広報、週末モデル、セラピスト ー 下田奈奈が複業できたのは「余白を持ったから」

色々なキャリアの人たちが集まって、これまでのキャリアや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第23回目のゲストは、株式会社MONOKROM(以下MONOKROM)で広報室長をされている下田奈奈(しもだ・なな)さんです。

学生時代はモデルやタレントとして芸能の世界で活躍し、就職後はITベンチャーにて営業や広報として活躍。現職にて様々なキャリアの選択肢があることに気付き、週末モデルやセラピストとして複業をされている下田さん。

そんな下田さんから、「複業してみたいけど何をしていいか分からない」いう方に向けたメッセージや、今の仕事に出会うまでのストーリーを伺いました。

異なる価値観に触れる機会を残すため、普通校へ進学

― 小学校から高校まで芸能活動をされていた下田さんですが、一度その活動を控えて大学進学を選んだのはなぜでしょう?

中学時代、学校と芸能の友達などコミュニティを行き来している中で、価値観の違う人はけっこういるんだなと感じていたんです。周りでは芸能系の高校へ進学する子が多かった中、ひとつの価値観に染まるのは怖いなと思い、違う価値観と関われる機会を残しておきたくて普通の高校に進学を決めました。

それまでは仕事で学校も休みがちだったんですけど、高校に入ってからは毎日学校に通うようになって。「普通に生活することってけっこう楽しいな」「毎日同じ場所に行くことで学ぶ事とか成長できることがけっこうあるんだな」と気付いたんです。それなら大学でもいろいろなことを学びたいと思い、大学へ進学することにしました。

― 大学進学をしても芸能活動を続ける人もいる中、事務所も辞めたんですよね。

高校に入った時、本格的に芸能活動をしていこうという流れになったんです。でも、活動していく中で、「自分にはこれを生涯の仕事にする覚悟がないな、覚悟が足らないな」と思うようになって。それなら辞めようと思い、進学を考えているタイミングで事務所を辞めることにしました。

― 芸能活動から一線を引いて、どんな大学生活を過ごされてきたんですか?

これまで勉強ができてなかった分、ものすごく気合を入れて毎日勉強していました。ただ、根詰めすぎたのか、体調を崩してしまって。大学2年のときに、もうちょっと力を抜こうと思ったんです。

せっかくだから大学生らしいことにもチャレンジしてみようと思い、そこからアパレルブランドのプレスやテレビ番組のリポーター、ミスコンなど様々な活動をするようになりました。

― 再び芸能活動に近しい仕事をやるようになったわけですね。

本当はやったことのない経験をしようと思っていたんですが、ついつい近くにある方を選んでしまったんですよね。リポーターなど学びの多い経験はできたものの、芸能活動以外の強みがないことが不安で自分に自信が持てず、将来に対してモヤモヤしていました。

 

自分を鍛えられる会社へ ー ITベンチャーへの就職

― そういう中で就職活動の時期に突入したんですね。就職活動はどうでしたか?

就職活動の時はモヤモヤしていたので、「厳しい環境に身を置いて自分を鍛えられる会社に行こう」と思い、ベンチャー企業ばかり受けていました。最終的にはクラウドソーシング事業をやっているIT系の企業へ行くことに。

今は、甘やかされるよりも厳しくしてもらったほうがいい時期なんじゃないかと思って。人事の方含め、そういう価値観の方が多い会社だったので、ここで頑張ろうと思ったんですよね。

― 最初の会社では営業に配属されて、毎日泣きながら働いてたんだとか。

最初のうちは本当に大変でしたね。パソコンのキーボードの打ち方もわからなくて、先輩の前でいつも泣いてました。入社して1ヶ月目の頃に先輩たちとランチに行ったとき、「何のために数字を追いかけるのかわかりません」と、急に涙が出てきたこともありました。

― そんな中新人賞を獲得。そこまで成果を出せたのは、何が要因だったと思いますか?

一番は先輩方がものすごく親切だったからでしょうね。できない私に対しても諦めずに、丁寧に指導していただいたので。私自身、何も分からなかったからこそプライドが一切なくて、言われたことを全部やっていたんですよね。あと、自信がなかったので人よりも頑張らなきゃいけないと思っていて。

あとは、「成果を出さない限り次の仕事につながらない」という芸能活動での学びが活きたと思います。当時の私は、目標達成するのが当たり前だと思っていましたし。それで毎月目標達成できたというのがあるかな、と。

― 1社目では、がむしゃらに働いていたわけですね。

はい、働くというのをどういうバランスでやったらいいのか、加減が分からなくてなってしまって。とにかく死ぬ気でやらなければと思い、時間コントロールもできず、体力的にも精神的にもギリギリになっていました。

当時はロールモデルがあまりいなくて、「こんな生き方や働き方をしたい」という人が見つけられなかったんです。そこで、起業する気もないのに女性起業家をロールモデルとして真似して、自分で自分にプレッシャーをかけてしまっていました。

― その後、2年ほど働いて退職。そこから今の会社へ入るまではどのような変遷があったんでしょう?

次のステップに進みたいなという気持ちがあり、2017年のはじめに転職しました。2社目はゲーム会社だったんですが、そこでできるのが採用広報の仕事だということと、ちょうど新しいサービスをリリースするタイミングだということで、チャレンジしてみたいなと思ったんです。

2社目で1年弱ほど働いた後、学生時代から繋がりのあったMONOKROMへ転職。学生時代に代表から「ゆくゆくは女性を支援できるサービスをやりたい」と聞いていたので、いつか一緒にできたらいいな、と思っていたんです。そして「週末モデル」のサービスをリリースするタイミングでジョインすることにしました。

― 転職後すぐにベンチャー企業でサービスの立ち上げ、というのは大変だったと思いますが。

大変ではありましたが、代表が「自分を大事にして働いてほしい」「自分のキャリアを大事にして、目標や叶えたいことのために仕事を活かしてほしい」という考え方なので、体力的にも精神的にも働きやすいと感じました。ベンチャー企業なんですが、「副業の時間を作ってもいいよ」という自由な社風で、今までの働き方とはかなり変わりましたね。

MONOKROMでは広報として働いているんですが、立ち上げたばかりのサービスなので最初は事例もユーザーもいない状態で。まずはイベントを開催したり、メディアで記事を書いたりといったことをやっていました。そうして少しずつ信頼関係を築いて事例を作り、広報活動に取り組んでいったんです。それが大変でしたね。

 

週末モデルから学んだキャリアの選択肢

― 現在下田さんは複業されていますが、いつ頃から始めたんでしょう?

自社サービスである「週末モデル」のモデルとしての複業は、入社後3ヶ月ほどで始めたんですが、2018年末頃からはセラピストとしての複業も始めました。仕事で様々なモデルさんとお会いしているんですが、みなさんすごく向上心が高いんですよ。いろんな資格の勉強をされていたりして。「キャリアの選択肢ってこんなにたくさんあるんだ」と、いい影響を受けました。

私はマッサージが好きだったので、いつか仕事にできたらいいなと思って勉強していたんですが、ずっとチャレンジできなくて。でもあるとき仕事でご縁があったお店に誘ってもらい、働かせてもらうことにしたんです。

― セラピストと本業の時間配分はどうされてたんですか?

そもそもMONOKROMに入社する際に、週4勤務をお願いしていたんです。好きなものややりたいことが見つかったときのために、と思って。だから最初は週3日セラピストとして働いていたんですが、さすがに体からの黄色信号に気付き、シフトを減らしてもらいました。

― それは大変そうですね。広報とセラピストという全然違ったお仕事を両立されていますが、やっていて感じるメリットやデメリットはありますか?

複業は自己管理が肝心なので、バランスがすごく難しいなと実感しています。自分の黄色信号に気付くのが大事ですね。ただ、広報の仕事で常に頭を使っている一方、セラピストの仕事では何も考えないことが重要なので、真逆の仕事をしているからこそバランスが取れている部分もあるなと思います。

それに、セラピストとして施術をしたお客さんが週末モデルに登録したいと言ってくださったり、逆に広報の仕事でお世話になっている方が施術に来てくださったりすることもあるのが嬉しいです。

 

複業のコツは余白を持つこと

― 複業したいという人に対してアドバイスはありますか?

「複業したい」というお話はよく聞くんですが、何をしていいかわからないという方が多いなと思っていて。そんな方は、自分の中に余白やバッファを持つのが大事だと思います。今やっていることももちろん大事ですが、一切余白がないとそこに新しい何かが入り込む隙間がないので。

それに、時間があることで自分が好きなものを探すことができますよね。私も週1日の休みの中で興味があることをいくつかやってみたんです。その中で「マッサージの仕事をしてみたい」と思うようになりました。まずは自分の好きなものを探す時間や、実際に好きなことをやっている人に会う時間を取ることが大事だと思います。

―最後に、下田さんが今後チャレンジしたいことを教えてください。

いつか自分で開業するときのために、週末モデルで吸収しているものや様々な女性に出会って感じる課題と、セラピストという自分の好きなことを組み合わせて、何かのコンセプトとしてひとつの形にできたらいいなと思っています。

また私自身もそうでしたが、「こうならなきゃいけない」と型にはまったキャリアにとらわれている女性が多い気がしていて。そんな人たちに、「どんなキャリアでも正解だし、色んな生き方があるよ」と伝えるため、まずは週末モデルさんなど色々なキャリアを世の中に出していきたいです。


(取材:西村創一朗、写真・デザイン:矢野拓実、文:品田知美)