GOODなコーヒーを日本に届けたい。空賀啓輔から学ぶ、自分の意思で人生を選ぶ大切さ

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第534回目となる今回は、GOOD COFFEE FARMSの空賀啓輔(くがけいすけ)さんです。

商社で海外駐在を経て、コーヒー業界の課題と向き合うGOOD COFFEE FARMSに転職された空賀さん。高校時代まで周りの人たちと同じ道を選んできたそうですが、浪人期に視野を広げ、自分の意思で人生を選択する大切さを実感します。
コーヒーを一つの手段として、出会う人たちから異なる世界や文化を学ぶことや、消費者と生産者の関係づくりを大切にする空賀さんに、自分の強い意思で取捨選択していくことの重要性を伺いました。

消費者も生産者も良い関係でいられるコーヒーづくり

ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。

GOOD COFFEE FARMS 事業開発責任者の空賀啓輔と申します。新卒から6年ほど商社で勤務したのち、現在はGOOD COFFEE FARMSの一員としてグアテマラの生産者団体でコーヒーをつくり、日本に広めるために活動しています。

ー具体的にどのようなコーヒーを扱っているのでしょうか?

私たちの会社は、グアテマラ人であるCEOが、日本にグアテマラのコーヒーを広めたいという思いから、「コーヒーで世界を変えよう」をスローガンに掲げて始まりました。ただコーヒーを売るのではなく、社名にあるように「GOODなコーヒー」を扱っています。日本にいると生産国が遠いぶん、どうしても美味しくてクオリティが良いコーヒーに目が行きがちです。僕たちはおいしいことはもちろん、自然環境や生産者にとっても良いコーヒーを届けています。例えば、独自に開発した自転車式の機械を使ってコーヒーを生産し、電気や燃料を使わずに生豆を取り出すことが可能です。これにより、ただおいしいだけではなく、不必要なエネルギーを使わずに、生産者に対しても収入がしっかりと還元される仕組みをつくっています。

ー消費者に美味しいコーヒーを届けるだけではなく、SDGsの観点もお持ちなのですね。

そうですね。コーヒーの生産は「SDGs17の目標」のほとんどすべてに関わるといわれています。それだけ現地の生産者にとって、社会や経済の問題が根深く残っているんですよね。まずは日本にいるコーヒー好きの人たちに、私たちのGOODなコーヒーを通してこの問題を知ってもらえるための活動をしたいです。

ーコーヒーの生産に様々な問題が関わっているとは今まで知りませんでした。環境面に配慮されているとのことですが、御社だからこそのコーヒーの味やクオリティに対してのこだわりはありますか?

私たちが求めているのは、飲み終わったときにもう一杯飲みたくなるようなコーヒーです。どういうことかというと、きれいでスッキリ飲める、甘味や酸味の味わいが感じられるコーヒーを目指しています。

ーコーヒーは苦味があるイメージを持たれる方が多いと思うのですが、甘さや酸味が感じられるにはどのように生産されるのでしょうか?

コーヒーには様々な生産の工程があります。例えば、コーヒーの赤い実(コーヒーチェリー)がきちんと熟したタイミングで摘み、自転車で脱穀する際は水を使わず、果肉の部分を洗い流しません。また、果肉が残った状態で乾燥させると良い状態で発酵が進みます。自分たちで工夫して生産して届ける過程だからこそ、一つひとつの工程で何を大切にできるかを考えて行動します。その結果、きれいでスッキリとした、ただ苦いだけではなく酸味や甘味のおもしろさがあるコーヒーが完成すると思っています。

ー作業工程にもこだわりを持って生産されているんですね。現地で異文化の壁を感じることはありますか?

ありますね。特にグアテマラの方々は日本人と違って、きっちり正確に業務をおこなうというマインドセットを当たり前に持っているわけではありません。そのため、どういう方法で取り組めば、美味しいコーヒーができるのかを丁寧に伝えていくことが大切です。そこで弊社のCEOは、日本のマナーや朝礼、制服をつくるなどチームの士気を向上させる方法を現地グアテマラに取り入れ、チームビルディングを実践しました。そうすることで、自分たちはチームとして美味しいコーヒーをつくっているんだと意識を高め、一つひとつの工程に対して丁寧に業務をおこなうマインドセットを身につけることができました。

浪人を経て、自分の意思で決断できるようになった

ー空賀さんが幼少期の頃から、ご家庭ではコーヒーや海外と繋がりがあったのでしょうか?

全く繋がりはなかったですね。コーヒーと出会ったのは大学で留学していた時期です。

ールーツがあったわけではないということですね。幼少期はどのような子どもでしたか?

好奇心旺盛で、いろんな習い事をしていたアクティブな子でしたね。メインはサッカーで、他にも柔道や水泳などもやっていました。でもあまり才能がなくて、途中でやめちゃうタイプで。そのなかでも唯一続いたのがサッカーでした。

ー新しいことに挑戦するのには恐怖を感じない少年だったのですね。

そうですね。冒険心が強かったです。海岸線の岩肌を行けるところまで登っていったら、途中で降りられなくなって…… 救急隊に救助されたこともあります(笑)。

ーそんなことも……!空賀さんの人生の転機は大学受験だったそうですが、どのような大学を目指していたのですか?

大学進学についてあまり考えていなかったんです。進学校だったこともあり、学校の環境的に受けるであろう大学にとりあえず進学するだろうなという感覚でした。現役時代は東京大学を受験しましたが結果的に一浪しました。ただ、東京大学への思いが強かったわけでもなくて。

ー周りのみんなと同じ道を進んでいくんだという気持ちだったのですか?

そうですね。先のことを考えるよりも、大学に通っている兄がこうやってるから、周りの人たちもこの大学を目指すから、と同じレールの上を選んで進む人生でした。

ーそれが決して悪いわけではないけれど、思考が一時停止した状態で大学受験をされていた時期があったのですね。当時、どのような仕事に就きたいという思いはありましたか?

いえ、それもなかったです。とにかく目の前のことを楽しんで、いろんなことを試してみる高校生でした。高校時代もサッカーは続けながら音楽を始めてみたんですけど、結局どれも中途半端でしたね。海外経験も全くなく、日本でどう生きるかの思考で留まっていました。周りが公務員を目指しているから自分も公務員かもしれないとか、医者や弁護士はどうだろうといった狭い範囲の枠組みで考えていましたね。

ー周りに新しい挑戦をされている方がいないと選択肢も狭まってきますよね。一浪して東京大学に再挑戦されていくわけですが、結果はいかがでしたか?

一浪しても東京大学には落ちました。結局、自分の意思で勉強して受験した感覚がなかったんです。その当時は頑張っていたと思いますが、振り返ってみると、自分の頭を使って能動的に受験に取り組んでいなかった感覚なので結果もついてきませんよね。でも浪人して大きく変わったことといえば、高校生のときのように部活の大会や体育祭などのイベントごとがなくなるんです。必然的に自分の時間ができるので、新聞を読んだり映画を観たりすることが増えました。そうすると、自分の今まで触れてこなかった外の世界では複雑な問題が沢山起こっているんだということを知ったんです。

ー浪人を経験されたことで視野が広がる転機があったのですね。浪人期間を振り返ると、今の空賀さんに影響を与えていることはありますか?

浪人したことで自分の意思が少しずつ生まれ、世の中の問題に気づけた貴重な時間だったと思います。おそらくそのままストレートで大学に進学していたら、周りと同じようなレールを歩んでいたかもしれない。そう思うと、浪人してよかったと思っています。

居心地の良さを感じるコーヒーカルチャーとの出会い

ー大学ではどのような勉強をされていましたか?

経済学部を専攻し、経済や歴史など文系の勉強をしていました。大学入学後も様々なことに興味を持って取り組んでみた結果、最終的に自分にあっていたのは国際交流と政治の勉強です。特に海外での活動に気持ちが高まったので、留学することにしました。

ーまずは興味のあることをすべてやってみた結果、海外に関わることに気持ちがわくわくされたのですね。どちらに留学されたのですか?

大学3年生のときに、カリフォルニアに一年弱留学しました。理由は「海外=アメリカ」という憧れがあったのと、英語圏は学部で交換留学制度があったので申し込んだ形です。

ー長期留学の間、カリフォルニアではどのような出来事がありましたか?

現地でも様々なことに挑戦するなかで、コーヒーとの出会いがありました。ハウスメイトが、ハンドドリップでコーヒーを淹れてくれたのを見て興味を持ったんです。コーヒーの淹れ方を教えてもらいながらコミュニケーションをとり始めました。当時のカリフォルニアは、おしゃれなコーヒーショップが増えていた時期です。彼もコーヒーショップで働きながら、大学のクラブでコーヒーショップ特集の雑誌を制作していました。彼と関わることで繋がりが増え、コーヒーを通じて自分の世界を広げる経験をしました。当時はコーヒーを仕事にしようとは全く思っていませんでしたが、コーヒーをツールに文化を跨ぐことができて心地よい感覚でしたね。

ーここでコーヒーと出会われるのですね!海外と日本では、コーヒーを介したコミュニケーションのとり方は大きく違いますか?

経験上では違うと思います。例えば、コーヒーショップがオープンする時間が違う。カリフォルニアでは朝6時からオープンして、朝からたくさんのお客様がコーヒーをテイクアウトしたり、外でモーニングを食べたりするカルチャーです。でも日本で朝6時からオープンするコーヒーショップは非常に少ないですよね。日本では、朝は家で和食やトーストを食べる文化があると思います。要するに、消費者側の行動が違ってくるので、コミュニケーションのとり方も必然的に違ってきます。

ーたしかに大きく違ってきますね。留学から帰国後、空賀さんの気持ちや行動の変化はありましたか?

大きく変わりましたね。留学前から国際交流の活動をしていた当時は、自分の英語が伝わらない苛立ちやカルチャーショックを受けるなどの壁を感じていました。でも帰国後は、それらの壁を乗り越えられました。発信も恐れなくなったし、文化の壁も当たり前だと受け止められるようになったのは留学のおかげです。自分から積極的に行動するハードルが下がりました。

ー素敵ですね。大学4年生の頃には、ブラジルに数週間ほど滞在されたそうですね。

留学時代のつながりでブラジル人の友達がいたので、好奇心でブラジルへ行ってきました。そのときにブラジルのコーヒー農園に訪れる機会がありました。

ーそうなんですね!どういう経緯でコーヒー農園を訪れたのですか?

サンパウロの宿泊先の近くにあったコーヒーショップに毎日通っていたら、いきなり声をかけてきた方がコーヒー農園のオーナーだったんです。その方も翌月に東京へ行く予定だったということもあって仲良くなりました。彼は家族と一緒にコーヒー農園を経営し、生産したコーヒー豆をショップで販売していました。ちょうどコーヒーの収穫期だったので、誘ってもらったのが経緯です。

ー驚きました。そんなに簡単にコーヒー農園のオーナーさんと出会えるのですね。

ブラジルは、コーヒーの生産量が全体の3分の1以上なんですよ。コーヒー大国なので、コーヒーが生活や仕事の一部になっている国民が多いんです。ブラジルのことを知るには、ブラジルで生産しているコーヒーのことを知ったほうがいいし、興味があったので嬉しかったですね。

ーコーヒー農園に訪れたのは初めてですよね?実際に現地へ行ってみてどうでしたか?

はい、初めてでした。感動しましたね。空気が澄んでいて、壮大で、標高が高い位置に農園があるので景色が綺麗なんです。それに、コーヒー豆を生産するには、多くの人たちが関わっていることも知りました。収穫する人、コーヒーチェリーから豆を取り出す人、生産後の処理をする人、バックオフィスでお金を管理する人など、人種も背景も違う人たちが農園に関わり、その人たちをオーナーがとりまとめています。農家のコミュニティでは、農家がコーヒー豆を持ってきてお金と交換します。換金はすべて現金でやりとりをしていました。その様子を見学する過程で、課題や問題を見つけることができて、もっと知りたいと思うようになりましたね。

ー今の空賀さんのお仕事につながる原点のように感じます。当時、就職活動の時期だと思うのですが、どのように就職の意思決定をされましたか?

ブラジルの農園に行く前に就職先は決まっていたんです。当時はまだ、コーヒーを仕事にするところまで決意していませんでしたが、海外に関わりたいという軸はありました。また経済学部だったので、金融が問題を解決する手段として役に立つのではないかと思っていました。出張や駐在で海外勤務ができる仕事といえば、僕の中の選択肢だと商社だったんです。

ー新卒から商社で働くなかで、また人生の転機があったそうですね。

ニューヨークに駐在することが決まり、商社マンとして貴重な経験をすることができました。アメリカのエリートな経歴を持つ人たちとコミュニケーションをとりながら仕事をする経験はおもしろかったです。当時は財務部で、資金調達の仕事をしていました。ただ、結局自分がやりたいことのピースを商社の仕事からは得られずにいて。現地でコーヒーのコミュニティを広げているうちに、自分が商社で働くうえでやりたいことってなんだろうと思うようになりました。

ー自分を見つめ直すようになったのですね。そこから何がきっかけで転職を決意されたのですか?

これといった理由が特にあったわけではないんです。ただ、最終的に直感できたものを選んだというよりは、自分の中で蓄積されていく感覚がありました。コーヒーで世界が広がっていく実感がありつつ、もやもやした気持ちが募っていくなかで、引き金となったのはコロナだったと思います。

ーコロナが転職に大きな影響を与えたのですね。

そうですね。コロナが蔓延した時期と同じくして、2020年にGOOD COFFEE FARMSが立ち上がりました。最初の緊急事態宣言が発令された時期に弊社CEOのカルロスと出会ったんです。ただ最初は、コーヒーを手段に何がしたいのか思いつかなかったのが正直なところです。でもコロナによって、海外出張で現地の空気を感じながら、現場で異なる文化の人たちとコミュニケーションをとってビジネスをする商社の魅力が失われてしまいました。そうなると自分のやりたいことと繋がらなくなる部分が生じたので、転職を決断しました。ただ、カルロスと出会ってから転職を決断するまで1年以上かかっていますね。

ーカルロス氏とはどのようにして出会われたのですか?

実は商社マン時代に、ブラジルのコーヒーを輸入しようと考えたことがありました。ただ貿易の知識はわかるけど、個人で輸入できる手段がなかったので友達に相談したところ、グアテマラ人で同じようなことを事業にしている人がいると紹介してもらったのがカルロスなんです。彼に相談したところ、甘すぎるときつく言われてしまって。それなら勉強したいので無償で手伝わせてほしいとお願いし、商社の仕事がお休みの時間帯にお手伝いをしていました。

ー無償でも携わりたいという情熱や関心が生まれて、少しずつ時間をかけてコーヒーの世界に進みたいと明確になったのですね。転職すると決めたとき、周囲から反対されなかったですか?

かなり反対されましたね。

ーどうやって反対を押し切れたのですか?

自分の人生を自分で決めていきたい思いがあったんです。大学生以降は自分の意思でなんでも決めてやってきました。自分がこれだと思ったのだったら、反対されても熱意で説明することで、あとは時間が解決してくれるはずだと思って行動しましたね。

ー固い意思を持って突き進んだのですね。商社の財務部からスタートアップ企業に転職されて、現在はどのようなことに携わっているのですか?

現在は、どんな仕事でもやっていますね。規模的に必要なことは、人を集めたり、集まってもらうために価値観を発信したり、自分たちのプロダクトをどれだけの人に知ってもらうかといった活動だと思っています。GOOD COFFEE FARMSの事業を日本でおこなうために、統括する立場として頑張っています。興味がある方はぜひ一緒にお仕事しましょう。

日本全国にサステナブルでGOODなコーヒーを届けたい

ー空賀さんがこれからやっていきたいことや今後のビジョンを教えてください。

僕のモチベーションは、コーヒーで未知の世界を広げていくことで、これからもコーヒーを通してたくさんの人と出会い、多様な文化や価値観を知っていきたいです。そのためにも、僕たちはすばらしいコーヒーをつくっている自信があるので、日本全国の人たちに、僕たちのサステナブルコーヒーを届けて、まずは一度飲んでもらいたい。そして、生産国もグアテマラだけではなく、東南アジアや中南米、アフリカなどにも広げていけたらと思います。少しずつコーヒーのムーブメントを起こしていきたいですね。まだまだコーヒーでできることはあまりないように思われますが、一人ひとりの一杯が一日、一年と積み重なっていくことで、世界に大きなインパクトを与えることができると信じています。その過程で多様な人とコミュニケーションが取れれば、一層自分のモチベーションにも繋がりますよね。

ーとても素敵な目標ですね。最後に、U-29世代にメッセージをお願いします。

元々僕はアートやスポーツなど才能があったわけではありません。そのなかで自分ができることといえば、自分でやることを決めてそれに向かって取り組むことしかないと思っていて。やってみると楽しいし、手触り感があるし、モチベーションになるんですよね。今自分に何ができるんだろうと悩んでいる人もいるかもしれません。そういう人に向けて伝えたいのは、捨てる勇気を持つ大切さです。いろんなことに簡単に挑戦できる現代です。だからこそ、取捨選択をしてみるのがいいのではないかと思います。そのためにも、まずは行動してみること。行動してみたからこそ見えてくるものや感じられるものがあると思います。それをメモに残して、また違うことに取り組んで、ふとした瞬間にメモを見返したときに「自分が今大切にしたいこと」がわかるはずです。そのときにやっと、大切にしたい方向に進めるのかもしれません。僕自身もそうでしたが、自分のスキルに自信を持っている人は少ないと思うので、まずは自信やスキルがなくても行動してみる意識で取り組んでほしいですね。

取材:あおきくみこ(Twitter/note
執筆:スナミ アキナ(Twitter/note
デザイン:安田遥(Twitter