世界121位のジェンダー格差の是正に挑む Lean In Tokyo・二宮理沙子の挑戦

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第144回のゲストは、一般社団法人Lean In Tokyoの二宮理沙子さんです。

「ジェンダー格差は全ての人に関わる問題です」

ジェンダー格差の問題といえば、2019年4月、東京大学の入学式で同大学名誉教授の上野千鶴子さんの祝辞が大きな反響を呼びました。念願の大学生活の幕開けに期待を膨らませる新入生に向かって、「あなただけの努力でここまでこれたのではない」と、東大でのジェンダーギャップを指摘した上野さん。東京医科歯科大学の女性志願者への差別が明るみになり、#MeToo運動によってSNS上で是正が訴えられた時期でもありました。

世界経済フォーラム(WEF: World Economic Forum)が毎年発表する「ジェンダー・ギャップ指数」(the Global Gender Gap Report 2020)によれば、2019年に日本は前年の110位から121位(153カ国中)に甘んじた、先進国の中で最下位クラスの結果です。

「女性はこうあるべき」「男性はこうあるべき」といった環境要因のジェンダー・バイアスとその人の心が望む生き方にズレが生じると、幸福度や仕事への満足度も下がってしまうのでは、と二宮さんは説きます。

二宮さんが運営メンバーとして所属する、女性の野心を応援する一般社団法人「Lean In Tokyo」の米国本部「Lean In.Org」が大手コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーと毎年実施している共同調査においても、キャリアに邁進したい女性が育児・出産を機に職場で昇進しにくい立場に置かれてしまうこと、本当は家庭で多くの時間を過ごしたい男性が職場で長時間働かざるを得なくなってしまうことなど、様々なケースが報告されています。

二宮さんが掲げるビジョンは、「女子学生たちが、自信を持って学び、挑戦することができる環境作り」というもの。そのために必要な手段の一つとして、Lean In Tokyoでは女性同士が助け合うコミュニティを作りを実践しています。日本では「存在しないもの」として扱われてきたジェンダー格差に取り組む二宮さんの揺ぎない信念に迫りました。

女子学生の背中を後押ししたい

ーご自身と活動の紹介をお願いします。

二宮理沙子です。女性が一歩踏み出すことを後押しする一般社団法人「Lean In Tokyo」の運営メンバーです。ボランティアではありますが、今年のはじめまで代表を務めていました。最近は、教育現場のジェンダー問題に取り組む専門家の取り組みについてインタビューするなど、女子学生向けの教育を専門とした活動も進めています。

勤務先は、以前ユニキャリに出演された樋口亜希さんが経営する、株式会社Selanです。主軸の事業は「お迎えシスター」というサービスです。海外経験が豊富なバイリンガルの先生による、主に小学生の子供達の送迎と1対1の英会話レッスンを通して、英語力を伸ばすだけでなく、多様な文化や価値観に触れ国際性を育む機会を提供しています。私は教育コンテンツの企画に携わっており、どんな教材やレッスンを通して世界について楽しく学んでもらえるのか、子供達の目線で日々考えています。

今秋からアメリカの大学院の修士課程に進学予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で来年に延期になりました。引き続きSelanで働きながら、Lean In Tokyoで活動しています。

ーLean In Tokyoについておしえていただけますか。

「Lean In」は、「一歩踏み出す」という意味です。Facebook社のCOO(最高執行責任者)、シェリル・サンドバーグ氏が執筆した本のタイトルです。この本では、どうすれば女性が野心を忘れずに挑戦し続けられるか、挑戦したいことに一歩踏み出せるのか、どのようにキャリアとプライベートを両立させていけるのか、データに基づいた緻密な分析、そしてシェリルの体験や考えがまとめられています。ジェンダー問わず、全ての方に読んでいただきたい本です。

この本が推奨する「女性が野心を持って挑戦できる社会を作る」ことを実現すべく、シェリルはLean Inサークルの本部Lean In.Orgがアメリカで立ち上げられました。Community、Circles、Educationの3方向から、ジェンダー格差やジェンダー・ステレオタイプの問題に取り組んでいます。

Lean In サークルの主な活動は、イベントやワークショップの開催、メディアを通じた啓蒙活動などです。私たちが大切にしているのは、女性が悩みを共有し、サポートし合えるコミュニティを作ることです。

Lean Inのグローバル調査でも、Lean Inのお互いを支えあうことを趣旨としたサークル活動を通じて、約8割以上の参加者が自信を手に入れて一歩踏み出すことが出来た、などのポジティブな変化を実感したと答えています。今では世界144カ国以上の国の都市、学校、企業でLean Inの姉妹サークルが活動しています。Lean In Tokyoは日本地域代表支部として、2016年から活動しています。

ー新卒でSelanに入社されたのですか。

新卒での就職先は、就労支援、幼児教室・学習塾などのサービスを展開する株式会社LITALICOでした。私は、発達障害のある子供達に向けた学習およびソーシャルスキル支援や、保護者や学校へのサポートに取り組んでいました。

Selanでは、大学生の頃にアルバイトをしていたんです。卒業後も代表の亜希さんにキャリア相談をさせていただいていたところ、ご縁があってSelanで副業をさせていただきました。学生の頃から考えていた大学院進学を本格的に検討し始めたこともあり、「今後の研究のテーマにより近い仕事もしていきたい」と思い、転職を決意しました。今ではLITALICOでの指導体験から得られた経験と知識も、フル活用できています。

ー大学院ではどんなことを勉強される予定でしょうか。

今も考えていますが、研究したいテーマはLean In Tokyoでの活動の延長にある、女子学生の自己肯定感を引き下げている要因を分析することです。自己肯定感が低いと、将来やりたいことや興味・関心に対して一歩踏み出すことが難しくなると考えています。。また、すでに様々な研究でも、日本、またアメリカの女子中高生の自己肯定感・自己効力感が低いというデータが示されています。

この背景には、男女の雇用形態の違いや賃金格差が未だに存在し、女性が職場でやりたいことに自信を持って挑戦できる仕組み・文化が全国で定着しているとは言い難いといった、日本社会が抱える課題が浮き彫りになります。その結果として、女性管理職の割合はこの数十年で増えたとはいえ、まだ30%にも満たない。このような環境では、進路選択を間近に控えた女子学生が自信を持って一歩踏み出すことは依然として難しいと感じます。

私がこの問題意識を抱いたきっかけは、就職活動をしていた時期、キャリアを含めその後の人生について私自身が重く悩み考えたことでした。私だけでなく、多くの女子大学生が、就職活動に差し掛かって初めてジェンダー・バイアスを身近なものと捉えるのだと思います。

女性はいずれ会社を辞めて家庭に入ることが、まだ一部では前提とされており、会社の仕組みや大人たちの言動、女性が出産を機に仕事を中断しても同じ役職に復帰することが難しい現状に触れ、ジェンダー・バイアスが目の前にある問題だったことに気付きました。

中高のハワイ留学中、スピーチで自信を得る

ー二宮さんの中学・高校時代で印象的な出来事を教えてください。

中・高時代はハワイ島のインターナショナル・スクールに留学していました。全校生徒の半分以上が現地出身で、私のような海外出身者は少数派。

留学するきっかけは、小学校5、6年生の頃、教育熱心な両親の勧めで参加した短期留学でした。異文化に触れることを楽しんだ私を見た両親が、中学生から留学に行かせてくれました。ハワイを選んだのは、両親がハワイ好きだったり、治安の良さが安心だったり、親戚もその学校にいたり…そんな理由がありました。

ー中学生から一人での海外留学。孤独ではありませんか。

元々の楽観的な性格があってか、渡航前は親元を離れ異国の地で生活することに不安や緊張を感じませんでした。しかし、現地の学校に通い始め、英語での意思疎通がままならない私はカルチャーショックを経験しました。日本の小学校では優等生だった自分が授業に付いていくことができない、英語を母国語とするクラスメイトとの距離が縮まらない…思わぬ展開だったんです。

周りからは「話が通じない子」として見られていたように思います。英語をよく聞き取れなくても、周りの子たちが自分について何か言っているんだな、と察することはできました。そんなこんなで最初の1ヶ月はホームシックで憂鬱でしたが、寮が一緒だった友達が助けてくれ、持ち前の前向きさで乗り越えたことを覚えています。

ー英語を思うように操れなかったとのことですが、転機は訪れましたか。

高校1年生の頃、クラス全員の前でしたスピーチで大きな自信を持ちます。日本の小学校では発表には前向きな方でしたが、留学以来、英語でプレゼンテーションをすることに苦手意識を持っていました。

今も親友として仲良くしている一番最初のルームメイトが、何度も何度も練習に付き合ってくれたお陰で、本番の出来は予想を超えていました。最初はみんなの前で発表することが不安でしたが、「勇気を振り絞って挑戦してよかった」と自信を得ることができたんです。この体験は私にとって大きな影響を与えた、一歩踏み出した体験です。その後の留学生活や大学生活で自ら進んで挑戦できるようになったと思います。

ー大学はそのまま海外へ進学されましたか?

日本に戻ることにしました。元々、日本に貢献したいという思いが強かったからです。あとは、美味しい日本食が恋しかった、日本の就職活動は特殊と聞いていたので日本の大学に通った方が選択肢が広がると考えたことが理由です。

アメリカ本土の大学も受験しましたが、日本の大学から海外留学も学校に無事受かることできたので、帰国を決めました。

今に活きる大学時代の経験

ーどのような大学時代を過ごされましたか?

大学は、早稲田大学の国際教養学部でした。グローバル化した世界の課題を解決できる人材の育成を目指し、リベラルアーツ型のカリキュラム、熱心な語学教育、そして日本語が母国語の生徒に課せられた1年間の海外留学などのユニークな教育方針を掲げる学部です。生徒たちも、海外経験が豊富な学生や留学生が多く在籍していました。

それから、英語塾でアルバイトをしていました。これが本当に楽しかったですね。ハワイ留学中も先生の子供の面倒を見ていたんです。子供好きが興じて、この時に「仕事につながりそうだな」と思っていたら、今もこうして似たような仕事をしています。

ー大学生時代の留学についておしえてください。

アメリカの東海岸のイェール大学で1年間を過ごしました。

留学先を決める時、イェールに留学されていたとても素敵な先輩にお話を伺う機会があったのですが、彼女が私のロールモデルのような存在です。彼女から「留学先で作ったネットワークが卒業後も生きている」と聞いて、アメリカ留学に気持ちがさらに傾いて行きました。

留学前、早稲田大学の教育学の授業で興味深い話を聴きました。経済的格差などの社会課題は子供からその次の世代へと連鎖的に影響していく。そして留学先では日本とアメリカの保育政策について調べる機会があり、その中でも、ジェンダー格差が子供達への教育に大きな影響を及ぼしている、と考えるようになりましたこの学びもLean In Tokyoでの活動、今後私が研究したいことに繋がっています。

ー就職活動についておしえてください。

インターンではコンサルティング会社やIT企業など、様々な企業・業界を見ていましたが、やはり教育業界に最も心惹かれました。

LITALICOが掲げるコンセプトの一つ、「障害は人ではなく、社会の側にある」という部分にも、とても共感しました。障害のない社会を作るというビジョンの通り、社員一人一人を大切にする社風を肌で感じることができましたし、事業もミッションに沿っていると社員の方々とお話して確認できました。

親は名前の通った大企業への就職を勧めてきましたが、私は自分で就職先を決めてから両親に報告し、親子間に大バトルが起こりました。「留学をさせたのは、大企業でエリート男性と出会って、結婚して仕事を辞めて、育児に励むという女の幸せを叶えさせるためだった」という専業主婦の母の言葉を聞いて、私はショックを受けました。私の家族は、仕事熱心な父親が家族と過ごすのは週末のみ、母は家事と育児に専念するという典型的な一つ前の時代の日本型家族です。このバトルを通じて、「私の幸せな生き方ってなんなんだろう」と考えさせられました。

ーご自身の意思を貫けたのはどうしてでしょうか。

やはりハワイ留学を通して、周りの目を気にせず、自分で考えて決断する力が身についていたのだと思います。中学・高校時代、毎年家族に会えたとはいえ、日々の全ての選択を自分でしなくてはいけませんでした。現地では「あなたはどう思うの」と問われるのが同然で、自分の意見を言わなければいけませんし、人と違っていることを否定的に見られることはありません。そのような環境で学生時代を過ごしたことが、意思決定につながっているのでしょう。

女性同士が助け合う仕組みの重要性

 

ーLean In Tokyoに関わることになったきっかけを教えてください。

イェール大学で受けた保育政策に関する授業で「Lean In」を初めて読みました。著者のシェリル・サンドバーグ は、ハーバード大学・ビジネススクールを首席で卒業し、グローバルな戦略系コンサルティング・ファームのマッキンゼー・アンド・カンパニー、Googleなどで華々しいキャリアを積んできたとても優秀な女性です。そんな彼女でもジェンダー・バイアスやジェンダー格差に苦労していたことを知り、衝撃を受けました。

ジェンダーというテーマを明確に意識するようになったのは大学時代にアメリカに留学してからです。日本に比べると、海外ではジェンダー問題はより日常的な話題として取り上げられています。

シェリルが著書に書いた、なぜジェンダー格差を埋めることが必要なのかという主張に納得すると同時に、シェリルのメッセージに強く背中を押された自分がいました。いつ読み直しても力強い支えとなっています。女性は仕事と家庭の両方を望んでいい、女性は野心を抱いていい…と。

同時に、Lean Inサークルの存在を知りました。そのミッションに共感し、参加することにしました。日本に帰国してからLean In Tokyoに入りました。私の前に代表を務めていた鈴木怜奈さんが設立した直後のことでした。

ー 二宮さんはどんな部分に共感したのでしょうか。

私の人生を振り返ると、同じ価値観を持っている友人や職場の人と過ごしてきたので、幸いにも「女性は〜しなくてはならない(してはならない)」という強いプレッシャーや女性であることを理由に道が閉ざされたという経験はごく稀です。

一方で、家庭を居場所とする専業主婦の母と、仕事に専念し、家事には手を付けない父のもとで育ってきたので、家の中でプレッシャーを感じることは多々あります。また、日本のメディアの発信でジェンダー・バイアスに遭遇することはままあります。そんなときは、違和感や異議を抱く・怒りを感じ、様々な疑問が胸に迫ります。

例えば、朝の番組ではなぜスーツに身を包んだおじさんばかりが司会をするのか、なぜテレビドラマでは若い綺麗な女性がおじさんに恋するシーンばかり描かれているのか、なぜ夜のバラエティ番組ではセクハラ発言が許容されているのか。あとは、なぜコンビニには卑猥な本が置かれているのか、常々考えさせられます。


ー 代表就任の経緯、代表としての活動で印象に残っている出来事をおしえてください。

Lean In Tokyoを立ち上げた怜奈さん含む幹部チームから推薦していただきました。当時、私は新卒で働き始めたばかりで、代表が務まるか自信がありませんでした。メンバーの皆さんは素敵で仕事ができる方たちで…。でも、自分の力を信じて推薦してもらえたのだから出来る限りやってみようと一歩踏み出すことにしました。

印象に残っているのは、昨年、「国際男性デー記念イベント」を開催した時です。アンケート調査をまとめる大掛かりな作業が大変でしたが、PRチームのあかりさんのお陰で多くのメディアに取り上げてもらうことができ、達成感を得ました。私たちの活動は基本的には女性に焦点を当てています。しかし、このアンケートでは、男性の生きづらさに影響するジェンダー・バイアスと女性や他のジェンダーの生きづらさに影響するバイアスは同じものだという視点を取り入れたことにより、より包括的な企画として捉えられたのだと考えています。

包括性ある取り組みはジェンダー格差を是正するためにとても重要です。私のロールモデル、故・米国最高裁判事のルース・ベイダー・ギンズバーグさんが弁護士として最初に担当した裁判でも、男性に対する法律上の性差別を法廷で訴えることで、結果的に法が女性に対する性差別を促進している事実を示しました。

もう一つ忘れられない出来事は、「Lean In」の著者・シェリル・サンドバーグのお家に招かれた時です。世界中のLean In サークルのリーダー達が年に一度、サンフランシスコで感がレンスに参加することができます。プログラムの一部で、シェリルの自宅で開催されるパーティーに招かれることになっています。私も日本支部の代表として招待していただきました。

シェリル本人から、「日本のジェンダー・バイアスがいかに根深いかを実感している」と直に伺いました。彼女とLean Inのリサーチチームが「Lean In」を執筆した際、世界各地域のジェンダー格差に関するデータを入手しようと試みたそうですが、日本のデータはそもそも入手困難だったようです。ジェンダーバイアスやジェンダーの不平等といったテーマ自体が研究対象の課題として捉えられていなかったのでは、と私たちは話しました。

このパーティーで出会った世界中のLean Inサークルのメンバーとは、まるで前から知っていたかのようにすぐに意気投合しました。初めて参加するコミュニティであんなに安心感を抱いたことはありません。

それは、地域によってジェンダー格差やジェンダーバイアスの課題の規模や内容は違えど、女性が自信を持って一歩踏み出すことを後押しするという共通の目標を私たちが共有しているからだと思います。

今でも連絡をみんなと取り続けています。日本を昨年末に訪ねてきた他国のメンバーとごはんに行ったり、お互いのイベントや調査に参加するなど、定期的に近況を報告し合っているんです。

ジェンダー・バイアスからの解放で人は幸福になる

ー 現在、Lean In Tokyoでは、どのようなことをされていますか?

教育プログラムスペシャリストとして、ジェンダー・バイアスの課題に取り組む方々へのインタビュー記事を作成しています。

最初は私が単純に教育の視点から、ジェンダー・バイアスを巡る問題に加え、その解決策についてもっと知りたいと思い、知人のプロフェッショナルの方々にお話をお伺いしていました。

ですが、日本の女子中高生のSTEAM教育プログラムを提供している、木島 里江教授の記事を掲載した時に、このプログラムに携わりたいと言ってくださった方からご連絡いただいたことから、この記事を読んでくださる方がいて、その方々が少しでも教育におけるジェンダーバイアスがいかに根深く、そして次世代に影響を及ぼすか考えていただくきっかけになればな、と思うようになりました。

また、高校生が一歩踏み出すことを応援する、高校生主体の団体「Lean In High schoolers」の立ち上げ支援や、女子中高生向けのリーダーシップ・キャンプの企画を進めています。

ー 全ての人がジェンダー格差やジェンダー・ステレオタイプの問題を理解する意義をおしえてください。

私は、大きく2つの観点から、ジェンダー課題は全ての人に関わるテーマだと考えています。

1つ目の共通課題としてよくあげられるのは、少子化対策です。よく政治家がこの切り口からジェンダー問題を取り上げますね。少子高齢化により働き手が減っていく日本では、女性が職場で活躍し、女性管理職の割合が増えることが、経済活性化に繋がる、という考え方です。

私もこの考えには一部同意します。一方で、ジェンダー問題を取り巻く課題は、働く女性と経済効果という視点だけで語ることはできないと思っています。この切り口だけでは、女性がまるで、経済活性化の手段のために存在するような捉え方に限定されてしまいます。

2つ目は、幸福度の上昇です。全ての人に対するネガティブなジェンダー・バイアスを改善し、個人が望む働き方を選べる仕組みこそが、全ての人が生きやすく、働きやすい社会の実現につながる、という考えです。

大学生の頃、就職活動を通じて出会う大人達を見ながら「この人は今、幸せなのだろうか」と考えていました。

様々な研究で明らかになっているのは、日本の社会人が持つ仕事への満足度は、他国と比べても低い、ということです。肌感覚としても、おそらく「今の仕事に満足している」または「今の生き方が幸せだ」と答えられる大人は、そう多くない気がしています。これは女性に顕著に見られる傾向ではなく、男性にも共通することです。

内閣府の調査、そして昨年Lean Inが行った調査でも、「職場よりも家庭で育児に時間を割きたい」と考える男性は年々増えていることがわかりました。「男性は仕事に専念すべき」というバイアスは、「女性が家庭に専念すべき」というバイアスと同じくらい社会に残っていますが、それも変わりつつあるのです。

ー女性は「女性らしい」見た目でないといけない、女性の価値は若さであるなど、主にメディアから受け取る女性へのプレッシャーがありますよね。違和感や生きづらさを感じている人にどんなことを伝えますか。

違和感を消そうとしなくていい、生きづらさは抱えていい、まずはそう認識してほしいです。Lean In Tokyoの教育スペシェリストとしてのインタビューで、ベンチャーキャピタリストの飯田まいさんにお話をお伺いした時、とても印象的な言葉を教えていただきました。‘Be vulnerable(弱くあれ)’と。

「弱い存在でいい」意外なメッセージかもしれません。これが意味するのは、例えば私の弱みを人前で見せたとしても、私が思うよりも多くの人がその弱さを前向きに受け入れてくれる、ということです。私も本当にそう思うんです。

私自身が弱さを受け入れるだけでなく、周りにもその弱さを一緒に受け入れてくれる人達がいたら、そしてその人の弱さも受け入れられたら…お互いに支え合え、もっと一歩踏み出しやすくなるのではないでしょうか。

ー一歩踏み出したくても勇気が出ないこともありますよね。二宮さんはそんなU-29世代にどんなメッセージを伝えたいですか。

先ほどお話ししたことに重なりますが、‘Be vulnerable(弱くあれ)’です。尻ごみしていい、怖がっていい。

もう一つ、シェリル・サンドバーグ が「Lean In」の中に綴っている、あるメッセージがあります。私たちがイベントで掲示するポスターにも書かれています。

What would you do if you are not afraid? (怖がらないなら何をする?)

これらの言葉は相反するものに見えますが、フィロソフィーは共通しているものがあると思います。一歩踏み出せない時、私たちは失敗を恐れていることが多いです。そんな自分を認めながら、何を望んでいるのかを考えてみる。

それから、特に最初はそうですが、ゴールを低く設定していいんです。私にとってはどんなに小さなことも「Lean In」です。例えば、今日ランニングしたとか。だから、日々一歩踏み出しています。小さな成功体験を積み重ねて、自信をスキルとして身に付けることで、前進していけるのだと思います。

ー大学院の先も見通して、今後成し遂げたいことをおしえて下さい。

長期的な目標は、若い世代の女の子たちが自分の意志で人生を決めていけるような支援をしたいです。いずれはPhDで研究しながら団体を立ち上げ、研究と実践を並行して行なっていくことを目指しています。

私自身、女性達がLean Inサークルなどのコミュニティを通じて、お互いに支え合うことで自信を獲得し、前のめりな姿勢に変化する姿を大学生の頃から見てきました。一人で頑張るよりも、仲間とサポートし合う方が良い結果になるのです。

今後、女子学生達がジェンダー・バイアスにとらわれず、自分らしく学び、生きることができる環境を作るための研究をしたいと考えています。

他にも、学校教育において、教科書や教員の性別など、どのような要因がジェンダー:バイアスを形成するのか、女子中高生の自己肯定感あるいは自己効力感を上げるにはどのようなプログラムが効果的なのか…研究したいテーマは挙げだすときりが無いのですが、教授と相談して決めるつもりです。

今後の研究に繋がるリサーチ活動に最近取り掛かったばかりです。今年、世界経済フォーラムの「Glabal Shaper」に選出していただきました。世界経済フォーラムは毎年ジェンダー・ギャップ指数を発表し、ダボス会議を主宰しています。Global Shaperは、世界経済フォーラムが社会の課題解決に取り組む33歳以下の若者を世界から集めて形成したネットワークです。

今、日本のGlobal Shaperのメンバーと一緒に、多くの女性が職場でも安心して悩みを共有し、互いに助け合い、一歩踏み出せることを目指し、リサーチプロジェクトを立ち上げようとしています。この目的は、仕事上で挑戦したいけれども自信を持って踏み出せない女性が、他の女性と悩みを共有し支え合うことで一緒に一歩踏み出していくことです。

調査の具体的な内容は、働く女性達が職場で何を悩んでいるのか、彼女らが勤める企業には「Lean In Circle」のような女性が共助できる仕組みや文化があるのか、あるとしたら実際に彼女達は一歩踏み出せているのかなどに関して、アンケートやインタビュー調査で分析したいと考えています。個人と組織の両方に働きかけるつもりです。

ー今日はお話をありがとうございました。

取材 : 青木空美子  (Twitter)
執筆:Yuka Sasatani(Twitter
編集:野里のどか(ブログ/Twitter
デザイン:五十嵐有沙(Twitter