後3時まで働く予定が、12時には「帰っていいよ」と言われて。私は何をしに来たんだろう、と落ち込んでいましたが、徐々に仕事を任せてもらえるようになったんです。
そのきっかけは、メニューチェンジのタイミングでした。メニューチェンジをするときは、総料理長から次のシーズンのメニューや作り方を伝えられ、みんながゼロからメニューを覚えるんです。今までの経験値はほとんど関係なく、全員ゼロからのスタートなので「巻き返すにはここしかない!」と思い、猛勉強しました。
1度言われたら1回で覚えることを意識して必死で働いていると、徐々に仕事を任せてもらえるようになって。料理長から初めて、「君がいてくれてよかったよ。ありがとう。」と言ってもらえた日は、本当に嬉しくて……今でも鮮明に覚えています。
最終的には、イギリスに出す新店のメニュー開発の総料理長アシスタントのお仕事をいただけたりもしました。
大学3年で、自身のお店forucafeをオープン
ーシドニーからの帰国後、どのように過ごされたか教えてください。
billsを広めたビル・グレンジャーに憧れていて、「私もbillsのようなお店を作りたい」という思いはありつつも、当時の私にはお金も人脈もなくて。唯一料理を教えて欲しいと言ってくれる友人がいたので、材料費500円だけもらって自宅で料理教室を開催したり、学生団体のイベントでボランティアで料理を作ったりしていました。
そんなある日、「日曜日に使っていないカフェがあるから自由に使っていいよ」と言っていただけたんです。そこで月に一回日曜限定のフレンチトースト専門店をはじめたのが、forucafeのはじまりでした。SNSで拡散して、1ヶ月前から100人のご予約が埋まるご盛況をいただきました。
ただ単発では誰でもできるので継続したい、そしてビジネスとして成り立たせたいと強く思うようになったんです。
ーお店を出すことに迷いはありましたか?
もちろんありました。お金がかかることなので、周りは大反対でしたし、実現できるかどうかも半信半疑でした。ただ好きなことを仕事にしたいと強く思っていたので、雇われるのではなく自分でお店を出そうと決意しました。
ー就職活動の時期は、今後についてどのように考えていましたか?
最初は就活のセミナーに出席していましたが、forucafeよりも魅力的な仕事は見つかりませんでした。いろんな方に「就職した方がいいよ」「就職すればもっと視野が広がるから」と言われましたが、「自分の気持ちに素直に」というのが私のモットーで。1番ワクワクできる道は、会社を作って大きくしていくことだと思ったので、みんなの反対を押し切って就職しない道を選びました。
もう1つ、私が大事にしているのが「ブレブレの時が一番変われるとき。選んだ答えはすべて正解。」という言葉です。選んだ答えを正解にできるのは自分だけですし、それを正解にできるように頑張ればいい、これを正解だと信じて進んでいこうという気持ちで今も過ごしています。
ーforucafeを経営していくことに決めてからのお話をお聞かせください。
アルバイトから社員になってくれた子が1人いて、その子と一緒にカフェを運営していました。私と同じ最低賃金の給料でしたが、やりたいことやコンセプトに共感してくれて、ゼロからいろんなことを二人三脚でやってきて。
そんなある日、お店でお客さんがいなくなったタイミングで突然辞めることを告げられました。予兆も何もなかったので驚いて、「ああ…わかった」と言って、レジから1,000円札を1枚抜いて、ひとまず近くのコーヒー屋さんへ1人で向かいました。コーヒー屋さんの前に着いても涙が止まらなくて。仕方なく公園のベンチで泣いていました。
休みの日も一緒に旅行するほど仲が良く、私生活でもずっと一緒にいた子だったので、恋人に振られたときのような感覚だったんです。公私混同していたことは今では反省していますが、それくらい大切な人でした。
私はずっと心の中で、関わってくれる人みんなを幸せにしたいと思っていたので、1番近くにいる子さえ幸せにできていないのか、とショックを受けました。仕事を始めてから今までで、1番つらく悲しい出来事ですね。
ーそのショックからどうやって立ち直りましたか?
起きていることは全て自分の責任として、しっかりと受け止め次につなげる努力をしました。
それまでは大学のサークルの延長みたいな感じで、フワっとしていた部分も多かったので、これを機に会社として真剣に経営をしていこう、と気持ちを入れ替えることができたんです。私自身、気の引き締まったタイミングでもあったので、その経験があったことで成長できました。
関わるすべての人に「foryou」を届ける
ー何か決断をするうえで、大事にしているポイントはありますか?
何をするか、しないかを決めるときに、自分の気持ちがワクワクするかどうかを1番大切にしていますね。決断をしたあとは、「選んだ答えはすべて正解」という信念のもと、決めたらそれをやりきることを徹底しています。
今回も、コロナ禍で売上に伸び悩んだ中での新店舗出店は迷いましたが、中長期的に考えると虎ノ門の一等地にそうそう出店はできないですし、やりたいと思ったのでやることにしました。もちろん反対意見はたくさんありましたが、ワクワクしたインスピレーションを信じることにしたんです。
ー仕事で悩んだときに周りに相談はしますか?
夫や、社内で一緒に経営をしている子に相談をするくらいですね。最終的には自分で決めちゃうことが多いです。
ーそれは昔も今も変わらずですか?
forucafeを開店するときや、新規事業を始めようと思ったときは、いろんな方に相談していて。相談された側は、相談内容に対してそれぞれの意見をくださるじゃないですか。それを1つ1つ受け止めていたら、「この事業はうまくいかないかもしれない」とネガティブ思考になってしまって……
たくさんの人にいろんな意見をもらいすぎて、自分の気持ちがぶれてしまうのであれば、ひとまずやってみてトライアンドエラーを繰り返し、より良い道を探っていく方が私には合っていると思ったんです。もちろん人に意見を聞いた方が勉強になることもあるので、雑談程度にお話することもありますが、聞きすぎないことも大事かなと思います。
ービジネスアイデアは日常から得ることが多いですか?
日常やいろんなところにヒントは転がっています。海外旅行先で、「これいい!」と感じたものを参考にしたり、Pinterestやインスタを見てヒントを得たり、日常的に私たちが食べてるものの中でメニュー化できるものを探したり。日々の暮らしの中で見つけたものを形にしています。
ービジネスを行ううえで、今も昔も大事にされている思いはありますか?
forucafeの”foru”の由来でもある「foryou」の気持ちを大切にしています。例えばコロナ禍で店舗を3か月お休みしたことがあって。もちろん会社としても厳しい状況でしたが、いかに仕事を作ってスタッフのモチベーションを上げていくか、従業員1人1人に対して私ができるforyouは何か、を考えました。
社内だけでなく社外に対しても、foryouの気持ちを大切にしています。お客さんに美味しいを届けるというのはもちろんですが、それだけではなく、私たちにとって仕入業者さんも大切な存在です。業者さんは雨の日も風の日も、いろんな場所を回って大変じゃないですか。その中でも届けたいって思っていただけるような場所にしたいと思っていて。そういう意味ではお客さんだけでなく、業者さんやクライアントとも良い関係が築けるよう常に”foryou”を心がけています。
ー今後の方向性や、描いているビジョンを教えてください。
forucafeは、忙しない毎日のリズムを整える、ペースメーカーになるようなお店を目指しています。会社のミッションとして「make life delicious」を掲げているので、foryouの気持ちを持って、食を起点に人々のライフスタイルを彩るブランドを作っていきたいです。そして私たちらしく、一歩ずつ、ブランドを大きくしていけたらいいなと思っています!
ー選んだ答えはすべて正解だと思い、夢を実現してきた平井さんのお言葉は、多くの方の励みになると思います。本日はありがとうございました!平井さんのさらなる挑戦を応援しています!
取材者:あおきくみこ(Twitter/note)
執筆者:もりはる(Twitter)
デザイナー:五十嵐有沙 (Twitter)