「人生最期をイメージして見える在り方」作業療法士×フォトグラファー 條晋太朗

 高齢者の居場所づくり、自由度の高い暮らしとは

ーさまざまな現場で働かれて、ご自分のやりたいことが見つかったのでしょうか。

なかなか見つけるまでに時間がかかりました。しかし、病院を退職して介護現場に飛び込んだことで、その現実を目の当たりにし自分を突き動かすきっかけになりました。聞いた話では、高齢者が人生の最期を満足できずに亡くなっていく確率はなんと8割にものぼるそうです。

僕がリハビリを担当した利用者さんも含め、介護が必要になった高齢者が後悔しながら日々を過ごしていたり、亡くなったりしている現実にやるせなさを感じました。そして、僕らも将来介護が必要になったとき、同じように人生の最期を迎えるのかと残念に思ったのです。

そこで僕は「なぜ高齢者が後悔しながら生活しているのか」、その理由を当時働いていた施設の入居者の方々に一人ひとり質問してみました。すると、やはり「主体性や個別性のない暮らしをしているから」という結論に行き着いたのです。

というのも、ご飯食べる時間もお風呂に入る時間もトイレに行く時間さえも決められていて自由がない。自分と相性の合う人に介護してもらえるとは限らなくて、「こうしたい」と自分の好きなタイミングで言えない環境なのだとわかりました。

そうした日々の積み重ねが高齢者の方々の自尊心を下げおり、なかには「もう生きていても仕方がないから早くお迎えが来てほしい」と話された方もいました。「こんな状況をなんとかせないかん」と思い、その利用者さんたちと「誰もが当たり前に望むことを人生の最期まで実現できるようにする」と約束して、自由度と自尊心が高まる居場所づくりの実現のために本格的に行動し始めました。

ー介護現場の現実を知り、利用者さんの声が條さんを突き動かしたのですね。居場所づくりについて具体的な構想を伺えますか?

はい。最近、2022年8月に大阪から広島の鞆の浦に移住し、小規模多機能型居宅介護やグループホームなどを提供する介護福祉事業所で作業療法士兼フォトグラファーとして就職したのですが、そこで僕が理想とする居場所づくりについて学びを深めています。

小規模多機能型居宅介護とは、訪問介護とデイサービス、ショートステイの三つが組み合わさっており、月額制で24時間365日利用可能なサービスです。医療・介護保険のなかで一番自由度が高いサービスが提供できると僕は感じています。

さらに現在着目しているのが、小規模多機能居宅介護と多世代✖︎住民主体型住宅を掛け合わせた住まいの在り方です。これは、コウハウジングという住まいに近い施設形態で、居宅スペースに自分専用のトイレやお風呂、リビング、キッチンが備え付けられていながら、施設内に同様の共有スペースが用意されています。

僕を含め様々な方が、自分の望む暮らし方を続けながら、ほかの人とも居場所を共有でき、主体性と個別性を重視できる環境といえるでしょう。僕はこの新しい住まいで自分達で暮らし方を選択できる自由度の高いサービスを運営したいと考えています。

この施設形態では、基本的には年齢制限なく誰でも暮らせますし、介護が必要になったら介護サービスを利用できるのです。

一人ひとりがやりたいことを叶える居場所づくりのために、今はいろいろな経験を積んでいる最中です。山梨県で進行しているアウトドア宿のプロジェクトも高齢者の方が自由度高く利用できるようにと頑張っています。

作業療法士×フォトグラファー「あなたが在りたい人生の最期とは」

作業療法士である條さんが提供する住まいが今後現実化されるのが楽しみです。では、フォトグラファーとしての活動内容も伺えますか?

フォトグラファーとしての活動の目的は3つあります。

1つ目は遺影に使っていただくこと。僕は今まで16名のお看取りに関わらせていただいてきました。その中で、ご家族の皆さんが「遺影に使う写真がない」と口を揃えて残念がられていて……。「死に物狂いで生き抜いて、人生の締め括りの儀式で、「あまりにももったいない」と感じました。

2つ目は介護を必要としている高齢者の日常の写真を撮り、その日常をご家族に共有すること。この数年コロナの流行が影響し、面会できない状況が続いているため、ご家族から「(両親や祖父母が)どうやって生活してるか、全くわからない」との声が多数上がっていたのがきっかけでした。

3つ目は、高齢者の心理的な孤独を写真で解決すること。先ほど説明したとおり、僕は介護施設で孤独なまま人生の最期を迎えられた方々を多く見てきました。亡くなられたときに写真もなく、人の記憶から忘れ去られてしまうと、その人の生きた証を示すものは無くなります。

そうした心理的な孤独を感じることなく人生の最期を迎えてもらうために、介護施設に出張して写真を撮っているのです。僕は医療介護現場での作業療法士としての経験をもとに、日常を阻害せずその人が表現するありのままの人生を写真として切り取ることができます。

僕が撮った写真を見て、その日常の一瞬が「良い想い出だった」と、その人自身やご家族、親睦のある方々にとって記憶に残るものにしたいです。たとえ遠く離れてしまっても「久しぶりに会いに行きたい」、お別れしたとしても「お墓に挨拶に行きたい」など、次の行動に繋がるような写真、つまり「いつまでも記憶を超える日常写真」を撮り続けます。

さらに、僕はご本人だけでなく、ご家族も一緒に人生最期の在り方について考えることが大切だと考えています。写真をきっかけに家族揃って人生最期の迎え方について見つめ直してもらえるとうれしいです。

ー居場所づくりも写真の活動のお話も「在りたい自分」とは何なのか考えるきっかけになりました。高齢者だけでなく私たちU29の世代も考えさせられるお話だと思います。

はい。今の時点から自分が人生の最期にどう在りたいかイメージしておけば、この先進んでいくうえでの軸になると考えています。読者の皆さんにも「人生の最期」を考える機会になるといいなと思います。

ーありがとうございました!條さんの今後のご活躍を応援しております!

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取材:丸山泰史
執筆:川村みさと(Twitter
デザイン:安田遥(Twitter