様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第501回目となる今回は、武海夢さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。
ピンタレスト日本のグロースマーケティング統括や上級心理カウンセラーなど幅広い領域でご活躍されている武さん。幼少期はずっと受け身で自己肯定感が低く生きづらさを感じていたそうです。どのように自分や他人を受け入れて、自分らしい生き方ができるようになったのか伺いました。
中国から日本へ行き環境が激変、得られた解放感
―自己紹介をお願いします。
武海夢と申します。現在はピンタレストでグロースマーケティングを担当しています。本業以外では、U-29でインタビュアーや心理学関連の活動を行っています。
―ご自身の人生を振り返って、どの時期が充実していたと感じますか?
まず、新潟で過ごした2年間ですね。母の仕事の都合で、9歳の時に中国から新潟に来ました。毎日が楽しくて、「今を生きる」という自分のモットーを体現できていたと思います。色んな遊びに参加していました。
―中国は厳しい環境だったそうですね。のびのびと過ごせた新潟の時間との違いは何かありますか?
経済的なギャップや生活面の豊かさです。日本の方が進んでいるし色んな意味で豊かだと思いました。教育面も違いを感じました。私が通っていた新潟の小学校は、すごくのびのびと楽しく育てる方針だったので、中国と正反対でした。
中国は、「これもダメ」「あれもダメ」みたいな感じで厳しかったです。体罰もあったので毎日怯えて過ごしていました。それが原因かわからないのですが、いつの間にか一言も発しないコミュ障になっていました。
毎日何も話さない問題児として扱われて、親が学校に呼び出されたのを覚えています。
―中国にいる時は話さなかったとおっしゃっていましたが、日本に来てからは変化があったように感じます。
日本に来てから話すようになりましたね。最初は言葉が通じなかったので、笑顔とか言葉がなくても通じあえる方法で、クラスメイトと交流していました。みんな優しくて一緒に遊んでくれました。
もともと新しいことが好きだから、ずっと同じ環境にいるとストレスを感じてしまいます。新しい環境やモノを自分から探しにいきました。
―幼少期にあった環境の良い変化が、現在の新しいモノ好きにつながっているのですね。
幼少期に環境が激変した経験で、多様な価値観や世界観が肌感で捉えられたのかなと思います。言語を取得したおかげで、母国語みたいな感覚で話せるので、もうひとつの思考パターンが出来上がった感じがします。言語を切り替える時に、性格も変わったり。思い返すと貴重な経験だったと思います。
中国で0からのスタート。人間関係や価値観に違和感を抱く
―その後、新潟から中国に戻られるのですよね。
そうです。以前通っていた学校の同じクラスに戻りました。日本語に馴染んで、中国語は忘れかけていました。0からやり直しのような感覚でした。
―もともといた場所に戻るってかなりユニークな経験ですね。ネガティブな感情を抱いていた場所へ戻ることに、ストレスを感じませんでしたか?
けっこう辛かったですね。中国は学習スピードが速いので、言語も通じないしついていけませんでした。
それに、クラスメイトと距離を感じました。戻ってきてかえって孤立したような状態が生まれてしまいました。輪に入りたいと思っても上手く入れなかったり、日本を悪く言う人と価値観が合わなかったり。
中国のダイレクトなコミュニケーションにも馴染めませんでした。自分が生まれた国なのに馴染めなくて、カルチャーショックを受けました。
1週間の家出が今後の生き方を考える時間になった
―16歳の時に溜め込んでいた気持ちが爆発したと伺いました。
中学生になってからは、勉強にも追いつけて、クラスメイトとの関係も良くなって、辛さを感じることは減りました。でも、漠然とした違和感はずっと消えませんでした。その違和感が、急に爆発したんです。親や親戚の職業は教授や先生だったので、教育に関してとても厳しい家庭でした。
―学校でも家庭でもルールに縛られたような環境だったんですね。
逃げ場がなかったです。だから家出してしまったんだと思います。その時は本能で動いていました。図書館に行ったりして、フラフラしながら1週間過ごしました。
―家出で1週間って長いですね!その間に何を考えられたのですか?
勢いで飛び出してきてしまったので、簡単には戻れない、戻りたくないと感じていました。
仕事を探しはじめたのですが、16歳でできる仕事はほとんどなくて、現実の厳しさを知りました。今の生活を受け入れたら、一生このままの自分の姿が浮かんで、やっぱりこのままじゃダメだとはっきりわかったんです。
色んな人に迷惑をかけて反省はしつつ、「人生で何がしたいんだろう?」と自分自身と向き合う時間になりました。足にケガをしていたので、覚悟を決めて家に戻る選択をしました。
―1週間の中で気持ちに変化があったのですね。家に戻る時に、どんな覚悟をされたのでしょうか。
今まで環境や周りの価値観に抵抗していたけど、一旦周りに合わせてみようと決めました。自分は何がしたいのかがわからないから、まずは周りに歩み寄る努力をしてみました。考え方を変えれば、生きづらさが改善されるかもしれないと思ったんです。
優等生キャラ路線を進むも、いつも心には違和感があった
―周りに合わせてみて、ご自身や周囲の方に変化はありましたか?
高校では猛勉強して、推薦をとって大学に進めたので、親は喜んでくれました。昔から親を喜ばせたい気持ちはあったので、叶えられたのはよかったです。
ですが、周りに合わせるのは、当時の私にとって今まで自分が間違っていたと認めたようなものでした。本当は一番したくなかったことだったので、大学卒業後まで、どこか納得できない違和感を抱いていました。
学校のせいとか親のせいとか誰かのせいにしていて、自分の考え方にも原因があったと気づけませんでした。だから、学校を卒業しても根本的な問題は解決できてなかったんです。
―大学はどのようにして決められたのですか?
最初は推薦された上海の経済大学に行ったのですが、入学がゴールと思っている人が多かったんです。「じゃあ何をするために大学に来ているの?」と、そこでも違和感を抱きました。
なので、大学2年生の時に、アメリカの大学に編入しました。
―大学入学後は解放的な気持ちになる人が多い中、武さんは常に目の前の出来事に対して考えられていますね。
幼少期からずっと漠然とした違和感を抱いて生きてきたからだと思います。あれでもない、これでもない、とひたすら考え込んでいました。
―編入先のアメリカの大学はどのような環境だったのでしょうか?
悩みを忘れるぐらい、言語と現地の環境に慣れることに必死でした。アメリカの大学は勉強が厳しいので、色んなことを考える余裕がなかったです。
アメリカは大学に行っても行かなくてもどちらでよくて、中国では絶対ありえない考えでした。大学に行く人はちゃんと理由があって、厳しい授業を受けて専門性を高めていっていました。なにをやるのも自由で、やるならしっかりやる環境でした。
自分を変えるきっかけになった心理学との出会い
―大学を卒業されてからは、どのように過ごされましたか?
大学卒業後は、現地のPR会社に就職しました。1年後には日本に転職して、色んな業種の会社で働きました。製造業や国際コンサルなどの経験を経て、自分がマーケティングに興味があると気付きました。
その後、マーケットリサーチ会社に入社して、自分の適職だと感じマーケティングの道に突き進みます。大好きな会社でしたが潰れてしまったので、代理店に転職。そして現在のピンタレストに至ります。
―社会人になって、現在の武さんにつながるターニングポイントがあったと伺いました。
心理学を勉強し始めました。職場でパワハラのような事件が立て続けに起こって、うつ寸前の状態になってしまったんです。
この出来事をきっかけに、心理学を学んで自分の心のケアをしようと思いました。勉強するうちに、自分の思考のクセや弱さが見えるようになりました。うつ寸前になる前に戻すのではなく、自分の思考のクセを治すようにしていったら今の自分になりました。
心理学の勉強がこんなに大きく効果をもたらすとは思ってもみなかったです。生まれ変わったような感じがして、とても救われました。
―落ち込む中、心理学を学ぼうとした行動力がすごいですね。
半年間ぐらいはずっと落ち込んでいました。でもある時、このままじゃ嫌だなと思って。心理カウンセラーに話をしたり、心理学に関する本を読んだりして、今できることをしていました。興味本位で心理学に触れていた時間が癒しになっていました。
心理学への興味や関心が次第に大きくなったことが、カウンセラーの資格取得につながりました。
自己肯定感の低さを知り、自分らしい生き方へ
―武さんが心理学を学んで気付いたことは、何なのでしょうか?
自分の大きな問題点は、自己肯定感の低さだと気付きました。幼少期の経験が影響していて、親とのコミュニケーションなどが原因になっているとわかりました。自己肯定感が低い時は、周りに合わせたり、認められようとしていたりしました。
自己肯定感の低さはなにかしらの行動に表れます。昔は服を買うことが好きでしたが、心理学を学んで自己肯定感が高くなってきてから、全く買わなくなったんですよ。当時はなんでこんなに服を買っているのか分からなかったけれど、人にどう見られるのか気にしていたんだと思います。
―自己肯定感が低くなった経験がある人は多いのではないかと思います。武さんのように心理学を学ぶと、どんなことがわかるようになるのでしょうか?
最終的には感覚の話になるので、心理学は難しいです。例えば、小さい頃から無条件に愛されてきた子どもは、何もしなくても自己肯定感が高いです。受け入れられた経験がない子どもは、その感覚を頭で理解しようとしてもわかりません。
無条件に自分を受け入れることができないと、他人にもそうすることができません。私がキーワードにしているのが、「自他肯定感」です。自分を受け入れ、周りも受け入れることができて初めて、良い社会がつくれると思います。
―武さんの今後の展望を教えてください。
もっと未知を理解して自分軸で生きていきたいです。これまでずっと受け身で過ごしてきて、やっと自由に動ける感覚を手に入れました。これからもっともっと主体的に動いていきたいです。例えば、今まではパーティーに参加する側だったけど、主催者側になるとか。
行動が変化すれば、違う生き方になると思います。なにかこれをする!というよりは、姿勢を変えて新しい人生を迎えたいです。
―これからの武さんのご活躍が楽しみです!本日はありがとうございました!
取材:新井麻希(Facebook)
編集:杉山大樹(Facebook /note)
執筆:naoko(Twitter/ note)
デザイン:高橋りえ(Twitter)
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