お金の学びをもっと身近に!ファイナンシャルプランナー町田萌が見据える少し先の未来

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第579回目となる今回は、「FPサテライト」の代表取締役町田 萌(まちた もえ)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

「保険商品を取り扱わない」ファイナンシャルプランナー(FP)業務をしている町田さん。FP業界に新たな切り口でFPの活躍の場を広げています。FPとの出会い、そして日本の金融リテラシー変革への思いを語っていただきました。

吹奏楽部での憧れとギャップ。自分の価値に悩んだ高校時代

ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。

「FPサテライト株式会社」を運営している、代表取締役の町田 萌(まちた もえ)と申します。保険や証券などの金融商品を取り扱わないファイナンシャルプランナーの会社を経営しています。

ー独立から6年目を迎えた町田さん。具体的にファイナンシャルプランナーの仕事について教えてください。

一言で言えば「お金全般の相談にのる人」です。主な相談内容としては、生きる上でかかるお金のこと、教育費、マイホーム購入資金や住宅ローンなどの相談があります。

ここ数年で関心が高まっていることでは「老後2,000万円問題」が取り上げられていましたね。老後お金に困らず過ごすために、この先どれくらいのお金がかかるのか、今の収入から見て足りない部分はどうするのか、大黒柱が亡くなった場合の解決策などの相談が挙げられます。

一般的なFPは、保険商品を取り扱っているので、解決策として金融商品への加入を提案することもあります。

ー幼少期・学生時代はどのように過ごされましたか。

小学生の頃はかなりインドアで、ゲーム三昧の日々でした。中学生で吹奏楽部に入部したのをきっかけに吹奏楽に熱心に取り組みました。

小学生の頃には見つけられなかった「熱心になれるもの」を、中学生になり見つけられた感じですね。

ー高校で吹奏楽の強豪校に進学された町田さん。当時のエピソードを教えてください。

進学先を選んだきっかけは、全国レベルの吹奏楽部に所属したいとの思いからでした。吹奏楽の舞台はとても華やかなので、中学生の頃は良い面だけにフォーカスしていたんだと思います。部活動が盛んであれば、実力主義で公平に評価してもらえる、人間的なレベルも高いと憧れもありました。期待値が高かった分、入部後にギャップを感じてしまいました

特に精神的に落ち込んだきっかけは、自分が最上級生になった時でした。後輩を見る立場だけど、自分の気持ちにも余裕がない状態が続いて。余裕もなく失敗も重なり、自分を責めていた日々でしたね。

さらに楽器初心者の状態で入部した影響も大きかったと思います。中学校のレベルがそこまで高くなかったのと、高校からは楽器も変わりました。後輩は楽器経験者だったこともあり、下手だと言われたり「下手なのに偉そうに」といった雰囲気も感じることもあり。

吹奏楽部は楽器以外でも演目が多く、合唱に関してはリーダーをしていました。そこでもうまくいかなくて、「リーダーとしてやるべきことができていない」と自分で感じる場面も多くあって。周囲からの厳しい言葉も続き、自分自身を責める日々でした。

ー部活動では自分の価値に悩む経験をされたのですね。高校時代の経験が今の町田さんに活かせていると感じる部分はありますか。

指導する立場の時、基本的に怒りません。「できることを褒める」もっと良くなるような「ポジティブな声かけ」は意識しなくてもしていますね。

高校時代の経験から、怒っても出来るようになるわけでないと考えるようになりました。むしろ怒られることで萎縮してしまい、余計にできなくなると思っています。

大学時代は、オーケストラのサークルで力を抜いて取り組んでいたのですが、怒られない環境になった瞬間に、あっさり上達した経験がありました。気持ち的な面は大きいと気づけた経験です。

ー過去の経験からポジティブな声かけを大切にされているんですね。

振り返ると当時の部活動は「恐怖政治」的なやり方だったと思います。近年は恐怖で従わせる時代ではないと考えています。必ずしも恐怖に耐えられない人に実力がないという考え方や恐怖心から出来るようにさせることが良いやり方ではないはずです。

実際高校時代に、周りに不登校になったり、学校を辞めてしまったりした人もいました。この経験から、恐怖で指導するやり方には負の側面があると考えています。

ありきたりな仕事が並ぶ中、横文字の職業ファイナンシャルプランナーが目に留まる

ーファイナンシャルプランナーと出会ったきっかけを教えてください。

高校は商業科で、簿記や情報処理などを学んでいました。簿記は好きで成績も良かったので、簿記の知識を生かして出来ることはないかと考えるようになりました。

商業系の知識を活かせる働き方を調べる中で、経理、一般事務などのありきたりな職業の中に「FP(ファイナンシャルプランナー)」がありました。1つだけ横文字の職業がある!と気になって…。それが気になり始めたきっかけです。

ー高校卒業後は商学部に進学。大学ではどのように過ごしていましたか。

まずは資格を取ることを主軸にしていました。FPと簿記の他にも関連資格の証券外務員などの取得に向けて資格の勉強に注力する日々でした。

大学の授業では、FPに関連する保険分野の科目を履修しました。また座学だけでなく実務も並行してやりたいと考え、保険会社のコールセンターで働いたり、eラーニングのシステムを取り扱うITのベンチャー企業でアルバイトさせてもらったりしていました。いろいろな角度でFPを学ぶことのできた4年間でした。

ー実務現場で素敵な出会いもあったそうですね!

そうですね!保険会社のコールセンターで同じチームとして働いていた人が今の配偶者です。当時は同じチームとして医療保険を電話で販売していました。

キャリア選択で覚えた違和感。ファイナンシャルプランナーの強みが発揮できない世の中

ーキャリア選択の際に違和感があったそうですね。詳しく教えてください。

FPとして働きたいと考えて、求人を探したのですがFPの新卒採用は全くありませんでした。転職も視野に入れて中途採用も見ましたが、採用は若干名の企業が多くFPとして働くことの難しさを感じたのを覚えています。

そもそもFPの資格は6分野で構成されています。学ぶ分野が広い理由は、相談者にとってさまざまな選択がある中でベストな選択、解決策を提案するためであり、その包括性こそFPの本分だと私は考えています。

しかし実情は、保険会社に入社すれば保険の分野しか見れない、証券会社では投資の話がメインになる……。包括的に相談にのることは、今の日本では難しいと感じました。FPは幅広い分野で学ぶことができるのに、仕事ではその一部しか活かせないことに違和感を覚えました。

ーサービスを受ける側の目線から見ても、包括的に一緒に考えてもらえる方が楽ですよね!

そうだと思います。部分的に扱ってしまうと、保険は保険会社へ、投資は証券会社へとなり手間ですよね。あくまで一領域だけの解決にしかならない場合もあります。

ーでは、新卒のキャリアはどのように進まれたのでしょうか。

はじめに税理士事務所から内定をいただきました。その後、他社や他業種も見ましたが、最終的にはじめに内定をいただいた税理士事務所を選択しました。

ー税理士事務所では何年勤められたのですか。

独立する前提だったので、1年間です。税理士事務所は基本的に1年間のスケジュールが決まっていて毎年繰り返します。1年と期間を決めたのはFPをやる観点で見た時、一通り経験しプロセスを理解できれば良いかなとの考えからでした。

ファイナンシャルプランナーはお金の専門家。包括的なサービスの提供をスタート

ー独立してからの取り組みを教えてください。

主人と2人で独立しFPの専門家として実績づくりのため、執筆活動をしたり、講演会をしたりしていました。

ーファイナンシャルプランナーとして執筆されていたのですね!立ち上げ後はさまざまな苦労もあったかと思います。

独立直後は、知り合いや人脈のある同業の方から仕事紹介を受けていましたが、しばらくすると執筆の定期依頼が切れてしまったり、事業についてもまだまだと感じることが増えていきます。自分は向いていないのではと悩む時期もありましたね。

高校時代の経験もあったので、精神的に今の自分じゃまずいなと思い、無料相談を受けているカウンセラーの方へコンタクトを取りました。

その頃主人から「仕事へのやる気」を指摘されたこともあって。「事業を拡大していきたい」という思いに感じている不安をカウンセラーに話したところ、カウンセラーの方から「話している言葉に魂が入っている」と言っていただけて。

その言葉を聞いて、自分にやる気がないとか、仕事への思いが足りないというのは、思い過ごしだと思えました。もう少し頑張ってみようと、考え直せたターニングポイントでしたね。

ー苦労を乗り越え、2020年度からは大学の教員としてもご活躍されている町田さん。大学の教授になったきっかけを教えてください。

士業の集まり関連で、大学で勤めている方と名刺交換をしていたんです。そこから生まれた巡り合わせです。大学で勤めている方から教員を探しているとの話があり、自分にできることをお伝えしたことがありました。

その1年後に再びご連絡をいただいて、金融商品の知識の科目を新規に立ち上げるところから携わらせていただきました。翌年には税金の科目も依頼され、今では2科目担当しています。

ーファイナンシャルプランナーの方が教員をされているのは珍しいですね!

私は通信の科目なので、直接学生の前で話すのではなく大学指定のテキストをもとに問題作成、採点をしています。テストの内容を通じて赤ペンで書きながら学生とやりとりしているんです。

「切り口次第で可能性は広がる」金融商品を取り扱わないファイナンシャルプランナー

ー「FPサテライト」の取り組みを具体的に教えてください。

「金融商品」を取り扱わずに行うお金の相談業務です。

一般的な商品を取り扱っているFPの場合、提案した商品の販売手数料が入ってくるビジネスモデルです。一方、当社は商品を販売していないので販売手数料が丸々ありません。お客様からFPの専門家として有料で相談を受けることがメインです。

無料相談が多い中で、有料での相談業務はビジネスモデルを打ち出すことに厳しさもありますが、専門家がトータルでお金の状況を見ることを重視しています。他にも記事執筆やセミナー講師、地方移住のお金の相談から、事業者向けに事業計画の策定支援など、お金に関するさまざまな事業を展開しています。

ー地方移住のお金の相談は面白いですね。

「地方移住のお金の相談」の切り口は、面白いと思って取材いただくことが多いですね。あさイチでも取材していただきました。

地方移住は移住する時はもちろん、移住後もお金を使う場所や、金額などは大きく変わります。今までにない切り口からの相談も受けているところです。

ーまさに少し先を捉えた視点ですね!FPサテライトでは女性の方が活躍している印象ですが、国内の女性ファイナンシャルプランナーの割合は?

FP業界は女性が多いですね。保険会社から独立する方も少なくありません。国内保険会社の外交員はそもそも女性が多いので、その延長でFP業界も女性の割合が多いのが現状といえます。

ーファイナンシャルプランナー業界で感じる課題について教えてください。

成長途上の業界なので課題は多いと思います。FP自身が限界を決めてしまっている印象です。独立しているFPといえば「記事執筆や相談業務、講師をする」と業務内容をFP自身が限定している風潮があります。

FPは士業と異なって、独占業務がないのでFPにしかできない業務があるわけではありません。一方で、広く浅く全体を見て適切なものを選び、より詳しいことは専門家につなぐことこそが、FPの価値を発揮できる業務のひとつだと思っています。

ーファイナンシャルプランナー業界のこれからをどのように考えていますか。

今後は、今よりビジネス的な視点を持つことも必要だと感じています。さまざまな切り口、例えば地方移住もそのひとつです。

ー町田さんは過去の経験からも少し先を見据えることを常に心がけている印象を持ちました。どうしたら先のことを捉えることができると思われていますか。

「余裕をつくること」が重要だと思います。目の前のタスクが多すぎると先のことを考えられなくなる。せっかく先を見てタスクを立てても、タスクに追われすぎて設定した目標を忘れてしまったりすることもあります。

経営者は先を見据えなくてはならない仕事でもあると思っていて。自分が会社員の時には「社長は遊んでばっかり」とか「全然仕事しない!」とか思っていましたし、同様に感じる人も多いのではないでしょうか。しかし社長こそ、余裕をつくり先を見据えて事業について考えなければいけないと、自分が社長の立場になって気付きました。

先を見据える力は、社長の立場に限らず誰にでも大切なことなのでぜひ皆さんも考えてみて欲しいです。

ー会社として3年半。これから目指していきたいことを教えてください。

FPはお金を切り口にすれば、さまざまな可能性があると思っています。しかし今はまだ道半ばです。

FPに関連すること、お金に関連すること、はたまた一見FPに関連していないようなことも含めて、多くの事業を展開していきたいと考えています。

最終的に目指す先には、自分でお金を学ぶことが身近な社会になることを目標にしています。そして日本全体の金融リテラシーを高めていきたいと考えています。とても壮大な目標ですが、一歩一歩取り組んでいきます。

ーありがとうございました!町田さんの今後のご活躍を応援しております!

取材:大庭 周(Facebook/note/Twitter
執筆:清水真心(note/Twitter
デザイン:安田遥(Twitter

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