自分の「生きづらさ」に向き合い見つけた、進むべき道。D&I 畠山千夏の歩み

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第577回目となる今回は、株式会社D&I大阪営業所長である畠山千夏さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

大学時代にゼミの活動で自身の生きづらさと向き合った結果、携わりたい仕事が見えてきた畠山さん。営業と管理職の仕事を両立させ奮闘する背景にある、強い想いに迫ります。

障害者雇用を支援する会社で、入社5年目にして営業所長に

ーまずは簡単に自己紹介をお願いいたします。

畠山千夏と申します。私は2017年に立教大学社会学部を卒業し、株式会社D&Iという企業の障害者雇用を支援する会社に入りました。

当社は、企業様と障害者の方の橋渡しをしています。障害者の人材紹介や、受け入れ体制の構築と業務の切り出し、入社後の定着支援、そして東京と大阪での障害者の教育事業まで幅広く展開させていただいています。

私は入社直後からずっと企業担当として、お客様である企業の人事の方に障害者の方をご紹介したり、定着支援に入ったりといろいろな形で障害者雇用に取り組んできました。

現在は社会人5年目ですね。入社直後から成長できる機会を会社から与えられ、現在は大阪で営業所長を務めています。

ーどのような経緯で営業所長になられたのですか?

2019年の秋頃に大阪に拠点を作る話が出て、立候補して2020年1月に大阪へ行きました。その後2021年に拠点長候補に立候補して、管理職になった形です。入社後から営業で結果を出していたので、そこを認めていただけたのだと思います。

ー営業と管理職のお仕事、両方されてみていかがでしょうか?

管理職は自分の売上だけではなく、組織の売上をどれくらい積み上げていかなければならないのかを考えなければいけません。それはとても大変ですね。

一方、当社では幅広くサービスを提供しているので、営業の仕事は楽しかったです。成果を出していくことで、お客様との結びつきが深くなっていくのがおもしろかったですね。

喜びを分け合える楽しさとチームワークの大切さを学ぶ

ー現在営業所長としてご活躍されている畠山さんですが、子ども時代はどのように過ごされていたのでしょうか?

小学生の頃は、男の子と一緒にサッカーや野球を楽しむような子どもでしたね。中学生になってからは、地域のサッカーチームに参加しながら学校の陸上部にも所属し、ハードなスケジュールで動いていました。

陸上部で走るのも好きでしたが、サッカーはチームで喜びを分け合える分、より楽しかったですね。

ー現在は管理職としてチームを率いていると思いますが、当時からチームワークの大切さを意識されていたのでしょうか?

1人の場合、自分の能力を発揮すればそのままの結果が出ます。しかし、チームの場合は能力以下の力でも試合に勝てることがあります。一方、調子が出なければ力を出しきれず負けることもあるでしょう。だからこそ、チームワークを意識して声を出し、チームを盛り上げていくのは大切だと思いますね。

とはいえ、当時の私はチームワークの大切さが全然わかっていませんでした。サッカーチームのキャプテンをしていた子に、毎日とても怒られましたね。そこで、声を出してチームワークを意識することの大切さを学びました。

障害は乗り越えるものではなく、心の中の穴として抱えていくもの

ー大学時代は、どのように過ごされたのでしょうか。

大学1〜2年生の頃は、サークルに入ったものの全然馴染めず、バイトをしながらぼーっと授業を受けて過ごしていたんです。大学3年生から、徐々に活発になっていきましたね。

NPOの活動に参加したり、ゼミが始まったりして忙しくなり、ようやく大学に入って良かったと思うようになりました。

ーゼミでは、どのような研究をされていたのですか?

「生きづらさ」について学んでいました。誰もが抱えている生きづらさを、社会学的に分析していこうというゼミでしたね。

自分の生きづらさを分析するためには、自分の内面を丸裸にしないといけません。これまでふたをしていたパンドラの箱を開けなければならず、結構しんどかったですね。自分がこれまで生きてきたなかで辛かったことや自分の人生観を、嘘偽りなく書き出してカミングアウトし、みんなで共有していました。

自分や家族について大学で話す機会もあまりないので、ゼミのメンバーに対してしか言わないこともあります。その結果、秘密を共有したメンバー同士わかり合っている感覚がありました。

論文を書いたり合宿をしたりして一緒にいた時間が長かったこともあり、ゼミのメンバーは一生の仲間のように思えましたね。

ー生きづらさの研究をして、どのような結論にたどり着いたのでしょうか?

世間は、障害を持った人が乗り越えて回復するまでのストーリーを求めがちです。しかし、私は本当に障害を乗り越えることができるんだろうかと疑問に思っていました。そこで、LGBTの方やアルコール依存症の方など、様々な生きづらさを抱えている人にインタビューをしたんです。

その結果、誰も障害や苦しみを乗り越えた実感を持っていないとわかりました。それは、ずっと心の中の穴として残り続けます。綺麗に穴が治って乗り越えたと感じているといった声は聞かれませんでした。

だからこそ、社会学的に障害を乗り越えたといった見方をすべきではないという結論に至りました。

誰もが将来の選択肢を持てる社会に変えたい

ーご自身の生きづらさと向き合ったときは、いかがでしたか?

私はほかの人に比べて心に傷はないと思っていましたが、自分の過去を振り返ると、意外と傷はありました。

私のいとこが自閉スペクトラム症( ASD)を持っていたのですが、そのいとこの親から言われた言葉が特にショックでしたね。それが自分の生きづらさにつながり、そこから社会を変えたいと思うようになったんです。

いとこの親は、自分の子どもが障害者で将来の選択肢が少ないから、私に期待していると言いました。そのとき、私は素直に喜べなかったんです。

当時の障害者は小学校から就職先まで限られていて、選ぶことができませんでした。一方私は、進学先も就職先も自分で選べる立場でした。そこで、選択肢を持っている自分にプレッシャーを与えられたことが、とてもしんどかったんです。

そのため、どのような人にでも将来の選択肢を増やし、将来の可能性を障害者や親がもっと持つべきだと思いました。しんどかったですが、自分の生きづらさと向き合った先にやりたいことを見つけられましたね。

ー就職先にD&Iを選んだ理由は、何だったのでしょうか?

NPOのインターンなどを経験し、障害者雇用に携わりたいと考えていました。障害者雇用に携わることで、自分のもやもやを社会に還元できるんじゃないかと思ったんです。

D&Iは「誰もが挑戦できる社会」を創ることを目的とし、障害者の将来の選択肢を増やすための事業を展開しています。それが自分のやりたいことに近いと感じて、入社を決めました。

ー大学時代の深い経験が、就職に反映されているのですね。

このように言語化できるようになったのは、実はつい最近のことです。言語化できるようになったのは、営業でお客様と話していたからですね。

人と話すときは、自分のことを先に話してしまったほうが仲良くなれます。私はいとこの親に言われたことがショックで、社会を変えたくて今このような仕事を一生懸命やっていると伝えることにより、みんな納得してくれるんです。自分から開示することで、人との距離が縮まっていると感じますね。

最近では、自分の想いをしっかり持っている人と仲良くなれるようになってきたと思います。特に大阪に来てからは、強い想いを持って福祉や障害者雇用などのビジネスをしている方々とつながれていますね。

自分で選ぶためには、様々な選択肢があると理解することが大切

ー畠山さんが働くなかで、大事にしている価値観はありますか?

今大事にしているのは、ポジティブに考えることですね。ネガティブなことがたくさん起こるので、前向きに進めるようにしています。

私はジムに通っていますが、それは気持ちの切り替えのためという理由が大きいです。仕事が忙しいときほどジムに行って体を動かすと、嫌なことも忘れられます。

夜に残業する人も多いと思いますが、夜にだらだらと仕事をしても生産性は上がらないんですよね。朝のほうが、スピード感を持って仕事ができると思います。だから、次の日に回せる仕事は回して、夜は時間を決めて仕事を終えてジムに行くようにしていますね。

ー畠山さんが思う自分らしさとは、何でしょうか?

自分が選択肢を持っていて、自分の判断で選べるのが自分らしさを感じられることだと思います。

親が選ぶ、環境によって選べない、自分で選ばず誰かに選んでほしいなどと聞いてしまうと、絶対に続かないだろうと感じますね。誰かにやらされている状態では、何事も長くは続かないと思います。

ー自分で選択肢を持つために、大切にしていることはありますか?

選択肢を持つためには、様々な選択肢があると理解する必要があります。

私は第一志望の大学には入れませんでしたが、ある程度いい大学に入っておけば就職先も選びやすいと思い、進学しました。仕事も限定的なことしかしていないと転職先が限られるので、今の環境で幅広くいろいろなことをして、選ぶ権利を増やそうとしています。

私は会社の人とばかり過ごすのではなく、いろいろな職場で働いている大学時代の友人に話を聞きに行きました。ほかの業界の仕事内容や労働環境、やりがいなどを聞くことで、自分の学びにしていったんです。

いろいろなことに手を出すのは限界があるので、自分の仕事をきちんとこなし、たくさんの人の話を聞いて、自分にはたくさんの選択肢があると知りに行くのが大事だと思います

ーこれからの働き方について、何か考えていることはありますか?

30〜40代の女性は、キャリアの築き方が難しいんですよね。結婚したり子どもが生まれたりするステージでは、やはり仕事の幅が制限されがちです。そして、20代の頃のように会社は簡単に雇ってくれません。

そのため、D&Iで自分がどのように裁量を持って仕事ができるかと考えつつ、自分がD&Iにいられなくなったときにほかの会社でどのような力を発揮できるのかも思い描きながら、働いていきたいと思います。

ーありがとうございました!畠山さんの今後のご活躍を応援しております!

取材:武 海夢(Facebook
執筆:相良 海琴
デザイン:高橋りえ(Twitter