日本社会と教育の分断に立ち向かう及川真央が目指す「誰もが自分らしく生きられる」世の中とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第800回目となる今回は、社会と地域をつなげ、人々が自分らしく生きられる仕組みを作っている及川 真央(おいかわ・まお)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームで職員をしながら、一般社団法人Raise your Flagでファシリテーション講座を運営している及川真央さん。今回は現在の取り組みから今後のビジョンまでお伺いしました。

大学はサボりに行く平凡な20歳。転機は友人の起業

ーまず始めに、自己紹介をお願いします。

一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームで職員をしながら、一般社団法人Raise your Flagでファシリテーション講座を運営している及川真央です。

一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームでは、意思ある若者を育てるミッションのもと、高校進学の仕組み作りや高校2年生の1年間だけ地方に留学する制度を整えたりしています。​​

前職は、地域おこし協力隊として新潟県に移住し、高校生の探究学習やキャリア教育に関わっていました。

ー現在は、幅広く活躍されている真央さんですが、大学生から活動的だったのでしょうか?

すごく平凡な大学生でした。テキトーに大学に行って、テキトーにバイトをして、せっかく授業に行ってもスマホアプリをしているような大学生でしたね。(笑)

高校は文武両道で、勉強も部活動もそこそこ頑張っていました。「大学を卒業したら、公務員になろうかな」と思って、「法学部だったら公務員になりやすいかな」となんとなく考えていて。あとはモテそうだし、響きがかっこいいなと思って学部を決めましたね。(笑)

ー大学生活で自分が変わったり、印象的だったりした出来事はありましたか?

20歳が、大きなターニングポイントでした。

大学の友人に起業家の道に進むことを伝えられて、自分の人生を考え直しました。同じ時期に大学に入学して、同じように大学生活を過ごしたはずなのに、友人には目標が明確にあったことに感化されたんです。

「自分には友人みたいに語れるものが何もない…」「自分の大学3年間はなんだったんだろう」と思い悩みましたね。「自分も何かしたいけど、何をすればいいのかわからない…」当時はそんな感情を抱いていました。

「これを逃すともう変われない…」キーパーソンから伝えられた人生の教訓

ーそこから真央さんはどのように行動されたのでしょうか?

大学の授業で、まちづくりを行っている方との出会いがきっかけで変化できました。

私の出身大学では、地元の福岡県北九州市で活躍している社会人をゲストにお招きして、現在の活動をお話ししてもらう授業があって。その授業で、地域おこしを行っている方が登壇されたんです。

その方が最後に「一歩踏み出したいけど何をすればいいのかわからない人は僕にメッセージをください」っておっしゃってくださいました。

「自分はこれを逃すともう変えられない」私は瞬時にこう思いました。そこから、すぐにメッセージを送って、会いに行きましたね。正直、初めての場所に行くのは怖かったし、40代の人と何を話せばいいのかわからなくて。家を出た時から何度も帰ろうと思いました。

でも会いに行かなかったら、今の自分は存在していないです。その方は、私の話をじっくり聞いてくださり、最後に「興味があることはやった方がいい。迷っている必要はないよ。とりあえずやってみて、そのあと考えればいい。」「あとは、たくさん本を読むといいね。」とアドバイスをしてくださいました。この2つの教訓は今でも大切にしていて、ここから少しずつ行動できるようになりました。

ー21歳では、高校生に対話を届けるボランティアを行ったとお聞きしています。対話を届けるボランティアを通して、成長できたことはありますか?

物事の目的や自分の人生で何を人に伝えられるのか考えるようになりました。

ボランティア内容は、自分の人生を紙芝居で伝えて、高校生のキャリア教育につなげるものでした。自分の人生で起こったことを意味付けたり、それを高校生にどう伝えるか考えたり、真剣に悩みましたね。人生で初めて完徹しました。

ボランティアを終えた時に、ひとり話しかけてくれた女の子がいました。

木のおもちゃを作るために工房を開きたいという夢を持っていた子で。「私、おもちゃの工房を作る夢があるんですけど、収入が不安定だったり、親や友達、先生からとがめられていて正直諦めようと思っていたんです。でも、今日お話を聞いて自分の夢を追いかけようと思いました。」その時の好きなことややりたいことを語っている彼女の表情は、とても輝いていました。

また、同時にその子の夢を諦めさせようとした社会のあり方に違和感を覚えました。そこで、「自分は高校生の夢の実現の過程を応援し続けられる立場でいたい。」「誰かの夢の実現をサポートできたら、自分の人生は幸福かもしれない」って思ったんですよね。

ーそこから、就職活動を始められたと思いますが、どのような業界を志望されたのでしょうか?

就職活動は、このまま教育業界に進んでいいのかという不安やホームグラウンドの福岡を離れたくない寂しさもあり、別の道に進みました。学生のお部屋探しのアルバイトをしていた経験から、不動産会社に就職しました。

でも、全然うまくいかなくて。うつ病の一歩手前になるまで、自分を追い込んでしまいました。社会人として至らない部分が多かったり、部屋を貸す仕事に対して自分の存在意義を見出せなかったりしたと思います。

駅のホームを見る度に飛び込みたいと思っていましたし、夜は全然眠れなくて気づいたら1時間おきに目が覚めていました。でも、極限状態になるまで誰にも胸の内を話せなくて。本当に心身共にボロボロの状態になった時に、やっと親と会社の先輩に話しました。

ー精神的にどん底に落ちてしまってからは、どのように回復されたのでしょうか?

今一緒にRaise your Flagを運営している代表からの言葉が、私を立ち直らせてくれました。

当時から仲が良かったため、彼には仕事の辛さや心情を話していて。ある日彼から「真央くんは、今のままでもある程度立ち回れるから、苦しくてもなんとかやっていけると思う。でも、そのままだとそこそこで終わるよ。」って言葉をかけてもらいました。

私の中では「今のこの状況を脱したところでそこそこなのか…」「就職は正直、自分を守る意味で選択してしまった。それでも最悪な状況。しかもそこを脱してもそこそこな状況だったら思い切って挑戦した方がいい。挑戦した結果、落ちてしまうならしょうがないのではないか。」そう思ったんです。

だからそこからは会社を辞める選択と、外に出る選択をしました。

社会と教育が分断された現代。自分が目指すのは地方と高校生をつなげる「パイプ役」

ーそこからは、地域おこし協力隊として新潟に移住されたとお聞きしています。地域おこし協力隊として、活動された理由はありますか?

高校生の夢の実現と、地方の掛け合わせに可能性を感じたからです。

公教育の中で、学校の先生だけで教育を変えるのは限界があると思っていました。また同時に、社会と学校が切り離されたようにも感じていて。そこで、社会と学校をつなげるパイプ役になりたいと思ったんです。

実際に行ったことは、総合的な探究の時間を活用して中学校と高校の授業作りをしました。また、公営塾では高校生が自ら作ったプロジェクトの伴走をしたり、大学生を10〜15人お呼びして、高校生とのワークショップを作ったりしていました。

ー現在は、地域おこし協力隊の3年間の任務が終わり、島根県で地域・魅力化プラットフォームの職員として活動されていると伺っています。現在、地域・魅力化プラットフォームで取り組まれていることをお教えください。

県外からの生徒が地方に入学してもらう「地域みらい留学365」の推進を行っています。新潟で地域おこし協力隊として活動する時から、どうしても地域みらい留学の推進を行いたかったんです。

地域みらい留学には、さまざま魅力があると思っていて。ひとつ目は、自分のキャラクターを変えられること。

小中学校過ごした中で、自分のキャラクターを変えられるタイミングってなかなかないですよね。でも、新しい場所に移ることで、全く新しい自分のキャラクターに変えられるメリットがあると思います。それまでは、大勢の生徒に埋もれていた子が、地方で少人数で生活することにより自分のキャラクターを出しやすくなるとも考えていて。

また、小学校から高校まで関わるメンバーが同じだと、自然と阿吽の呼吸で合わせる文化が生まれます。メンバーの固定化により、初対面の人と関わるのが苦手な子が増えてきてしまっている問題もあると思います。

また、地方に住んでいる子の中には、「やりたいことがなくて、選択肢の狭さから偏差値だけで高校を選んでしまう子」や「やりたいことがあっても、それをサポートできる人材がいなかったり、周りからの冷たい視線で夢を諦めてしまったりする子」など地域格差でさまざまな問題を抱えている子がいると思います。

社会と教育が分断された風潮を変えるには、国の仕組みから変えられるように動いていかないといけないと考えていて。だから、国と一緒にプロジェクトを遂行できる「地域みらい留学」を推進しています。

及川真央が目指す「一人ひとりが人生の旗を掲げられる社会」

ー真央さんが目指すこれからのビジョンはありますか?

多くの子どもたちが自ら住む場所を選べる世の中を作っていきたいです。

自分の学ぶ場所を自分で選べて、かつ自分の好きなことを追い求められる社会を作ることができたら「自分らしい生き方」を多くの人が体現できると思っています。また、今好きなことがない人にも、地域での体験を通して自分らしさを発揮できる環境を提供していきたいです。

また、地方の魅力も多くの子ども達に発信したいです。

地域には、それぞれの業界に特化した人を育てられる人材がいると思っています。例えば、石川県の能登は、漁業。高千穂は、農業。島根県の雲南市は、コミュニティナースの仕組みがすごく整っているんです。このように地域には何かしらの強みがあって、そこだからこそ育てられる人材があるはずだと考えています。

Raise  your Flagの会社でも、近しいことを感じています。私は、ファシリテーションやワークショップを通じて、それぞれ内に秘めている想いを、自分の手で形にしてほしいと願っています。

自分自身は、歌や絵などの表現活動がすごく苦手です。でも、表現スキルがなくても、ワークショップデザインは誰でも形にできるものなので。Raise your Flagの活動を通しても、みんなが人生の旗を掲げられるような社会をデザインしていきたいです。

ー最後に、U29世代に一言お願いします!

何か大きなことを成し遂げたい時に、覚悟を持つ大切さをお伝えしたいです!人生を変えたいとか社会を変えたいなどの想いは、自分の頑張ればいいという優しい世界ではないからです。

また自分の内側になるコンフォートゾーンから、常に自分の外側になるチャレンジゾーンに足を踏み入れてみてください。ただ、コンフォートゾーンを持っておくこともすごく大事で。コミュニティや趣味などで、自分を癒しつつ、外に出る挑戦心を持っていてほしいと思います!

ーありがとうございました!真央さんの今後のご活躍を応援しております!

取材:和田晶雄(Twitter
執筆:八巻美穂(Twitter / note
デザイン:高橋りえ(Twitter