掛け合わせでもっと世界を愉しむ。パラレルワーカー藤長郁夫が考える、パラキャリ時代の自己表現とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第991回目となる今回は、藤長 郁夫(フジナガ イクオ)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

日本たばこ産業株式会社(JT)の経営企画部や、他3社でのパラレルワークを愉しむ藤長さん。東京大学在学時のエピソードや現在のキャリアに至るまでの経緯、今後の目標などをお話していただきました。

探究心旺盛な永久5歳児?!医療工学の研究を中心に、越境や掛け合わせに夢中

ー簡単に自己紹介をお願いいたします。

藤長郁夫と申します。日本たばこ産業株式会社(JT)の経営企画部に務めていて、既存・新規の事業開発に関わる業務を担当しています。JTでは有志団体O2にも所属していて、JTとの兼業で主にアカデミアの周辺でほか3社でも活動しています。

東京大学在学時は医療用材料の工学を専攻していて、JT入社当初は加熱式たばこデバイスに関連する研究開発業務を担当していました。

ー多くのわらじを履いているのですね!では、まず幼少期のエピソードから教えてください。

小さい頃はわんぱく少年で、性懲りもなく頭を打って入院したことが3回もあるほどです(笑)。頭を打って入院する度にレントゲンで自分の脳を見て「気持ち悪い形をしているなあ。でもそう感じているのもこの脳なんだよなあ」と強く興味を惹かれていました。

中身は当時とあまり変わらず好奇心や愉しむ力が強みなんですが、周囲からは「永久5歳児」と言われたりしています

中高時代は勉強と恋愛が好きな青年で、得意な理科の勉強を教えることで口説くタイプの理系男子でした。好奇心も勉強も恋愛もあらゆる「感じ、考え、動くこと」は同じ脳から生まれるもので、幼少期の頃に散々見た自分の脳を思い出してやっぱり脳は面白いなと思っていました

そうこうしているうちに、動物としての「ヒト」社会的な生き物としての「人間」が脳を介して調和することに興味を持っていき、研究者・技術者の両親に触発されながら、脳科学や行動経済学などの本を読み漁って学問の間の繋がりを楽しんでいました

ー小さいときから好奇心旺盛だったのですね!それから、なぜ東京大学への進路を決めたのでしょうか?

大学受験時に、脳外科・脳神経科学のプロフェッショナルになるために医学部に進学するか、広くヒトや人間を取り扱う工学部かで迷ったんです。

脳科学や心理学、経済学が繋がるならもっと色んな学問や概念にも繋がりが発見できるのではないか、また、発見したことから何かを生み出して表現がしたい。

そんな想いから、最終的に多様な学問や人が集う総合大学の東京大学で工学を学ぶことに決めました。

ー東京大学での学生生活はどうでしたか?

すごく楽しかったですね!勉強はもちろん、交友関係が一気に開かれた感覚がありました。大学にはいろいろな年齢や価値観の人がいて、「冒険、自己表現、仲間と語り合うことが好き」という自分の個性に向き合いました。

大学のオフィシャルな広報部局(東大ナビTtime!)で東大や工学部の魅力を語り尽くしたり、「この大学は、もっと面白い。」を掲げ学業にとどまらない東大生の魅力を発信する団体(UmeeT)で落語家やホテル王、演劇家、ホストなど魅力的な活動をしている東大生やOBOGの取材をしたり、ありえないほど“work hard, play hard”なテニスサークルの代表をしたり……とても充実した生活を送っていました。

学問としても高校生のころに考えていたよりさらに細分化・専門化されていて、その分深く掘ると逆に分野を超えた問いや論点(以後、まとめて論点)が見出せるのか、東京大学の内外には学際的な取り組みもたくさんありました。

半年間の藝大との交換授業では、工学さえも表現技法にしてしまうクリエイティブ集団に感銘を受け、自分もたくさん解釈して創って表現することで概念の境界を解きほぐしていきたいと思うように。一見して違う物事のように見えるのって、人間がわかりやすさのために敢えて分断してるだけなんだなと。

ーどんな学問を専攻していましたか?

バイオマテリアル系の研究科を選び、生体に使うやわらかい医療用材料の物理学に関する研究を行い、様々な論点に触れて越境を試みていました

例えば、「ゼリーは固体か?それとも液体か?」という論点があって。

ゼリー(学術的には”ゲル”と呼ぶ)は固体のようにも思えますが、凍ってるわけではないので液体なんですよね。これって水分たっぷりだけど凍ってない人体も一緒で、なので医療用の材料としてゲルは期待されています。ソフトコンタクトレンズもゲルです。そんなゲルや人間を”固体っぽいもの”として扱える学問に魅了されていました。

この頃は「ゼリーもあなたも液体かもしれない。でもオレはあなたを固体として扱える」が口説き文句でしたね(笑)。

異常に薄い液体をゼリーのように固めたり(※1)、ゲルの中に宇宙の大規模構造のような特殊な構造が生まれるという新しい物理現象を発見したり(※2)…という研究をしていました。やはり自己表現が好きだったので、修士課程修了までの3年間で10回くらい学会に出させてもらいました。学会は自己表現の場ではないのですが(笑)。

ゲルの中では”化学”的に反応が進むのですが、形や強さは”物理学”で決まり、最終的に医療に使えるかどうかは”生命科学”や”医学”で決まるので、学際的な探究の場としてもとっても面白いんです。一見して分断された物事の境界に立って新しい論点から常識を疑わなければならない瞬間を味わい、やはり越境はより色んな景色を見せてくれるなと。

この経験から、分断を越境した掛け合わせにより、ユニークな価値を作れると今でも信じています。

その後も、医療と嗜好品や人間臭さの発展的な両立を考えてJTに入社したり、組織横断で色んなプロジェクトを企画・推進する有志活動をしたり、アカデミアと産業界の橋渡しのために兼業したりと、現在の取り組みにも繋がるものは多いですね。

※1. Fujinaga, I. et al. Cluster growth from a dilute system in a percolation process. Polym. J. 52, 289–297 (2020).

※2. Ishikawa, S. et al. Percolation-induced gel–gel phase separation in a dilute polymer network. Nat. Mater. (2023).