「3兎を追え」大企業にいながら主体的にキャリアを切りひらく、金田大樹の理念

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第587回目となる今回は、キリンホールディングス株式会社 CSV戦略部 金田 大樹(ひろき)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

営業担当からCSV戦略部へ社内公募で異動をされた金田さん。今回は、これまでのご経歴をもとに自分らしく働ける場所を切りひらいていく方法を伺っていきます。

本音で話せる担任と出会い、「きれいごと」と「成果」が両立する楽しさを知る

ーまずは簡単に自己紹介をお願いいたします。

金田大樹と申します。

現在28歳で、2016年に新卒でキリンホールディングスに入社しました。九州地方にて酒類の料飲店・酒販店への営業に従事するかたわら、大学サッカー部の指導者なども経験。

2020年に会社の人事制度の改定で副業が解禁となり、かねてより縁のあった株式会社Criacaoにて事業運営を支援しています。その後、2021年より社内公募制度を利用し、キリングループの経営戦略の根幹であるCSV経営の戦略立案と広報・情報開示を担う部門で働いています。

ー金田さんはどのような幼少期を過ごされたのですか?

Jリーグがはじまった年に生まれたこともあり、3歳からサッカーをはじめました。幼いころはサッカー選手を夢みて、楽しく練習していました。

ですが小学生でサッカー選手の夢は諦めてしまったのです。きっかけは小学5年生のとき。のちにJリーガーになる選手たちとサッカーをする機会があり、彼らとプレーをして、「僕はサッカー選手になれない」と痛感したのです。当時は「埼玉県で3本の指に入るプレーヤーになればプロサッカー選手になれるかもしれない」と練習に励んでいたのですが、挫折を経験したことでこれから何を目指せばよいか考えるようになりました。

夢を考えるなかで、社会にはさまざまな仕事があり、それぞれの職種には色々なプロフェッショナルがいることに気が付きました。自分は何ができるか、どう進んでいけば良いか。人生を振り返ってみると、このころから真剣に考えはじめた覚えがあります。

挫折から次の道を考えはじめた金田さん。なぜ気持ちを切り替えることができたのでしょうか。

自分の目指す道がプロサッカー選手ではないなと気付いたときにサッカーだけやっていては良くないと考えたのは今振り返ると大きかったです。

子どものころは勉強か運動かの2択しかなく、親の強い勧めもあり勉強にも力を入れはじめました。運動についてもサッカー選手という夢は早々に諦めましたが、サッカーが上手くなることだけではなく、サッカーを通じて得ることができる人との繋がりやチームでやりとげる達成感に喜びの軸を移して大学まで長く続けてきました。

ーなるほど。挫折をきっかけに新たな道に進もうと考えられたのですね。

はい。また、小学6年生での担任の先生との出会いも違う道を探すきっかけになりました。その先生は誰ひとり取り残さず本音で生徒に向き合うことを重要視していて、みんなで一緒にやることやチームがひとつになること自体をとても大切にされている熱血教師でした。

小学校卒業直前にあった市主催のクラス・学校対抗のサッカー大会で私自身が勝つための作戦を優先して考えていたとき。先生は何よりもクラスメイト全員を出場させることに重きをおいてこだわりを譲りませんでした。クラスの中にはサッカーの上手い下手に加え、受験の有無など、色々な立場の人がいましたが、チームは見事市の大会で優勝しました!

試合に勝ちたければ上手い子だけを出場させることが定石だと思います。クラスメイト全員出して優勝なんてきれいごとだと感じてしまいますよね。ですが、「きれいごと」と「成果」が両立できたことが非常に楽しくて、はじめてクラスがひとつになる感覚を味わうことができました。この経験は今でも仕事に活きていて、とても価値がある経験です。

「3兎を追え」何事にも本気で取り組む日々

 

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ー第2の転機は高校3年生とのことですが、どのような経験をされたのですか?

実は、大学を選択するときまで自分の意思で道を選択したことがなかったのです。もちろん高校も両親の強い意向を踏まえ進学したので、実は本当は行きたかった学校に行けず非常に不本意でした(笑)。

しかしながら、結果としては最高の学校に入ることができたと今振り返ると思っています。進学先の高校は非常にタフなことで有名で、学校行事・勉強・部活すべてに力を入れることがモットー。よく「3兎を追え」と指導され、学内のスポーツ大会や部活、勉強の「3兎」すべてに一生懸命取り組むことを求められました。すべてに全力で、手を抜かずに取り組む日々。その生活を続けていると、同じ目標に向かって頑張る仲間たちとの距離が縮まって、心身ともにタフになっていたのです。

高校生活を送るなかで、学校行事・勉強・部活のそれぞれが別のものではなく相互に関係していることに気がつきました。それぞれだけ突きつめるよりすべてを追う方が価値観の幅がひろがって、良さがお互いによい影響をもたらすのです。

ー「3兎を追え」、力強いお言葉ですね。

はい、この言葉を叩き込まれながら過ごした高校生活は、私自身の人生に大きな影響を与えた3年間でした。

今でもこの経験から、壁にぶつかったときの選択肢を増やせたり自分の向き不向きがわかったりと、キャリアの幅をひろげられています。

ーその後大学に進学されたとのことですが、どのように進路を決めたのですか?

まずは勉強がしっかりできる大学を前提に、せっかく頑張ってきたので、どちらも主体的に大学を自分で選びました。大学は僕にとって、はじめて自分の意志で選んだキャリアです。高校まで両親の強いすすめに縛られていたので、「自分の意思で色々やりたい!」という思いでいっぱいでした。

そういった意味では決して強い大学ではありませんでしたが、入学した大学のサッカー部はとても一体感がありました。どうやって目標を達成するかをみんなで意見をぶつけながら考えられる、非常に居心地のよいチームだったのです。最終学年ではキャプテンになりチームの勝利に向けて全力を尽くしていたのですが、最初は良い結果が出ず後輩から厳しい意見をもらうことも多かったですね。自分がやってきた経験だけではうまくいかないことに気がつき、もっと一人ひとりと本気で向き合わないといけないと思うようになりました

同期と協力して部員とのコミュニケーションを増やしたところ、少しずつ団結力がうまれ良いチームになっていきました。68人も部員がいたので、時には4つの会場をハシゴして試合を見にいくなんてことも。とても大変な時期でしたが、とにかくがむしゃらにやっていましたね。シーズン最後の試合、勝てば学校としては35年ぶりの上位リーグへの昇格という、大事な局面まで持っていくことができました。ですが、その試合でチームは勝つことができませんでした。良いチームにはなりましたが、結果を残せないと消化不良になってしまう。「きれいごと」と「成果」の両立は非常に難しいことに気づかされ、今でも後悔しているできごとのひとつです。

営業担当を経てCSV戦略部へ 社会課題の解決を目指す

ー大学卒業後、キリンホールディングスに入社された金田さん。入社後は営業担当に配属されたのですね。

はい。2016年に新卒入社して、2021年春まで九州で飲食店へのアルコール類の営業をしていました。はじめは町場の小さな居酒屋さんをメインに担当していたのですが、5年間で九州を代表するような大手外食チェーン企業も担当いたしました。

その一方で九州生活の後半は、大学のサッカー部のコーチをしたり元々お世話になっていた株式会社Criacaoでパートナーとして副業したりと、自分自身のキャリアの幅を広げるための活動も行いました。また、社内公募制度を活用してCSV戦略部への異動を希望するなど、局面局面では様々な迷いや葛藤はありながらも自分の力でキャリアを切りひらくことができた時期だと思います。

ーCSV戦略部というのは、具体的にどのようなことをされているのですか?

ざっくりというと、会社と社会、どちらも良くするにはどうすればいいかを考える部署です。

そもそもCSVという言葉は企業経営における「競争戦略」のひとつで、今キリンが進めている経営のスタイルです。社会的価値と経済的価値、両方を共通価値として高めていこうということで、SDGsやサステナビリティなどと共に今の社会で注目されている考え方です。社会課題を解決しながら会社も社会もより良くなる戦略を考える、それがCSV戦略部の役割です。

※CSV…Creating Shared Valueの略称。

その中で私はグループ全体の戦略をチームで考え、考えた戦略を具体的に実行していくために関連会社や部門のサポートをしています。そして、そこで得た成果を投資家やお客様、従業員に伝える役割を担っています。

ー様々な部署がある中で、なぜCSV戦略部に異動したいと考えたのですか?

私自身が元々CSVを重要視しているキリンに惹かれて入社したことが大きいです。

はるか昔からキリンは、世の中のためにビジネスをしていると強くメッセージを出していました。その中でも特に、CSVという考え方をベースにした戦略立案の仕事にグローバルな視点も含めて携われるところは、自分のキャリア成長にとっても魅力的で。入社したときからいつかCSVに主体的に関わりながら経営に主体的に携わりたいと考えていました。

ー実際に働かれてみていかがですか?

まだ働きはじめて1年足らずなので慣れておらず、非常にハードです(笑)。

様々な関係者とコミュニケーションを取りながらチームで仕事を進めていくことに関してはスポーツや営業の経験が活きているのですが、働き方や頭の使い方は今までとは全然違うので学びがとても多いですね。

キリンは2027年までに「世界のCSV先進企業」になることをミッションにかかげています。今現在の企業の大きさでは、GAFAをはじめとする世界的な企業や、サステナビリティでトップランナーな大企業には到底及ばないですが、CSVという考え方を通じて、経営スタイル、世界のトップ日系企業でもで活躍している企業を牽引できる可能性を私は感じています。グローバル企業と同等に戦えるかもを牽引する経営スタイルで、多くの日系企業のモデルになれるよう、今後も頑張っていきたいと思います。

社会によりよい貢献をしたい だからこそ学び続ける

ー新卒から今までずっとキリンで働かれている金田さん。キャリアチェンジを考えることはありますか?

転職を考えることはありますが、ここにいる間はキリンのために全力でキリンでしかできないことに一生懸命取り組みたいと考えています。

キリンにいる理由は2つあって、1つ目は大企業だからこそ社会に良い影響を与えられることがまだまだあるからです。世の中に大きな影響を与えている大企業がよくならないと、社会がよりよくならないと考えています。大企業で実現できることはまだまだあると思うのです。私自身もここでできることをやりきりたいと思っています。

 2つ目は、純粋にキリンが好きだからです。好きな会社がよりよくなるために、まだまだ尽力していきたいと考えるのは自然なことですね。

一方で、今はまだ色々な経験をしている途中なので足りていないものが無限にあります。自分自身の自己成長と会社への貢献を意識しながら、「三兎」以上を追い続けることで、もっともっと自分自身の幅を広げていきたいと思っています。

ー思いを強くもって仕事に取り組んでいる金田さん。金田さんにとって大切な価値観があれば教えてください。

大切にしている価値観は2つあります。

1つ目は、キャリアを自分で切りひらいていくことです。そのためには、どんな環境であろうと自分の意思で、選ぶための準備をすることが重要だと思っています。もちろん選択できるかできないかはそのときのライフイベントなどのタイミングなどにもよるので最終的には運も関係するかもしれません。ですがそれも含めて、自分自身を主体的にコントロールできているかによって変わることもあるかとも思います。舞いこんできたチャンスにはすべて前向きにとらえて、自分自身で自分や周囲の人の将来を、可能なかぎり良いものにしていきたいです。

2つ目は、自分だけでなく周りの人や組織を大切にすることです。大学時代のサッカー部での経験も踏まえ、将来的にはビジネスの世界でも組織も社会もしあわせにできるリーダーになりたいと考えています。さまざまな学びから、私自身は人と組織の関係性の質が結果をよりよくすると考えています。そういった「きれいごと」と「成果」を両立できるリーダーになりたいですね。

ー最後に、U-29世代へメッセージをお願いいたします!

僕のように、強い原体験やきっかけはないけれどもなんとなく社会のために働きたいと考えている人はたくさんいると思います。やりたいことが見つかってがんばっている人を見ると焦ってしまいますよね……。

その点では自らの心を大きく動かすような原体験に出会うのも運命だと思うので、大きなできごとに遭遇したときに主体的に選択できるように準備しておくことも大切です。また自らが強い原体験に出会えなくても、目標に向かってがんばっている人のサポートをすることも生き方の一つだと思います。自分自身が主体的に生き方や価値観の土台をつくり、自分自身の思いや考え方に何か大きな変化があったときにいつでも全力で動けるように自発的な準備をしていくことも大事かなと思います。

その準備が私にとっては「三兎を追う」ことであり、それが私の考える自分の人生を楽しく生きるためのコツだと私は考えています。

ーありがとうございました!金田さんの今後のご活躍を応援しております!

取材者:黒澤朝海(Twitter
執筆者:柚月 歩(note/Twitter
デザイン:安田遥(Twitter