“当たり前”の違う世界へ。植田 悠大が捨てた「しなければいけないこと」とは

地方暮らしと、そこで得た意外な気づき

ーさまざまな地方に行ってみてどんな苦労がありましたか?

これまでとは違う、地方独特の苦労を感じました。

初めに行った熊本県のサイハテ村では小さなゲストハウスで、住み込みで仕事をしました。のんびりとしたよい雰囲気だったのですが、自分のプライベートの時間が持てず疲れることも。

夏は滋賀県でキャニオニングとよばれる、ウエットスーツとライフジャケットを着て、体一つで川を流れる遊びのガイドをしました。仕事はエキサイティングで楽しかったのですが、職場で意見の衝突を経験してしまって。人間関係の悩みがありました。

冬は群馬の旅館の仲居をしていました。その旅館はものすごく歴史があって、働いている人は地元の方でした。入って二日で怒鳴られましたが(笑)。

いくら環境を変えても、どこかでストレスを感じてしまう。自分の中で正解がわからない日々が続きましたが、同時に重要な気づきを得ました。

ー具体的にどのような気づきがありましたか?

「こんなことで喜んでもらえるんだ」ということへの気づきで、この経験は現在の自分に繋がっています。

滋賀で出会ったのが、旅人の料理人、元自衛官のボクサーなど、みなバックグラウンドの違う若者たちでした。

あるときボクサーの彼から、Excelで「シートのコピーの仕方がわからない」と助けを求められました。普段仕事でパソコンを使うのが当たり前になっていた僕にとっては、その困りごと自体が新鮮でした。すぐに右クリックでシートを作成してあげると、「ありがとう、助かったわ!」と感謝されたんです。

群馬の旅館では、腰の曲がったお年寄りの従業員さんと一緒に働きました。僕はそれほど背が高くないのですが、そこでは「背の高い力持ち」として、高いところのものをとってあげるだけで喜ばれたんです。

地方に行ったことによって、当たり前の違うところに飛び込む経験をしました。すると、自分が当たり前だと思っているものや知識をつかうだけでもとても喜んでくれる人がいることに気づきました。意図しないことで喜んでもらえる経験を得たのです。

ーさまざまな地方に行ったあと、どのような生活をされましたか?

会社員の期間を経て、そこからフリーランスとしてWeb制作や動画制作などをしました。しかし、なかなか仕事がなくて生活も苦しく、長続きしないと感じました。「自分にとって厳しい環境で勝負しようとしているのでは」と悩む日々。

一度立ち止まって考えると「これまで僕は他の人と同じもので勝負していた」ことに気づきました。どれだけがんばっても、厳しい競争があるためなかなか成果は得られません。

本当に僕が得意なものは何かと考えたときに、頭に浮かんだのが地方での様々な「ちょっとしたことで人に喜んでもらった経験」でした。

「やりたいことリスト」の作成

ー考え方を変えたということですね。

そうですね。僕はこれまで、動画制作やweb制作を「がんばって」取り組んできました。しかし、僕が自然としていることや、周りの人と違うことのほうが大事なのではないかと思いました。

類は友を呼ぶといいますし、一定のところに留まると周囲との差が出にくいです。僕が喜んでもらえたのは、東京ではなく、様々な地方に行ったり家族と会ったりしたときです。

そう考えると、僕にとって大事なことは2つあります。

1つは当たり前の違う世界に飛び込むこと。周囲との違いが出るので、得意なことやできることがわかりますし、活躍できるチャンスが広がっているかもしれません。

もう1つは、自分に合うスタイルでいること

僕はこれまで「こうしなければいけない」という意識が強くありました。大学卒業後は企業で働かないといけないと思っていましたし、実際に働きました。社会人として上手く出世できたらお金を稼げるかもしれませんよね。

しかし、お金さえあれば、どんな働き方でも100%幸せになれるとは限りません。

ー実際にお金以外で幸せを感じたエピソードはありますか。

地方にいたとき、絵を描いて人にプレゼントしていました。丁寧に梱包して、手紙を書いて、求めてくれる人に贈ります。僕の絵を受け取ってくれた方は、今でも部屋や玄関に飾ってくれているといいます。とても幸福なことですし、充実していました。

お金を稼げることに越したことはないですが、それにとらわれるよりは、自分に合うこと、面白いと感じることを人生の中心に置くほうが僕のスタイルに合うと感じました。

そのため、今までの自分の「しなければいけない」を取り払い「自分の心や体はなにに反応するのか」を考えました。そうして作ったのがやりたいことリストです。

作ってみて、僕はしょうもないことにワクワクすることに気づきました。「二遊間でグラブトスしてゲッツーしたい(野球のスーパープレー)」や「(アルプスの少女ハイジで)ハイジが乗ってたクソ長いブランコに乗る」「アレルギー持ってるけど、猫に触れてみたい」などがあります。

ーアレルギーがあるのに猫に触るのですか?

僕は猫が大好きです。どうしても触りたかったので病院で検査をしてもらうと、思っていたよりもひどくなくて、薬でもだいぶ軽減されることもわかりました。

このことから、リストに書かれていることは工夫次第で叶うと思うようになりました。できない理由ではなくて、どうすればできるかを最近はよく考えています。

1人で挑戦してもできないことはあるので、他に同じようなことを思っている人と一緒にすることもあります。そのひとつが「個展を開く」です。絵を飾りたい人と一緒に、アートと音楽が好きな人たちを集めたイベント「我儘アートフェス」を2023年2月26日に実施し、各々アート制作やライブ出演を楽しみました。

準備にあたっては、参加してくれる人や協賛してくれる企業の得意を持ち寄っていただきました。ロゴを作ってくれたり、資材を貸してもらったり。

みんなの当たり前を持ち寄って、40人が参加した大きなイベントになりました。

ーありがとうございます。最後に若い世代へのメッセージをお願いします。

僕は常に「成長しなければいけない」「カッコいい自分でいなければいけない」と思っていました。不安で怖いし、周りの目もあるし。

しかし、そのままの自分でも、場所や出会う人によって喜んでもらえたり活躍できたりして、とても幸せに生きられるかもしれません。

「しなければいけない」は一旦置いて、自分が自然としてしまうことやイメージするだけでニヤッとすることは何か考えるのが大事です。

同時に、それをすることで喜んでくれる人はどこにいるのか考え、自分の普段の生活では出会えない人のところに行くと、見えてくるものがあると思います。

ーありがとうございました!植田さんの今後のご活躍を応援しております!

今回のゲスト・植田悠大さんの詳細はこちら(Twitter)(Instagram)(note)

取材:あすか(Twitter
執筆:松野哲哉(Twitter
編集者:松村彪吾(Twitter
デザイン:安田遥(Twitter