やりたいことを実現する手段はたくさんある。Saphan代表・作田詩織がつなぐ未来

医師になるのを諦めた先で見つけた目標

ーその後、納得のいく進路には進めたのでしょうか?

3回目の大学受験が終わったときに、もうこれ以上勉強してもできないなと思ったんですよ。たくさん勉強したけれど、もうこれ以上理解できるようにはならないと思いました。

センター試験を理系で受けていたので、そうなるとあまり文系で受験できるところがありません。国際関係学部に行きたかったのですが、1番理系っぽくないところにしようと考えました。そこでしかできないことがあるかなと思い、北海道か沖縄の2択にしました。

そのころ、たまたま琉球大学の農学部に、高校のときからの親友が入っていたんです。すごくおもしろそうな大学だし、もう1度その子と過ごすのも楽しそうだなと思い、琉球大学の農学部に入りました。

大学に通いながら、1年生のときに海外ボランティアや、日本の学生を海外に連れて行くスタディーツアーのコーディネーターとして、子どもたちと一緒に活動していました。

海外で活動するうちに、私が医師になってやりたかったことって、医師じゃなくてもできるんだなと思い始めました。そこで初めて、「医師にならなくてもいいや」って気持ちになりましたね。

ーそこで気持ちの整理がついたのですね。実際にどんな国に行かれたのですか?

ミャンマー・タイ・ベトナム・カンボジアなど、東南アジアがメインでしたね。現地の子どもたちに、歯磨きの仕方を教える衛生教育などをしていました。

私は、タイが1番好きだったんですよね。人柄もすごく良いし、ご飯も1番おいしいし、過ごしやすくて大好きです。バンコクは日本より発展していたし、最初は貧困のイメージがあまりありませんでした。

実際は、都心と田舎で格差が大きく、移民の子どもも多いんですよね。タイに周辺国から移民がきていても、その子どもたちにはまだ教育が届いていない。生活水準もこんなに違うんだなと実感しました。

移民の子どもたちは、現地の文化と故郷の文化が混じっていて、おもしろいなと思うようになり、関わり始めました。

ー印象に残っている活動を教えてください。

大学で『JapanHeart』の学生団体に入れてもらって、ツアーのコーディネートをさせてもらったのが最初でしたね。活動地に行かせてもらって、現地でもプログラムを考えさせてもらっていました。

歯磨きの紙芝居や劇をしたのは、本当にいい経験でしたね。そこでやらせてもらえて良かったなと思っています。

JapanHeartで経験を得て、自分でもスタディツアーを組むようになりました。タイでは、ペットボトルと棒を使ってラクロスをしたり、日本食の天ぷらを作ったりしていました。

スタディツアーをやり始めて、すぐにコロナでできなくなりましたが、1回でもできたことがいい経験になりました。

大変なこともありましたが、今後も続けていきたいなと思っています。

未来を平等に選択できる世の中になってほしい

ー現在はどんな活動をされているのでしょうか?

日本で、コーヒーの販売をメインに活動しています。チェンマイに農園があるのですが、タイに住む山岳民族カレン族の人たちがコーヒー豆を作って、フェアトレードで買わせてもらい、その豆をパートナーの農家さんと一緒に、タークで焙煎しています。

ミャンマーからの子どもたちが通う移民学校が、そこにたくさんあるので、学校で焙煎の体験をしてもらったり、コーヒーのパッケージを子どもたちと一緒に作ったりしています。

そのコーヒーを日本で販売することで、売り上げの一部を使い、それぞれの学校で必要最低限の教育が受けられるような環境をまずは整えているところです。

ーどうしてコーヒー豆になったのですか?

子どもたちが学校を卒業した後に、あまり職がないんです。卒業後の選択肢が、すごく少ないなと思っていたので、雇用を作りたいなと考えました。

収入が安定したらミャンマーに戻ったり、大学に行く選択肢ができたりするかもしれない。家族のために働かないといけなくて、最後まで学校に通えない子も、せめて学校を卒業できるような収入があったらいいなと思ったんです。

有名なものがないのかなと調べたときに、タイの北部でコーヒーを作っていることを初めて知りました。コーヒーなら日本人にとっても身近なものだし、日本とタイをつなぐ意味でもいいツールだなと思い、コーヒーから始めようと思いました。

移民学校の先生や周りの人たちに教えてもらったのが、たまたまカレン族の人だったんですよ。バイヤーさんが、すごく安い値段で買い付けに来るのが嫌だったこともあり、「一緒に事業をすることで収入が安定するのならやりたい」と言ってくれました。

見つかるまでの時間もかかりましたし、見つけてからもコロナで行けなくなり、1年くらいは焙煎の調整などをしていましたね。

タイの人ってすごく浅煎りで飲むんですよ。日本人って深煎りが身近なので、酸味がきつくて飲めなかったんですよね。

そこから試飲や調整を1年ぐらいして、タイ人が普段飲むよりは深煎りにしてもらい、日本人にも好まれるような焙煎に調整しています。タイコーヒー特有のベリー系の酸味も残り、コーヒーが苦手な人にも飲みやすくなっています。

ー作田さんが今後挑戦してみたいことはありますか?

最終的には、社会課題に無関心な人たちも自然に巻き込みながら、「子どもたちが環境に左右されず、自分で主体的に進む道を決めることができる社会」を創りたいです。

私はどのような環境下でも、選択肢が狭まるようなことがなくなって欲しい、未来を平等に選択できる世の中になって欲しいと考えています。

現在関わっている子供たちが、環境によるしがらみを少しでも受けないような未来にしていきたいなと思っています。

今はコーヒーを通しての小さなことしかできていませんが、今後は子どもたちの雇用や、コーヒー以外の体験もやっていきたいです。

ー最後にU29世代の読者の方にメッセージをお願いします。

やりたいことを実現する手段は、たくさんあると思っています。

私の場合でいうと、医師になりたかったけれど、医師になってやりたかったことは、子どもたちの環境によって選択肢が狭まらないようにしたかったからなんですよね。

振り返ってみると、医師としてそれをかなえるのはひとつの手段でしかない。医師にならなければできないと思い込んでいたけれど、他の手段もたくさんあったなと思っています。

夢のひとつがかなわなくても、自分の好きなことをずっとやり続けられたら、やりたいことを実現する手段はたくさんあるよって伝えたいです。

過去の自分にも、「いろいろな方向から探してみてほしい」って話したいですね。

ー素敵なお話をありがとうございました!作田詩織さんの今後のご活躍も応援しております!

取材:戸田光(Twitter
執筆:後藤ちあき(Twitter
デザイン:高橋りえ(Twitter