今回は現代アーティストとして活躍されている池田真優さんにお話をお伺いしました。池田さんはFacebookページに投稿した絵画「花」が100万いいねを突破し話題となったアーティスト。と同時に、日経新聞COMEMOにてアートのコラムを寄稿されており、13回も日経新聞電子版トップページに掲載されるキーオピニオンリーダー(KOL)です。
そんな池田さんの意外にもあまり語られていないアートとの出会いやアートとSNSとの関連性について語っていただきました。
人の感情を動かしたいという思いからアートの世界へ
―まずは池田さんとアートの関係について教えてください。そもそも昔からアートが好きだったんですか?
元々アートは好きでしたが、中学校の時は吹奏楽部で部活漬けの毎日でしたし、高校は勉強メインの生活。数学が得意だったので大学は中央大学の経済学部、とアートの世界からはどちらかというと遠かったですね。
でもこういった経験がむしろアートにつながったんだと思います。
中学では全国大会を目指すレベルの吹奏楽部に入っていたので上下関係も厳しく練習もハードでした。団体行動が求められた分、自由さがなくて、個性は求められていなかった。高校時代は京都大学を目指して予備校に通って受験勉強していたんですが、みんなが同じレールの乗っていることや競争社会で頑張ることに疑問を持つようになりました。
もっと個性を生かした生き方をしたい、他にもっと違う世界があるんじゃないかという思いがあったんです。大学に入って、いろんなサークルに所属して面白い人たちにで会っていく中でSNSでの発信活動を始めたのがアートにつながっています。
―元々アートの世界にどっぷりではなかった中でアートのどこに魅力を感じられたんですか。
小学校のイベントでお化け屋敷をしたり、高校の文化祭で廊下装飾をやったりしたときに人がびっくりしたりする反応を見た時に楽しいなと思ったのが原点になっているかと思います。私、人の感情を動かすのが好きなんです。そしてアートだとそれができる。なので「上手な絵」じゃなくて「これ何?」って見た人がザワザワするような作品を作りたいと常に思っています。
人の意表を突くのが好きなんですね。私がSNSのアクティブユーザーなのもそこに繋がっているんだと思っています。SNSもアートと似ていて人の感情を動かしたり、人の感情に働きかけたりすることができるんですよね。
SNSとアートの共通項
―池田さんといえば「SNS×アート」というイメージがあります。SNSとの出会いはどんな感じだったんですか?
最初は趣味ではじめたツイッターが、実は友達と繋がるだけではなく外部とも繋がれるツールだと気づき2016年からツイッターで匿名の美容アカウントをはじめました。ここで個性が武器になるんだということを知りました。これもアートに通じるところがありますね。
このアカウントが短期間で3000人フォローもいただいたので2017年からはInstagram、Facebookもはじめてみました。Instagramは文章ではなく写真の世界だと思ったので写真を加工したデジタルアート作品を載せていました。これが現代アーティストとしての活動の原点になっていると思います。
―Facebookはどのような形で活用していたんですか?
Facebookでは面識のない方にもメッセージ付きで友達リクエストを送らせていただいたりして、自分の出会ったことのない価値観を持った人と出会う場所として使っていました。
―Facebookは特にリアルな友達と繋がる場という認識があるのでかなりレアな活用方法ですね。
そうですね。でもそれがきっかけでたくさんの出会いや気づきがありました。今やらせていただいている日経新聞のCOMEMOも実はFacebookで繋がった人が実はきっかけなんです。
それとは別に、2018 年からはフェイスブックページの運営もスタートさせました。花を中心とした作品を投稿していたんですが、フェイスブック広告をだして投稿に100万いいねをもらえるかというチャレンジをやってみたんです。これはInstagramで投稿したアートに対して海外の方からリアクションがあったのをみてFacebookならさらに多くの海外の人たちと繋がれるんではないかと思ったのがきっかけです。
実際このチャレンジを通して世界各国からコメントをもらうことができて多様性が見ることができたのが面白かったしアートの重要性も確認できました。
―100万いいねはすごいですね。そのチャレンジの発想はどこから得たんですか?
Facebookで繋がっていた起業家の方ですね。その方もフェイスブックページを運用されていたんですが、同じようなことをアートでやってみたらどうなるんだろう?って。
こうやって振り返るとSNSがきっかけで人脈も活動の幅も大きく広がりました。
自分らしい働き方と活動
―池田さんは大学時代にSNSを活用した発信を行って今に至るとのことですが企業への就職などは考えなかったんですか?
万博の開催が決まってそれに関わりたいと思ったことや決まった所に長くいるということや、決められた時間に出社するといったことが自分に合わないなと思ったので就職は考えませんでした。
私はアーティストっていわゆる起業家だと思っています。どこかの会社に属するというよりかは、日本各地で個人として活動しながらいろんな企業さんのいろんな事業に関わらせていただく感じで忙しくさせていただいています。2019年3月に大学を卒業したのでまだ卒業して1年経っていませんが、いろんな人との出会いがあっていろんなプロジェクトに関わらせていただく働き方が自分らしいなと思っています。
―そんな多忙スケジュールの中、意識していることはなんですか?
無理しすぎないことですかね。ついつい頑張りすぎたくなるし、ちょっとくらいは無理してでもやりたいと思ってしまう。これは学生の頃から変わりません。バランスが難しいので自分の中でもまだ試行錯誤しています。時間に余裕がなくなると厳しいのでスケジュールには余白を持たせて詰めすぎないようにはしています。
忙しくなりすぎて目の前のことしか見えなくなってしまうとアート活動も目先の利益ばかりになってしまうんです。それは良くないなって。アーティスト活動というのは本来10年とか50年単位で考えるべきだと私は思っています。だから先のことを考えられる余裕を持つためにもスケジュールに余裕を持つように意識しています。
―先のことを考える機会ってあまりなくありませんか?
そうですね。意識的に時間を作らないとなかなか考える機会を持てないですね。
なのでこの前「シンギュラリティ後のアート」というイベントを開催したんです。今の技術を踏まえつつ、2045年とかの未来がどうなっているのかを考えてみる、みたいな。未来について話すことができる人達、世の中を俯瞰できる人達が集まるコミュニティがあれば未来に向けて何か意味ある活動ができるのではないかと思いました。
それを経て、「シンギュラリティ後のアートのあり方」というフェイスブックページを作ったところ一週間で100人くらいの方が興味を持ってくださったんです。すごく先の未来について考えるイベントに対して100人も興味を持ってくれる人がいると知りこういったテーマに需要があることを知れました。今後定期的にこういったテーマでのイベントを企画したら面白いなと思っているので企画していく予定です。
―他にも最近取り組まれていることはありますか。
最近はなんで心が揺らぐのか?などといったこと、心理学や脳科学とか、哲学とかに興味を持つようになりました。そこでこれまで学んでこなかった学問を勉強したいと思い、Nサロンという日経新聞のサロンにアート哲学部を立ち上げさせてもらったんです。簡単に言うとみんなでアート哲学の知見を深めていこうというコミュニティですね。
似たような形でNサロンで発信研究部というのもスタートさせました。どうすればSNSで人の心に影響を与えることができるのかといったことを研究する部活ですね。
あと個人的にやっていることとしてはnoteをこまめに更新しており、フォロワーがついに7000人を超えました。
―noteではどんなことを発信されているのですか?
いろいろ書いていますが、日本のアート市場、世界のアート市場の現状などやはりアートの話が中心です。
実は世界のアート市場は7兆円と言われている中、実は日本のアート市場は300億円にしか満たないんです。これってすごく少ないし残念だしもったいないなと思ってその現状について書いたりしています。日本のアート市場を広げて、アート市場の活性化を目指したいという思いの詰まったnoteもぜひ読んでみていただきたいです。
新しいアートの世界を作りたい
―果敢にチャレンジされ続けている印象を受けていますが、これからやりたいことはありますか?
まずはやはり大阪万博をきっかけにアートでムーブメントを起こしたいです。
大阪には岡本太郎さんの作品、太陽の塔がありますがあれって世界での知名度が低いんですよね。でも岡本太郎さんみたいに哲学的な考え方にアーティストとして正面からぶつかっている人って実はあまりいないので、その魅力・すごさを世界に知ってほしいなと思います。そして日本の芸術も捨てたもんじゃないぞ!って伝えたいです。
また、岡本太郎さんの太陽の塔を超える創作をしたいと思っています。岡本太郎さんが不在の世の中で今こそ、岡本太郎さんの代わりになる人達の存在が必要じゃないかと思うんです。そのためのアイディアを今は色々インプットしているという状況ですね。
―作品を作るだけではなく、発信して、さらに繋がりも増やすということを続けて、ムーブメントを作っていかれるんですね。
はい。日本人のアーティスト無しに世界のアートマーケットが成り立っている所が現状では正直あります。なので、日本のアーティストもいいんだぞ!という所をしっかりPRしていきたいし、他のアーティストにとっても意味のあるムーブメントを起こしていきたいと思っています。
最近は2020年とか2025年に向けて何かやりたいっていう人がたくさんいるので、そんな人たちとうまく繋がってコラボレーションしながら徐々に熱を高めていって日本のアート世界を盛り上げていきたいなと思っています。
<取材:西村創一朗、文:松本佳恋、写真・デザイン:矢野拓実>