広島県の離島で「地域おこし」を行う高橋貴一が語る周りを見渡すことの大切さ

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第758回目となる今回は、広島県大崎上島町地域おこし協力隊の高橋 貴一(たかはし・きいち)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

大崎海星高校魅力化プロジェクトスタッフとして、キャリア教育や探究学習に取り組まれている貴一さん。今回は、貴一さんの現在の取り組みから今後目指していきたいビジョンまでお話しいただきました。

過疎化が深刻な広島県の離島の高校で行う「地域おこし」

ーまず始めに自己紹介をお願いします。

広島県大崎上島町で、大崎海星高校魅力化プロジェクトスタッフとして働いている高橋貴一です。活動拠点は、広島県立大崎海星高等学校の中にある公営塾「神峰学舎」です。

塾では「夢☆ラボ」と呼ばれるキャリア教育をメインで担当しています。他にも高校生が地域の活動や仕事をインタビューして冊子にまとめて紹介する「島の仕事図鑑プロジェクト」のリーダーや総合的な探究の時間「大崎上島学」のサポートも行っています。

ーどのような経緯で大崎海星高校の中に、塾が開講されたのでしょうか?

大崎上島町で教育の魅力化・公営塾の設置・生徒の全国募集などを行う「高校魅力化プロジェクト」が始まったためです。

大崎海星高校は、人口約7200人の広島県の離島にあります。柑橘栽培を中心とした農業が盛んである一方、年々進行する過疎化が深刻な問題を抱えています。最初は生徒数の減少に歯止めをかけるために、「高校魅力化プロジェクト」が始まりました。

高校魅力化プロジェクトを通して、地域と協働する学校作りを行い、最初は60名程しかいなかった生徒も、ピーク時は100名程にV字回復しました。北は北海道から南は鹿児島の子まで、全国から入学してくれており、今は島外の生徒が1/3を占めています。

ー塾の中ではどのようなことを行っているのでしょうか?

学習指導からキャリア教育まで幅広い教育を行っています。塾の中では「自律と創造」を目標に掲げ、生徒が自ら時間割を決めたり、マイプロジェクトや進路を見つけたりするサポートを行ったりしています。

ーさまざまな活動を通して生徒と関わる中で、何か感じたことはありますか?

高校生のポテンシャルの高さを感じています。とくに島の仕事図鑑プロジェクトは、生徒が自らインタビューしたい人にアポイントを取って、大人でも難しいインタビューを初めて会う人に実行します。

インタビューを通して成長する子もいれば、活き活きする子もいて。まだまだ知らない地域の魅力を知れるのも、島の仕事図鑑プロジェクトの魅力だと思います。

離島にある私たちの地域での生活は、不便や暮らしにくいなどのイメージを持たれる方も多いと思いますが、生徒との活動を通して離島にある選択肢の広さを感じています。

昨年は、カメラマンとして活躍ながらカフェを経営している人や、パリで画家の修行をして、地域に貢献するために島で画家になられた方などにお会いできました。この感覚が学生時代に海外を旅した経験に似ています。さまざま人との出会いを通して世界に出なくても、離島で世界を体感できる感覚が持てています。

本音を言えなくなった中でも先生を目指し始めた小学生時代

ー先生を目指し始めたのは何かきっかけがあるのでしょうか?

小学6年生の時に、面白くてカッコ良くて、勉強も社会のことも教えてくれる自分の憧れの先生に出会ったことがきっかけです。その1年間は今までの人生で一番笑って、本当に楽しい時間でした。

「自分も子ども達にいろいろな機会やチャンス、きっかけを与えられる人間になりたい」そう思い、先生を志し始めました。

ー小学校の生活で印象的な出来事はありますか?

道徳の時間に「誰にも見られないノート」の名目で、思っていることを書いたノートが友達に見られてしまったことが今でも忘れられません。

誰にも見られないと言われた中で、人に見られてしまった悲しさ。友達に「なぜ見たの?」と聞いたら、自分は全く自覚がないのに「あなたはいじめられているから」と答えが返ってきたショック。ノートの中身を馬鹿にされているんじゃないかという不安……さまざまな感情が湧き上がりました。そこから自分の本音を隠すようになりましたね。

ーその経験を踏まえて、今の仕事につながっていることはありますか?

人の大事な価値観を、自分も大事にするようにしています。

大事な価値観を打ち明けてくれた時は、その価値観を尊重します。また、その人の価値観を活かし、その人の魅力が引き出されるような機会を届けられるように心がけています。

学びの主役は生徒なので、生徒自身が新しい選択肢を作ることができるようにサポートすることがむずかしいですね。いま行なっている「島の仕事図鑑プロジェクト」もキャリア教育「夢☆ラボ」も、生徒たちが様々な価値観に触れる中で自分の軸を見つけ、未来を切り開いていく力を育むための取り組みだと思って活動しています。

ー大学時代のエピソードをお聞かせください。

大学時代は、人や仲間に恵まれました。とくに人に恵まれたと感じるのは、就職活動を意識した大学3年生の時期です。教員になるとは決めていたものの、社会や世の中のことを知らないまま教員になっていいのか不安があり、行動していました。

その時、熊本地震が起きて「まずは自分ができることをやってみよう」と思いボランティアに参加。現地に行くまでの道中で、さまざまな人と出会い、社会や世の中のことを教えてもらい、自分の世界が狭いと気づき学外に出て活動を始めました。

様々な分野の学生団体の代表と話す中で、、愛媛県に様々な学生のリーダーたちが集まる場所がないことに気づき「世の中の選択肢をもっと知りたい」という好奇心と「大切な人が輝く場所を作りたい」という気持ちで、仲間を集めて学生団体を設立しました。それが楽しくて「農業・行政・スポーツ・海外など、人の活動を応援する場作りを提供したい思いで行動した結果、20以上の幅広い活動になっていました。

私にとって学生団体は、「つながりを作り続ける、ひとりではできないことを実現する場」です。学生団体を作れば作るほど、今でもつながっている素敵な仲間との出会いがありました。そのような学生団体の設立を通して、お互いの価値観を共有しながら進んでいく大切さを学びました。